近年、ICT(情報通信技術)が介護の現場でも活用され始めています。
具体的にはどのような介護事業所が、どんなICTサービスを使い始めたのでしょうか。そしてICTサービスを活用することによりどんな満足を得られたのでしょうか。
今回は介護事業所のICT活用について、実際の事例を紹介しながら解説します。
目次
ICTとは?
ICTとは、Information and Communication Technologyの略で、日本語では「情報通信技術」と呼ばれます。
インターネット等の通信を使ってデジタル化された情報をやりとりするコミュニケーション手段、もしくはそのために提供される技術サービスのことをいいます。
身近なサービスとしては、SNS・メールでのやり取り、銀行ATMの利用、交通系ICカードの利用などがあり、日常生活に欠かせないものとなっています。
介護におけるICTについては、下記の記事にて詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
▶介護におけるICTとは何か?効果とメリット・デメリット
介護業界に活用され始めているICT
2021年1月18日の介護給付費分科会「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」では、ICTを活用した介護事業所の逓減制における適用件数を見直す内容が盛り込まれました。
行政の側としても、これまで捺印済みの紙媒体でしか提出が認められなかった各種提出書類のデジタルデータへの置き換えを容認し、介護業界のICT化を促進するために助成金などの給付を行っています。
すでにICTを活用し始めて厚生労働省より導入支援を受けた介護事業所も2019年度の報告で406件を超え、2021年現在のICT導入済事業所数はさらに増えることが予想されています。
介護の現場におけるICTは、徐々に身近なものになり始めているのです。
介護業界でICTの活用が求められる理由
介護業界でICTの活用が求められるようになってきた背景には、介護の担い手不足の問題があります。
厚生労働省によると、2019年度の全国の介護職員数は約211万人でした。
しかし、介護職員の必要数は年々増加する見込みで、2025年度には約243万人、2040年度には約280万人が必要になると予測されています。
介護業界の人材不足が深刻化するなか、多くの人材を採用することはもちろんのこと、介護従事者一人ひとりの生産性を向上させることが求められています。
介護業界でのICT活用例
現在、介護業界で活用されている代表的なICT機器は次の3つに分類できます。
利用者情報の共有システム
パソコンやタブレット等のICT機器、クラウドサービス等を使って、文書を電子上で保存します。
スタッフは、業務の合間に手軽に手軽に記録できるようになるため、残業時間削減につながります。
また、電子化により施設内の文書の保管場所が削減できるでしょう。
勤怠管理・給与計算システム
出退勤時刻をもとに、自動的に給与が計算されるシステムです。
勤怠管理から給与計算までを一気通貫して行えるので、転記などの事務作業の手間がなくなります。
利用者の見守りシステム
利用者の居室に設置したカメラやセンサーによって、生体情報やベッドからの転落などの身体の動きを感知します。
危険を察知した際には、スタッフに通知が送信されます。
夜間などの見回りの負担を軽減し、通知が来ない間は他の業務に集中するなど、スタッフの業務効率化が期待できます。
参考:介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引きVer.2 概要版
介護業界でのICT導入率
介護業界でのICT活用は年々浸透しています。
公益財団法人介護労働安定センターが全国18,000の介護事業所を対象に実施した調査によると、「パソコンで利用者情報(ケアプラン、介護記録等)を共有している」事業所が 55.9%(前年度 52.8%)ありました。
また、「記録から介護保険請求システムまで一括している」が45.6%(同 42.8%)、「タブレット端末等で利用者情報(ケアプラン、介護記録等)を共有している」が 32.5%(同 28.6%)となっています。
一方、「いずれも行っていない」は 19.3%(同 22.0%)と、ICTを活用する事業所が増加傾向にあります。
