この記事の要点
- 介護離職は2010年代以降およそ2倍に増えている
- 介護離職ゼロを目指し厚生労働省主体でさまざまな取り組みが行われている
- 介護業界からも介護離職ゼロに貢献できる
- 最新テクノロジーが介護離職ゼロの一助になる
介護離職は超高齢社会の日本において社会問題となっており、近年では介護離職ゼロを目指すためにさまざまな取り組みが行なわれています。
実際にどのような取り組みによって介護離職ゼロを目指しているのでしょうか。
そしてAIやITの最新技術が介護離職ゼロに貢献できる可能性はあるのでしょうか。
今回は介護離職ゼロを目標とした取り組みや、それに役立つIT技術の研究について解説します。
目次
「介護離職ゼロ」とは

介護離職ゼロの取り組みを紹介する前に、まずは介護離職とは何か・介護離職ゼロとは何かについておさらいしておきましょう。
「介護離職ゼロ」は、2015年に当時の第2次安倍政権が掲げた福祉対策のスローガンです。
《介護離職とは》親などの介護が原因で会社や仕事を辞めること |
《介護離職ゼロとは》介護離職する人がゼロ人になることまた、介護離職を防ぐために国や自治体が主体となって目指す離職防止の取り組みのこと |
介護職員が職場を離れる「介護離職」とは別
介護離職と聞いて、介護施設などで働いていた方が退職して介護業界から離れることを想像する方もいるかもしれません。
本記事では介護職員の退職・離職ではなく、上記の意味のとおり介護を理由にして離職する方について説明しています。介護職員の退職・離職や、それを防ぐ対策については以下の記事をご覧ください。
▶介護職員の離職率・離職理由を最新調査から紹介 離職を防ぐための対応策とは
介護離職の人数と経済損失
大和総研の調査によれば、2017年時点で介護や看護を理由にして離職した人は全国の個人的理由による年間離職者のうち2%でした。

2%と聞くと大したことのない割合のようにも思えますが、人数に換算すると約10万人の方が介護・看護を理由に離職していることになります。この数字は2010年代になっておよそ2倍(2007年比)に増えており、今後もさらに増加が見込まれます。
働きざかりの年代が介護離職で仕事ができなくなると、当人や企業にとっての損失だけでなく、日本全体の労働力不足を加速化する一因にもなります。
経済産業省 第1回産業構造審議会 2050経済社会構造部会の資料では、介護離職に伴う経済全体の付加価値損失を1年当たり約6,500億円と算出しています。
介護離職ゼロの目標は、介護離職する方を救うだけでなく、社会全体を救うために達成しなければいけない目標でもあります。
国が行う介護離職ゼロの取り組み

介護離職ゼロを目指すために、国はどのような取り組みを行っているのでしょうか。
以下からは厚生労働省が主体となって行っている、介護離職ゼロに向けた企業や労働者への支援制度を紹介します。
「仕事と介護の両立支援制度」の推進
厚生労働省では日本の各企業に向けて、従業員が介護をすることになったと相談を受けたときや、介護のために仕事に支障が生じたときにどう対処すればよいかを指導しています。
この取り組みは「仕事と介護の両立支援制度」と呼ばれています。
2021年に改正された育児・介護休業法の改正や、雇用保険の介護休業給付などはその取り組みの一環です。
2021年の育児・介護休業法の改正については以下の記事でも詳しく説明しています。
▶介護離職を防ぐには?仕事と介護の両立支援制度を紹介(2021年最新情報)
助成金の支給
介護休業制度を整備しても、利益の追求が求められる各企業は制度の利用をためらうことも考えられます。
特に中小企業の場合には、1人の従業員が欠けるだけで大きな痛手になるため、従業員の介護休業を認めない場合もあるようです。
そのため従業員に介護休業を与えた企業には両立支援等助成金「介護離職防止支援コース」を支給し、介護休業制度の利用を後押ししています。
「仕事と家庭の両立支援プランナー」の派遣
企業があらかじめ、自社の従業員が介護に直面したときにどう支援すればよいかの支援プランを作成しておけば、いざというときにスムーズに介護支援が行えます。
厚生労働省は人材派遣業の株式会社パソナと提携し、「仕事と家庭の両立支援プランナー」の無料派遣を行っています。
各企業が介護支援プランを作成したいと考えたときには、仕事と家庭の両立支援プランナーが最大4回まで派遣され、業種や社員数など個別の状況にあわせたアドバイスが受けられます。
参考:厚生労働省委託中小企業育児・介護休業等推進支援事業|介護支援プランを導入し従業員の介護離職を防止する会社へ
介護業界は介護離職ゼロにどう貢献できるか

