ロボット歩行車での筋トレ効果が高齢者の歩行障害に有効 パナソニックと名古屋大学が検証

ロボット歩行車での筋トレ効果が高齢者の歩行障害に有効 パナソニックと名古屋大学が検証

最終更新日 2022.11.24

以前の記事「歩行器・歩行車にAIが搭載されスマートロボット化するとどうなるのか」では、歩行器・歩行車の基本とともに、AIを搭載したスマートロボットウォーカーの研究をご紹介しました。

本記事では新たに、ロボット歩行車による筋力トレーニング効果についての研究をご紹介します。

筋力の低下と歩行障害

足

WHO(世界保健機関)の報告によると、世界人口の約6人に1人がアルツハイマー病などの神経障害にかかっています。特に高齢者の場合、神経障害はしばしば筋力低下をもたらし、歩行障害に繋がる場合も多くあります。
歩行障害になると当事者はQOL(生活の質)が下がるなど、身体的だけでなく精神的にダメージを負うことがあります。また歩行障害は転倒をもたらすこともあります。一度転倒が起きると転倒の再発を恐れて積極的に歩行ができなくなり、さらなる筋力低下に繋がるなど悪循環が発生しやすくなります。

過去にAIケアラボでは、高齢者における歩行能力の改善や転倒予防に関して、以下のようなテーマで研究や基本事項を取り上げてきました。

▶︎ウェアラブルデバイスは高齢者の「歩行速度」を改善し、健康状態を向上させる
▶︎歩行器・歩行車にAIが搭載されスマートロボット化するとどうなるのか
▶︎転倒リスク評価法TUG(タイムアップアンドゴー)テストがAIで進化する
▶︎センサーで人の動きを検知する「スマートカーペット」 高齢者の転倒や社交性など検出・分析
▶︎高齢者の転倒リスクが少ない「安全な歩行ルート」を薦めるシステム 広島大学などが開発
▶︎転倒予防には「デジタル日記」 高齢者が自ら転倒を管理する未来がくる
▶︎高齢者の転倒予防にはオンライン運動プログラムが効果あり

歩行障害において、歩行能力の改善には筋力トレーニングを推奨する専門家が多くいます。また、筋力トレーニングを実施する上では、歩行能力の改善に有効な種類のトレーニングを選択する必要があります。
歩行能力の改善に有効なトレーニングはいくつか知られていますが、最近では、歩行中の足首関節への負荷を増やすことが研究者の間で注目されています。なお、足首関節への負荷を増やすことで鍛えられる筋肉は、足関節底屈筋(あしかんせつていくつきん)と呼ばれます。足関節底屈筋は、下図のようにアキレス腱と付着している腓腹筋(ひふくきん)やヒラメ筋などから成る筋肉群です。

足関節底屈筋は、下肢の筋肉による運動を歩行運動に変換する役割を持ちます。さらに、下肢の筋肉を活性化させる働きもあります。

ロボット歩行車を利用した筋力トレーニング効果

歩行車と足

高齢者のリハビリ分野におけるロボット開発は盛んに行われており、市場は拡大する傾向にあります(※)。現在、リハビリ分野のロボットにおいては、身体に着用して運動を支援するタイプが多く開発されています(サイバーダイン社のHALなど)。また筋力トレーニングに関しても、強度の調整がしやすいなどの点からロボット機器の利用が増えてきています。
しかし、上述のように歩行障害に有効な筋力トレーニングである足関節底屈筋のトレーニングに関しては、有効なロボット機器がまだ存在しません。

※参考:SDKI Inc.より「ロボットリハビリテーションおよび支援技術市場ータイプ別(支援ロボット、リハビリテーションロボット)、移植性別(スタンドアロン、モバイル)、アプリケーション別、地域別ー世界な予測2022ー2031年

このような背景から、名古屋大学とパナソニック株式会社の研究グループは、ロボット歩行車によるユーザーの運動と筋肉への影響を検証することで、歩行能力の改善に役立つリハビリシステムの提案を行いました。

