せん妄と認知症の違いとは?最新研究「せん妄評価AIアプリ」も紹介

せん妄と認知症の違いとは?最新研究「せん妄評価AIアプリ」も紹介

この記事ではせん妄と認知症の違いについて、またAIを活用したせん妄評価アプリの研究を紹介します。

せん妄と認知症の違い

考える女性の画像

せん妄とは

せん妄は、病気や薬などが理由で一時的に意識障害・認知機能低下などが生じる精神状態のことを指します。
せん妄は病名ではなく、異常な精神状態及び錯乱している状態を総称する言葉として用いられています。なお錯乱とは、医学的には情報を正常に処理できない状態を指し、具体的には「会話についていけない」「自分のいる場所が分からない」などの状態になります。

高齢者の場合は入院や手術の影響でせん妄になり、幻覚や興奮などが生じることがあります。その結果、安静でいられず点滴の針を抜いてしまったり、転倒してしまったりなど、大変な事態につながる場合もあります。

認知症との違い

せん妄と認知症はしばしば混同されますが、両者は明確に異なるものです。せん妄と認知症の違いを一言で表すと「意識障害の有無」です。意識障害とは、意識が清明(澄んで明るいさま)ではない状態のことを指します。
せん妄では、脳血流や脳代謝の異常が原因となり二次的に脳の機能低下が起こり、その結果として意識障害が発生します。
認知症では、意識障害がないにも関わらず、日常生活に支障をきたす症状が起こります。

せん妄評価AI搭載のWebアプリ

脳とAIのイメージ画像

せん妄には明確な治療法はありませんが、リスクがある患者に対しては危険因子を遠ざけるなどの予防が有効であり、発症した際にも抗精神病薬の投薬などいくつかの対処方法があります。予防や発症後に行うケアの効果を高めるには、リスクの予測や早期発見が重要です。

現在のところ、医療分野において早期発見には専門の医師による診察が最も適切な方法と考えられています。しかし、近年ではAIをはじめとするコンピューター技術が発達しており、臨床現場や介護現場でもAI等を活用してリスクを予測したり症状を見抜いたりすることで、より多くの患者を救うことが期待されています。

せん妄に対応するAIの研究も国内外で進んでいます。一例として、韓国で行われている研究事例を紹介します。
韓国の研究グループは、介護施設でのせん妄予防を促進するためAI技術を応用したWebアプリを開発し、実用性の検証を行っています。

参照する科学論文の情報
著者:Kyoung Ja Moon, Chang-Sik Son, Jong-Ha Lee, Mina Park
機関(国):Keimyung University(韓国), Daegu Gyeongbuk Institute of Science and Technology(韓国)
タイトル:The development of a web-based app employing machine learning for delirium prevention in long-term care facilities in South Korea
URL:doi.org/10.1186/s12911-022-01966-8

介護現場で使えるツールを開発

まず研究の背景を以下に紹介します。

介護施設で高齢者のせん妄を予測・予防できるようにするにあたり、韓国の研究者らは電子カルテ等に頼らない仕組みを考えました。電子カルテを導入していない介護施設にも対応できる仕組みであれば、低コストによりシステムの普及が容易になるためです。
そこで、スマートフォンなどのモバイル端末で利用できるWebアプリを開発することにしました。

開発するWebアプリに必要な主な機能はせん妄の予測です。せん妄の予測においては、危険因子をもとにせん妄発生リスクの分析を行う技術が必要です。そこで研究者らは、複数のデータから特定の傾向を導き出すことに長けている機械学習(一般的にAIと言われている)技術を活用することにしました。

科学的エビデンスに基づくせん妄の予測システム

AI及びWebアプリの開発には、看護学教授2人、生物医学工学教授1人、機械学習専門家2人、アプリ開発専門家1人、臨床現場の看護師3人が参画しました。また開発プロセスの最後には、アプリの使いやすさや実用性についてテストが行われました。

