介護で求められている「DX」とは何か?ITとの違いと活用方法・メリットについて解説

介護で求められている「DX」とは何か?ITとの違いと活用方法・メリットについて解説

最終更新日 2023.04.18

この記事の要点

  1. 介護業界でもDXの推進が求められている
  2. 「DX」とは「IT技術を人・組織・社会に活かす変革」
  3. DXをした介護事業所にはメリットがある(職員ストレス低減・感染症予防・サービス向上・SDGs)

これからの介護業界には、DXによる働き方改革が必要だと言われています。

しかしDXとはそもそも何でしょうか。介護の現場でDXを活用すると、どのような恩恵がもたらされるのでしょうか。

今回はDXとは何かの説明から、介護の現場にDXを取り入れる方法とメリット、介護業界へのDX推進に関する日本や諸外国の取り組みについて解説します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

「DX(Digital Transformation)」を日本語に訳すと「デジタル変身(変換)」となりますが、この言葉の正しい意味は2004年にスウェーデンのウメオ大学教授エリック・ストルターマン氏が提唱した「ITで人々の生活を良い方向に変化させる」という概念です。

ITの進化により、人はコンピューターでいろいろな作業ができるようになりました。しかしIT自体は、ただの技術でしかありません。

「DX」は人間が主体になります。

人間がITテクノロジーを使い、それにより生じた効果を十分に活かせるように、ビジネスモデルや組織体制、働き方、社会そのものを良い状態に変えていくという考え方が、エリック・ストルターマン氏の言う「DX」です。

略称が「DX」になる理由

DX(デジタルトランスフォーメーション)の英語表記は「Digital Transformation」ですので、2つの単語の頭文字を取ると「DX」ではなく「DT」となります。

なぜデジタルトランスフォーメーションが「DX」の略称になるかというと、英語では一般的に「Trans(交差する)」を、交差のイメージを持つアルファベットの「X」で略すことが多いからです。

「DT」と略すると、プログラミング言語で用いられるdefinition team(定義語を表すタグ)と重複してしまうため、IT関係者が使用を避けたとの説もあります。

介護現場にDXを取り入れるとどうなるか

介護の現場にDXを取り入れるとは、具体的にどんなことをするのでしょうか。

DXの可能性は今後も拡大が見込まれますが、以下では2021年時点で既に実現しているDXについて、活用方法を3つ紹介します。

事務作業の自動化

ICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)を用いて介護記録やケアプラン作成などの事務作業を自動化することにより、介護スタッフやケアマネージャーの業務を効率化します。

またデータ化された各情報は他のスタッフや他部署の方も閲覧・確認が可能なため、それぞれが持っている介護業務のノウハウが共有できて業務の効率化が期待できます。

介護業界のICT活用については以下の記事をご覧ください。

介護におけるICTとは何か?効果とメリット・デメリット

利用者の遠隔見守り

要介護者が24時間生活する入所施設では、利用者の安全を守るために夜間の巡回業務が欠かせません。

厚生労働省の介護報酬改定に関する省令でも、施設介護の夜勤職員について配置基準が設けられています。

遠隔見守りシステムの導入により介護スタッフの夜間巡回の回数が減少し、業務効率の向上ができると期待されています。さらに介護報酬の夜勤職員配置加算基準が緩和され、夜勤シフトが減らせるようにもなります。

