高齢者に運動×eスポーツがおすすめな理由とソフトを紹介!研究で示された「高齢者がグループでゲームを行う」メリットとは?

高齢者に運動×eスポーツがおすすめな理由とソフトを紹介!研究で示された「高齢者がグループでゲームを行う」メリットとは?

最終更新日 2023.10.23

この記事では、高齢者に「運動を行うeスポーツ」がおすすめな理由とソフト事例、また複数人でゲームを行うメリットを調査した研究についてご紹介します。

高齢者に運動×eスポーツがおすすめな理由

スマートフォンやタブレット、据え置き型のテレビゲーム機などで行う対戦型のゲームが「eスポーツ」と呼ばれ、競技の一つとして親しまれるようになってきました。eスポーツは若年層だけでなく高齢者にもレクリエーションや趣味、さらには新しい仕事の一つとしても受け入れられ始めています。

なお、運動になるeスポーツは海外を中心に「エクサゲーム」と呼ばれ注目され始めています。

参考▶︎「エクサゲーム」とは?ARエクサゲームで高齢者の転倒リスクを軽減することは可能か

運動になるeスポーツ(エクサゲーム)は高齢者にとって、複数のメリットがあります。以下では高齢者にエクサゲームをおすすめできる理由となるメリット3つをご紹介します。

理由1:認知症予防になる

高齢者がエクサゲームを行うメリットの一つは、「認知症予防になる」という点です。

これまで、複数の調査・研究が行われ、eスポーツを行うことで高齢者の認知能力が向上することが明らかになってきました。

参考▶︎リズムゲームのeスポーツで高齢者の認知能力は向上する

また、運動そのものによる認知症予防効果については厚生労働省から科学的根拠を示す資料が公開されています(厚生労働省「運動による認知症予防」より)。

エクサゲームでは、eスポーツによる効果、および運動による効果を同時に得ることで、より効率的に認知症予防を行うことができると考えられます。

理由2:ストレス解消になる

少し昔のデータですが、平成8年度における内閣府の調査によると、高齢者におけるストレス解消法に関するアンケートで3番目に人数が多い結果となったのは「スポーツなどをして身体を動かす」でした(内閣府「高齢社会対策に関する調査 > ストレスの解消方法」より)。高齢者が身体を動かすeスポーツを行うことで、ストレスを解消できることが予想されます。

理由3:運動不足解消になる

厚生労働省資料(「健康日本21 > 身体活動・運動」)によると、高齢者が身体活動を行うことには寝たきりや死亡を減少させる効果があるため、多くの人が無理なく日常生活の中で運動を実施することが求められています。

eスポーツは場所や時間の制約にあまり捉われず身体活動を行うことができるため、無理なく運動習慣を維持することができると考えられます。

運動系ソフトの事例

高齢者も楽しめる、運動になるeスポーツの製品は幾つか事例があります。以前、NHKでも鳥取市で行われた高齢者向けのeスポーツ推進の取り組みが取材されており(NHK「eスポーツを高齢者が体験 認知症予防や健康作りに 鳥取市」より)、実際に販売されているゲームを高齢者が楽しむ様子が報じられています。

以下では国内で販売されている、運動になるeスポーツ製品の事例をご紹介します。

リングフィットアドベンチャー

画像はAmazon商品ページより引用

リングフィットアドベンチャーは、Nintendo Switchで遊ぶソフトです。ゲーム内で冒険しながら現実でフィットネスを行えるのが特徴です。付属品を身体に装着し、全身を動かして遊びます。付属品は腕・肩・胸・お腹・背中・お尻・脚などの部位の動きを認識し、プレイヤーの動きがゲームキャラクターと連動する仕組みになっています。

公式サイト:https://www.nintendo.co.jp/ring/

太鼓の達人

画像はAmazon商品ページより引用

太鼓の達人は、Nintendo Switch他さまざまなゲーム機で遊ぶソフトシリーズです。楽曲の流れと画面の指示に合わせてリズミカルに太鼓を叩いてプレイするのが特徴です。上記画像のように専用のコントローラーが販売されています。「誰でも楽しく和太鼓をたたく」というコンセプトで開発されており、数百の楽曲を選択できます。

公式サイト:https://taiko-ch.net/index.php

Switch Sports

画像はAmazon商品ページより引用

Switch Sportsは、Nintendo Switchで遊ぶソフトです。ボウリング、チャンバラ、テニス、バレーボール、バドミントン、サッカーを選択して遊ぶことができ、コントローラーを手足に装着して各スポーツに合った動きを行います。その場にいる家族や友人と一緒に遊ぶほか、オンラインで世界中の人と対戦することができます。

公式サイト:https://www.nintendo.co.jp/switch/as8sa/index.html

グループでエクサゲームを行うメリットを調べた研究を紹介

高齢者がエクサゲームを行う上で明らかになっていないこと

高齢者の機能低下を防ぐためには運動が推奨されていますが、運動習慣を維持するのは大変です。運動習慣を維持するにあたっては、上記に挙げたようなエクサゲームが有効だと考えられ、近年注目を集めています。

また、高齢者が運動を行う場合には一人よりもグループで行うとモチベーションが湧きやすいことも指摘されています。
しかし、ゲームによる運動においてもこの原理が同様に通用するのかについては調査が行われていません。

