e-ヘルス(e-Health)とは?シンガポールの最先端事例は高齢者向けスマホアプリ

e-ヘルス(e-Health)とは?シンガポールの最先端事例は高齢者向けスマホアプリ

最終更新日 2022.11.24

この記事では、e-ヘルス(e-Health)および慢性疾患についての基本と、シンガポールの最先端事例をご紹介します。

シンガポール国立大学と病院の研究グループは、慢性疾患を持つ高齢者向けに新しいe-ヘルスプログラムを開発し、高齢者のユーザーアンケートをもとに評価を行いました。その結果、e-ヘルスにより高齢者が自らの健康を管理し、人々の健康寿命が伸びるとともに医療費削減につながることが示唆されました。

この記事で参照する科学論文の情報
著者:Vivien Xi Wu, Yanhong Dong, Poh Choo Tan, Peiying Gan, Di Zhang, Yuchen Chi, Felicia Fang Ting Chao, Jinhua Lu, Boon Heng Dennis Teo, Yue Qian Tan
機関(国):National University of Singapore, Changi General Hospital, Sengkang General Hospital(シンガポール)
タイトル:Development of a Community-Based e-Health Program for Older Adults With Chronic Diseases: Pilot Pre-Post Study
URL:doi:10.2196/33118

e-ヘルスとは

電子カルテの導入

e-ヘルスとは、ICT(情報通信技術)を活用したヘルスケアサービスを指す言葉です。介護、医療、健康分野でのICT活用を広義に意味する場合もあります。e-ヘルスは、アナログな仕事をデジタル技術で効率化するDX(デジタルトランスフォーメーション)と関連性の高い概念用語です。

WHOによると、世界のWHO加盟国のうち58%がすでに何らかのe-ヘルスの仕組みを取り入れているようです。
e-ヘルスの取り組みは様々ですが、インターネットを通じて人々の健康リテラシーを上げたり、これまで近距離で行われていたことを遠隔で行うようにするソリューションがよく開発されています。
詳細を後述する研究事例においては、シンガポール国立大学と病院の研究グループによって、慢性疾患のある高齢者がオンラインでコミュニケーションできるe-ヘルスプログラムが開発されています。

国内でもe-ヘルスの導入事例はデジタル技術の発展に伴ってますます多くなっており、例えば電子カルテの導入や医師同士でのネットワーク構築など、障壁の低いところから積極的に進められています。

慢性疾患とは

糖尿病

慢性疾患とは生活習慣病とも呼ばれる、ライフスタイルに根付いた様々な疾患を指す言葉です。例えば高血圧・糖尿病・高脂血症など、自覚症状は乏しいにも関わらず放置しておくと合併症を引き起こすリスクの高い病気が多くあります。

慢性疾患を持つ人は高齢者に多く、日本を含め世界中で高齢化の進む国では慢性疾患への対策が喫緊の課題となっています。また、慢性疾患には以下のような特徴があります。

  • 多くは中年期に発病し、一生涯治療を続ける必要がある。
  • 治療効果が感じられにくいため、治療を中断する患者が多い。
  • いったん進行すると治りにくい。

厚生労働省はネットを通して国民に慢性疾患(生活習慣病)に関する健康情報提供を行うため、生活習慣病予防のための健康情報サイト「e-ヘルスネット」を運営しています。e-ヘルスネットでは、生活習慣病予防にとどまらず栄養・食生活や休養・こころの健康など広い範囲での健康情報を提供しています。

シンガポールでの最先端事例

シンガポール

慢性疾患は高齢者の健康や生活の質、また医療費などに影響を与えるものです。日本と同じように国民の生活習慣病対策が重大な課題となっているシンガポールでは、高齢者の健康リテラシーを向上させるためのe-ヘルスプログラムが開発されています。
具体的には、健康管理を行うためのスマホアプリを開発し、スマホアプリを使用しながら8週間の集中プログラムを行うという内容です。プログラムは「コミュニティベースのe-ヘルスプログラム」と呼称され、以下の概念要素から構成されています。

  1. 健康教育を行う
  2. モニタリングする
  3. アラートを行う
  4. アドバイスをする
  5. 食事の管理を行う
  6. 良いライフスタイルをデザインする
プログラム概念図
プログラム概念図

シンガポール国立大学と病院の研究グループは、まず高齢者が日常的に自らの生活習慣に関わる健康情報を学べるスマホアプリ(「CeHP」)を開発しました。高齢者の健康状態を改善するためには、本人が知識を学ぶことこそが効果的だと考えたためです。アプリでは、クイズを通して知識の習熟度を確かめられるほか、日々の健康状態(血圧や血糖値)を入力して管理する機能を使用できます。
スマホアプリの画面イメージは下図です。

メイン画面
メイン画面
健康に関する学習モード
健康に関する学習モード

このアプリを利用した8週間にわたるプログラムが実施されました。研究グループは参加者の高齢者らと毎週対面し、参加者を評価しました。アプリでは食事、運動、脳の健康などについての学習が行われるため、対面時はそれらのトピックを取り上げます。また、対面セッション以外の時間では高齢者らが自ら血圧と血糖値を入力しているか否か、クイズに答えているか否かがチェックされました。

プラグラムの実施実験には8人の高齢者が参加し、平均年齢は74.4歳でした。また、実験の効果を比較するためにプログラムを実施しない対照グループにも4人の高齢者が参加し、平均年齢は69.75歳でした。

プログラム全期間を通して、対面セッションへの出席率は平均86%と高く、アプリに対する満足度も平均75%と比較的高い数字でした。またユーザーフィードバックもポジティブなものであったとのことです。

プログラムの実施後、参加者らにおける健康状態の変化が確認されました。大きな変化ではありませんでしたが、空腹時血糖、糖化ヘモグロビン、総コレステロール、リポ蛋白コレステロール、BMI、SCCII 指数、HAI スコアの改善が示されました。

研究者らは上記の結果を受けて、高齢者の慢性疾患を本人が自己管理することをe-ヘルスアプリが促進することを結論づけています。
今後はボランティアなどの助けをもとに、高齢者のアプリ利用をサポートしていくことが課題だとしています。また今回の実験期間は短かったため、より長期の実験を通して効果を確認すべきだと述べています。

まとめ

この記事では、e-ヘルスおよび慢性疾患についての基本と、シンガポールの最先端事例をご紹介しました。

「e-ヘルス」という言葉に聞き馴染みのない方もいるかもしれませんが、本記事で紹介したように昨今重要になりつつあるサービスです。これを機に自分の生活習慣を見直してみるためにe-ヘルスネットを見てみるところから始めてみても良いかもしれません。

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臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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