介護事業所のM&Aをわかりやすく解説 現在の動向と増加理由・検討のポイント

介護事業所のM&Aをわかりやすく解説 現在の動向と増加理由・検討のポイント

この記事の要点

  1. 介護業界のM&A数が増加している
  2. 介護事業所がM&Aをする理由は経営者の高齢化など
  3. 他企業がM&Aをする理由は介護業界のマーケット拡大
  4. 介護業界のM&A手法は主に3つ

M&Aと聞くと「何やら大企業同士でやっている、よくわからないもの」といった印象を抱く方も多いかと思われます。

経済新聞やテレビのニュースでM&Aに関する報道を見ながら、自分には関係ないことだとやり過ごしている方も多いでしょう。

しかし、実は日本国内で実行されたM&Aの70%は、大企業ではなく中小企業を対象として行われています。もちろん介護業界においてもM&Aによる事業の承継は現実に実施されています。

今回は介護事業所のM&Aについて、現在の動向と増加理由などを中心にわかりやすく解説します。

介護業界のM&Aが進んでいる

経済・社会に関する調査研究を数多く行っている株式会社大和総研が調査した結果によると、介護業界のM&A件数は東日本大震災の翌年2012年から増加傾向を強め、2018年時点で年間80件を超えています。

■介護業界のM&A件数の推移

介護業界MA件数

2010年時点では年間10件程度だったことを考えると、介護業界のM&Aはすでに経済市場において定着し、今後も件数を伸ばしていく可能性が大きいと考えられます。

M&Aとは

そもそも「M&Aとは何か」がよくわからない方のために、まずはM&Aについて説明します。

M&Aとは「Merger and Acquisitions」の略称で、読み方はそのまま「エムアンドエー」と読みます。

Merger:合併
Acquisitions:買収

M&Aの意味は上記単語の意味のまま「合併」と「買収」を指しますが、一般的にM&Aというと合併や買収による経営権の取得だけでなく、資本提携や業務提携による企業の協業も意味しています。

介護事業のM&Aが加速する理由

どうして介護業界のM&Aは件数が増加し、今後も増加する可能性が高いのでしょうか。

それには介護事業所側の理由と、介護事業所の経営権や業務を取得したい相手先側の理由が双方とも考えられます。

以下でそれぞれの理由を確認しましょう。

介護事業所側の理由

介護事業所側の理由は以下のとおりです。

経営者の高齢化

日本の多くの中小企業では、いま後継者不足が深刻な問題になっています。

それは介護事業所でも例外ではありません。介護事業所自体が順調な経営を行っていたとしても、経営者が事業を承継させる相手がいない場合はいつかは経営を続けられなくなります。

2000年の介護保険法施行時に介護事業を開始した当時40代~50代の経営者は、2021年時点では60代~70代です。

経営者自身が高齢者世代に到達してきたいま、誰かに経営をゆだねないと利用者の行き場がなくなってしまう恐れがあります。

業務を取得したい側の理由 

業務を取得したい側の理由 は以下のとおりです。

マーケットの拡大

介護事業所の経営者が高齢者世代に移行するのと足並みを揃えるように、介護を必要とする高齢者の数は増加の一途をたどっています。

それに伴い、介護業界がこの先の日本においてさらに巨大なマーケットとなることが想定されます。

これまで介護とは関りを持たなかった大手企業なども市場に魅力を感じ、介護業界に参入しようと目論む流れがあります。

介護付き有料老人ホーム総量規制の影響

2006年に介護保険法が改正されて以降、2021年現在では自治体の総量規制により介護付有料老人ホームの新たな開設が非常に難しくなっています。

サービス付高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームには総量規制がかけられていませんが、介護保険報酬による収入が比較的安定している介護付有料老人ホームを運営するためには、既にある介護付有料老人ホームの事業権をM&Aにより取得するのがもっとも手っ取り早い手段です。

