家族型ロボット『LOVOT(らぼっと)』と認知症高齢者が共に過ごすと何が起きる?デンマークでの実験より

家族型ロボット『LOVOT(らぼっと)』と認知症高齢者が共に過ごすと何が起きる?デンマークでの実験より

最終更新日 2022.11.24

この記事では、家族型ロボット『LOVOT(らぼっと)』と認知症高齢者が共に過ごす実験の結果についてご紹介します。

デンマークの研究グループは、LOVOTと認知症高齢者が一定期間ともに過ごすことで認知症高齢者の気分や行動にどのような影響が起こるかを検証しました。

この記事で参照する科学論文の情報
著者:Birthe Dinesen, Helle Kidde Hansen, Gry Bruun Grønborg, Anne-Kirstine Dyrvig, Sofie Dalskov Leisted, Henrik Stenstrup, Cathrine Skov Schacksen, Claus Oestergaard
機関(国):Aalborg University, National Clinical Registries, Aalborg Municipality(デンマーク)
タイトル:Use of a Social Robot (LOVOT) for Persons With Dementia: Exploratory Study
URL:doi.org/10.2196/36505

LOVOTとは

LOVOTの特徴

LOVOTとは、日本の企業GROOVE X社が開発・販売するロボット製品です。製品の目的はユーザーに喜びをもたらすことであり、キャッチコピーは「命はないのに、あったかい。」とされています。また、LOVOTの公式サイトには、LOVOTのコンセプトが以下のように説明されています。

愛されるために、生まれてきました。生きものみたいな体温のあるカラダも、それぞれちがう個性が宿る瞳や声も、人を覚えてなついてくれる頭のよさも。

LOVOTの外見
LOVOTの外見(画像は論文より引用)

LOVOTは高度なセンサーと人工知能を持ち、まるで人間のように振る舞います。また、ユーザーと共に過ごす時間が長くなるほど独自の発達を遂げる特徴があります。

下図はLOVOTの外観的特徴を示しています。頭部にある「センサーホーン」により物体や人間を認識し、また音や声の方向を感知します。

LOVOTの外観的特徴
LOVOTの外観的特徴(画像は論文より引用)

なお、(2022年9月現在)LOVOT1体あたりの価格は498,800円で、無金利24回払い、金利3.8%の60回払いで購入ができます。

ソーシャルロボットと認知症

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LOVOTのように、人間とコミュニケーションを行い幸福をもたらす目的で作られたロボットを「ソーシャルロボット」と言います。

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「無関心」「抑うつ」「不安」など気分への影響が起こる認知症においては、患者の「生活の質(QOL)」を改善するための工夫が重要視されており、近年ではソーシャルロボットによる認知症のケアの可能性が研究されています。

これまでの研究で、『認知症高齢者に対してソーシャルロボットが役立つ可能性が高い』と示されてきました。
しかし、これまで行われてきたソーシャルロボットと認知症高齢者に関する研究の多くには「実験期間が短い」「被験者の数が少ない」などの特徴があり、検証はまだ初期段階にあると考えられています。

認知症高齢者がLOVOTと共に過ごした結果

デンマークの研究者らは、LOVOTを使用して、ソーシャルロボットと認知症高齢者に関する新しい研究を行いました。
彼らが行った研究は「最先端のソーシャルロボットと認知症高齢者が共に過ごすことで、認知症高齢者の気分や感情にどのような影響が起こるのかを、やや長期的な実験で調べる」ものです。

LOVOTが採用された理由

従来のソーシャルロボットは聴覚的能力があまり高くなく、またユーザーの感情に対する反応があまり良くないと考えられてきました。
LOVOTは上記の点において従来のソーシャルロボットよりも優れていると考えられており、にも関わらずLOVOTと認知症高齢者との関わりを実験した記録はほとんどないため、今回の研究材料として採用されました。

研究目的と対話セッションへの期待

研究の目的は、実験を通して主に次の2点を調べることでした。

  • 認知症患者がLOVOTとどのように過ごすか。
  • 医療の専門家がLOVOTをどのように捉えるか。

実験の主な内容は、認知症高齢者がLOVOTと対話(コミュニケーション)を行うセッションを複数回行うものでした。実験の参加者は、高齢者介護施設で暮らす認知症(診断済み)高齢者でした。

