この記事では、自立支援介護についての基本と、高齢者の自律性とロボットの関係についての研究をご紹介します。
目次
自立支援介護とは

少子高齢化に伴う社会の変化を受けて、介護の形が変わってきています。その一つが、自立支援というキーワードの台頭です。自立支援とは、「できないことをお世話する」ではなく、「一人でもできるようにする」「予防する」などを中心としたサポートです。
高齢者の自立は大きく次の3種類に分けられ、これらの自立支援を目的とした介護を自立支援介護と言います。
●高齢者の自立
- 身体的自立
- 精神的自立
- 社会的自立
また、自立支援介護を行う上で、必要なケアは次の4つです。
●自立支援介護における4つのケア
- 水分ケア
- 栄養ケア
- 運動ケア
- 排便ケア
上記4つのケアは関連し合っており、全てを十分に行うことが重要です。なお、それぞれのケアについてのより詳細な解説は下記の記事を参考にしてみてください。
参考:自立支援介護とは?基本のケアやメリットを分かりやすく解説!(介護ワーカー)
高齢者の自立支援におけるロボット活用

欧米では、日本における自立支援介護と類似・関連した用語としてAL (Assisted Living:生活支援)があります。AL(生活支援)に正確な定義はありませんが、「高齢者の自律性やプライバシー、選択の自由を尊重する介護の形態」として、従来の介護施設に置き換わる形で急速に普及しています(下記参照論文より)。
なお自律性と自立性は類語ですが、二つは微妙に異なる意味を持ち、それぞれ以下のように説明できます。
自律性とは:自分の立てた規範に従って行動する性質
自立性とは:自分だけの力で物事をやって行く性質
高齢者の自立においては、自律性と「精神的自立」は似た意味を持っているとも考えられます。
高齢者介護におけるもう一つの大きな傾向として、ロボット関連技術の導入があります。日本や欧米諸国をはじめとする少子高齢社会では、テクノロジーの中でも特にロボットによって介護を発展させる動きが目立っています。
高齢者の自律性を支援する上では、ロボットはどのように役立つのでしょうか。自律性とロボットの関わりについての、フィンランドの研究グループによる論文を紹介します。
参照する科学論文の情報
著者:Jari Pirhonen, Helinä Melkas, Arto Laitinen, Satu Pekkarinen
機関(国):Tampere University, Lappeenranta-Lahti University of Technology(フィンランド)
タイトル:Could robots strengthen the sense of autonomy of older people residing in assisted living facilities?—A future-oriented study
URL:doi.org/10.1007/s10676-019-09524-z
自律性に関する3つのポイント
高齢者の自律性を支援する上では、介護への依存性と介護からの独立性におけるバランスを考慮する必要があります。過去に行われた研究では、介護施設の居住者が自律性を維持するために重要な3つのポイントが指摘されており、それは「相互作用」「対処」そして「可能性」です。それぞれ、以下のように説明されます。
- 相互作用:システマティックな介護ではなく、友人や家族などから愛情のこもったケアを受けることが自律性を育てる。
- 対処:能力が低下したとしても、器具などで補助することで自律性を失わずにいられる。
- 可能性:行動する能力があるという感覚を持ち、「やろうと思えばできる」「楽しみが先にある」という期待が自律性と結びついている。
フィンランドの研究者らは上記3つのポイントに基づいて、介護ロボットが高齢者の自律性に対してどのように関わってくるのかを考察しました。
なお、考察する上で研究者らは、過去に行われた介護施設での実験データを参考にしました。実験では、8つのグループホームに9〜15人の高齢者が暮らすAL(生活支援)施設にて観察とテーマ別インタビューが行われました。合計10人の高齢者に対して2ヶ月間にわたって合計165時間の観察記録が行われ、さらに各居住者に対して日常生活やケアの内容に関するインタビューが最大65分間行われました。
研究グループは上記の実験データをもとに、介護施設の居住者における自律性の傾向を分析しました。さらに、介護ロボットに関する他の文献からの情報を組み合わせ、介護施設における自律性に及ぼす介護ロボットの潜在的な影響を考察しました。
「相互作用」におけるロボットの役割

