認知症ケアの国内スタートアップ4社を紹介 「今後5年で普及する」認知症ケアテクノロジー予測の研究結果をもとに

認知症ケアの国内スタートアップ4社を紹介 「今後5年で普及する」認知症ケアテクノロジー予測の研究結果をもとに

この記事では、認知症ケアのスタートアップ4社を紹介します。また、スタートアップ企業調査の際に基準として参照した、今後5年で普及する認知症ケアテクノロジー予測の研究についても解説します。

認知症ケアの国内スタートアップ4選

ザ・ハーモニー株式会社

画像は同社のHPより引用

ザ・ハーモニー株式会社の事業は、テクノロジー事業部とケア事業部に分かれています。
テクノロジー事業部ではAIを活用した認知症コミュニケーションロボット「コモモン」を研究開発しており、認知症高齢者と過去の経験や出来事について語り合うことができる認知症対話エンジンを独自開発しています。
またケア事業部では認知症に特化したデイサービス・老人ホームを展開しており、ユマニチュード(※)など様々なケアを取り入れています。

※ユマニチュードとはフランス発のケア技法で、優しさを伝えることが特徴とされています。ユマニチュードについては下記の記事でも取り上げています。
「ユマニチュード」の関連記事▼
優しさを伝える介護スキルの習熟度を「AIで評価する」手法を京都大学研究者らが開発
フランス発ケア技法「ユマニチュード」の方法 4つの柱と5つのステップ

ザ・ハーモニー株式会社は九州広域復興支援ファンドより出資を受け、「コモモン」の開発と販売事業の成長を推進していくとしています。

参考:認知症コミュニケーションロボットの開発・販売や認知症介護施設を運営する「ザ・ハーモニー」に「九州広域復興支援ファンド」が出資

■ザ・ハーモニー株式会社の会社概要
代表:髙橋 和也
所在地:福岡県飯塚市
設立:2012年4月6日
HP:https://the-harmony.net/

日本テクトシステムズ株式会社

画像は同社のHPより引用

日本テクトシステムズ株式会社は高齢者医療、認知症医療に関わる医療機器開発を行っています。また、製品カテゴリはヘルスケア製品と医療製品に分かれています。
ヘルスケア製品としては認知機能みまもりAIの「ONSEI」および「ONSEIプラス」、高齢者運転免許更新時の機能検査デジタルツール「MENKYO」を提供しています。また、医療製品としては神経心理検査実施支援システム「SHINRI-ADAS」、MRI画像解析システム「MRI-TAISEKI」を提供しています。

認知機能みまもりAIの「ONSEI」では、スマートフォンを通して20秒の音声をチェックすることで本人の認知機能変化をチェックすることができるとされています。また「ONSEI」の技術はNTTコミュニケーションズ株式会社のサービスに提供されています。

参考:NTT Comの社会課題解決事業に、認知機能みまもりAI「ONSEI」のAPIを提供

同社は2021年7月にDeNA(株式会社ディー・エヌ・エー)により子会社化されており、親会社となったDeNAは、”両社の強みである高齢者向けの取り組みをより加速し、既存サービスとの連携によるサービス強化、エビデンス創出を飛躍”させるとコメントしています。

参考:DeNAが日本テクトシステムズをグループ会社化 超高齢社会の健康寿命延伸に向けた取り組みを加速

■日本テクトシステムズ株式会社の会社概要
代表:増岡 厳
所在地:東京都港区
設立:2015年5月25日
HP:https://systems.nippontect.co.jp/

株式会社バイタルヴォイス

画像は同社のHPより引用

株式会社バイタルヴォイスは、認知症高齢者をはじめ体調管理を必要とするユーザーのバイタルデータを24時間自動でモニタリングできるシステム「つながるくん」を提供しています。

「つながるくん」は血圧・脈拍・血中酸素・体温などのバイタルデータ、また歩数や消費カロリーなどの活動量データを計測することができるとされています。脱着判定機能、時計表示機能を備え、7〜10日使用可能なバッテリーを内蔵しています。現在、「つながるくん」は介護施設用に提供されており、在宅版は準備中とのことです。

なお同社は2022年10月、株式会社テクノスジャパンによる第三者割当増資を発表しており、この契約によりバイタルヴォイスはテクノスジャパンの関連子会社となっています。

