高齢者はスマートスピーカーをどう使うのか?3ヶ月使用し続ける実験の結果を紹介

高齢者はスマートスピーカーをどう使うのか?3ヶ月使用し続ける実験の結果を紹介

この記事では、スマートスピーカーが高齢者にどのように受け入れられるかについての研究をご紹介します。

テクノロジーが高齢者の精神的・社会的な健康を促進する

多くの先進国が高齢化する中で、高齢者が健康に生活ができるようなソリューションはますます必要とされてきています。WHOより「健康は「肉体的健康」「精神的健康」「社会的健康」から構成される」と提唱されているように、健康な社会を作る上では高齢者がさまざまな側面から健康でいられるような工夫が求められます。

現代では、経済的に恵まれている高齢者は、より健康的な生活を送る機会が得られています。一方で経済的に困窮している高齢者はしばしば孤立していたり幸福の低下リスクにさらされていることがあり、テクノロジー等の活用で解決することが期待されています。インターネットを中心としたテクノロジーは、人々の社会的なつながりを促進し、さらに情報やサービスへのアクセスを助けるため、孤独を軽減したり幸福を促進したりできることが知られています。

しかし、テクノロジーの多くはまだまだ高齢者にとって扱いやすいものではありません。例えば高齢者は視覚的な障害を抱えていることが多く、モニター操作が難しい場合があります。また、表示されている説明自体を理解できないこともあります。あるいは手先が器用に動かせず、マウスなどでのコンピュータの操作ができないこともあります。
とりわけ経済的に困窮している高齢者は、教育面でのディスアドバンテージや身体的な老衰から、上記の理由でテクノロジーを扱う能力が特に低いことが考えられます。

高齢者がテクノロジーの恩恵を受ける機会を逃さないようにするには、テクノロジーのインタフェースを工夫することが役に立ちます。例えば、音声で操作するコンピューターであるスマートスピーカーは、従来の障壁を回避することができると考えられます。スマートスピーカーは視覚的な能力、手先の器用さ、読み書き関連の能力が必要とされないため、特に経済的に困窮する高齢者にとっても扱いやすいものである可能性があります。

スマートスピーカーの重要な特徴は、音声での操作を助ける「パーソナルアシスタント」の機能です。人工知能で駆動するパーソナルアシスタントは、ユーザーに対して音声のみで使用できる以下のようなサービスを提供します。

  • 音楽の再生
  • レシピの検索
  • ニュースのチェック
  • 健康関連の質問

なお、市場で主に流通しているスマートスピーカーの例としてはAmazon EchoやGoogle Homeなどが挙げられます。

スマートスピーカーは経済的に困窮する高齢者の役に立つのか?

高齢者にスマートスピーカーがどのように受け入れられるのかをテーマにした調査研究はまだ十分に行われていません。これまでの研究では、高齢者がスマートスピーカーに対して潜在的な関心をもっていたり、少し使ってみたところポジティブな印象を抱いたことなどが報告されています。

そんな中、米国ハーバード大学などの研究グループは、特に低所得の高齢者に焦点をあてて、高齢者らがスマートスピーカーを使うことに関する可能性の調査を行っています。

参照する科学論文の情報
著者:Rachel McCloud, Carly Perez, Mesfin Awoke Bekalu, K Viswanath
機関(国):Dana-Farber Cancer Institute, Harvard University(米国)
タイトル:Using Smart Speaker Technology for Health and Well-being in an Older Adult Population: Pre-Post Feasibility Study
URL:doi.org/10.2196/33498

高齢者がスマートスピーカーを3ヶ月使用して起きること

研究者らは、低所得な高齢者(62〜85歳)39人を対象に、高齢者らがスマートスピーカーを住宅に設置して日常的に使用する実験を行いました。実験は3ヶ月間行われ、週に1回の頻度でスタッフが相談の時間を設けました。

