この記事の要点
- 介護ロボットとは、高齢者の自立支援や介護職をサポートする介護機器
- 介護ロボットのメリットは関係者の立場で異なる
- 介護ロボットの導入により介護者家族にもメリットが生じる
- 介護ロボットにはデメリットも存在する
介護にロボット技術を活用しようとする動きが高まりつつあります。
はたして介護ロボットを導入することで、誰にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。逆に介護ロボットのデメリットはあるのでしょうか。
今回は介護ロボットを導入した際のメリットとデメリットについて解説します。
目次
介護ロボットとは?
介護ロボットとはどんなものなのでしょうか?
下記では、厚生労働省が定める定義をご紹介します。
厚生労働省が定めるロボットの定義は、
・情報を感知(センサー系)
・判断し(知能・制御系)
・動作する(駆動系)
この3つの要素技術を有する、知能化した機械システムとされています。
また介護ロボットは、
「ロボット技術が応用され利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器」
と定義されています。(参考:介護ロボットの開発・普及の促進)
利用者(被介護者)の自立支援や介護職のサポートをする目的で知能化された機械が介護ロボットだと捉えることができます。
介護ロボットの種類
介護ロボットにもさまざまな種類があります。
経済産業省と厚生労働省は、平成25年から重点的に開発支援する6つの分野を特定しています。(参考:介護ロボットの開発支援について)
・移乗支援
・移動支援
・排泄支援
・見守り、コミュニケーション
・入浴支援
・介護業務支援
介護ロボットの普及率
では、現在どの位の介護事業所で介護ロボットが導入されているのでしょうか。
令和2年度の導入率は下記のとおりです。
導入していない事業所が80%以上となっており、普及率は低い現状となっています。
日本政府は介護業界へのロボット技術の活用を推進しており、厚生労働省が主体となって国家プロジェクトを開始しています。
厚生労働省の介護ロボット普及事業に関しては以下の記事で詳しく紹介しています。
▶介護ロボットの開発から普及を加速する国家プロジェクトを解説
介護ロボットは「誰の」メリットになるか
それでは、介護ロボットはいったい誰のメリットになるのでしょうか。
ひとくちに「介護に関係する方」と言っても、それぞれ立場が違います。
《介護に関係する方の例》 ・介護事業所経営者 ・介護スタッフ ・要介護者本人 ・要介護者の家族 |

介護ロボットの導入によるメリットを考えるときは、そのメリットが「誰の」メリットなのかを考えておかなければいけません。
また要介護者が介護施設に入居しているか、在宅で介護を受けているか、生活状況や要介護度によっても介護ロボットのメリットが変わる可能性があります。
以下からは介護ロボットのメリットを、要介護者の生活状況と関係者の立場ごとに整理して紹介します。
介護ロボットのメリット(施設介護編)

介護付き老人ホームや老健、特養などの介護施設に介護ロボットを導入した際のメリットを見ていきましょう。
介護事業所経営者のメリット
高齢者の増加に伴い、多くの介護事業所の経営者が人手不足に悩まされています。
介護ロボットがスタッフの業務をサポートすることで働きやすい職場環境になり、職員の離職を防げる点が経営者としてのメリットです。
介護スタッフの業務をサポートする介護ロボットの活用方法は、以下の記事で詳しく説明しています。
▶介護事業所で利用されているAI・ロボット9種 最新の導入割合と活用の方策
介護スタッフのメリット
介護ロボットの導入によるスタッフのメリットは「仕事が楽になる」という点です。
具体的には、移乗介助の肉体的負担を軽減するパワーアシストスーツや、夜間勤務時の見守り業務回数を減らせる見守りロボットなどは、導入後にメリットを感じやすいでしょう。
以下の記事では見守りロボットの導入効果や、実際に見守りロボットを導入した介護事業所のスタッフの声なども紹介していますので、あわせてお読みください。
▶介護ロボットの開発から普及を加速する国家プロジェクトを解説
要介護者のメリット
要介護者である高齢者にとっては、毎日の生活が楽しく快適であることが一番のメリットになると考えられます。
人形や動物の形をして高齢者と接触・対話をはかるソーシャルロボット(またはコミュニケーションロボット)は、高齢者を楽しい気分にさせて気持ちを穏やかにし、庇護欲を高めて自立心を養う効果があるロボットです。
介護施設においてソーシャルロボットがどのような効果をもたらすかを研究したオランダの科学論文があります。以下の記事でわかりやすくまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
▶新しい介護ロボット「ZORA」2年にわたる実証実験の結果
介護ロボットのメリット(在宅介護編)