そのためエリアや経営規模を拡大したい大手事業所が、既存の介護付き有料老人ホームの買収に乗り出しています。

医療と介護の連携強化

医療機関も介護事業に参入するべく、M&Aに乗り出しています。

厚生労働省では団塊の世代が75歳以上となる2025年に向け、医療・介護・予防・住まい・生活支援を包括的に確保する「地域包括ケアシステム」の構築を目指しています。

しかし医療機関側としては介護に関するノウハウの不足など、実現に向けては大きな課題がいくつも残されています。

参考:厚生労働省|在宅医療・介護連携推進事業について 

医療機関が既存の介護事業所をM&Aにより取り込むことで、介護事業所が持っている介護のノウハウが手に入れられ、医療と介護の連携に役立てることができます。

異業種からの新規参入

2021年現在、もっとも介護のM&Aに興味を示しているのは、これまで介護事業とは何の関りも持っていなかった異業種の企業です。

上記で説明した高齢者の増加により、今後の介護市場に将来性を感じている企業は数多く存在しますが、まったくの異業種が介護事業を始めるためには各種許認可の取得や行政との背折衝などが大変です。

M&Aで既存の介護事業所の経営権を取得すれば、介護に関するノウハウと既存建物、スタッフ、介護事業の認可、エンドユーザーとなる介護事業所の利用者までもが一気に手に入ります。

介護事業所のM&A手法

MAの相談

それでは、介護事業所がM&Aにより経営権あるいは事業権を手放す際には、いったいどのようなM&A手法をもって行われるのでしょうか。

M&A手法の中から、介護事業所のM&Aで活用されることが多い手法を見ていきましょう。

株式譲渡

介護事業所の株主が保有する株式を他社に譲渡し、経営権のいっさいを承継させる方法です。また、介護事業所の法人格はそのままとし、営んでいた介護事業のみを譲渡する「事業譲渡」という手法もあります。

後継者不足に悩んでいる介護事業所など、中小規模の介護事業所のM&Aではよく行われる手法です。

子会社化

大手企業が資本を持った親会社となり、介護事業所はその子会社となる手法もあります。

子会社化の場合には既介護事業所の法人格はそのまま継続します。経営は既介護事業所の代表が継続するケースもありますが、親会社の取締役などが新たに就任するケースもあります。

その他の協業手法(業務提携)

M&Aを行う双方が経営権や事業権を保持しながら、互いに協力して業務にあたる手法が業務提携です。

業務提携の場合には基本的に資本の移動はありません。

厳密には業務提携とM&Aは意味合いが異なりますが、ゆるやかで柔軟な協力関係が結べるとして、企業規模が比較的対等なときにこの手法が選択されます。

介護事業所のM&Aで検討すべきポイント

考えるビジネスマン

この記事をご覧いただいている方の中には、後継者不足などの理由により、これからの介護事業所運営に不安を抱えている経営者の方もいらっしゃるでしょう。

ここからは、介護事業所の経営者がM&Aによる事業譲渡を検討する際に押さえておきたいポイントを説明します。

経営状況の確認

介護事業所を「売りたい」と思っても、収益が確保できない介護事業所は「買いたい」と思ってくれる相手がいません。

現在の介護事業所の経営状況をあらためてチェックし、自分の介護事業所がM&Aの相手にとって魅力的な案件になり得るのかを検証しましょう。

もし経営上で問題を抱えている介護事業所であれば、M&Aに固執せず経営の立て直し、あるいは廃業を考えていかなければならないかもしれません。

利用者・利用者家族への説明

介護事業所を利用している利用者および利用者家族にとっては、経営者の変更は一大事です。M&Aの実行にあたって反発が起きないか、十分な説明ができるかどうかをあらかじめ考えましょう。

もちろん、M&Aの実行後にも利用者が適切に介護を受け続けられるかについても考えなくてはいけないことは大前提です。

既存スタッフの継続雇用

M&Aで影響を受けるのは介護事業所の利用者だけではありません。

介護事業所に勤務しているスタッフとしても、経営者が変更することで失業の可能性もあり得ると不安になるのが当然です。

これまで働いてくれたスタッフがM&Aの実行後にも引き続き雇用されるよう、相手先ときちんと交渉し、スタッフに対しても十分な説明を行う義務があります。

行政との折衝

介護事業の運営にあたっては各種の許認可や行政とのやりとりが必須となります。

株式譲渡によるM&Aであれば介護事業の認可もそのまま移行しますが、事業のみを譲渡する場合には許認可の引継ぎなど面倒な手続きを行わなければいけません。あらかじめ必要な手続きを確認し、できるだけ早めに行政との折衝を開始するようにしましょう。

まとめ

今回は介護事業所のM&Aについて解説しました。

これからも介護業界のM&Aはさらに数が増えていくことが予想されます。M&Aの増加により今後の介護業界がどう変わっていくか、介護に携わるすべての人は注視していきましょう。