この記事の要点
- 看取り介護加算とは介護施設で看取りが行われた際に加算される介護報酬制度
- 看取り介護加算の対象事業者は特養・グループホーム・特定施設入居者生活介護
- 看取り介護加算にはⅠとⅡがある
- 看取り介護加算の加算単位は対象事業者や死亡までの期間により異なる
- 訪問介護への看取り介護加算も検討されている
目次
看取り介護加算とは?算定要件・単位数などを解説【2021年度改定対応】
介護施設で長く働いている方でしたら、利用者の「看取り」を少なくとも一度は経験したことがあるでしょう。
看取り期に入った利用者がその人らしく最期まで過ごせるように、本人の理想とするケアをしてあげたいものです。そのためには介護の現場で働く方たちの理解と協力も必要です。
そこで介護報酬制度では、看取り期における本人の意思を尊重したケアを充実させるために、看取り介護加算の制度を設けています。
今回は今後増えると思われる看取り介護加算について解説していきます。
看取り介護加算とは

看取り介護加算とは、医師が回復の見込がないと判断した介護施設利用者に対し、本人や家族の希望に応じて最期まで看取りを行ったときに算定される介護報酬です。
利用者やご家族の意志を尊重して、医療介護関係者が連携を保ちながら看取りをする場合に算定します。
看取り介護加算の目的
看取り介護加算は、24時間体制で看取りを行い、望ましい最期を実現するために必要な介護を支援する目的で、2006年の介護報酬改定の際に新設されました。
高齢化が進んでいる日本では、介護老人福祉施設で終末期を迎える方が増えています。住み慣れた環境で、本人の意思を尊重しながら最後を迎えられるようにと、制定されました。
また、看取り介護をする施設への評価をすることでご利用者が、より充実した看取り介護を提供できる環境を設備する目的もあります。
また、2021年度の介護報酬改定では、看取りの対応をより適切に評価するために、これまで死亡日30日前までの区分だったのが、死亡日31日~45日前までの区分が新設され、看取り介護加算の対象期間が伸びました。
看取り介護加算とターミナルケア加算の違い
看取り介護加算とターミナル加算の違いは医療的なケアをするかしないかが大きな違いです。
【看取り介護とターミナルケアの違い】
- 看取り介護:日常のケア(食事・排泄介助・清拭など)
- ターミナルケア:医療的ケア(痰吸引・経管栄養注入など)
また、看取り介護加算は終末期を迎えた方に、積極的な治療をするのではなく、本人の心身の苦痛を和らげながら、本人の望む生活するための援助に対して行われる介護に対する加算です。
また、看取り介護加算の対象施設とターミナルケア加算の対象施設が異なります。
看取り介護加算の対象事業者
看取り介護加算は居宅介護をしていたときではなく、介護施設で看取りが行われた際に加算されます。
具体的に看取り介護加算の対象となる介護事業者は以下の3種類です。
- 介護老人福祉施設(特養)
- グループホーム
- 特定施設入居者生活介護(介護付有料老人ホーム・ケアハウス・養護老人ホーム)
介護老人保健施設はターミナルケア加算
看取り介護加算の対象事業者には介護老人保健施設(以下、老健)は含まれていません。それは老健の成り立ちが関係しています。
老健は介護を必要とする高齢者の自立を支援して家庭への復帰を目指すために、医療ケアと介護サービスを併せて提供する施設です。
医師が回復の見込みがないと判断した利用者に対しても、日常のケアに加えて、医師や看護師による痰吸引や点滴などの医療によるケアも実施されます。延命治療を行わない介護施設の看取りとは、この点が大きく異なります。
そのため老健が利用者の看取りを行った際には、看取り介護加算ではなく別途ターミナルケア加算が介護報酬に加算されます。
2021年度介護報酬改定で変わった点