セッションを通して「食事や起床などの日常生活動作」「交友」「健康指導への参加」「家族とのコミュニケーション」が促進されることが期待されていました。

セッションの種類は、個人セッション(認知症高齢者1人とLOVOT1体)とグループセッション(認知症高齢者4〜6人とLOVOT2体)に分けられました。
各セッションのペースは週に約2回で、個人セッションは20〜30分間、グループセッションは30〜45分間行われました。個人セッションは12人に対して4週間、またグループセッションは30人に対して12週間行われました。

認知症高齢者のポジティブな気持ちを誘発する

ロボットと高齢者

対話実験を通して得られた結果を以下にまとめます。
なお、結果の多くは定性的な(数値化できない物事を言語などで分析している)ものですが、一部は定量的な(数値化できる物事を数値で分析している)ものでした。

認知症高齢者に対しての影響

ポジティブな結果
  • 対話によって「ネガティブな表情」が減る(※)。
  • 普段あまり喋らない人がコミュニケーションを行うきっかけを作る。
  • 見ているだけで楽しく「エンターテインメント性」がある。
  • 触れることで幸せな気持ちが生み出される。
  • LOVOTが赤ちゃんのように扱われ、気遣いの気持ちを誘発する。
  • (人間のスタッフのようには)何かを強く要求したりしないと認識される。
  • 肌への刺激を気にして他者と触れ合わない人も、温かみを求めて触れ合うことができる。

このうち、※『対話によって「ネガティブな表情」が減る』という結果に関しては、1980年代から使用されている「フェイススケール」という手法を用いて定量的に示されています。
他の結果は、以下も含めて全て(観察をもとに)定性的に示されました。

それ以外の結果
  • 感情を過度に刺激する場合もある。
  • 共感されず受け入れられない場合もある(参加者の10%)。
  • (動物好きの人にとっては)人間よりも動物に近い存在として認識される場合もある。

医療の専門家が抱いた印象

  • 仕事が大変な時の気晴らしになった。
  • 人工知能で動くロボットだと分かっていても、動きが自然である。
  • 認知症高齢者に刺激と安心感を与え、コミュニケーションを促進する。
  • 操作に関しては、認知症の人にとっては難しいものの、ユーザーに親切な設計である。

上記の結果から、研究者らは「LOVOTは認知症高齢者の大多数に受け入れられ、プラスの効果をもたらす」「コミュニケーションを促進し、日常生活において休息の時間を与える」と結論付けています。
ただし、WHO-5(精神的健康状態表)というWHO(世界保健機関)が公開するアンケートを使用して「高齢者らの”幸福に関する健康”の変化」が調べられましたが、今回有意な変化はありませんでした。

研究者らは「今後は、認知症高齢者に対するLOVOTの可能性をより詳しく調査するために、より長期で大規模な研究を実施する必要がある」と述べています。

まとめ

この記事では、家族型ロボットLOVOTと認知症高齢者が共に過ごす実験の結果についてご紹介しました。
LOVOTは、もともと認知症を治療するために開発された製品ではありません。しかし今回の実験を通して、少なくともLOVOTは認知症高齢者に、幸福や良い気分を生み出すことが確認されました。

上記で紹介した研究では、認知症高齢者の健康状態に関してはLOVOTによる臨床的に有意な影響は確認されていません(WHO-5によるアンケート結果より)。ただし、LOVOTの開発会社であるGROOVE X社は、同社が行った実証実験にて「認知機能の低下抑制における有意な結果」が確認できたと報告しています。

参照記事:『LOVOT』、認知機能の低下抑制効果に期待結果を受け、介護分野の取り組み加速(PR TIMESより)

今後もLOVOTの活躍に注目するとともに、ソーシャルロボット全体の発展に期待していきたいですね!

なお、LOVOTのユーザー体験などの情報は公式YouTubeチャンネルで発信されています。同チャンネルでの人気動画では、女優の黒谷友香さんがLOVOTとの暮らしを話されています。彼女は、「人間が笑顔になれる」「AIでも今はそういうことができる時代になっている」と話しています。

なお、AIケアラボではソーシャルロボットに関する研究事例を他にも取り上げています。ぜひご覧ください!

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臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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