参考:令和4年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書
ICT活用による介護現場へのメリット

介護事業所がICTを活用したときには、以下のようなメリットが生まれると考えられます。
介護記録の事務負担軽減
介護記録などをICT化してパソコン・タブレット・スマートフォンなどで作成することにより、介護スタッフが手書きの書類作成に取られていた事務仕事の時間が短縮される効果が見込まれます。
さらにホームヘルパーによる訪問介護の場合は書類作成のために事務所に戻る必要がなくなるため、利用者居宅からの直行直帰が可能となり、働きやすさが向上します。
利用者ケアの負担軽減
見守りセンサーでICTによる利用者の状態を伝達することで、介護スタッフは利用者の居室に頻繁に出向く必要がなくなり、介護スタッフの時間的ロスが少なくなります。
また常に利用者の遠隔監視ができることにより、万が一の事故も未然に防げます。
ICT活用による介護現場へのデメリット

ICTを新たに導入することは、介護現場にコストや教育の面で負担がかかります。
こうしたデメリットを、解決策と合わせてご紹介します。
導入コストがかかる
施設や事業所内にICTを導入するには、インターネット環境の整備や、パソコン、タブレット端末などの購入費や通信費がかかります。
こうしたコストを補助するために、厚生労働省はICT導入支援事業を実施しています。
この事業によって、ICT導入事業所数は2019年度の195事業所から、2021年度には5,371事業所にまで増加しました。
現時点での実施状況は都道府県によって異なりますので、各都道府県のWebサイトなどをご確認ください。
職員への教育が必要
職員がICTを円滑に使えるようになるまでは、施設や事業所内でのサポート体制が必要です。│
例えば、介護記録の媒体が紙からタブレット端末に変わったり、連絡手段が電話からチャットに変わったりするので、職員の日常業務の流れも変化することでしょう。
以前の方法に慣れ親しんでいた職員にとっては、新しい方法を覚えなければならず、ストレスになることも考えられます。
そのため、多くの商品では導入前の無料相談やデモンストレーション、導入後のサポートを用意し、現場を支援する体制が整っています。
職員への教育が不安な場合は、導入前後のサービスが充実した商品を選びましょう。
介護施設等のICT活用事例

以下からは、実際にICTサービスを導入した介護事業所の活用事例を6例ご紹介します。
事例1:ヘルパーサポート笑ん満
- 事業内容:訪問介護サービス
- 導入したICT:介護記録ツール
- 製品名:Care-wing(介護の翼)
- ICT導入をしようと思った理由:介護報酬の特定事業所加算が主な目的
- ICT導入による効果:
- 手書きで介護記録を取っていた頃よりも記録の質が上がり、事業所・スタッフ間でいつでも介護記録が確認できるようになったことで「情報の見える化」が進んだ
- スタッフ間の情報伝達がスムーズになり、ヘルパーのモチベーションがアップした
- オンライン会議ができるようになり在宅業務が可能となった
参考:株式会社ロジック|Care-wing(介護の翼)「導入実績」
事例2:みちのく荘
- 事業内容:特別養護老人ホーム運営
- 導入したICT:介護記録のモバイル端末入力・見守りセンサー・勤務シフト自動作成システム、他
- 製品名:不明
- ICT導入をしようと思った理由:現状のままでは2025・2040年問題に対応できないと認識したため
- ICT導入による効果(予測含む):
- 介護記録のモバイル端末入力により、利用者とコミュニケーションをとりながら記入でき、リアルタイムで情報を共有できた
- 見守りセンサー導入により転倒・転落の予測を検知できるため、職員の訪室業務が約80%軽減でき、スタッフのストレスが減少した
- 勤務シフト自動作成システム導入により勤務の公平性・スタッフの利便性が向上する
参考:社会福祉法人 青森社会福祉振興団|ICT・介護ロボット活用による取り組み事例
事例3:株式会社アイム
- 事業内容:訪問介護・訪問入浴・通所介護・福祉用具・サービス付き高齢者向け住宅運営等
- 導入したICT:ビジネスチャットツール
- 製品名:Chatwork
