介護職員の離職率・離職理由を最新調査から紹介 離職を防ぐための対応策とは

介護職員の離職率・離職理由を最新調査から紹介 離職を防ぐための対応策とは

最終更新日 2023.09.15

この記事の要点

  1. 介護職員の実際の離職率は他業種よりも低い
  2. 介護職員の離職理由は1位は「人間関係」
  3. 離職理由として「結婚・出産・子育て」が大きく上昇
  4. 離職を防ぐための対応策は複数ある
  5. 「介護離職」への対応も必要 

多くの介護職員の方は責任を持って仕事に携わっていますが、中にはさまざまな事情により「離職」の決断を下す方もいます。

介護職を離職した方は、なぜ離職という道を選んだのでしょうか。その理由は年代によって変化していったのでしょうか。

今回は介護職員の離職理由について、最新の統計を元に解説します。

介護職員の離職率

公益財団法人 介護労働安定センターでは毎年、全国の介護保険サービスを実施する事業所にアンケートを取り、その結果を「事業所における介護労働実態調査」として発表しています。 

2022年の最新調査では介護事業所8,708件(有効回収率50.8%)と、介護職員19,890人(有効回収率38.7%)から回答が得られました 

介護業界は離職率が高いと思われがちですが、実のところ介護職員の離職率はそれほど高くありません。

10年以上前には離職率が20%を超えていましたが、その後は年々離職率が低下し、14.4%になっています。

最新の調査に基づく介護職員の離職率や、他業種との比較などについては以下の記事を参考にしてください。

介護業界の離職率をデータから検証 職員の離職を防ぐ方策とは

介護職員の離職理由7つ

厚生労働省では、2020年時点での介護職員の離職理由と、5年前の2015年時点での介護職員の離職理由を比較し、年代によって離職理由がどのように変化していったかを取りまとめています。

今回は厚生労働省の資料から、2020年と2015年それぞれの介護職員の離職理由1位~7位までをご紹介します。

参考:厚生労働省|介護労働の現状と介護雇用管理改善等計画について

理由1位:職場の人間関係

人間関係のトラブルやストレスを理由に離職した方の割合は、2020年が23.2%、2015年が25.4%と、いずれももっとも高い数字です。

どんな仕事でも人間関係のトラブルはつきものですが、施設介護では複数の職員が協力し合って業務を行う必要があるため、職員同士の仲違いは業務にも支障をきたし、耐えられなくなって離職する可能性が高まります。

また介護職では職員同士の人間関係だけでなく、要介護者本人や介護者家族とのコミュニケーションが必須なため、より一層トラブルが起こりやすくなる点も理由として考えられます。

理由2位:結婚・妊娠・出産のため

結婚や妊娠出産、育児などライフスタイルの変化に伴い離職を選んだ方の割合は、2015年は14.1%でしたが、2020年には20.4%まで上昇しました。

この結果は、女性の比率が大きい介護職ならではの理由だと考えられます。

まだ産休や育休制度が整っていない介護事業所や、実質的には制度が利用しにくい介護事業所も多く、既婚者や子を持つ母が変則シフト勤務や夜勤の多い介護の仕事と両立しづらい現実がうかがえます。

理由3位:事業所への不満

介護事業所および事業所を運営する法人に対する不満を理由として離職した方の割合は、2015年の21.6%に対して2020年では17.4%に下降しています。

各介護事業所の経営努力や、介護職員に対してのフォローアップの成果だと推測されます。

ただし今回の調査では介護事業所への転職がこの中に含まれているかがわからないため、介護職自体は続けていても、実際には違う介護事業所に転職している可能性も否定できません。

理由4位:将来のキャリアが不安

「自分の将来の見込みが立たなかったため」とキャリアに不安を抱いて介護職を離職した人の割合は、2015年と2020年の調査結果はいずれも16.4%です。

2019年に介護職員等特定処遇改善加算制度が開始し、2021年度の介護報酬改定で従来よりも制度が導入しやすくなった点を考えると、この理由については今後減少が期待できます。

介護職員等特定処遇改善加算については後述します。

理由5位:他に良い仕事があった

介護業界以外に良い仕事を見つけた方の割合は、2015年で18.8%、2020年では16.0%と若干減少しています。

また「他の良い仕事」の中には、同じ介護職であっても雇用条件の良い他の介護事業所に転職した方が一定数含まれると推測されます。

理由6位:収入が低い

収入が低いと感じて離職を決めた方の割合は、2015年で17.0%、2020年では15.5%です。

この理由は3位の「事業所への不満」や、4位の「将来のキャリアが不安」とも重複しています。

厚生労働省の「2019年度賃金構造基本統計調査」によれば、介護職員全体の月額平均賃金は253.5千円です。看護職員全体の月額平均賃金308.4千円に比べると毎月5万円以上も差があり、仕事内容に対して得られる賃金が低いと不満を持つ方も多いようです。

参考:政府統計ポータルサイトe-Stat|賃金構造基本統計調査

理由7位:新しい資格を取得した

何らかの資格を取得して介護の仕事から離職した方の割合は、2015年で10.4%、2020年で10.6%とほとんど変わりなく、どちらの年代でももっとも低い割合です。

