この記事の要点
- 介護記録には使ってはいけない言葉がある
- 介護記録で使ってはいけない言葉は侮蔑的表現・指示用語・独自の略語など
- 介護記録ソフトを使えば使ってはいけない言葉を回避しやすい
利用者の健康状態や日々の生活の様子を記録する介護記録の作成は、介護職員にとって重要な仕事のひとつです。
しかし毎日の業務に慣れていくに従い、つい介護記録の付け方がぞんざいになってしまう場合もあります。
介護記録に書くべき内容を省略したり、また、介護記録で使ってはいけない言葉を何の気なしに使ってしまうケースも考えられるでしょう。
そこで今回は介護記録で使ってはいけない言葉について解説します。正確な介護記録を作成するために、どのような言葉がNGなのかをしっかり理解しておきましょう。
目次
介護記録で使ってはいけない言葉とは? 理由と具体例・回避方法を解説
介護記録とは?
介護記録とは、介護事業所でおこなった介護の内容を記録として残すものです。
介護事業所で提供したサービスの内容や、利用者の様子について気づいたこと、介護職員と利用者の間でやりとりしたことを記録します。
介護記録を読むのは、介護事業所の内部の人だけではありません。利用者のご家族や、担当医なども読む場合があります。また、必要な際には行政に開示する公的な文書です。
介護記録には使ってはいけない言葉がある
実は、介護記録には使ってはいけない言葉がいくつか存在します。
介護記録とは、必要に応じて第三者に開示する必要がある公的文書です。自分だけが見られれば良い日記や、仲間内で回覧する交換日記とは目的が異なります。
誰かが介護記録を読んで不快な思いをしたり、読んでも意味が分からないと思われるような書き方は避けなければいけません。
介護記録で使ってはいけない言葉がある理由

どうして介護記録には使ってはいけない言葉があるのでしょうか。
以下4つの理由から、介護記録ではなぜ使ってはいけない言葉があるかを確認しましょう。
全職員が情報共有する必要があるから
介護サービスは複数の介護職員がチームを組んで提供しています。
自分がシフトに入っていないときは、他の介護職員が利用者の過去の状態を確認するために、介護記録を閲覧します。
介護記録が正確に書かれていなかったり、使ってはいけない言葉を使用していたりすると、正しく状況を把握できないため、必要な情報が引き継がれず、結果として事故につながってしまう恐れがあります。
利用者家族が閲覧する可能性があるから
介護施設や介護事業所を利用している利用者自身や利用者家族は、利用者の介護記録をいつでも閲覧できる権利があります。
自分や大切な家族の介護記録を見たときに、使ってはいけない言葉を多用して書かれた介護記録だと、読んでも意味が分からなかったり、不快な思いをしたりすることもあるでしょう。
事故や訴訟時の証拠になるから
介護時における事故は絶対に避けるべきですが、それでも事故の可能性がまったく無いとは言いきれません。
ベッドからの転落や転倒事故の可能性など、利用者の安全を脅かすリスクは常に存在しています。
万が一事故が発生したときに、事故の状況によっては訴訟にまで発展するかもしれません。介護記録は事故の状況を利用者家族に説明したり、訴訟時に自分たちの介護サービス提供に問題がなかったと証明したりするための証拠になります。
介護報酬請求の根拠になるから
介護施設や介護事業所は、提供した介護サービスの対価として管轄の自治体に介護報酬を請求します。
介護報酬の請求を受けた自治体は、必要に応じて介護サービス利用者の介護記録を確認する権利を有します。実際に利用者が対価に見合った介護サービスを受けたかどうかわからないからです。
自治体が介護記録の閲覧を要求するケースはごく少数ですが、介護事業所等のサービス提供に何らかの疑いが生じた際には開示が必要になる可能性があります。
介護記録に使ってはいけない言葉