実験期間中、スマートスピーカーの使用状況データは自動で記録されました。また実験後には、健康や幸福、スマートスピーカーの使いやすさなどに関するアンケート調査が実施されました。

実験の結果を以下に並べます。

スマートスピーカーの使用率と継続率

  • 参加者の38%がスマートスピーカーを1日1回以上の頻度で使用した。
  • 参加者の38%がスマートスピーカーを週に数回の頻度(1日1回以下の頻度)で使用した。
  • 参加者の24%は「1ヶ月に1,2回の頻度で使用した」、「めったに使わなかった」あるいは「一度も使わなかった」。
  • 参加者の72%が、実験終了後もスマートスピーカーを使い続けることを選んだ。

スマートスピーカーの使い道

  • 参加者の全員が、スマートスピーカーを天気情報の確認に使用した。
  • 参加者の89%が、スマートスピーカーで音楽を聴いた。
  • 参加者の55%が、スマートスピーカーを健康情報の確認に使用した。
  • 参加者の44%が、スマートスピーカーをニュースの確認に使用した。
  • 参加者の44%が、スマートスピーカーを会話(パーソナルアシスタントとの会話)に使用した。

スマートスピーカーは役に立つのか

  • 参加者の63%が、スマートスピーカーは(理由によらず)役に立ったと回答した。
  • 参加者の63%が、スマートスピーカーは必要な情報を得るのに役立ったと回答した。
  • 参加者の63%が、スマートスピーカーは日時を知るために役立ったと回答した。
  • 参加者の46%が、スマートスピーカーは自分と世界とのつながりをより感じさせたと回答した。
  • 参加者の44%が、スマートスピーカーによって音楽や歴史などへの興味が再び湧いたと回答した。
  • スマートスピーカーが健康の役に立ったと回答した参加者は少数派(23%)だった。

スマートスピーカーとのやりとりが難しい点

参加者の31%は、スマートスピーカーに対して適切に質問を行うのが難しいと回答しています。難しいと感じる主な理由は以下の3つでした。

  • 複数の同じ意味をもつ質問をした際に、スマートスピーカーが矛盾した回答をしていると感じられる。
  • スマートスピーカーが質問自体を認識していないと感じられる。
  • スマートスピーカーが処理できないほど長い質問や複雑な質問をしてしまう(その結果、スマートスピーカーが理解できる質問に言い換えるのに時間がかかってしまう)。

実験結果から考えられること

研究者らは、上記の実験結果から、低所得の高齢者にとってスマートスピーカーは有用なものであることが示されているとしています。参加者のほとんどはスマートスピーカーを頻繁に使用しており、さらに実験終了後もスマートスピーカーを使い続けることを選択しました。これは、他の研究で以前示された「高齢者がWebを使用するとテクノロジーが日常的なものになる」という結果と類似していました。

今回の調査は、高齢者がスマートスピーカーを使用するにあたっての以下のような潜在的な課題も浮き彫りにしました。

課題

  1. プライバシーへの懸念:実験の開始時、参加者の高齢者らはプライバシーの観点での懸念からテクノロジーに対する躊躇を表した。
  2. 使用方法習得への意欲が低い:実験の開始時、スマートスピーカーに適切に質問するための講習会が参加者向けに開かれたが、参加率は23%と低い数字だった。
  3. 健康促進の役割が果たせていない:スマートスピーカーの使い道として「健康の役に立つ」という点が高齢者向けに強調されたが、実際に「健康の役に立った」と感じる参加者は少なかった。
  4. 聴力の問題:何割かの参加者は、スマートスピーカーの音声を聞くのが困難であった。外付けのより大きな音量を出せるスピーカーが必要になる場合がある。

研究者らは、上記の課題を解決すれば、スマートスピーカーは高齢者らにとって更に受け入れられるものになる可能性があるとコメントしています。

まとめ

この記事では、この記事では、スマートスピーカーが高齢者にどのように受け入れられるかについての研究をご紹介しました。

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臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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