「新しい資格」の種類については明らかにされていません。

そのため回答者の中には、ケアマネージャーなど介護関連の資格を取得して、介護施設を退職して居宅介護支援事業所を自ら起業した人なども含まれると推測できます。

介護職員の離職を防ぐ対応策6つ

解決方法

介護職員の離職率が減っているとはいえ、職員に働いてもらっている介護事業所としてはできるだけ多くの職員に、長い間働いてもらいたいと願っていることでしょう。

以下では、介護職員の離職を防ぐために介護事業所ができる策を3つご紹介します。

1.職場のIT化

IT技術の発展に伴い、介護業界向けのITサービスが近年では数多く誕生しています。

介護記録システムや介護ロボットの導入により職員の働きやすさが向上し、時間的・肉体的な負担が減らせて離職防止に役立つでしょう。

また職員の精神的負荷が軽減することで心に余裕が生まれ、職員同士の人間関係が良くなる利点も期待できます。

介護事業所のIT化によりどのような課題が解決できるのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。

介護の課題をIT技術によって解決する、改善内容と事業所が行うべき対策とは

2.職員の給与アップ

労働内容に見合うだけの給与が支払えれば介護職員の離職は少なくなるかもしれませんが、経営状態を考えるとなかなか給与アップが難しい介護事業所も多いでしょう。

2019年から始まった介護職員等特定処遇改善加算(特定処遇改善加算)は、勤続10年以上の介護福祉士に対して十分な給与を支払えるように介護報酬が加算される制度です。

2021年度の介護報酬改正では、特定処遇改善加算制度を介護事業所が利用しやすくなるように、給与配分を介護事業所側が柔軟に設定できるようになりました。

2021年度の介護報酬改正により具体的にはどのように特定処遇改善加算制度が変わったのか、以下の記事で詳しく解説しています。

特定処遇改善加算の最新情報を解説 2021年度介護報酬改定で変わった点とは

3.職員に対する支援

働いている職員のひとりひとりに、それぞれの人生があります。

職員を雇用している介護事業所側も、ひとりひとりの職員に対してキャリアアップを応援したり、産休や育休、介護休暇の取得を推奨するなどして、職員の人生設計を支援していく取り組みが求められるでしょう。

職員が長く働き続けられるようにするための事業所支援に対しては、国から助成金が支給されます。介護関連の助成金については以下の記事をご確認ください。

介護関連の助成金まとめ 介護事業所向け・在宅介護者家族向けにわかりやすく紹介

4.職員への教育見直し

介護職員の多くは、人の役に立ちたいという熱い思いを持って仕事を始めています。しかし、目の前の業務に手一杯になり、その情熱を忘れてしまうことがあります。

そのため、介護事業者側が定期的に勉強会やセミナーを開催し、介護の本質や、各職員の存在意義を再認識してもらうことが必要です。

また、施設の経営理念や運営方針などを介護事業者側が職員に伝えることもモチベーションの維持につながります。

勉強会やセミナーには費用がかかりますが、離職してしまいもう一度新しい人材を採用するコストと比較すれば、大きなメリットがあるでしょう。

5.職員間の連携強化

介護職に限らず、職場の人間関係が離職の原因になることがあります。

人間関係が原因の離職を防止するには、職員間のつながりを意識することが大切です。

職員間の円滑なコミュニケーションがあってこそ、職員が安心して働くことができます。さらに、利用者の方により質の高いサービスが提供でき、やりがいにつながります。

介護事業者側は、日頃からミーティング、1on1の面談を通じて相談や意見交換の時間を設け、職員間のつながりを作りましょう。

6.労働環境の見直し

職員が働きやすい環境を作るには、労働時間の負担を減らすことがポイントの一つです。

特に、所定外労働や時間外労働、深夜労働は、職員のライフスタイルに影響を及ぼし、離職の原因となることがあります。

介護事業者側がシフトを見直し、私生活と両立しながら働けるようにすることで、離職を防止できます。

介護者家族の「介護離職」も問題の1つ

車いす

「介護離職」とは自宅等で家族の介護をしている方が介護への専念を理由に本業を辞めることです。

仕事と介護の両立が困難となり仕事を辞める「介護離職」をしている方は年間8万人~10万人も存在しており、超高齢化社会の大きな問題点になっています。

介護職の方が要介護の家族を抱える場合もあります。こちらの意味の「介護離職」についても、それぞれの理由を周囲がくみ取って、できるだけ回避する策を取らなければいけません。

介護者家族の介護離職を防ぐ手段については、以下の記事で最新の情報をまとめています。

介護離職を防ぐには?仕事と介護の両立支援制度を紹介(2021年最新情報)

まとめ

今回は介護事業所等で働いている介護職員が離職に至る理由と、その解決策について解説しました。

はじめから離職ありきで仕事を始める介護職員はどこにもいません。働き始めてから離職を決意するまでには、何らかの理由が存在する筈です。

介護事業所は働いてくれている職員ひとりひとりに目を配り、離職の理由がありそうな場合にはできるだけ早く解決を図り、長く働いてもらえるようにしましょう。

また、AIケアラボを運営しているトライトグループは介護職員の転職支援を行っています。サイト内でも介護職員の離職理由についてまとめた記事がありますので、ぜひ併せてご覧ください。

介護ワーカーサイト:介護職の離職率と離職理由を解説します!

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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