糖尿病高齢者の食事記録・管理・評価には、将来的にアプリが役に立つ

糖尿病高齢者の食事記録・管理・評価には、将来的にアプリが役に立つ

この記事では、糖尿病高齢者における食事評価を助けるアプリの研究を紹介します。

糖尿病ケアには食事の管理が重要

2016年度の調査によると、日本における糖尿病患者の人口は「糖尿病が強く疑われる者」が1000万人、「糖尿病の可能性を否定できない者」が1000万人いると推計されています。また、年齢が高くなるに従って糖尿病にかかる人口は多くなっています(参考:厚生労働省「糖尿病患者数の状況」)。

2021年の調査では、同年において糖尿病による死亡数は1万4,356人となっています(参考:厚生労働省「人口動態統計(確定数)の概況」)。さらに糖尿病は、心臓発作や脳卒中、認知症等のリスクを高めるとも言われています。また、医療費が家計を圧迫することも問題視されています。

糖尿病を予防・改善するために、厚生労働省は、生活習慣の改善を推奨しています。主に食事と身体活動の面で注意されており、バランスの良い食事を摂り過ぎることなく行うこと、日常的に運動を行うことが勧められています。(参考:厚生労働省「糖尿病」)

また、糖尿病の食事においては、国立国際医療研究センターより「適切なエネルギー量」および「栄養素の配分」に関しての情報が提供されています。

糖尿病リスクのある患者に対する食事療法を徹底するには、本人が自ら気をつけるだけでなく、栄養士が患者の栄養状態を評価することが不可欠です。そして、栄養士が患者の食事を評価するには患者の日常における食事を全て記録する必要がありますが、自己申告に頼ると、食事の内容や分量を誤る可能性があります。

将来の食事管理にはアプリが役に立つ

近年では、自己申告に頼る食事評価の問題点を解決するために、食事の画像を使用して食事評価を行う技術の研究が行われてきました。食事の画像を使用するメリットとしては、報告されていない食事内容を検出したり、食事内容の報告における誤りを発見したりできる点があります。
これまでの研究では、食事の画像からエネルギー摂取量の推定を行うことなどができるようになってきました。ただし、画像を使用した食事評価に関して、以下の2つはまだ検証されていません。

  • 糖尿病の高齢者に特に注目した際の有用性
  • スマートフォンを活用した際の有用性

そんな中、韓国と米国の研究グループによって、画像を使用して食事評価を行うためのスマートフォンアプリが新たに研究されています。研究者らは高齢者が使いやすいアプリを開発し、糖尿病高齢者からアプリに対するフィードバックを入手しました。以下で研究の内容をご紹介します。

参照する科学論文の情報
著者:Hyunggu Jung, George Demiris, Peter Tarczy-Hornoch, Mark Zachry
機関(国):University of Seoul(韓国)、University of Pennsylvania、University of Washington(米国)
タイトル:A Novel Food Record App for Dietary Assessments Among Older Adults With Type 2 Diabetes: Development and Usability Study
URL:doi.org/10.2196/14760

アプリの仕様

研究者らは、高齢者らが食事の画像を記録するためのアプリと、栄養士が食事画像を閲覧できるアプリの両方を開発しました。

高齢者が使用するアプリは、下図のように食事を撮影できる仕様で開発されました。また、大きなフォントを使用するなど特別な配慮を行いました。

栄養士が使用するアプリは、下図のように食事の画像と日付および時刻が一覧できる仕様で開発されました。

使いやすさのテスト結果

糖尿病と診断された65歳以上の高齢者14人を被験者として、アプリの使いやすさに関するテストを行いました。

テストでは高齢者が、研究者らによってあらかじめ用意された食事(下図)を撮影することで進められました。

アプリを使用するにあたって、高齢者らに求められたルールは次の2点です。

  1. 1枚の画像に、食事内容のすべてを含める。
  2. スマートフォンを45度に傾けて撮影する。

高齢者らは上記のルールに従って撮影を行った後、アプリ内の操作を通して画像を栄養士に送信します。

14人の高齢者は、アプリを使用するテストの後、アプリの使いやすさに関するアンケートに回答しました。
アンケートの結果を以下に紹介します。

ポジティブな点

  • 写真の撮影、画像の確認、画像送信がやりやすい。
  • 上記の操作にかかる時間についても効率的である。
  • 栄養士とのやり取りが改善されると感じている。
  • 自らの食事を見直すきっかけになり、健康を改善できる可能性が高いと感じている。
  • アプリの使用方法に関する指示は適切であった。
  • アプリが糖尿病患者および糖尿病予備軍に特に有益であることに同意する。

懸念点

  • アプリを利用するにあたって経済的な負担はないのか。
  • データが第三者にわたることはないのか。
  • 実際の日常生活で、アプリを効率的に使用できるか。
  • 栄養士などの医療提供者がデータを確認してくれるかどうか。

その他

  • 医療提供者からの要求があると、アプリを継続的に使用するモチベーションになるだろう。
  • (一部の高齢者は、)従来の食事記録方法に満足している場合は、アプリを使う必要がないとも考えている。
  • 撮影した画像が十分な情報を持っているのか、栄養士からフィードバックが欲しい。
  • 画像に基づいて医療提供者とコミュニケーションをとる場が欲しい。
  • アプリを使用するデバイスとして、スマートフォン以外ではタブレットに興味がある。

画像を使用した糖尿病高齢者の食事評価サポートアプリについての結論

開発とアンケートの確認を行ったのち、研究者らは次のように結論づけました。

  • 懸念はあれど、将来的なアプリの使用に対する意欲が確認できた。
  • これまで行われていなかった、高齢者に特化した食事画像記録アプリの開発ができた。
  • 詳細なアンケートによって、今後の高齢者向け食事画像記録アプリ開発に役立つ知見が得られた。

今後は、栄養士、家族、友人、介護者などにとってアプリが使いやすいものであるかどうかを評価する作業が残っています。

また、食事記録のためのテクノロジーは他にも「ウェアラブルカメラによる自動撮影」や「音声による記録」などのアイデアがあるとコメントしています。

まとめ

この記事では、糖尿病高齢者における食事評価を助けるアプリの研究を紹介しました。

現代の高齢者はスマートフォンなどの新しいテクノロジーに慣れていないことも多いですが、開発の仕方を工夫することで「使いやすい」という感想を抱いてもらうことができるかもしれませんね。

紹介した研究は海外のグループによるものですが、日本国内でも糖尿病ケア(食生活や血糖値の管理)用アプリは幾つか登場しています。例としては、あすけん(HPはこちら)、ごはんカメラ(App StoreはこちらGoogle Playはこちら)などです。興味があれば調べてみてくださいね。

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臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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