家族介護者の課題とは?最新研究「スマートフォンを通して行う在宅介護のサポート」も紹介

家族介護者の課題とは?最新研究「スマートフォンを通して行う在宅介護のサポート」も紹介

この記事では、家族介護者のよくある課題と、スマートフォンを通した在宅介護のサポートについての研究を紹介します。

家族介護者とは

在宅の要介護者が増えていく中、自宅で介護を行う家族もますます増えていくことが予想されています。自宅で介護を行う家族は家族介護者と呼ばれます。

家族介護者は、要介護者における日常生活全般の世話(食事介助、見守り、裁縫、受診介助、排泄介助、着替え、服薬介助、家の管理、話し相手、ゴミ出し、金銭・家計管理、買い物、料理作り、洗濯、掃除など)を行っています。

家族介護に対して「家族に対する役目を果たせた」「家族や親族との絆が深まった」などの意義を感じる介護者は多くいます。

一方、近年では高齢者が高齢者の介護をする「老老介護」が多いなどの状況もあり、家族介護者の負担が懸念されています。

家族介護における心身面の負担

一般的に、家族介護においては以下のような課題が出てくることがあります。

  • 仕事と介護の両立が難しい。
  • 経済的状況が悪化したときに介護による負担が重くなる。
  • 要介護者の状態が悪化した際に作業量が増える。
  • 自分の時間が取れないことにより社会生活上の不都合が生じストレスに繋がる。
  • 介護者自身の健康に問題があったり、体力の衰えが出ると介護が難しくなる。
  • いつまで介護を続けなければならないのか先行きが不透明で不安になる。
  • 要介護者との関係が悪化することがある。

前向きに介護を行うためには、ストレスを溜め込まない工夫や、自分の時間を確保することが重要です。

研究「スマホを通して在宅介護をサポート」

家族介護者の負担を減らす可能性のある科学技術的研究も行われています。

一例として、台湾の研究を紹介します。台湾は日本と同様に国民の高齢化による様々な課題に直面しており、課題の一つとして在宅介護職(訪問介護員・ホームヘルパー)の量と質の不足が挙げられます。

台湾の研究グループは、在宅介護職をスマートフォンでサポートすることについての研究を報告しています。
在宅介護職をサポートする仕組みは、自宅で介護を行う家族介護者のサポートに応用できる可能性があります。

参照する科学論文の情報
著者:Hsin-Feng Su, Malcolm Koo, Wen-Li Lee, Huei-Chuan Sung, Ru-Ping Lee, Wen-I Liu
機関(国):Tzu Chi University of Science and Technology(台湾), National Taipei University of Nursing and Health Sciences(台湾)
タイトル:A dementia care training using mobile e-learning with mentoring support for home care workers: a controlled study
URL:doi.org/10.1186/s12877-021-02075-3

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eラーニングと「ソーシャルネットワークによるメンタルサポート」

認知症高齢者のケアに必要となる介護スキルのレベルは高い

高齢者を介護する中で、特に課題として挙げられるのは認知症高齢者の介護です。高齢者の人口が増加するのに伴い、認知症の高齢者も多くなっています。認知症高齢者の介護は一般的に複雑で、必要なスキルのレベルが高くなります。

介護のスキルを高めるためには専用のトレーニングを受けることが有効ですが、日常的に介護を行なっている介護職(介護者)がトレーニングに参加する際には、時間的な制約が障害になることがあります。

能力開発で注目されるツール

近年では、能力開発においてスマートフォンなどのモバイル端末を活用したeラーニングが注目されています。モバイル端末でのeラーニングでは、時間や場所に捉われずトレーニングを行うことが可能です。
また、eラーニング中の学習を促進する手段としてはソーシャルネットワークが有効だと考えられています。ユーザー同士で情報交換を行ったり鼓舞し合うことで、お互いに自信を持ったり、落ち込んだ気持ちから回復することができるためです。

eラーニングと「ソーシャルネットワークによるメンタルサポート」の組み合わせを、在宅介護に対して役立てようとした事例はこれまでにありませんでした。そこで、台湾の研究グループは独自にシステムを作って効果検証を行いました。

