ケア業界のパイオニアに道を訊くインタビュー企画、第37弾です。
今回はAIによる認知症BPSDの予測・予防・対処ツール「DeCaAI」の社会実装を展開するゲオム株式会社 代表の矢沢さんにお話を伺いました。
この記事の要点
- DeCaAIは予測精度8割を超える認知症ケア補助AIシステム
- DeCaAIにより介護者の負担軽減効果が期待できる
- 2024年BPSD予防の介護報酬加算タイミングで検討の価値あり
ゲオム株式会社 代表取締役 矢沢氏のプロフィール
矢沢 一真(やざわ かずま)氏
1999年4月、NECネッツエスアイ株式会社(旧社名:NECシステム建設株式会社)に入社。遺伝子的体質やヘルスレコードに基づく個別化ヘルスケアサービスの確立を目指し、2010年に独立。
遺伝子情報に基づく体質別ヘルスケアの事業化を経て、2018年に㈳認知症高齢者研究所・上級研究員に就任。同年、認知症に寄り添うBPSD予測AIの社会実装を目的としてゲオム株式会社を設立。医工連携によるAIの更なる発展・開発を続けている。
インタビュー(以下、敬称略)
ゲオム株式会社の会社概要
——まずは御社のご紹介をお願いします。
矢沢:弊社ゲオム株式会社は、2018年の12月に設立した比較的新しい会社です。まだ商品セールスは開始しておらず、これまではずっと研究開発や社会実装の準備に従事してきました。
私自身もケアテック業界に関しては初めての参入でして、ヘルスケア業界での経営経験はありますが、介護業界は初めての経験です。
政府の認知症研究から生まれた株式会社ゲオム
——御社の創設は、一般的な企業のスタートアップからは少し違う経緯があるそうですね。創立の経緯についてご説明いただけますか?
矢沢:総務省・AMED(日本医療研究開発機構)の委託事業において、社会実装研究班として活動し始めたのが会社設立の経緯です。
——どのようなプロジェクトでしょうか?
矢沢:いわゆる2025年問題(団塊の世代が後期高齢者になることで起こるさまざまな問題)を見据えて、問題解決可能なDXツールを開発するプロジェクト(※)です。
※「認知症対応型 AI ・IoT システム研究推進事業」(22us0424001)
矢沢:2017年から、認知症介護に活用できるIoTの研究開発がスタートしました。超高齢化社会の問題を解決するために科学的根拠に基づいたツールが作れないかと、産官学が協力して長らく研究開発をしてきたわけです。
これらの研究により開発されたのが認知症ケア補助AIシステムです。これをいよいよ社会実装していこうということになりまして、社会実装研究班として設立された会社が弊社です。
——つまり開発には省庁のバックアップがあったAIなのですね。
矢沢:はい。ただ、弊社の資本はすべて自己資本で運営しています。
認知症BPSDを予測・予防・対処する「DeCaAI」
——では御社が販売する商品は、政府主体の研究開発から誕生したツールとなりますね。なんというツールですか?
矢沢:Dementia Care-assist AI system(認知症ケア補助AIシステム)の頭文字を取って「DeCaAI(でか~愛)」と呼んでいます。
——どんなツールなのか詳しく教えてください。
矢沢:DeCaAIは認知症のBPSD(行動・心理症状)を、AIを使って予測・予防・対処するツールです。
矢沢:認知症の方のバイタルデータや、彼らが生活している居室の環境データおよび過去の介護記録をAIに学ばせて、対象者のBPSD発症を予測します。
——どのくらい前にBPSDが予測できますか?
矢沢:BPSD発症の30分前または60分前に、アプリを通じて介護者へ通知します。
またBPSDがすでに発現して、暴れてしまったり徘徊などの問題行動が出ている認知症高齢者に対しても、チャット形式でAIに尋ねれば適切な対処ケアが提示されます。
——もし予測が間に合わなかったとしても、適切なケア方法を教えてもらえればトラブルを最小限に抑えられますね。
矢沢:予測と対処だけでなく、BPSDの発症を予測した上で、予防するためのケア方法についても、AIが導出し介護者に提示する仕組みも備えています。
介護者がAIにより導出された予防ケアに基づいてケアを実行することにより、BPSDの発症確率が下がり、介護負担の軽減に繋がることが期待されます。また、実行したケアが有効だったかどうかを評価するアセスメント機能もDeCaAIに搭載されています。
このように、認知症BPSDの予測・予防・対処と多方面から認知症ケアをトータルにサポートするAIです。