参考:ウェアラブルデバイスを利用した高齢者向けバイタルモニタリングなどを展開する「バイタルヴォイス」が資金調達

■株式会社バイタルヴォイスの会社概要
代表:安原 大輔
所在地:岡山県総社市
設立:2020年5月29日
HP:https://vitalvoice.jp/

ジョージ・アンド・ショーン株式会社

画像は同社のHPより引用

ジョージ・アンド・ショーン株式会社は複数の事業を展開しています。
高齢者向けの事業としては位置情報見守りタグ/アプリ、高齢者施設向け位置情報見守り&生活習慣管理システム、生活習慣データを利用した脳の認知機能推定AIサービスを提供しています。
またその他の事業としては小田急電鉄株式会社との共同事業の地域コミュニティアプリ、「地球の歩き方」と「ハワイ州観光局」公認のハワイトラベルアプリを展開しています。

高齢者集合住宅施設向け見守りシステム 「施設360(シセツサンロクマル)」では、利用者の方々の施設内外の位置情報をリアルタイムに把握できるサービスを提供しています。同システムはWebアプリケーションで使用することができ、パソコンとモバイルで同時利用が可能です。また高齢者における施設内の位置情報を把握するだけでなく、外出を検知し、さらに施設外の位置情報の参照もできるとされています。

また、同社は2022年11月1日より、京王電鉄、小田急電鉄、日本オラクルと連携し「見守りタグと ICT を活用したシニア 子供の街歩き促進サービス 」の実証を開始しています(実証終了は2023年2月28日)。

参考:京王電鉄、小田急電鉄、日本オラクルと連携し「見守りタグと ICT を活用したシニア 子供の街歩き促進サービス 」実証開始します。

■ジョージ・アンド・ショーン株式会社の会社概要
代表:井上 憲
所在地:東京都渋谷区
設立:2016年3月15日
HP:https://george-shaun.com/

上述したスタートアップ企業は、国内における認知症ケア領域のスタートアップ企業群から一部を選抜したラインナップです。
今回紹介した企業を選んだ基準は、認知症ケアのテクノロジーに注目した米国の研究(「今後5年で普及する」認知症ケアテクノロジーの予測とリスク軽減)による報告内容がもとになっています。
そのため、現時点での事業規模や実績などよりも、活用しているテクノロジーに着目して紹介しています。

今後5年で普及する認知症ケアテクノロジー予測とリスク軽減の研究結果

上記スタートアップ企業を調査する際に基準として参照した研究を、以下で紹介します。

米国の研究グループは、近年では認知症ケアテクノロジーへの投資がますます増加している一方で、各テクノロジーのメリットや懸念点、倫理的な影響と課題が明らかになっていないことに注目しました。そこで、以下の3つを目標に研究を行い、結果を論文で報告しています。

●研究目標

  1. 今後5年で最も普及すると予測される認知症ケアのテクノロジーを知る。
  2. それぞれのテクノロジーのメリットとリスクを理解する。
  3. リスクを軽減するためにできることを整理する。

研究者らは、この調査結果が、今後の認知症高齢者やその家族らがテクノロジーを使用する際の手助けになればと考えています。

参照する科学論文の情報
著者:Clara Berridgem, George Demiris, Jeffrey Kaye
機関(国):University of Washington, University of Pennsylvania, Oregon Health and Science University(米国)
タイトル:Domain Experts on Dementia-Care Technologies: Mitigating Risk in Design and Implementation
URL:doi.org/10.1007/s11948-021-00286-w

さまざまな専門家の意見を集約

研究グループは、まず認知症ケアにおけるテクノロジー分野の調査を進めるために、さまざまな領域の専門家を集めました。今回対象となった専門家の専門領域は、介護業界、AI、老年学、倫理学です。
多くの候補者から、研究実績等が考慮された結果、最終的に21人の専門家が研究に参画しました。

研究の進め方としては、専門家に対して以下2つのステップに分けて段階的に調査票が渡され回答が集められました。
ステップ1では、一般的な9種類のテクノロジーやデータに対して、専門家が各視点から認知症ケアに各テクノロジーを使用するメリットとリスクを回答しました。
ステップ2では、ステップ1の結果から具体的な12種類のテクノロジーが事例として挙げられ、専門家は各テクノロジーのランク付けと、リスクを軽減する方法についての回答を行いました。
上記の回答結果を分析し、今後普及すると考えられる認知症ケアのテクノロジーとそれぞれのメリット・リスク、およびリスク軽減の方法がまとめられました。