見守りロボットなどの遠隔見守りシステムについては、以下の記事で詳しく解説しています。

介護業務が楽になる見守りロボットとは 種類・導入効果・利用者の声

ロボットによる身体介助

介護業務の中でも移乗介助や入浴介助などの身体介助作業は、介護スタッフにとってもっとも身体的に負担が大きい作業です。

また利用者の排泄支援は精神的にも負担がかかる仕事なため、排泄支援をしたくないと介護の仕事を嫌がる方もいます。

介護ロボットは介護スタッフのさまざまな介助作業をサポートできます。

どのような介護ロボットが存在しているかは、以下の記事でご確認ください。

介護事業所で利用されているAI・ロボット9種 最新の導入割合と活用の方策

また、介護ロボットは身体介助のサポートだけでなく高齢者のメンタルケアとしての活用も注目されています。

どのようなメリットや懸念点があるのか、以下の記事も併せてご覧ください。

ソーシャルロボットは高齢者のメンタルケアとして受け入れられるのか 107人の介護施設関係者が語る

介護DXのメリットとは

各介護事業所がDXを取り入れた場合のメリットを見てみましょう。

介護スタッフのストレス低減

つくば国際大学の医療保健学研究によると、介護職に従事している方のストレス度合いは全国労働者の平均ストレス度合いに比べ、高いという結果が出ています。

仕事量の多さや拘束時間の長さに加え、自分のペースで仕事をコントロールしにくいことが原因です。

煩雑な事務仕事やルーティン業務の一部をIT が代行することで、介護スタッフの業務負担が減少し、ストレス低減が期待できます。

感染症の予防

高齢者が感染症に罹患すると、若年層がかかったときよりも重篤化する傾向が高まります。

2020年から続いている新型コロナウィルス感染症の心配はもちろん、冬場に多い感染性胃腸炎や、その他の感染症にも注意が必要です。

介護業務のデジタル化が進めば介護スタッフと利用者の直接接触が減り、利用者の感染症リスクが低減できます。

利用者の健康を維持するためにも、介護業務のDX推進が望ましいと考えられます。

適切な介護サービスの提供

介護サービスの提供によって得られた利用者のデータをAIに繰り返し学習させることで、利用者に最適な介護サービスとは何かを判定できるようになります。

ケアプランや訪問計画の作成時間が短縮できるとともに、利用者に不要・不適切な介護サービスを提供してしまう心配がなくなり、利用者・介護者ともに満足のいく介護が可能となります。

またDXにより介護スタッフがルーティン作業から生産的な業務に回れるようになれば、より人間味のある介護サービスが提供できるようになるでしょう。

介護業界で活用できるAI製品は、以下の記事でいくつか紹介しています。

「介護+AI」で何ができるか?介護施設向けAI商品提供企業10社を紹介

SDGsへの貢献

介護関連書類をデジタルデータにすると、紙書類のペーパーレス化が実現できます。

これによりゴミ問題の解決や地球資源の節約ができ、いま社会全体で求められている「持続可能な開発目標SDGs(エス・ディー・ジーズ)」への貢献が可能となります。

参考:外務省|SDGsとは?

介護業界がDXを推進することで、介護業界だけでなく社会全体・地球全体を良くする効果が生まれます。

日本政府が推進する介護のDXとは

DXによる働き方改革は、日本政府も非常に重視しています。

厚生労働省の「令和2年版厚生労働白書」によると、これから日本全体の高齢化がピークを迎え、介護の担い手である就業者の減少が見込まれる2040年頃に向けて、5つの視点から社会保障制度を考えていかなければならないと論じています。

その中でも必要とされている視点は、DXへの対応です。この先も社会保障制度を持続していくためには、財政確保とサービス提供面の強化に加えて、DXへの対応も欠かせません。

介護業界に広くDXを浸透させていくために、国ではこれからさまざまな補助金事業や制度を使って、推進を図るものと考えられます。

政府自らが取り組むDXの取り組み

政府が介護業界にDX対応を求めるとともに、もちろん政府・行政自身もDX対応への取り組みを開始しています。

例えば経済産業省では率先してDXを実践し、単なる文書の電子化だけではなく、蓄積されたデータを政策立案に役立てて国民と行政、双方の生産性向上を図っています。

参考:経済産業省|経済産業省のデジタル・トランスフォーメーション

今後は他の省庁も積極的にDX活用を推進し、介護業界だけでなく日本全体がDX推進に取り組み始めることでしょう。

【最新】介護DXの事例について

株式会社INTEP

「FG-001」の運用によって要介護者の身体機能データの記録が容易となり、リハビリプラン・ケアプランの効率的な作成に活用することができます。

https://www.intep.co.jp/service/features/

株式会社大塚商会

株式会社やさしい手、株式会社ワイズマンとの3社で「科学的介護総合支援プログラム キボウ」を共同開発しました。
介護DXの基盤作りを支援するソリューションプログラムです。

https://www.otsuka-shokai.co.jp/erpnavi/category/medical/sp/pdf/kibou-introduction-doc.pdf

