この記事の要点
- 認知症の初期症状(軽度認知障害/MCI)は物忘れ・集中力の低下など
- 認知症の中核症状とは脳神経細胞の破壊による症状
- 認知症の周辺症状とは中核症状プラス性質や環境が相互作用した症状
- 認知症を初期のうちに発見するための研究が日夜行われている
高齢の親を持つ家族や、高齢者施設で働いている方は、高齢者のちょっとした変化にも一番先に気づける存在です。
少し前まで元気だった高齢者でも、ある日突然認知症の兆しが見え始めるかもしれません。
今回は認知症の初期症状である軽度認知障害と、認知症を発症してから起こり得る中核症状・周辺症状について解説します。
身近な高齢者の変化を見逃さず早急な対処がとれるよう、この機会にしっかりと学びましょう。
認知症の初期症状(軽度認知障害)

記憶や判断力が若干低下した、正常とも認知症ともつかない状態を軽度認知障害(MCI)と呼びます。
軽度認知障害になった人の約半数は5年以内に認知症に移行するといわれていますので、初期症状のうちに認知症の進行を抑えるための対処が必要です。
軽度認知障害の症状は高齢者本人が自覚することは難しいため、家族や周囲の関係者が日々の状態をチェックしましょう。
物忘れ
以下のような症状が見られた際は、認知症の初期症状のひとつ「物忘れ」が疑われます。
- 同じ話を繰り返す
- 知り合いの名前が思い出せなくなる
- しまい忘れや置き忘れが増える
- 同じ物をいくつも購入してくる
なお一般的な加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いは、食事で例えると以下のように説明できます。
《一般的な加齢による物忘れ》
「何を食べたか」が思い出せない
《認知症による物忘れ》
「食べたこと」自体を忘れる
集中力の低下
認知症の初期症状「集中力の低下」により、以下のような現象が見られます。
- 何もせずボーっとしていることが増えた
- 趣味の手芸や読書をしなくなった
- テレビを見ているようでも、実際には内容が頭に入っていないようだ
理解力・判断力の低下
「理解力・判断力の低下」により、高齢者がこれまで行ってきた社会的活動に支障が生じはじめます。
- 運転ミスが多くなる
- 銀行預金の出し入れや各種支払の手続きが行えなくなる
- 買い物時の小銭の計算ができない
落ち込み・怒り
認知機能の低下により漠然とした不安を自分でも感じている高齢者は、落ち込んだり、反面周囲に対して強い怒りを抱きがちです。
- 近所づきあいを止めてしまい、外に出かけなくなる
- 身なりに構わなくなった
- ささいなことで怒りだすことがある
- 全体的に活力がなくなる
なお「落ち込み」は、認知症ではなく老年期うつが原因の可能性があります。落ち込みがはげしい場合には注意が必要です。
認知症発症後の症状
認知症の発症後に起こる症状は「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」に分けられます。
認知症により脳神経細胞が壊れたことによって起きる「脳の変化」が中核症状です。認知症の進行度合いに応じて、ほぼすべての認知症高齢者に中核症状は見られます。
周辺症状とは、中核症状と環境的要因・身体的要因・心理的要因が相互作用して起こる「行動の変化」を指します。個々の性質やこれまでの生活状況により周辺症状の出かたは変わり、認知症を発症しても周辺症状が見られない人もいます。
以下からは中核症状と周辺症状のそれぞれを詳しく確認しましょう。
認知症の中核症状

認知症により出現する中核症状は以下のとおりです。
記憶障害(きおくしょうがい)
記憶障害は自分や人の経験や過去の記憶が欠落する症状です。認知症の初期症状である「物忘れ」が進行した状態です。
- 数分前のできごとや約束を忘れる
- 新しい話が覚えられない
実行機能障害(じっこうきのうしょうがい)
実行機能障害はものごとの計画や実行ができなくなる症状です。認知症の初期症状である「理解力・判断力の低下」が進行した状態です。
- テレビやエアコンの操作方法がわからなくなる
- 料理の手順が思い出せず、調理できなくなる
見当識障害(けんとうしきしょうがい)
見当識障害は時間や場所などの自分の状況を把握する力が弱まる症状です。
- 家族の名前や自分との関係性がわからなくなる
- 今日が何月何日かがわからなくなる
- 自分の今いる場所がわからなくなる
失語(しつご)
失語は自分の考えを言葉として口に出せなくなる言語障害としての症状です。
人から聞いた話や読んだ文章も、文字や音としては認識していても話が理解できていない場合があります。
失認(しつにん)
失認は自分の目で見た情報を脳で処理できず、モノの認知や空間把握などができなくなる症状です。
また視覚の失認ではなく、手足など身体の一部を自分のものだと認識できなくなるタイプの失認も存在します。
失行(しっこう)
食事や排泄、入浴などの日常的な行為が行えなくなる症状を失行と呼びます。
尿意があってもトイレに行かず失禁するなど、失行の症状が出現すると認知症高齢者本人にも家族にも大きなストレスが生じます。
認知症の周辺症状