参照する科学論文の情報
著者:Pengcheng Li, Yoji Yamada, Kazunori Yamada, Mayu Yokoya
機関(国):名古屋大学(日本)、パナソニック株式会社(日本)
タイトル:Functional Resistance Training With Gait Phase-Dependent Control Using a Robotic Walker: A Pilot Study
URL:10.1109/ACCESS.2022.3183749

ロボット歩行車の概要

リハビリにおける下肢の筋力トレーニングでは、下肢に取り付けるウェアラブル機器がよく用いられています。ウェアラブル機器がトレーニングできる筋肉は膝および股関節周辺のみだと考えられていますが、歩行能力においては前述の通り足関節底屈筋のトレーニングが重要です。そこで、ユーザーの動きに合わせて制御されたロボット歩行車であれば、足関節底屈筋のトレーニングに有効だという仮説が立てられました。

研究に使用された歩行車は、パナソニック株式会社が2016年に開発したロボット歩行車で、市販はされていません。構造などの詳細については別途論文が発表されています。システム概要と外観を下図に示します。この歩行車は、ユーザーの動きに合わせて機体の動きが制御され精密に変化する仕組みになっています。

ロボット歩行車のシステム概要と外観
ロボット歩行車のシステム概要と外観

ユーザーが歩行するための推進力となる足関節底屈筋は、上述の腓腹筋とヒラメ筋に分けられます。この2つの筋肉をトレーニングするように、歩行車はユーザーの歩行サイクル(推進とブレーキから成る)に合わせて動きます。この制御方法は(専門的な用語として)歩行位相依存制御と称されています。

実験と結果

ユーザーの歩行における1サイクルを100%だとした場合、足関節底屈筋が活性化するタイミングは約10〜60%だと言われています。また以前の研究から、歩行車がユーザーの筋肉に抵抗を与える持続時間は歩行サイクルの約30%だと判明しています。そのため、今回の研究では、歩行サイクルにおいてユーザーの筋肉に抵抗を与えるタイミングの条件が以下3パターン準備されました。

  1. 歩行サイクルの約10〜40%
  2. 歩行サイクルの約20〜50%
  3. 歩行サイクルの約30〜60%

上記のロボット歩行車を実際にユーザーが使用し、筋肉の反応を電極で確認する実験が行われました。
被験者は、若い男性8人と高齢者の男女9人(男性6人、女性3人)でした。

実験の結果、足関節底屈筋の筋肉活動が強化されていることを確認できました。また、実験条件1(若い被験者の場合は実験条件3においても)でより高いトレーニング効果があることも明らかになりました。
なお、足関節底屈筋の筋肉活動が強化されている瞬間には、同時に上肢の筋肉活動も減少していることが明らかになりました。これは、ロボット歩行車を用いて歩行する際に、ユーザー自身が上肢への不要な負担を軽減し、適切な筋肉(下肢の筋肉)を使って歩行することができていることを示しています。

研究者らはこれらの結果から、ロボット歩行車(の制御方法)が高齢者における歩行能力のリハビリとして高い有効性を示していると結論付けました。
今後は高齢者に対して2ヶ月程度の長期的な実験を行うことで、さらにリハビリ方法としての評価を行う予定とのことです。また、歩行中の姿勢がトレーニング効果に与える影響も調査したいと述べています。

まとめ

本記事では、筋力の低下と歩行障害についての基本と、ロボット歩行車による筋力トレーニング効果についての研究をご紹介しました。

現在の一般的な歩行器・歩行車は、自らの力で歩くことが困難な場合に補助的な役割として使用する製品です。しかしデジタル技術を適用することで、今後はユーザーの歩行能力を改善することも可能な製品であるのが一般的になるかもしれません。

このように、既に普及している製品を改良することには大きな可能性があります。AIケアラボでは引き続き、そのような技術革新をウォッチしていきたいと思います。

なお、リハビリ分野でのロボット開発は国内でも盛んに行われています。主要プレイヤーの1社として考えられているサイバーダイン社のインタビューを以前AIケアラボで行いました。下記も是非ご覧ください。

▶︎【サイバーダイン】介護アシストスーツHAL企業インタビュー(前編)~現場と共にソリューションを作る~
▶︎【サイバーダイン】介護アシストスーツHAL企業インタビュー(後編)~テクノロジーの花を咲かせるのは現場~

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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