Triple W Japan株式会社

排泄予測デバイス「DFree(ディーフリー)」は、センサーで取得したデータをモニタリングし、尿のたまり具合を表示して排尿を通知するシステムです。
また、起き上がりを検知する機能や排泄ケア記録の内容などもあり、介護施設・病院で利用されています。

https://dfree.biz/

株式会社aba

排泄ケアシステム「Helppad(ヘルプパッド)」は、介護用オムツの匂いをセンサーで検知し、AI解析を用いて排泄パターンを算出できるシステムです。
排泄トラブルを回避することによって、介護スタッフと要介護者双方の苦痛を防ぐことができます。

https://www.aba-lab.com/

一般社団法人気づきデータ解析研究所

介護アプリケーション「MIMOTE」は介護や保育などのヒューマンサービスを提供する上で生じた”気づき”をデータとして蓄積し、グラフに出力して介護士等の感覚的な”気づき”の”見える化”を可能にするシステムです。

https://www.kizkey.jp/kaigomimote/

介護DXの事例に関する詳細は以下の記事で説明しています。

介護DXを支援するIT企業5社と介護事業者がDXを推進する取り組みを紹介 | AIケアラボ

介護DXに取り組む際の注意点・課題

当サイトを運営するトライトグループで「介護事業者におけるDX実態調査」の調査を実施いたしました。

介護DXの課題

  1. 知識・ノウハウの不足

DXの分野はまだ世間に広まったばかりで、知識がある方もさほど多くなく、ノウハウもまだ蓄積されていない状況です。

  1. 予算不足

老人福祉・介護事業を営む法人の倒産した件数が増加しています。

小規模経営の介護事業者にとっては経営を続けるだけで手一杯となり、DXにかける費用が捻出できない可能性があります。

  1. 費用対効果の不明瞭さ・分かりにくさ

慣れたやり方から、IT技術を導入したやり方に変更するには時間がかかることや、DXによる業務の簡略化が実際の収益には結びつかないことによって、DXの恩恵が分かりづらい点が課題として挙げられます。

DXの課題を解決するために

  1. 介護事業所と職員の意識改革

それぞれの介護職員がIT技術を使いこなそうと思うようになるためには、介護事業者の運営について当事者意識をもち、自分たちでIT技術の活用方法等について勉強するような意識改革が必要になります。

経営者も同様にDXを勉強する意識を持ち、うまく職員を誘導できるように努力しましょう。

  1. 補助金・助成金の活用

介護事業者等が情報通信機器や介護ロボットを導入する際の費用は、国や自治体からの補助金が出ることがあります。

DXに伴う助成金は直接的ではありませんが、DXによって職場環境の改善が認められた際は、人材確保等支援助成金などの助成金を受給できる可能性があります。

DXの課題や解決法に関する詳細は以下の記事で説明しています。

介護従事者303名の声から判明した介護DXの課題と、解決に向けてできること | AIケアラボ

外国は介護DXをどう意識しているか

日本国内ではまだ社会に浸透しているとは言い難い「DX」ですが、外国ではDXをどう意識しているのでしょうか。

日本と同じように高齢化に悩むスウェーデンでも介護のDXを重要視しています。 オレブロ大学の研究者Katarina Baudin氏は、地方における介護DXの実態を調査しました。 

研究結果の詳しい内容は以下の記事でまとめていますので、日本とスウェーデンの意識の違いから、今後DXを考える上でのヒントにしてください。

外国の介護DX〜スウェーデン編~介護現場の意識調査から学ぼう

まとめ

今回はDXとは何かを説明しながら、介護とDXの関わりについて解説しました。

DXの推進により、いま介護業界が抱えている多くの課題を解決できる可能性があります。

ただ単にIT技術を導入するだけでなく、テクノロジーの恩恵によって人間の働き方はどう変わるか、どう変えていくべきかを考えてみましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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