高齢者の社会的孤立・孤独を軽減するICTソリューションには、5つの目的と7つの種類がある

高齢者の社会的孤立・孤独を軽減するICTソリューションには、5つの目的と7つの種類がある

この記事では、高齢者の社会的孤立や孤独を軽減するためのICT(情報通信技術)ソリューションを包括的に調査した研究の結果を紹介します。

高齢化社会におけるICTの役割

ICTと社会性のイメージ1

社会性の重要性と社会的孤立のリスク

社会の高齢化は、科学技術の進歩を味方につけた人類の進化によるものです。より高いレベルの医療や、質の良い生活を享受できるようになり、人間はこれまでで最も長生きできるようになっています。

2020年の時点で、世界人口における高齢者(65歳以上)の数は約7億2,700万人と推計されており、2050年には15億人にまで増えると予想されています(下記の参照論文より)。割合で考えると、2020年では世界人口に占める高齢者の割合は約9%でしたが、2050年では約16%まで上昇する見込みです。

さて、人間は社会的動物であると言われていますが、人口に占める高齢者の割合が多くなる中で、高齢者における社会性(社交性)を維持する方法を考えていく必要があります。

人から社会性が失われてしまうと、社会的孤立や孤独といった問題が出てきます。そして、社会的孤立や孤独の問題は、高齢者にとって起こりやすいものなのです。その原因は、家族や友人の喪失、慢性疾患、身体的な状態の変化などです。
また、すべての年齢層の人々にとっての脅威(パンデミックなど)も同時にふりかかると、問題はさらに発生しやすくなります。今、高齢者における社会的孤立や孤独への関心が高まっています。

社会的孤立や孤独は、高齢者の身体に生物学的なダメージを与えうることも報告されてきています。高血圧、免疫系の弱体化、肥満、心臓病、そして死亡などのリスクが社会的孤立や孤独を原因として高まると考えられています。

大衆向けICTソリューション≠高齢者にとっての最適解

人々の社会的孤立や孤独を緩和する上では、ICT(情報通信技術)が重要な役割を果たすことが期待されています。例えばSNS(FacebookやLINEなど)は、家族間や友人間を結びつけ、人間関係を強化できると考えられています。ただしSNSをはじめとした既存の大衆向けアプリケーションは若い世代を主な対象として設計されており、高齢者が適応するのが難しいという現状があります。

高齢者が自らの社会性を強化できる効果的なICTソリューションとは、ゼロから設計されているものか、既存の製品がカスタマイズされたものだと考えられます。そのため、まずは既存のICTソリューションを理解する必要があります。

一般的には、社会的孤立や孤独を軽減するために作られるソリューションには、さまざまな目的とメカニズムがそれぞれに存在します。例えばメッセージングアプリケーションは、高齢者のコミュニケーションを促進するために機能が作られています。あるいはソーシャルロボットは、高齢者が孤独と戦う仲間として提供されています。このように、ICTソリューション別の目的を把握するのが重要です。

高齢者の社会的孤立や孤独を軽減するICTソリューションとは?

ICTと社会性のイメージ2

上記の課題がある中、スウェーデンの研究グループは、次の目的で研究を行いました。

  1. 社会的孤立や孤独を軽減するさまざまなICTソリューションの目的を知る。
  2. 各ICTソリューションが高齢者の社会的孤立や孤独を緩和するためにできることを知る。
  3. 各ICTソリューションがどのような面から評価されてきたのかを知る。

研究の具体的な手順は、最新の情報を含めた文献を調査すること、さらに分野のエキスパートの力を借りてICTソリューションを分類することでした。

参照する科学論文の情報
著者:Gomathi Thangavel, Mevludin Memedi, Karin Hedström
機関(国):Örebro University School of Business(スウェーデン)
タイトル:Customized Information and Communication Technology for Reducing Social Isolation and Loneliness Among Older Adults: Scoping Review
URL:10.2196/34221

これまでの調査に関して

これまで、高齢者の社会的孤立や孤独を軽減する目的におけるICTソリューションの有用性が調査された例はいくつかありました。しかし、これまでの調査における課題は以下のようなものがありました。

  • 高齢者向けに設計されたICTソリューションに特化して調査した例がない。
  • 各ICTソリューションの目的が明示的に説明されていない。

今回の調査では、上記の課題をカバーすることに気をつけられました。

新しい調査方法

スウェーデンの研究者らはまず、7種類もの論文検索データベースを活用して文献を検索しました。検索する際は以下3つのカテゴリからキーワードが考えられました。

  1. 高齢者:高齢者、シニア
  2. 技術介入:ICT、インターネット、モバイル、センサー
  3. 問題:社会的孤立、孤独

研究者らは2010年から2020年に限定して検索を行い、まずは大規模に候補を洗い出し、徐々に絞り込んでいきました。概念的な研究や理論的な研究、総説(レビューなど)は除外されました。