友人や家族と会話を交わしながらもたらされるケアは、高齢者に自律性をもたらすと言います。その文脈において、ロボットはどのように役立つのでしょうか。
研究者らが分析から得た一つの回答は、まず補助器具としてのロボットによる自律性の強化は相互作用を同時に高めることができるということです。具体的な器具例は次節「対処におけるロボットの役割」で紹介します。
ロボットが直接的に相互作用を増やす事例としては、「テレプレゼンスロボット」が挙げられます。テレプレゼンスロボットとは、ロボット(機械)越しに、あたかも遠い場所の人が近くにいるように感じられる技術です。高齢者が遠くにいる友人や家族と会うことで外部との相互作用が増え、結果として自律性が高まると考えられます。
ただし万が一、テレプレゼンスによって高齢者が施設内の自室に閉じ篭もるようになると、施設内での孤立を深めるリスクもあると考えられます。
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また、人との交流が困難なほど認知機能の低下が進んだ高齢者にとっては、ソーシャルロボットとの関わりが相互作用となることもあります。
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「対処」におけるロボットの役割

老化等によって自らの能力や機能が低下した場合に、補助器具によって代替手段をとれたり、或いはさらに多くの行動の選択肢を得る場合があります。代替手段や新しい選択肢が生まれたとき、本人の自律性は失われずに済みます。
補助器具としてのロボットとしては、以下の事例が挙げられます。
- 配送ロボット:施設の居住者が必要なものや食べたいものをより楽に調達できる。
- 外骨格ロボット:手足をより自由に動かすことができる。あるいは、スタッフがもっと楽に高齢者を支えることができる。
- ロボット車椅子、ロボット歩行器:足の機能が低下した高齢者が簡単に動き回れる。
- 歩行パートナーとしてのヒューマノイド:(人間と並んで歩くことで)運動するモチベーションが湧く。
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なお、「歩行パートナーとしてのヒューマノイド」に関しては他の事例とは異なり、市販されている製品ではなく研究開発レベルのテクノロジーです。しかし、日本の研究では歩行パートナーとしてのヒューマノイドが人々に受け入れられることを示す有望な結果(注意:英語論文にリンク)がすでに出ているようです。
これら補助器具としてのロボットは性能が優れたものが多く、ロボットを扱う認知能力のある高齢者にとっては大きな意義を持つ可能性が高いです。ただし、概して高価であるという欠点もあります。
「可能性」におけるロボットの役割

介護施設における居住者の行動には、「可能性」(あるいは「希望」)に関する特徴的な傾向がありました。高齢者たちは、実現可能な行動をあえて先延ばしにすることで、生活に対する楽しみや希望を作り出すことが頻繁にあったのです。
このように、前向きな気持ちを持つことは自律性を保つのに重要であると考えられます。ロボットが高齢者の「可能性」に対して役立つ事例としては以下が挙げられます。
- 高齢者がロボットの助けを借りて将来楽しいことをできるようになるという希望を作り出す。
- ロボットを使用すること自体が、デジタル時代の最先端を走って社会に参加しているという感覚をもたらす。
ただし、「可能性」によってもたらされる自律性は、時として自己欺瞞に過ぎない場合もあります。つまり、実際には能力や機能が低下していたり失われていたりするにも関わらず、否定して生きている恐れがあるということです。
ロボットによって自己欺瞞に陥った高齢者に対して周囲の人間がすべきことは、まずは高齢者のロボットに対する非現実的な期待を下げることです。その結果、自律性が低下した場合には、高齢者の尊厳が損なわれないようにすることが重要です。
結論
研究グループは、以下のように結論付けています。
ロボットの発展スピードは速く変化が多様なため、将来的にロボットがどのような形で介護現場に導入されるのか、その結果どのような影響が出るのかについては想像が困難です。しかし、上述のように、ロボットが介護施設で暮らす高齢者の自立性を強化する可能性はあると考えられます。我々がすべきことは、ロボットによってもたらされるリスクも同時に考慮しながら、どのような場合にロボットが活躍すべきかを議論することです。哲学者や倫理学者、介護の専門家、政府、エンジニアが協力して将来に向けて動くのが重要です。
まとめ
この記事では、自立支援介護についての基本と、高齢者の自律性とロボットの関係についての研究をご紹介しました。
ロボットの導入が高齢者の自律性に対してどのような影響を及ぼすのかについての考察は、これまでまとめられた事例があまりなかったのではないでしょうか。
介護ロボットの導入においては、現場にもたらされる利便性と、高齢者本人にとっての更なる幸福の両方を実現できるのが最善であるため、非常に多くのことを考慮することと思います。今回の記事が、今後ロボット導入について考える際に何らかの助けになれば幸いです。
またロボット関連の研究事例を取り上げた記事は他にもあるため、ぜひチェックしてみてください!
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