看取り介護加算は2006年から始まった制度ですが、2021年度の介護報酬改定により看取り介護加算のルールがいくつか変更されました。
ここからは2021年度の介護報酬改定によって看取り介護加算のどの点が変更されたかを説明します。
なお2021年度の介護報酬改定では看取り加算以外にもいろいろな点が変更されています。以下の記事なども参考にしてください。
▶【2021年度改定対応】介護職員等特定処遇改善加算の最新情報を解説
▶【最新|2021年改定版】科学的介護推進体制加算(LIFE加算)をわかりやすく解説 算定要件や導入メリットを紹介
ガイドラインの推進
厚生労働省は看取り介護や終末期医療のあり方について、2018年に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を定めています。
このガイドラインは2006年に策定された「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を改訂したもので、新しいガイドラインでは終末期の医療・ケアチームの対象として介護従事者が含まれることが明確化されています。
ガイドライン改訂にのっとり、2021年度の介護報酬改定では介護施設における看取り介護の際にもガイドラインに沿った対応を行う必要があると明記されました。
参考:厚生労働省|人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
算定期間の拡大
改正前の介護報酬では、看取り介護加算は利用者の死亡30日前からが算定期間の開始でした。
しかしほとんどの介護施設では30日以上前から看取り介護を行っており、期間外の看取り介護については算定外となっていました。
2021年度の改定では算定期間を45日前からとし、より実状に合わせた期間に変更されています。
夜間看護職員配置の報酬上乗せ
看取り介護加算Ⅱにおいて、看取り期に夜勤または宿直の看護職員を配置している介護施設に対して介護報酬単位を上乗せする新たな区分が設けられました。
この報酬上乗せにより、各介護施設における夜間医療体制の充実が期待されています。
訪問介護の看取り介護加算も検討されている

上記でも説明したとおり、2022年現在では、看取り介護加算は特別養護老人ホーム・グループホーム・特定施設入居者生活介護しか対象事業者になっていません。
しかし、居宅介護を支援する訪問介護の場合でも、日々看取りの現場に接しています。
日常的な健康状態を把握し、看取りが間近になった利用者に対して医療機関等と連携しながら最期までお世話を続ける業務負担の度合いは、看取り介護加算の対象事業者となっている介護施設とまったく変わりありません。
そのため現在、訪問介護事業所も看取り介護加算の対象にする検討が始められています。次回の介護報酬改定では、看取り介護加算の対象事業者に訪問介護事業所が含まれる可能性があるかもしれません。
看取り介護加算の算定要件

看取り介護加算にはⅠとⅡがあり、Ⅱの加算を受けるにはⅠの算定要件を必ず満たす必要があります。
看取り介護加算Ⅰの算定要件
看取り介護加算Ⅰの算定要件は以下の5点です。
- 看取りに関する指針を定め、入居の際に利用者またはその家族に対して看取りの指針について説明を行い、同意を得ていること
- 看護職員または病院、診療所、訪問看護ステーションの看護職員と密接に連携し、24時間連絡できる体制が整っていること
- 介護職員・ケアマネージャー・生活相談員・医師・看護職員などが看取りの指針を適宜見直していること
- 看取りに関しての職員研修を行っていること
- 「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」等の内容に沿った取組を行っていること
看取り介護加算Ⅱの算定要件
看取り介護加算Ⅱの算定要件は以下の4点です。
- 看取り介護加算Ⅰの算定要件をすべて満たしていること
- 複数名の医師を配置している、または協力関係にある医療機関の医師が必要に応じて24時間対応できる体制を整えていること
- 上記2の医師または医療機関と緊急事態が起きた場合の注意点や情報連携の方法・曜日・時間帯別の連絡手段や診察依頼時間を取り決め、書面により届け出ていること
- 看取り期において夜勤または宿直の看護職員を配置していること
グループホームには医師が配置されていないため、看取り介護加算Ⅱの対象にはなりません。
看取り介護加算の単位数