施設介護に比べて、在宅介護では介護ロボットの活躍シーンは少ないと思われがちです。
しかし在宅介護においても、介護ロボットの導入によってメリットは生まれます。
以下からは在宅介護に目を向けて、あらためて関係者ごとに介護ロボットのメリットを確認しましょう。
介護事業所経営者のメリット
介護ロボットを導入することで職員が働きやすくなり離職を防げるメリットは、在宅介護事業所も同様です。
さらに要介護者の自宅に設置した見守りロボットで睡眠リズムや日々の活動状況などを把握すれば、ホームヘルパーが訪問介護に出向いた際にも適切なケアが実施できます。
限られた訪問介護の時間内でも質の良いサービスを提供でき、トラブルを未然に防げるなどのメリットが生じます。
要介護者が自宅内で転倒するなど突発的な出来事が起こったときに、家族に加え訪問介護事業所や医療機関に通報できる機能を備えた見守りロボットもあります。
介護スタッフのメリット
介護ロボットは訪問介護を行うホームヘルパーなどのスタッフにとってもメリットがあります。
訪問介護に通うホームヘルパーにとって、もっとも大変な仕事は入浴介助でしょう。
利用者の要介護レベルが低いうちはデイサービスで入浴できますが、要介護レベルが上がるとデイサービスにも通いづらくなり、ホームヘルパーが自宅で入浴介助をする率が高まります。
自宅に設置できる入浴支援ロボットの導入により、安全で楽な入浴介助が行えてホームヘルパーの負担が軽減します。
要介護者のメリット
高齢者施設に入居している方比べて、自宅を生活の拠点にしている方はどうしてもコミュニケーション不足になりがちです。
高齢者の孤独感・孤立感は認知症の進行や鬱状態を引き起こす恐れもあり、自宅にいながらコミュニケーションを活発にしていく手立てを講じなければいけません。
施設介護の項で紹介したソーシャルロボットは、認知症の方にとっても「友達のような存在」となり、孤独感が解消できるメリットがあります。
以下の記事はアイルランドの研究者が発表したソーシャルロボット「MARIO」の導入効果です。要介護者だけでなく介護事業者や要介護者の家族の立場から見た効果も記載されていますので、あわせてお読みください。
▶ソーシャルロボットは高齢者のメンタルケアとして受け入れられるのか 107人の介護施設関係者が語る
要介護者の家族も間接的にメリットを享受できる
要介護者の家族は介護ロボットを直接使用する機会がほとんどないため、介護ロボットの導入による直接的なメリットは感じないかもしれません。
しかし介護ロボットが介護施設あるいは自宅で使用されるようになれば、施設介護・訪問介護ともに介護サービスの品質向上が期待できます。
要介護者本人の精神が安定し、おだやかに介護サービスを受けられるようになれば、要介護者の家族にとって大きなメリットとなります。
また上記でご説明したような介護ロボットを、在宅介護をしている個人向けに販売・レンタルしている会社もあります。在宅介護の負担を減らしたいと考えている方はご検討ください。
参考:さくらメディカル株式会社|サービス紹介:介護ロボット販売・レンタル
介護ロボットのデメリット
介護ロボットの導入はメリットばかりでなく、デメリットも存在します。
最大のデメリットは費用がかかる点でしょう。導入時の初期費用だけでなく維持費用にもそれなりのコストが発生するため、導入の検討にあたっては費用対効果を充分に考えなければいけません。
デメリットとしては他にも「使いこなせない可能性がある」などが考えられますが、やはり費用の問題が最大のデメリットとして挙げられます。
おすすめの課題解決方法
介護ロボット導入による経済的負担を減らすために、国や自治体では介護事業所向けに補助金事業を実施しています。
以下はICTシステムを導入した際の補助金について解説した記事ですが、紹介している補助金事業はICTシステムだけでなく介護ロボットにも適用できます。
介護ロボットの導入を検討中で、費用面が課題だと感じている介護事業所の経営者はあわせてお読みください。
▶介護関連のICT補助金の概要を解説 給付対象になる介護業務とサービスとは
また、AIケアラボを運営しているトライトグループの「介護ワーカーコラム」でも、介護ロボットについて詳しく説明しています。
併せてご覧ください。
記事URL: 介護ロボットが注目される理由とは?種類や導入のメリットもご紹介
まとめ

今回は介護ロボットを導入した場合に考えられるメリットを、介護に関係する方ごとにまとめました。
介護ロボットはどのような立場の方にとってもメリットになり得ます。
しかし介護ロボットの導入にはデメリットもあり、介護ロボットを導入する際にはいくつかの課題をクリアしなければいけません。
介護ロボットのメリットとデメリットを比較し、どう課題をクリアすればメリットを享受できるようになるか考えましょう。