ここからは具体的にどのような言葉を介護記録では使ってはいけないかを確認していきましょう。
侮蔑的表現
介護サービスを受けている利用者は介護職員のサポートを必要としている状態ではありますが、多くの方は人生の先輩でもあり、大切なお客様でもあります。
利用者に対して侮蔑的ともとらえられる言葉は、たとえ親愛の情をこめての言葉だとしても決して使ってはいけません。
《侮蔑的表現の例》
- ボケた
- わがまま
- 不潔
- 徘徊
- しつこい
- 勝手に〇〇をする
介護記録を読んだ第三者が不快にならないよう「徘徊」などは「行き来する」また「勝手に」などは「自発的に」などと言い換えましょう。
指示用語
「〇〇させた」「〇〇するよう促した」などの指示用語は、利用者と介護職員との上下関係を連想させる言葉なので使ってはいけません。
あたかも日常的な介護業務で介護職員が利用者に命令していると捉えられかねませんので、注意が必要です。
「〇〇しませんか?と声かけを行った」「〇〇をおすすめした」などと言い換えましょう。
あいまいな表現
場所や数値などが不明確な情報は、第三者や自分自身が後で介護記録を読み返したときに正確な情報が把握できなくなります。
《あいまいな表現の例》
- いつもと同じだった
- 牛乳を半分くらい飲んだ
- 普段より体温が高めだった
- 表情が暗かった
食事や水分補給の分量は「3分の1」「100CC」などの具体的な数値を記入し、体調の変化が見られるときには検温による明確な体温値を記入するなど、誰が読んでも記録時点での利用者の状況がはっきりわかるように具体的な情報を残しておきましょう。
主観的な感想のみ
あいまいな表現と同じく記録者の主観的な感想も、後日介護記録を読んだ方の誤解を招きやすくなります。
《主観的な感想の例》
- レク時に〇〇さんと喧嘩していた。2人は仲が悪いから次回レク時には席を離そう。
- 1人で寂しそうだった。
- 家族の面会があったので終日ご機嫌だった。
ただし、主観的な感想自体を使ってはいけないわけではありません。
日々利用者に接している介護職員だけが気付ける利用者の変化は、その後の介護サービス提供のために大切な情報になるからです。
利用者の行動や言動の変化を客観的に記入し、主観的な感想は客観的事実と明確に区別して書き残しましょう。
独自の略語・符丁
介護職員同士の会話では、簡潔に情報をやりとりするために略語が使われがちです。
日常会話での略語の使用は問題ありませんが、介護記録を書くときには略語ではなく正確な名称を記載しましょう。
《略語の例》
- ケアマネ(ケアマネージャー)
- レク(レクリエーション)
- PT(ポータブルトイレ)
- アルツ(アルツハイマー型認知症)
また介護施設や介護事業所によっては、独自の略語や符丁(仲間内でのみ通用する言葉)を使用しているケースもあります。
独自の略語や符丁はその施設や事業所で働いている方以外にはわからないため、介護記録の記入時には使ってはいけません。
わかりづらい専門用語
介護記録は上記でも説明したとおり、利用者や利用者家族も閲覧できる書類です。
介護の仕事をしている介護職員や関連行政の方と違い、ほとんどの利用者や利用者家族は介護に関する専門用語について詳しくはありません。
わかりづらい専門用語を使った介護記録だと、閲覧した利用者や利用者家族にとって不親切な介護記録になってしまいます。
誰が見ても意味が読み取れる介護記録になるよう、わかりやすい言葉に置き換えましょう。
《わかりづらい専門用語の例》
- 徘徊(ひとり歩き)
- 傾眠(うとうとする)
- 褥瘡(床ずれ)
- 浮腫(むくみ)
診断のない状態の医学的用語
病気やケガの診断は、国家資格を持っている医師だけが行えます。
医師の資格を持たない介護職員等は、利用者の健康状態から勝手に診断してはいけません。