認知症の中核症状をきっかけに、高齢者本人のもともとの性質などによっても引き起こされる可能性がある代表的な周辺症状(BPSD)は以下のとおりです。
徘徊(はいかい)
自宅にいるにもかかわらず「自宅」に帰ろうとして認知症高齢者が徘徊するケースがあります。
これは中核症状のひとつである見当識障害のために、自宅周辺の見慣れた景色が認識できなくなっているためと考えられます。
強い不安感
家族を何度も呼んだり繰り返し電話をかけてきたりする行動は、置き去りにされる不安や孤独感を強く感じているための行動です。
被害妄想
認知症の周辺症状のひとつ「妄想」の中でも、多くを占める妄想が「お金を盗られた」「悪口を言われた」などの被害妄想です。
配偶者の浮気を疑ったり、介護者や家族から虐待されたなどを訴えたりするケースもあります。
暴力・暴言
認知症が進むと感情のコントロールが難しくなり、いきなり怒り出して介護者や家族に暴力・暴言を与える認知症高齢者がいます。
これは認知症の初期症状「怒り」がさらに強くなった状態です。
暴力や暴言が周辺症状として現れている認知症高齢者の介護では、介護者と認知症高齢の双方の身を守るためにも、適切な距離をとって介護する必要があります。
抑うつ・無気力
認知症の初期症状「落ち込み」がさらに強くなると、抑うつや無気力、はては何もしたくなくなる無関心(アパシー)の状態になります。
作話(さくわ)
作話とは過去のできごとや現在の状況について、事実とは異なる内容をさぞ本当のできごとのように話す症状です。
本人は作話で人をだます意図はなく、話しているできごとを本当だと信じています。そのため作話による「正直な嘘」は一般的な嘘とは区別されるべきだとされています。
介護の拒否
認知症により混乱や不安のなかにいる高齢者が、身体介助などの介護を受けたときに自分の尊厳が冒されたと思い、介護を拒否するケースも多々あります。
その他の症状
その他に見られる認知症の周辺症状には、食物でないものを食べる「異食(いしょく)」、排せつ物をもてあそぶ「弄便(ろうべん)」、ひわいな言葉を口にする「性的異常行為」などがあります。
IT技術により認知症の初期症状を検知できる

認知症はごく初期のうちに適切な対処をすれば、発症の予防や進行防止が可能となります。
しかし認知機能のおとろえは少しずつ進行していくため、たとえ一緒に暮らしている家族であっても、微妙な変化にはなかなか気づきにくいものです。
そのためAIなどのIT技術を用いて認知症の早期発見ができないかと、世界中の研究者が日夜研究を進めています。
以下の記事で紹介するような認知症のIT活用に関する研究が今後さらに進み、初期症状のうちに認知症が検知できれば、認知症で悩む高齢者や家族はもっと減るかもしれません。
▶VRゲームで軽度認知障害(MCI)が改善!認知テストや脳波、身体テストで効果を確認
▶コンピュータゲームが認知症に非常に有効かもしれない件について。
▶「せん妄」の早期発見は可能か AI技術で危険因子の分類に成功
まとめ
今回は認知症の症状について解説しました。
認知症高齢者の介護は、まずは知ることから始まります。
また認知症の初期症状をしっかり理解しておけば、認知症の発症を予防したり、進行を遅らせたりすることも不可能ではありません。
高齢者の健康寿命を少しでも伸ばせるよう、認知症の症状について理解を深めておきましょう。
