この記事の要点
- 特定処遇改善加算の取得率は算定要件の多さなどの理由により伸び悩んでいる
- 2021年度の介護報酬改定で新たな要件が追加された
- 特定処遇改善加算は介護事業所の人材確保につながり経営が上向く可能性がある
2019年より開始された特定処遇改善加算は、その算定要件の多さと制度の複雑さなどの理由から取得率の伸び悩みが懸念されています。
しかし介護職に従事する方の間では、「特定処遇改善加算を取得している介護事業所は給料が高い」とも噂され、転職先の候補にもなりやすいようです。
人手不足に悩んでいる介護事業所は、特定処遇改善加算の所得が介護職員の雇用を確保する良いきっかけになるかもしれません。
今回は特定処遇改善加算を少しでも申請しやすくするため、特定処遇改善加算の算定要件について解説します。
目次
介護職員等特定処遇改善加算とは
介護職員等特定処遇改善加算とは、2017年に内閣府にて閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」に基づく制度です。
具体的には2019年10月より、勤続年数 10年以上の介護福祉士に対して月額平均8万円相当の給与増額が行える相当額の介護報酬を加算して支給されるようになっています。
この制度により経験や技能のある介護人材の処遇改善を行い、介護離職ゼロを目指すことを目的としています。
参考:内閣府|新しい経済政策パッケージについて
2021年に変わった特定処遇改善加算のルール
特定処遇改善加算の正式名称は「介護職員等特定処遇改善加算」です。
似たような名称の加算に「介護職員処遇改善加算」がありますが、介護職員処遇改善加算はすべての介護職員を対象にしているのに対し、特定処遇改善加算は基本的に勤続10年以上の介護職員を対象にしている制度です。
特定処遇改善加算の制度は2019年より開始されましたが、制度開始後3年経っても全体の取得率が7割に満たないなど取得率が伸び悩み、都道府県によっては取得率が5割を切っている県も存在します。
そのため2021年度の介護報酬改定時に要件や配分ルールを一部変更するなどして、国も特定処遇改善加算の浸透をうながしています。
2021年度の介護報酬改定では特定処遇改善加算の要件がどう変わったかについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
▶特定処遇改善加算の最新情報を解説 2021年度介護報酬改定で変わった点とは
特定処遇改善加算ⅠとⅡの違い

特定処遇改善加算にはⅠとⅡの区分があり、区分Ⅰの方が区分Ⅱよりも加算率が高くなっています。
ただし加算率が高い分だけ算定要件も厳しく設定されています。
特定処遇改善加算のⅠとⅡの具体的な加算率の違いや計算方法については、以下の記事を参考にしてください。
▶特定処遇改善加算の計算方法を解説 配分ルールとよくある質問FAQ
特定処遇改善加算の算定要件
ここからは、2021年に改正された特定処遇改善加算の新しい算定要件を説明します。
上記でも説明したように特定処遇改善加算には区分Ⅰと区分Ⅱがあり、以下の算定要件を満たすか否かにより区分が変わります。
要件1:介護福祉士の配置等要件(Ⅰのみ) 要件2:現行加算要件(Ⅰ・Ⅱ共通) 要件3:職場環境等要件(Ⅰ・Ⅱ共通) 要件4:見える化要件(Ⅰ・Ⅱ共通) |
それぞれの算定要件を以下で確認しましょう。
要件1:介護福祉士の配置等要件(Ⅰのみ)
以下のいずれかの介護報酬加算が算定されている介護事業所等は、介護福祉士の配置等要件を満たしていると見なされ、区分Ⅰの加算が受けられます。
- サービス提供体制強化加算(もっとも上位の区分)
- 特定事業所加算(従事者要件のある区分)
- 日常生活継続支援加算
- 入居継続支援加算
上記の加算はいずれも介護福祉士の配置基準が要件の対象となっています。これらの加算がされている介護事業所等であれば勤続年数が長いベテラン介護福祉士に対して手厚い処遇を行っていると考えられるためです。
逆に上記のどの加算もされていない介護事業所等は、特定処遇改善加算の区分Ⅰの加算は受けられません。
要件2:現行加算要件(Ⅰ・Ⅱ共通)
特定処遇改善加算を受けるためには、そもそも介護事業所等で働くすべての介護職員を対象にした「介護職員処遇改善加算」が加算されていることが必須要件になります。
さらに特定処遇改善加算では、5つに区分されている介護職員処遇改善加算のレベルがⅠ~Ⅲでなければいけません。

なお介護職員処遇改善加算と特定処遇改善加算の計画書の届出を一緒に行うこともできます。いずれの算定要件も満たしていると判断された場合には、介護職員処遇改善加算と特定処遇改善加算が同時に加算されます。
要件3:職場環境等要件(Ⅰ・Ⅱ共通)
職場環境等要件とは、介護事業所等で働く介護職員の賃金以外の処遇について、介護職員が働きやすくなるように何らかの取り組みを行っているかどうかを確認する要件です。
この要件を満たすためには、以下の6区分でそれぞれ1つ以上の取り組みを計画および実施し、その内容をすべての介護職員に周知する必要があります。
- 入職促進に向けた取組
- 資質の向上やキャリアアップに向けた支援
- 両立支援・多様な働き方の推進
- 腰痛を含む心身の健康管理
- 生産性の向上のための業務改善の取組
- やりがい・働きがいの醸成
要件4:見える化要件(Ⅰ・Ⅱ共通)
見える化要件とは、上記1から3までの特定処遇改善加算の算定要件に基づく取り組みの実施内容を、厚生労働省が運営する「介護事業所・生活関連情報検索(介護サービス情報公表システム)」などを用いて外部から見える形で公表しなければいけないという算定要件です。
参考:厚生労働省|介護事業所・生活関連情報検索(介護サービス情報公表システム)
介護サービス情報公表システムの対象となっていない介護事業所は、各事業所や経営母体のホームページを活用するなどの方法も利用できます。
まとめ

今回は特定処遇改善加算の算定要件について解説しました。
特定処遇改善加算については算定要件以外にも、加算対象に該当する介護福祉士への賃金配分ルールの難しさや、特定処遇改善加算の対象とならない他の介護職員とのバランスの兼ね合いなど、いくつもの高いハードルが存在しています。
ですが、知識や経験があるベテラン介護職員への手厚い処遇は介護事業所の人材確保につながり、その後の経営にも好影響を与えると考えられます。
優秀な介護職員にできるだけ長く働いてもらえるよう、特定処遇改善加算を有効に活用しましょう。