例えば、利用者が発熱しセキなどの風邪症状があったときでも「風邪」と決定づけるには早すぎる場合があります。医師の診察と検査により風邪ではなく肺炎だと診断されるかもしれず、病名の違いによって治療法が変わる可能性があるからです。
後々まで残る介護記録に、診断のない状態での病名などの医学的用語を書いてしまうと、他の介護職員への誤解を招く原因になります。
また訴訟などの万が一の事態に備えるためにも、不確かな医学的用語は決して使ってはいけません。
利用者の健康状態を介護記録に記入するときには「腹痛の症状が見られた」「右ひじに3センチほどの擦り傷ができていた」など、ありのままの見た目の状態を指す言葉だけを使いましょう。
【パターン別】介護記録の例文
それでは、実際に介護記録を書くときに使える例文をご紹介します。
介護事業所では様々なサービスを行いますが、ここでは基本となる、食事、排泄、入浴時、睡眠の場面を取り上げます。
介護記録の内容を充実させるためには、5W1Hを意識すると良いでしょう。
5W1Hとは、「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」の英語の頭文字をとったものです。
特に「なぜ」の部分は、利用者がうまく説明できないこともあるので、介護職員が利用者の様子を読み取って推測する必要があります。
食事時の介護記録の例文
7/20 8:20 朝食時、ロールパンを半分残される。声をかけてみると、「ぱさぱさして食べにくい」と話された。水分が足りない様子だったので、飲み物のおかわりをしたほか、コーンスープにつけながら食べることをおすすめした。「おいしいね」とおっしゃり完食された。
排泄時の介護記録の例文
7/20 10:30 ご本人から「トイレに行きたい」とお声がけいただき、職員が同行する。右手で手すりをつかみながらも、トイレまでご自身で歩いて移動する。ズボン、パンツを下ろしづらそうだったので、ご本人の了承を得て、職員が下ろす。おむつに少量の尿失禁あり。排泄後はご自身で拭き、流してもらった。
入浴時の介護記録の例文
7/20 14:30 入浴される。シャンプーを手に置いて泡立てるのが難しかったため、髪は職員が洗う。先月の骨折の影響で、手に力を入れづらいご様子。その後、スタッフが体を支えながら浴槽に入られる。首や肩を動かして「お風呂に入ると体がほぐれて良い」とおっしゃる。入浴後は、ズボンをはくのを職員がお手伝いした。下着や上衣は、ご自身で着替えを進められた。
睡眠時の介護記録の例文
7/21 0:05 見回りに行くと目を開けて起きていらっしゃった。「眠れていないのですか?」と聞くと、「一度寝たが、寒くて起きてしまった」とのこと。毛布をはいでしまったようなので、職員がかけ直す。3:00にもう一度見回りに行くと、寝息を立ててぐっすりと眠っているご様子。
介護記録ソフトの利用で使ってはいけない言葉を回避

ここまで説明してきたように、介護記録には使ってはいけない言葉が多く存在しています。
しかし使ってはいけない言葉を気にしてばかりでは、介護記録の作成は進みません。
介護記録ソフトを使用すれば、介護記録で使ってはいけない言葉を回避した状態で、より簡便に介護記録が作成できます。
多くの介護記録ソフトでは、業務内容や状態が選択式になっているなど、介護職員が介護記録を作成しやすいように言葉がフォーマット化されています。使ってはいけない言葉の回避もしやすく、日々の介護記録作成に多くの時間を要する必要もなくなることが期待できます。
介護記録ソフトについては以下の記事も参考にしてください。
▶介護記録をICT化する利点とは? 2022年補助金事業と対応介護記録ソフトの探し方
まとめ
今回は介護記録に使ってはいけない言葉について解説しました。
口頭での発言と違い、介護記録に書き記した文字はいつまでも残ります。使ってはいけない言葉についても十分に配慮しながら、誰がいつ見てもわかりやすい介護記録作成に努めましょう。