上記の背景から、ブラジルの研究グループは「グループで行える高齢者向けのゲーム」を新たに開発し、グループでのエクサゲームによる効果の評価を行なったことを報告しています。
ゲーム自体を新たに開発した理由は、多くのゲームは大衆に向けて商業的に開発されており、高齢者が特に快適だと感じられるような設計はされていないことが考えられるためです。
以下では開発の概要と、実験の結果をご紹介します。

参照する科学論文の情報
著者:Jorge Luiz Andrade Da Silva Júnior, Daiana Biduski, Ericles Andrei Bellei, Osvaldo Henrique Cemin Becker, Luciane Daroit, Adriano Pasqualotti, Hugo Tourinho Filho, Ana Carolina Bertoletti De Marchi
機関(国):University of Passo Fundo, University of São Paulo(ブラジル)
タイトル:A Bowling Exergame to Improve Functional Capacity in Older Adults: Co-Design, Development, and Testing to Compare the Progress of Playing Alone Versus Playing With Peers
URL:doi.org/10.2196/23423

ボウリングゲームは高齢者に向いている

ブラジルの研究者らは、同国の高齢者(60歳以上の男女)、ゲームの開発者、フィットネストレーナーを集め、ゲームの設計段階から共同で研究を行いました。
研究に参加した高齢者らの主な特徴としては、週に1回は何らかの運動を実践していること、そしてスマートフォンやビデオゲームなどのテクノロジーに親しいことでした。高齢者らは、ゲームの被験者として「一人でゲームを行うグループ」と「ペアでゲームを行うグループ」に分けられました。

研究の最初の段階で、開発チームと高齢者らは合計8回の会議を行い、ゲームの目的やデザインについて話し合いを行いました。会議によって、高齢者らが高齢者向けゲームに何を求めるのかが確認されました。
また会議の結果、開発チームは、高齢者ゲームとして効果的なのはボウリングゲームであると仮説を立てました。ボウリングゲームに関する以下の特徴が理由でした。

ボウリングゲームの特徴

  1. 現実世界とゲームの世界で動きが似ている。
  2. 高齢者にとって普段から馴染みがあり、家族や友人と一緒に遊んだ経験を思い出すことができる。
  3. 高度な集中力を鍛えられる。
  4. バランス能力を鍛えられる。
  5. 高齢者が行う運動として推奨される「ゆっくりとした動き」でプレイ可能である。

なお、ボウリングゲームは以下のテクノロジーによって開発されました。

  • Kinect:モーションセンサー
  • Unity:ゲームシステムデザインソフト
  • Blender:3Dデザインソフト
  • Adobe Fuse(現在廃止済みのソフト):3Dデザインソフト

ゲームの開発は、「試作→テスト→改善→最終的な評価」の流れで行われました。また、「テスト→改善」のプロセスは繰り返し行われました。ゲームには初めはシンプルな機能しか備えられていませんでしたが、改善プロセスを繰り返すことによって完成度の高いゲームに進化していきました。

改善によって進化していくボウリングゲーム(a→b→cの順で進化)

体力テストの結果に差が出る

開発されたゲームは、以下の基準および方法で評価されました。

  1. ゲームを通して培われた高齢者の体力:ゲームによる訓練期間前後の体力テストで測定する。
  2. ゲームを通して得られた運動に対するモチベーション:モチベーションに関するアンケートで測定する。
  3. ゲームの特徴:ゲーム体験に対しての感情面に関するアンケートで測定する。

高齢者は週に2回ずつ、10週間にわたってゲームを通して運動を行いました。また、最終的に全ての期間を完了した高齢者は19人でした。

10週間のゲームテスト及び評価を行なったところ、以下のような結果が得られました。

  • ペアでゲームを行なったグループは、一人でゲームを行なったグループよりも体力テストの結果が優れていた。
  • ペアか一人かに関わらず、運動に対するモチベーションはゲームを通して得られたという回答が多かった。
  • 「一人よりもグループでゲームを行うことを好む」という回答が多く寄せられた。
  • ペアでゲームを行なった参加者の方が、ゲームにより没頭したことが示された。
  • ペアか一人かに関わらず、ゲーム体験に対してネガティブなフィードバックは少なく、ポジティブなフィードバックが多かった。

以上の結果から、研究者らはスポーツゲームが高齢者の機能的能力を向上させる優れた手段であることを再確認するとともに、グループでゲームを行うことがさらに良い影響を及ぼすことを確認しました。ただし研究者らは、今回の研究ではボウリングゲームのみで実験と評価を行なったため、他のゲームでの結果とは異なる可能性もあると注意しています。

まとめ

この記事では、高齢者に「運動を行うeスポーツ」がおすすめな理由とソフト事例、また複数人でゲームを行うメリットを調査した研究についてご紹介しました。

高齢者の健康増進においてゲームが良い影響を及ぼすことは数々の研究によって明らかになってきましたが、グループで楽しむことによってより大きなメリットが得られそうですね!「誰かと一緒に楽しめる」という基準でゲームを選ぶのも良いのかもしれません。

皆さんもぜひ、運動ができるゲームを身の回りの方やオンライン上のプレイヤーと一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか?

高齢者におすすめのゲーム(アナログ・デジタル)と最新テクノロジーの活用

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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