その結果、最初に1,409件の文献が候補として上がり、次に122件まで絞り込まれ、最終的に39件の文献が調査対象となりました。最終的に調査対象となった39件のうち20件の研究はヨーロッパで行われたものであり、9件は北米、4件はアジアでした。

調査対象である39件の文献は、以下の観点から詳しく分析されました。

  • ICTソリューションの目的
  • ICTソリューションの種類(機能などの点から)

その結果、高齢者の社会的孤立や孤独を軽減するために研究されているICTソリューションはそれぞれ5つの目的と7つの種類に整理されました。

明らかになった5つの目的と7つの種類

5つの目的

まず、調査の結果明らかになった、高齢者の社会的孤立や孤独を軽減するために研究されているICTソリューションの目的は以下の5つでした。なお、39件中31件は目的を1つに定めていましたが、残りの8件は2つの目的を持っていました。

  1. 社会コミュニケーションを増加させる(39件中27件)
  2. 社会参加を促進する(39件中14件)
  3. 帰属意識を高める(39件中3件)
  4. 交際を行う(39件中2件)
  5. 見てもらっているという感覚をつくる(39件中1件)

なお、上記のうち「帰属意識を高める」「交際を行う」に関しては一言では分かりづらいため、以下で補足します。
「帰属意識を高める」ソリューションは、高齢者が自らを広い社会の一員であるとより強く感じられ、それにより自尊心が高められるソリューションを意味します。
また、「交際を行う」というのは、ソーシャルロボットや仮想エージェント、ペットロボットなどと友達になれるなどのソリューションを意味します。

7つの種類

次に、各ICTソリューションの種類は以下の7つでした。

  1. ソーシャルネットワーク(39件中14件)
  2. ビデオチャット(39件中8件)
  3. メッセージングサービス(39件中8件)
  4. メッセージング機能のある仮想空間、教室(39件中7件)
  5. ロボット(39件中6件)
  6. ゲーム(39件中4件)
  7. コンテンツ作成・管理システム(39件中2件)

なお目的の際と同様に、項目名のみでは分かりづらいと思われるものに関して以下で補足を行います。
「メッセージング機能のある仮想空間、教室」とは、Webベースの空間において高齢者がグループで話し合うことができるソリューションです。仮想空間上で誰かと散歩をしたり、仮想空間上のペットを飼うなどの内容で研究されています。
また、「コンテンツ作成・管理システム」とは、高齢者が何かを自分の手でつくるためのソリューションです。例えば、思い出の写真を新聞やはがきで表現したり、誰かのために料理のレシピを作ったりするなどの内容で研究されています。

ICTソリューションはどのような側面で評価されるのか

また、各ICTソリューションは、以下のような側面から評価されていることが明らかになりました。

  1. 使いやすさと、ユーザー体験の内容(39件中21件)
  2. 高齢者がソリューションを受け入れられるかどうか(39件中11件)
  3. 孤独と社会的孤立がどれほど軽減されるのか(39件中11件)
  4. 健康状態や生活の質がどれほど改善するか(39件中4件)

各項目を比較すると、多くのソリューションが「使いやすいかどうか」「受け入れられるかどうか」の側面から評価されていることがわかります。

考察と結論

研究者らは調査の結果から、以下のように考察しています。

まず、高齢者の社会的孤立や孤独を軽減するICTソリューションに対する関心が高まっていることが改めて明らかになったため、今後ますます当該ソリューションが増える必要があると考えられます。

また今回、各ICTソリューションの目的を分析したことで、「社会的コミュニケーション」と「社会参加」を増やすことが、高齢者の社会的孤立や孤独を軽減するのに主に役立つと考えられていることがわかりました。また分類項目からは、「社会的孤立」と「孤独」を異なりつつも相互に関連するものとして議論していく重要性が示唆されているとも考えられます。

さらに、各ICTソリューションの種類を分析した結果、ソーシャル ネットワークへの関心が非常に高いことがわかりました。一方で、VRやARなどのアプリケーションは見当たらず、新しい技術を応用する研究がもっと行われるべきだとも言えます。

今回調査を行った研究者らは、今後、さまざまなICTソリューションを実際にテストし評価する研究を行いたいとのことです。

まとめ

この記事では、高齢者の社会的孤立や孤独を軽減するためのICTソリューションを包括的に調査した研究の結果を紹介しました。

「ICT」という言葉自体を聞く機会は多いかもしれませんが、今回のように体系立てて考えることはなかなか無かったのではないでしょうか。
また、研究は「高齢者の社会的孤立や孤独を軽減する」という具体的なテーマに焦点を当てており、その分野でのICTソリューションがどのように分類されるのかは理解しやすかったかと思います。

社会的孤立や孤独は目に見えない問題なだけに、発生していても気づかないこともあるかもしれません。これを機会に、ぜひ一度ご自身や身の回りの高齢者の方々における社会性について考えてみてはいかがでしょうか?

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臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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