看取り介護加算の単位数は、加算を申請する対象事業者および利用者を看取るまでの期間により異なります。
介護老人福祉施設の単位数
介護老人福祉施設(特養)の1日あたりの単位数は以下のとおりです。
期間 | 看取り介護加算Ⅰ | 看取り介護加算Ⅱ |
死亡日の31日前~45日前 | 72単位 | 72単位 |
死亡日の4日前~30日前 | 144単位 | 144単位 |
死亡日の前日および前々日 | 680単位 | 780単位 |
死亡した日 | 1,280単位 | 1,580単位 |
グループホームの単位数
グループホームの1日あたりの単位数は以下のとおりです。
期間 | 看取り介護加算Ⅰ | 看取り介護加算Ⅱ |
死亡日の31日前~45日前 | 72単位 | 加算対象外 |
死亡日の4日前~30日前 | 144単位 | 加算対象外 |
死亡日の前日および前々日 | 680単位 | 加算対象外 |
死亡した日 | 1,280単位 | 加算対象外 |
特定施設入居者生活介護の単位数
特定施設入居者生活介護(介護付有料老人ホーム・ケアハウス・養護老人ホーム)の1日あたりの単位数は以下のとおりです。
期間 | 看取り介護加算Ⅰ | 看取り介護加算Ⅱ |
死亡日の31日前~45日前 | 72単位 | 572単位 |
死亡日の4日前~30日前 | 144単位 | 644単位 |
死亡日の前日および前々日 | 680単位 | 1,180単位 |
死亡した日 | 1,280単位 | 1,780単位 |
看取り加算以外にもいろいろな点が変更されています。以下の記事なども参考にしてください。
▶【2021年度改定対応】介護職員等特定処遇改善加算の最新情報を解説
▶【最新|2021年改定版】科学的介護推進体制加算(LIFE加算)をわかりやすく解説 算定要件や導入メリットを紹介
看取り介護における課題
超高齢化社会を迎えている日本では、実際に看取り期介護をする機会が増加しています。しかしながら、実際に「死」と向き合う看取り介護のスタッフには精神的・身体的な負担が大きいです。
そのため、介護職の人材不足が深刻な問題視されています。
生死を伴う看取り介護にはさまざま課題が存在し、それをクリアしていく必要があります。
スタッフの負担が大きくなる看取り介護の課題についてより詳しく解説していきます。
介護職員の精神的ケア
看取り介護をする介護職員は人の死を間近で感じながら介護をします。元気だった入居者が段々と衰弱していく様子をみながら介護し、同じ時間を過ごしてきた入居者の死を受け入れることは大きな精神的負担になります。
介護職員の精神的負担を知っていながら、メンタル面のケアやサポートが不十分だと施設側も考えています。
しかし、看取り介護に慣れていない職員や、生死を伴う状況に不安を抱いている職員に対して周囲のケアやサポートが不十分であることが大きな課題です。
看取り介護に関する研修を行ったり、チームでお互いに支え合いながら介護をすることで精神的不安を減らすことが可能です。
また、入居者のご家族や本人と何度も話し合いをし本人の意志や希望を聞き、できる限り全員が笑って過ごせるような最期を迎えられるようにサポートをすることも大切です。
介護職員の人材不足
看取り介護は人材不足という深刻な課題を抱えています。
介護職は人材不足であることが多い職業ですが、特に看取り介護では巡回の頻度が多く、個室の対応で職員の数が足りなくなってしまうことがあります。
また、夜勤業務では人数が少なく、入居者に何かあるとと思うと心配になります。
介護職員が安心して、働ける職場作りをすることが課題です。
まとめ
今回は看取り介護加算について解説しました。
超高齢社会に入り、医療・介護に比べて基準や報酬が明確でなかった看取り期の対応についても、ガイドラインや報酬が設けられるようになっています。
利用者本人の意志を尊重するためにも、関係者が連携し、看取り期のケアを充実させていきたいものです。
そのためにも看取り介護加算は重要な制度ですので、看取りを行う介護職員としてもぜひ理解を深めておきましょう。