認知症ケアにおいて今後5年で普及する9つのテクノロジー

調査の過程で「認知症ケアにおいて今後5年で最も普及するテクノロジーを予測する」という課題は困難であることが判明しつつも、結果が以下のように示されました。テクノロジーの種類と、それぞれの主なメリットとリスクを記します。なお、専門家たちによる支持が強かった(普及すると考えられた)ものから順に並べています。

  1. スマートホームシステム
    メリット:安全を守る、生活を便利にする
    リスク:データの悪用、プライバシー侵害など

  2. (常時開始可能な)ビデオ会議システム
    メリット:社会的なつながりを促進する
    リスク:プライバシー侵害、不安感など

  3. 屋外位置追跡システム
    メリット:安全を守る、特に転倒リスクを回避する
    リスク:自律性の喪失など

  4. 屋内位置追跡システム
    メリット:(3と同様)安全を守る、特に転倒リスクを回避する
    リスク:プライバシーの喪失感など

  5. ドアを介した生活モニタリングシステム
    メリット:社会的孤立を回避、生活の安全を守る
    リスク:自律性の喪失、プライバシー侵害など

  6. バイタル監視システム
    メリット:睡眠や健康状態の異常を予測・検出する
    リスク:過剰な医療介入につながる、死への心配を引き起こすなど

  7. スマートスピーカー
    メリット:孤独感を緩和する
    リスク:孤立を引き起こす、プライバシー侵害など

  8. 音声記録システム
    メリット:認知機能の変化を検出する
    リスク:プライバシーの侵害など

  9. ソーシャルロボット
    メリット:娯楽を提供する
    リスク:ロボットのエラーがストレスを与える

興味深いことに、スマートホームシステムやビデオ会議システムなど、すでに広く市場に普及し始めているテクノロジーが、高齢者に特化したテクノロジーよりも早く現場に浸透すると考察されました。一般に広く普及しているものは、すでにケア目的での使用に対応できていると考えられたのです。

リスクを回避するための施策

各テクノロジーにおける幾つかのリスクは複数の分野で共通していました。
例えば、プライバシー侵害のリスクなどです。データはハッカーやインターネットプロバイダーによって流出するリスクがつきものであり、第三者によるプライバシー侵害のリスクは強く懸念されます。

また、テクノロジーは本来介護者を安心させ高齢者を自立に導くものですが、過剰なアラートや扱いきれないデータによって徒労や不安をも引き起こすことがあると考えられます。また、インターネット接続を前提としたデバイスはインターネットに対応していない環境において使いづらい(或いは使えない)ものであることにも注意すべきです。

テクノロジーに付随するさまざまなリスクを包括的に軽減する方法について、専門家たちの回答は以下の通りでした。

  1. さまざまな分野の専門家が設計に参加する。
  2. 要素技術を注意深く選択する。
  3. 高齢者や介護者がコントロールできる余地を大きく残す。
  4. データの外部使用を許可制にする。
  5. データの所在やアクセス権を明らかにする。
  6. 高齢者本人の合意を得るプロセス(インフォームドコンセント)を確実に実行する。
  7. 高齢者や介護者がテクノロジーの使用方法を学ぶ機会を作る。

米国の研究グループは、上記の結果に対して特に「プライバシーを侵害しないシステムを設計すること」「テクノロジーの使用に本人が同意しコントロールできるようにすること」「データの透明性を保つこと」の重要さ、議論の大事さを強調しました。

研究者らは、「今回整理された情報は、認知症高齢者やその家族に対してだけでなく、システム設計者や医師、研究者らに対しても有益である可能性がある」と結論付けています。
ただし、研究の焦点は家族による認知症高齢者のケアに当てられており、介護施設など特定の状況に対応した調査ではないことを注意しています。

まとめ

この記事では、認知症ケアのスタートアップ4社を紹介しました。また、スタートアップ企業調査の際に基準として参照した、今後5年で普及する認知症ケアテクノロジー予測の研究についても解説しました。

国内にも、有望なテクノロジーを開発しサービス提供するスタートアップが多く存在しますね。今後の展開に期待して注目していきましょう。

また、今後普及すると予測される認知症ケアのテクノロジーに関する報告も興味深いものでした。なお、参考にした論文では特定の結論が出ていますが、調査の角度や考慮する条件に応じて結果は変わりうることに留意していただけたら幸いです。

AIケアラボでは他の記事でも、認知症ケアのテクノロジーに関する研究事例を取り上げて紹介しています。ぜひご覧ください!

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臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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