AI搭載Webアプリの機能(使い方)は以下の通りです。

  1. 患者データ(性別、生年月日、脱水症状の有無など)を入力する。
  2. 患者データにおいて見られるせん妄危険因子の予測結果を出力し、リスクを%で表示する。
  3. せん妄の種類を評価する。
  4. 予防のためのアドバイスを行う。

AIの学習には過去に収集された介護施設に住む高齢者220人のデータが使用されるとともに、数種類のAIアルゴリズムから最適なものが選定されました。

危険因子予測やアドバイス機能の開発においては、これまでに報告されているせん妄に関する科学的エビデンス(論文等)が利用されました。条件にヒットした1507件の研究から、最終的に23件の研究が参考資料として採用されました。その結果、危険因子としては24項目が設定され、アドバイスとしては3種類(注意の方向づけ、環境の整理、危険因子の早期回避)が設定されました。

AIの使いやすさは5人の看護師によりチェックされました。
また、Webアプリ全体の実用性・使いやすさは、介護施設で働く32人の看護師によってアプリ評価ツールを用いて評価されました。

アプリがせん妄のケアに役立つという結果

AIの精度およびアプリの評価結果を以下に紹介します。

AIの精度

せん妄を予測するAIの妥当性については、せん妄患者33人(その大半が65歳以上)のデータで検証されました。その結果、AIの精度は(評価指標の一つであるF1値で)約97%が示され、せん妄リスクのある患者をかなり正確に特定できることが示唆されました。

アプリの使いやすさ、実用性

また介護施設の看護師によってWebアプリ全体の使いやすさと実用性が評価されました。アンケートにより以下の結果が得られました。

  • アプリはタブレットやPCよりもスマートフォンでより便利である。
  • アプリの使い方を学ぶのに必要な時間は多くない。
  • アプリを使用することで、せん妄を予測・評価でき、ケアの開始に役立った。
  • アプリの利用によって、せん妄に関する知識が増えた。

特筆すべきことに、せん妄のケアにあたってアプリを使用したくないと回答したのはわずか3.1%のみでした。

研究者の結論

以上の結果から、研究者らは次のように結論づけました。
介護現場において、せん妄に関する知識が不足している場合や、設備が不十分な場合に、今回開発されたアプリはケアをサポートできる可能性があります。
それだけではなく、アプリはせん妄の医学的なエビデンスをもとに結果を出力するため、患者のケアに医療的な介入が必要となった際に専門家間の議論にも役立ちます。
ただし研究者らは、アプリはインターネットを介して使用されるツールであるため、インターネット環境が不十分な現場では利用できないという条件があることに留意したいと述べています。また患者の情報やAI自体を定期的にアップデートする必要があることにも注意したいとコメントしています。

まとめ

スマートフォンを持つ人の手の画像

介護現場や臨床現場におけるせん妄の発生頻度が高いのに対して、せん妄のケアをサポートする技術はまだ十分に現場に普及していません。しかし今回紹介した研究事例のように、研究者たちは現場のニーズを汲み取って開発に取り組み、実証試験まで行っています。
今後、このようなアプリ等が登場し、現場のスタッフや患者が助けられる日が来るのも遠くはないかもしれません。

また、一般には、「せん妄と認知症の違いは何か」という段階から疑問を持っている方も少なくはありません。
まずは本人や周囲の知識レベルや認識を高めるところから始めていけると良いですね!

なお、せん妄に関する研究事例は別記事「「せん妄」の早期発見は可能か AI技術で危険因子の分類に成功」でも取り上げているので、併せてチェックしてみてください!

「早期発見」の関連記事はこちら▼
認知症を早期発見するメリットとは。AIによって軽度認知障害を検出する技術の開発も進行中
AIとセンサーで認知症高齢者の行動・心理症状を検出。韓国の研究グループが開発
アンクレット型のデバイスで認知症を自動検出

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
フォローする