12週間のトレーニング、24週間後のデータ分析

トレーニングシステムの実験

効果検証のための実験としては、実際の在宅介護職140人を対象としたトレーニングとデータ収集およびデータ分析が実施されました。

トレーニングでは以下の3つが行われました。

  1. スマートフォンを通したeラーニング
  2. スマートフォンを通したソーシャルネットワークによるメンタルサポート
  3. 対面でのグループミーティング

実験期間としてはトレーニングに12週間、データ収集に24週間(トレーニング終了から12週間後および24週間後の2回に分けてデータ収集)が設けられました。

また実験に参加した在宅介護職の平均年齢は47.8歳で、被験者の98.6%は女性でした。

eラーニング

eラーニングとしては、以下8つのテーマに関する教材が用意され、被験者がスマートフォンで学習しました。

  1. 心理行動症状管理スキル
  2. コミュニケーションスキル
  3. 認知・情緒評価についての知識
  4. 一般的な認知症ケアの問題についての知識とケアスキル
  5. ケアニーズの評価と認知症の家族のための健康教育スキル
  6. 認知症治療の概要についての知識
  7. 認知症のさまざまな段階におけるケアスキル
  8. 認知症高齢者の口腔ケアについての知識

教材は、口語的な表現で、アニメーションや豊富な画像、時にはビデオを使用することで、楽しく学習できるように作成されました。また、それぞれの単元を15〜20分で完了できる設計でした。
また、ユーザーは習熟度を確認するためにクイズを利用することができます。

ソーシャルネットワークによるメンタルサポート

被験者らはメンターの主導で8〜10人ずつにグルーピングされ、日常的にグループチャットを行いました。
グループチャットにて被験者らは介護の問題について話をしたり、メンターからアドバイスを受けました。また学習用の新しい教材がグループチャット上に更新されることもありました。なお、使用されたツールはメッセージや電話を行うことができるスマートフォンアプリのLINEです。

グループミーティング

1ヶ月に一度(実験期間中に合計3回)、対面でのグループミーティングも実施されました。被験者の在宅介護職らはメンターを含めて1時間、課題について話し合ったり、スキルを教えあったりしました。

知識面・態度面・能力面が大幅に向上

被験者140人のうち半数の70人は、上記のトレーニングは行われず、実験における対照グループ(効果を検証するための比較対象)として据えられました。ただし、対照グループも認知症ケアに関する8時間の講義を受けました。

トレーニング終了から12週間後および24週間後の被験者らのデータをアンケートによって収集・分析し、トレーニンググループと対照グループを比較したところ、トレーニンググループに関して以下の結果が出ました。

  1. 認知症ケアに関する知識レベルが有意に高かった。
  2. 認知症高齢者に対する態度が有意に積極的であった。
  3. 認知症ケアの能力(スキル)レベルが有意に高かった。

上記のどの結果に関しても、トレーニング終了から12週間後だけでなく24週間後も効果が続いていました。ただし、1〜3の順で効果が高く、認知症ケアの能力(スキル)レベルの向上に関しては他の2項目と比較して控えめな結果でした。

研究者らは、以上の結果から次のように結論づけました。
この研究によって、eラーニングと「ソーシャルネットワークによるメンタルサポート」(および月1回の対面グループミーティング)の組み合わせが、在宅介護従事者に役立つことが示唆されました。
ただし、被験者の一部は農村部でインターネットが不安定であったためにトレーニングに支障が出ていたとのことでした。オンラインでのサポートが有効なのはインターネットを安定して使用できる者のみであることに留意すべきです。

まとめ

この記事では、家族介護者についての基本と、スマートフォンを通した在宅介護のサポートについての研究を紹介しました。

記事の後半で紹介した台湾の研究に関しては、eラーニング等のサポート対象として在宅介護職を想定していますが、対象者を家族介護者としてシステムを作成しても効果が期待できるのではないでしょうか。

冒頭に述べたように、家族介護においては意義を感じる方が多い一方で、同時に介護作業そのものや介護によって時間に追われることで負担を感じる方のケースが多くあります。
そんな際にスマートフォンを通して受けられるサービスとして、知識面やスキル面でのサポートや、メンタル面でのサポートが得られると良いですね!

ちなみに研究でも登場したスマートフォンアプリLINEには、LINEオープンチャットというコミュニティ機能があります。LINEオープンチャットを利用した家族介護コミュニティが運営されている事例もあるので、関心があればぜひチェックしてみてください!

参考:Pastel D: パステルディー 家族介護者向けサービス

なお、在宅高齢者を支援するための研究は、他にも以下のような事例があります。ぜひご覧ください!

ロボットによる高齢者の自宅エクササイズ支援。スペインの研究グループが開発
センサーで人の動きを検知する「スマートカーペット」 高齢者の転倒や社交性など検出・分析
介護とリモートワークの未来 「遠隔操作ロボット」で認知症高齢者をケア

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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