AIとセンサーで認知症高齢者の行動・心理症状を検出。韓国の研究グループが開発

AIとセンサーで認知症高齢者の行動・心理症状を検出。韓国の研究グループが開発

この記事では、認知症の症状をAIとセンサーで検出するシステムの研究を紹介します。

認知症の症状

人と心

認知症の症状は、「中核症状」と「周辺症状」に分けられます。
「中核症状」は、物忘れや判断力の低下など脳機能の低下を直接的に示す症状です。
一方「周辺症状」にあたる行動・心理症状には、以下のようなものがあります。

行動症状

  • 暴力、暴言、拒絶
  • 徘徊
  • 不潔行為

心理症状

  • 抑うつ、不安
  • 幻覚、妄想
  • 睡眠障害

認知症高齢者に対しては症状に合わせて介護や医療が適切に提供されるべきですが、人手不足の現場などでは一人ひとりに綿密に目を配ることが難しい場面もあります。

AI(機械学習)、センサー技術の台頭

AI

あらゆる業界でAIやセンサーの活用が進んでおり、特に人手不足の現場では業務効率化の支えになります。介護業界でも様々な場面で役立つ可能性が出てきています。

AIとは、ほとんどの場合、機械学習と呼ばれる技術(および技術が応用されたシステム)を意味します。ある目的に応じたデータを(大量に)読み込んで分析することで、傾向を導き出したり、類似するデータを新しく作り出したりすることが出来ます。
介護業界におけるAIの応用は以下のような研究事例があります。

▶︎日本と世界で研究が進む介護へのAI活用 認知症高齢者に役立つAI技術とは
▶︎「せん妄」の早期発見は可能か AI技術で危険因子の分類に成功
▶︎高齢者の薬飲み忘れ・飲み間違いを防ぐ 視覚障害者を助けるスマートグラスとAIの最前線

データが既に手元にある場合は、AIへの読み込み用にデータを編集する作業から取り組めますが、実際は解決すべき課題に対応するデータが手元にない場合も多いです。そんな時は、データを取得するためにセンサーの役割が重要になります。
センサーを活用して現場のデータを収集し、AIで分析を行うことで現場の課題を解決するという流れは一つの型になっています。以下のような研究事例でも参照できます。

▶︎AIと離床センサーを組み合わせて離床行動を高度認識 秋田県立大など開発
▶︎独居(一人暮らし)高齢者の健康・安全は見守りセンサーとAIで守られていく

社会全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいますが、現場でセンサーをはじめとしたデジタル機器が活用されると多くのデータが蓄積され、AIを活用しやすい環境になります。

研究紹介:認知症高齢者の逸脱行動をAIとセンサーで検出

センサー

韓国ソウルにある大学の研究グループは、高齢化が進む社会における認知症患者のケアをテクノロジーで支えるべく、センサーとAIの応用に取り組んでいます。具体的には、介護職が認知症高齢者から離れた位置にいても、認知症由来の行動を検出できるシステムを開発しました。

参照する科学論文の情報
著者:Kookjin Kim, Seungjin Lee, Sungjoong Kim, Jaekeun Kim, Dongil Shin and Dongkyoo Shin
機関(国):Sejong University(韓国)
タイトル:Sensor-Based Deviant Behavior Detection System Using Deep Learning to Help Dementia Caregivers
URL:10.1109/ACCESS.2020.3011654

研究者らは、検出したい行動(今回は症状由来の逸脱行動)を示すデータとそれ以外の行動(日常的な行動)を示すデータの両方をAIに学習させることで、逸脱行動を検出するシステムを作りました。

センサーデータをAIで分析するシステム

過去には他の研究者らによって、スマートホーム(※)のデータを分析するAIの研究や、画像および動画データをもとに認知症高齢者の逸脱行動を検出するシステムの研究が行われてきました。これら過去の研究から、どのような種類のAIを用いると分析の精度がよいのか、さらに画像や動画データが逸脱行動の検出に向いていないことから、どのようなセンサーデータを使用するか等が検討されました。

※スマートホーム・・・安全性や利便性を上げるためにインターネットに接続された多くのデジタル機器を使用している家

以下は、AIを用いてセンサーデータを分析し逸脱行動を検出する流れを示す概要図です。

データ分析の流れ

上図の流れをブロック順に解説します。

  1. データ:逸脱行動を示すデータと日常的な行動を示すデータの両方が読み込まれます
  2. データの前処理:AIに読み込ませられる形式にデータを編集します
  3. オートエンコーダー:AIの種類の一つで、データから特徴をあぶり出します
  4. 損失:データからあぶり出された特徴を意味します
  5. 損失>(<)しきい値:特徴が判定ボーダーラインを下回っていれば通常(行動)だと判定されます
  6. LSTM:AIの種類の一つで、逸脱(行動)の特徴を学習するために使用されます
  7. 通常および逸脱:データから行動が判定されます

インターネット等に接続された一般的なセンサーからデータをリアルタイムで受信すれば、介護施設内で高齢者の何らかの動きがあった際に、その行動が通常の行動なのか逸脱行動(認知症の症状)なのかをすぐにコンピュータで判別できる仕組みです。

特定の逸脱行動を検出

認知症高齢者には冒頭で説明したような、症状由来の行動(逸脱行動)がいくつかあります。しかし全ての逸脱行動を一般的なセンサーから検出できるわけではありません。下記は今回センサーデータから判定することが可能だと考えられた逸脱行動の種類です。

  • 徘徊
  • 転倒
  • 不眠
  • 反復行動

AIに学習させるための、これらの逸脱行動を示すデータは実際にセンサーで取得されたものが使用されました。
また、対比としての通常行動(日常的な行動)は無数に種類があるため、データは実際にセンサーで取得されたものではなく介護施設の一日のスケジュール例から高齢者の日常を想定して作成したものが使用されました。

その結果、逸脱行動を高精度で検出することができるシステムが出来ました。また、以下のような画面で逸脱行動の集計や時系列での記録を見ることができるようにしました。

分析結果表示画面

研究者らは、今回開発されたシステムは、実験の範囲内では高精度で逸脱行動を検出することができたものの、あらゆる環境で同様のパフォーマンスを出すとは限らないとしています。今回、AIの学習用に使用されたデータは30日分の記録から作られたため、今後はさらに大量(長期的)なデータを使用してシステムの安定性を上げたいとしています。

まとめ

今回は、認知症の症状をAIとセンサーで検出するシステムの研究を紹介しました。

今回紹介した研究の新しい点は、認知症高齢者の逸脱行動を検出するために(カメラなどではなく)一般的なセンサーを使用し、分析にAIを使用したことでした。また、逸脱行動の対比となる日常的な行動を実際のセンサーデータから収集するのが困難であるという課題に対し、介護施設の1日のスケジュール例から擬似的にセンサーデータを作成するという工夫もユニークな点でした。

技術的な話はなかなか理解しづらい部分もあるかもしれませんが、このような研究は現実に「見守りセンサー」や「見守りロボット」などの名称で親しまれている製品に活用されるテクノロジーです。
研究紹介の終盤で紹介した通り、安定性の検証がうまくいけば、現在一般的に使用されている見守りセンサーや見守りロボットがさらにパワーアップしたり、新しい種類の見守り製品が登場することに繋がります。

施設居住者や家族に何らかの異常事態が起きた時、早く気がつくことで適切にケアができたり事態の悪化を防ぐことができる場合があります。今後テクノロジーの発展によって、そんな場面がもっと多くなっていくかもしれないですね。