- ICT導入をしようと思った理由:
- サービス提供責任者の業務時間の多くがヘルパーからの電話にとられていた
- 電話のやりとりだと情報が正確に伝わっているか不安があった
- ICT導入による効果:
- サービス提供責任者とヘルパー間の情報が正確に伝わるようになりストレスが軽減した
- 1日あたり約2時間半あった電話時間が半減し、業務効率化につながった
- サービスに集中できる環境が整い、離職防止や採用コストの低減につながった
事例4:社会福祉法人周陽福祉会
- 事業内容:特別養護老人ホーム・居宅サービス運営
- 導入したICT:介護記録ツール
- 製品名:ケアコラボ
- ICT導入をしようと思った理由:
- 介護記録作成に時間がかかり、残業をしないと仕事が終わらない状態だった
- 記録の保管場所がまちまちで、情報を見返すためにいろいろな場所に出向く必要があった
- ICT導入による効果:
- 手元のスマートフォンですぐに情報が確認できるようになった
- 書類作成の時間が短縮された
- 利用者家族とのコミュニケーションがスムーズになり、より信頼感が得られるようなった
参考:ケアコラボ|活用事例
事例5:ナーシングホームひだまり
- 事業内容:介護老人保健施設
- 導入したICT:介護記録ツール
- 製品名:ケア+(プラス)for『寿』
- ICT導入をしようと思った理由:
- 介護記録業務が本来のケア業務や休憩時間を圧迫し、職員の負担になっていた
- 介護記録の書き方が職員のスキルにより不十分な場合があった
- カルテを現場で探す手間がかかり、紙を使った情報共有に限界を感じた
- ICT導入による効果:
- 介護記録業務にかかる時間が減りケア業務に注力できるようになった
- スタッフの休憩時間確保や残業時間の短縮が実現した
- リアルタイムで必要な記録を確認・共有でき、多職種間での連携強化の効果があった
事例6:デイサービスセンターささら
- 事業内容:デイサービス
- 導入したICT:介護記録ツール
- 製品名:ほのぼのNEXT・CarePalette
- ICT導入をしようと思った理由:厚生労働省の平成28年度「居宅サービス事業所における業務効率化促進モデル事業」に採択された
- ICT導入による効果:
- 介護記録作成に要する時間が短くなったため計画書の作成や翌日準備への時間に充てられるようになった
- ケア提供に力を入れられるようになり利用者家族への連絡事項が手厚くなった
- 情報共有がスムーズになることでスタッフの意識が高まり情報量・精度が上がった
事例7:社会福祉法人 元気村|こうのすタンポポ翔裕園
- 事業内容:特別養護老人ホーム/デイサービス
- 導入したICT:介護記録ツール、健康管理システム
- 製品名:安診ネット カイゴ
- ICT導入をしようと思った理由:施設利用者の入院が多くなっており、健康管理の必要性を感じていた
- ICT導入による効果:
- 導入前は看護師が1人1人のデータを見て判断していたが、自動的にデータが分析されスコアがでるので、病院受診の判断などしやすくなった
- 利用者の体調が「見える化」されるので、当日注意が必要な利用者がすぐわかるようになった
- 早い段階で医師に相談できるようになり、入院日数も減少傾向になった
事例8:ライフコミューン 川崎
- 事業内容:介護付有料老人ホーム
- 導入したICT:行動分析センサー、ケアサポートシステム
- 製品名:HitomeQ
- ICT導入をしようと思った理由:職員の駆け付けによる運動量が非常に多かったため
- ICT導入による効果:
- 無駄な駆け付けが減り、職員の負担軽減につながった
- スマートフォンに通知が来たときに静止画とライブ映像で状況が確認できるので、訪室が必要か必要でないか判断できるようになった
- 入居者が転倒したときの映像があるので、防止策を考える教育素材に使用できた
参考:HitomeQ|導入事例
まとめ
今回はICT(情報通信技術)を実際に活用している介護事業所の事例を紹介しながら、ICTが介護業界にどんな福音をもたらすかについて説明しました。
ICTの活用は介護事業所にとってメリットがあるだけでなく、これからの介護事業所にとって必須の情報伝達手段でもあります。
積極的に最新の技術を活用しつつ、業務効率化とケア品質の向上に努めましょう。
