この記事の要点
- 特定処遇改善加算は介護事業所(もしくは法人)が受け取り、介護職員に分配される
- 特定処遇改善加算の計算、配分方法は「収入見込みの計算」から「介護職員の振り分け」をした上で「賃上げルールに従って配分」される
- 経験・技能のある介護職員の賃上げは1人以上を月額8万円アップもしくは年収440万円以上(例外あり)にする必要あり
長年介護事業所等で働いてくれているベテラン職員には、国が介護報酬の加算をして賃金アップ等の待遇改善を促しています。
今回は介護職員等特定処遇加算(特定処遇改善加算)の計算方法について解説します。正しい計算方法を知って、経験や技能のあるベテラン職員に適切な処遇を与えられるようにしましょう。
介護職員等特定処遇改善加算とは
介護職員等特定処遇加算(特定処遇改善加算)とは、2019年より開始された介護報酬の加算制度です。
勤続年数10年以上の介護福祉士など、経験や知識を有するベテラン職員に対して十分な額の給与が支払えるように、介護報酬を加算して支給しています。
しかし、これまでの処遇改善加算では93.5%が加算を受けているにもかかわらず、特定処遇改善加算の取得は63.3%(令和元年における取得状況)にとどまっていました。
ベテラン職員のみ賃金を上げてしまうとバランスが取れないといった経営上の課題もあり、特定処遇改善加算の取得が進みにくい背景もあったため、2021年度介護報酬改定で特定処遇改善加算、処遇改善加算の見直しがありました。
介護職員等特定処遇改善加算の制度について詳しく知りたい人や、2021年の制度改正について確認したい人は以下の記事を参考にしてください。
▶特定処遇改善加算の最新情報を解説 2021年度介護報酬改定で変わった点とは
特定処遇改善加算の届出の流れ
特定処遇改善加算の計算方法を説明する前に、特定処遇改善加算がどのようにして介護職員の給与に反映されるのか、その流れを簡単に説明します。
特定処遇改善加算の請求は介護事業所が行います。介護事業所はあらかじめ都道府県または市区町村に「介護職員処遇改善計画書」などの書類を提出して、加算申請の届け出を行う必要があります。
その後、毎月の介護サービス費を請求する際に特定処遇改善加算分もあわせて請求を行い、都道府県もしくは市区町村から支払を委託された国保連(国民健康保険団体連合会)が通常の介護報酬に加え特定処遇改善加算相当額を支払います。
介護事業所は加算相当額を、これから説明する計算方法に基づき全額を職員の給与等として分配します。
介護職員処遇改善加算および介護職員等特定処遇改善加算は介護職員の待遇改善を目的とした加算制度なため、介護報酬の加算分を介護事業所自身の利益にしてはいけません。
申請を行った介護事業所は自治体に「介護職員処遇改善実績報告書」の提出が義務付けられています。
特定処遇改善加算の計算方法
ここからは、特定処遇改善加算を算定するための計算方法をステップ毎にご説明します。
STEP1:特定加算の算定要件の確認
まずは特定加算の算定要件を確認し、そもそも事業所が特定処遇改善加算の算定要件を満たしているかを確認します。
算定要件については、先ほども紹介した当サイト記事で詳しく説明しています。
▶特定処遇改善加算の最新情報を解説 2021年度介護報酬改定で変わった点とは
▶介護職員等特定処遇改善加算の算定要件をわかりやすく解説 【2021年度改定対応】
STEP2:加算区分の確認
特定処遇改善加算の加算区分はⅠとⅡの2区分があります。
ⅠとⅡのどちらに該当するかによって加算率が変わるため、加算区分を確認します。
加算区分Ⅰは、介護福祉士の配置等要件を満たしてサービス提供体制強化加算等の最も上位の区分を算定している場合に選択が可能となります。
加算区分Ⅰの要件を満たさない介護事業所はすべて加算区分Ⅱとして計算します。
STEP3:特定加算の見込額の計算
特定処遇改善加算が支払われた際の収入見込額を計算します。
計算方法は以下のとおりです。
介護報酬(現行の処遇改善加算分を除く)×加算率=特定処遇改善加算による収入見込額 |
加算算定対象サービスの各加算率は以下表のとおりです。
STEP4:賃上げを行う単位の決定
収入見込額が判明した後は、同じ賃上げルールのもと賃上げを行う単位を、法人又は事業所のどちらにするかを決定します。
単独の介護事業所として特定処遇改善加算の申請を行う際には制限は設けられていませんが、複数の介護事業所を運営する法人が一括申請する際には、以下の点に留意しなければいけません。
STEP5:賃上げのルールの決定
