テクノロジーで介護職の価値を明るみに出す
日本の介護は、ちゃんと伝承されるべき
ーー宇井代表のビジョンに関するお話は、業界の方々が見るとハッとする部分がありそうですね。
よく日本の介護職の人たちは大したことないみたいに言われますが、私は「これだけ少ない予算の中で、よく質の高いケアを守ってくれてるな」と思ってるんです。
海外では、さっぱり諦めちゃってる国も多いですよ。もっと雑な介護になってしまう落とし穴はたくさんあるんです。でも日本人って違うじゃないですか。自分たちの賃金が低くても「目の前の人に少しでも良い形を届けれるんだったら」ってやるじゃないですか。そんな中で培われた介護の技術って、もっとちゃんと伝承されるべきなんです。
日本の介護を伝承するための船が、私はケアテックだと思うんですね。
家電や半導体の競争に日本が負けたのって、若干わかっていたことですよね。日本の技術者が海外に行って、向こうで教育を行って、海外の技術者が育った。物価が安いところで同じものを作られたら、それは負けますよね。
万が一このまままた、日本のケアテックが中国や他の国に負けちゃったら、日本のケアテック船に乗った日本の介護文化も、一緒に消えてしまうかもしれない。もしこのまま、介護の歴史が浅い諸外国で育った、亜流のケアテックが輸入されると、失礼かもしれないですが、折角ここまで育った日本の介護の質も下がってしまう可能性があります。それは絶対に避けたいです。
「介護職ってすごいな」と言われる時代を作る
ーー介護業界の皆に「これだけは伝えたい」ということはありますか?
私はよく美容師さんを例にして考えています。
美容師さんって昔、表玄関から入れないぐらい、すごく社会的地位が低かったんですね。江戸時代や明治初期など「髪結い」と言われてた時代があって。
今も、若手の美容師さんは、たしかに低賃金で重労働なのかもしれません。しかし誰も社会的地位が低いとは思わないですよね。「カリスマ美容師」と呼ばれる人たちもいる。
では地位が上がったタイミングは何かといえば、私はパーマの技術が入ってきたタイミングだと思っているんです。今でいうコテみたいな技術がアメリカから入ってきたんです。それで、「あんなに綺麗なウェーブをかけてくれる人ってすごい」となった。そこからカラーの技術とか色んなトータルビューティーの技術を美容師たちが身につけていく中で、地位が上がっていったんですね。
このように、職種が持っている価値をテクノロジーが明るみにすることってあると思うんです。
今は、介護職の人たちがやってることは「素晴らしいけど、分かりづらい」。生活を支援するって、すごく混沌とした中で色んなことをやっているので、分かりづらいんです。
でもテクノロジーが介護の専門性を明るみにして、介護って人の笑顔を作れるんだとか、実はさまざまなエビデンスを元に、いろんなことを考えて実践しているってことが分かるようになると「介護職ってすごいな」ってなると思うんです。
例えばトイレ誘導ができたとしたら、それは職員さんの力です。職員さんの力を引き出すためにHelppadが排泄パターンを取っただけです。
排泄パターンさえ取れれば、トイレ誘導ができちゃう。おむつを履いてた人を、もう一度トイレに連れていけるんです。
このようにツールの進化によって「介護職すごい」って思われる機会を一つでも多く増やしていきたいのです。
こういう話は、よく言われることではあります。「介護系の人材をもっと輝かせよう」みたいな話です。でも、どこか「無理じゃないか」って思われているところがある。でも私は、美容師の歴史を見てると「無理じゃない」と思うんですよ。カリスマ美容師と呼ばれる人たちがいるくらいになってるんだから、介護でも絶対できるはずだと思ってます。カリスマ介護職は、絶対に現れる。
私達abaが、テクノロジーを使って、介護職の人たちの価値をもっと分かるようにしていきたいです。
インタビューは以上です。お読みいただきありがとうございました!
Helppadの開発・販売、aba labを運営する株式会社aba代表の宇井吉美さんにお話をお伺いしました。
「介護職員との約束を守る」「使いやすいものを開発して普及させる」「日本の介護を伝承させる」など、現場ひいては業界に対する使命感に燃える熱き起業家です。
こんな起業家が介護業界にいると思うだけで、力強い気持ちになってきますね。
宇井代表は先日(2021年11月)、MITテクノロジーレビュー主催『Innovators Under 35 Japan 2021』に選出されたというニュースもありました。今後のご活躍にも、ますます期待したいですね。
今後もAIケアラボは、次の時代をつくる科学技術やパイオニアの話をお伝えしています。今回の記事が面白いと思ったら、ぜひブックマークやSNSのフォローをお願いします!