介護離職ゼロを目指すために、国や各企業も介護者を支援するさまざまな努力をしていますが、国まかせ・企業まかせでは介護離職ゼロは実現できません。
介護サービスを提供する介護事業者は、介護離職ゼロにどのような貢献ができるのでしょうか。
老人ホームなどの増加
老人ホームなどの高齢者施設や介護施設、在宅介護であっても適切な介護のサポートが受けられれば、介護離職を選択せざるを得ない方は減少するかもしれません。
介護老人福祉施設(特養)などの待機者数はまだ多いのが現状ですが、それでも介護付有料老人ホームなどの介護施設は以前より増えています。
厚生労働省が毎年行っている社会福祉施設等調査の最新データによれば、2020年の有料老人ホーム施設数は15,956で、前年(2019年)に比べて822(5.4%)増加しています。
入居できる定員数も609,472人となり、2019年からは33,356人の増加です。
なお10年前の2012年時点では、有料老人ホーム施設数は7,519、定員は315,234人でした。この10年間で倍以上に増えたことがわかり、介護施設の待機者をゼロにして介護離職ゼロを実現する未来に希望が感じられます。
参考:厚生労働省|令和2年度「社会福祉施設等調査」結果の概要
参考:厚生労働省|平成24年度「社会福祉施設等調査」結果の概要
介護施設・介護事業所のM&A
上記で説明したように新規の有料老人ホームは増加傾向にありますが、後継者不足などの理由により既存の有料老人ホームが閉鎖される事態も生じています。
既存の介護施設等を継続運営するためには、M&A(合併や買収による経営権の取得)などの手段を検討する必要性も出てくるでしょう。
近年の介護業界では既存介護施設等のM&Aが急激に進んでいます。詳しくは以下の記事をご覧ください。
▶介護事業のM&Aをわかりやすく解説 介護M&Aの現状と検討のポイントとは
▶介護業界M&A事例を紹介(株式譲渡・事業譲渡・子会社化・業務提携)
介護職員の確保
いくら介護施設の「ハコ」を増やしても、そこで働く介護職員がいなければ介護サービスの提供ができず、介護離職ゼロにはつながりません。
介護離職ゼロを実現するためには、それぞれの施設が介護職員を確保して、増加する要介護者に適切な介護サービスを提供できる体制を整えていく必要があります。
いま働いてくれているベテラン介護職員に十分な給与を支給し、離職を防ぐ対策も介護離職ゼロ対策のひとつです。
介護報酬の介護職員等特定処遇改善加算や、2022年2月から開始された介護職員処遇改善臨時特例交付金などの国の制度を活用することで、介護職員の待遇アップも実現しやすくなります。
▶【2021年度改定対応】介護職員等特定処遇改善加算の最新情報を解説
またベテラン職員の待遇アップだけでなく、長期的な運営のためには新人の育成も大切です。新人介護士をどう教育していくべきかについては以下の記事をご覧ください。
▶介護事業所の教育担当者必見「新人介護士を教育する5つのポイント」とは
テクノロジーが目指す介護離職ゼロ

介護離職ゼロを目指して国・企業・介護事業者・介護する家族が行っている努力に、AIなどの最新テクノロジーが何らかの助けにならないかと、さまざまな側面から研究・開発が進められています。
AIケアラボでは単身高齢者世帯や在宅介護世帯を支援するIT技術をこれまでいろいろと紹介してきました。
以下の記事はほんの一例です。今後ともAIケアラボでは介護離職ゼロ実現に役立つ最新技術の研究を紹介していきますので、ご期待ください。
▶独居(一人暮らし)高齢者の健康・安全は見守りセンサーとAIで守られていく
▶転倒予防には「デジタル日記」 高齢者が自ら転倒を管理する未来がくる
▶スマートホームに対する高齢者の感じ方 IoTはシニアの目にどう映るか
▶ステイホームの安全、AIで守る カメラに映る人の動作を無人でモニタリング
▶在宅介護の見守りAIが高齢者の救急搬送を防ぐ スマートフォンを活用
▶介護とロボットの未来を考える ロボットにできること・人にできること
まとめ
今回は介護離職ゼロを目指す国や企業、介護事業者の取り組みについて解説しました。
介護離職ゼロは高い目標かもしれませんが、すべての人や機関が少しずつ努力すれば、目標に近づいていけるはずです。
テクノロジーの力も借りながら、一歩ずつ歩みを進める努力をしていきましょう。