特定処遇改善加算により支払われた加算分を、介護職員にどのように分配するかの賃上げルールを決めます。
賃上げを行う職員の範囲を決める
各事業所の定義により、介護事業所で働く全職員を以下のとおりA・B・Cに振り分けます。
特定処遇改善加算分をすべてAの賃金に配分しても、B、Cも含めて賃上げしても構いません。賃上げを行う職員の範囲は各介護事業所が決定できます。
賃上げ額と方法(配分ルール)を決める
賃上げの対象となる職員の賃上げ額と、どのような形で賃金改善を行うかを決めます。
まずAに属する経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、平均月額8万円以上の賃上げもしくは年収440万円以上に賃金をアップさせる必要があります。
Aの賃上げ額が決定した後は、残りの特定処遇改善加算分をB・Cに分配します。B・Cに分配する際には「Aの賃上げ額は必ずBよりも高くする」「Cの賃上げ額はBの2分の1以下にする」の2点を考慮して賃上げ額を決定しなければいけません。
賃上げ額をどのような形で職員に支給するかは各事業所の給与規定等にゆだねられています。基本給・手当として支給しても、賞与の形で支給しても構いません。
特定処遇改善加算の計算FAQ
特定処遇改善加算の計算は、いろいろなルールがあり混乱しがちです。特に「A:経験・技能のある介護職員」の賃上げルールに関しては、介護事業所ごとのさまざまな例外事項にも対応が求められます。
特定処遇改善加算の計算についてよく聞かれる質問をまとめました。
異なるサービスを複数提供している事業所は?
加算対象となる介護サービスが複数ある介護事業所でも、事業所番号が同じ場合には一括で申請できます。
なお複数の介護事業所を運営している法人が申請する際に、介護事業所ごとの加算区分がⅠとⅡで異なっていても、一括申請が可能です。
介護福祉士は10年以上の継続勤務が必須?
「A:経験・技能のある介護職員」に設定する職員は、基本的には申請する法人等における勤続年数が10年以上の職員とされています。
ただし該当する職員が存在しない場合には、他の法人や医療機関等で勤務していた年数も通算して10年以上であれば認められます。
介護福祉士の資格がないベテラン職員でもOK?
「A:経験・技能のある介護職員」は、介護福祉士の有資格者であることが必須条件です。
各事業所が独自に能力評価をしていても、介護福祉士の資格がなければ認められません。
賃金改善は法定福利費の事業主負担分を含めてOK?
職員の賃上げに伴い事業主が支払う法定福利費(社会保険など)の負担も増加しますが、負担分を含めて賃金改善しても良いかは、「A:経験・技能のある介護職員」に対する賃上げ額をどのように設定するかで変わります。
月額平均8万円以上を賃上げ | 増加した法定福利費の事業主負担分を賃金改善分に含められる |
年収440万円以上に賃上げ | 増加した法定福利費の事業主負担分は賃金改善分に含められない |
すでに年収440万円以上の職員がいる場合は?
特定処遇改善加算がされる前から年収440万円以上もらっている職員がいる場合には、すでに「A:経験・技能のある介護職員」の処遇改善がなされているものと見なされますので、Aのうち1人以上の賃金改善をする必要はなくなります。
賃金改善が難しくても加算できる?
「A:経験・技能のある介護職員」の賃上げが平均月額8万円以上アップ、もしくは年収440万円以上にできない場合には、基本的に特定処遇改善加算は認められません。
ただし以下の場合には、定められた賃上げが難しい合理的理由を介護職員処遇改善計画書に記載することにより、例外的に認められる可能性があります。
1.小規模事業所等で加算額全体が少額で、それ程分配できない場合 2.職員全体の賃金水準が低い事業所等で、直ちに一人の賃金を引き上げる事が困難である場合 3.この特定処遇改善加算による処遇改善(月平均8万円以上等)を実施するにあたり、これまで以上に事業所内での階層、役職やそのための能力・役職を明確化しなければならないため、規程の見直しや研修・実務経験の蓄積などに一定期間が必要な場合 |
まとめ
今回は特定処遇改善加算の計算方法を解説し、特定処遇改善加算の計算における疑問にお答えしました。
特定処遇改善加算を申請する介護事業所や法人は、適切な特定処遇改善加算の計算をし、加算分を正しく職員に分配しなければいけません。
しっかり計算方法を理解し、日頃頑張ってくれている職員への相応な待遇改善を図りましょう。
