フランス発ケア技法「ユマニチュード」の方法 4つの柱と5つのステップ

フランス発ケア技法「ユマニチュード」の方法 4つの柱と5つのステップ

最終更新日 2022.11.22

この記事の要点

  1. ユマニチュードは1979年にフランスで生まれた介護技法
  2. ユマニチュードの具体的な手法は「4つの柱」と「5つのステップ」
  3. ユマニチュードの実践により介護者と要介護者が良い関係を築ける
  4. AI(人工知能)が認知症とユマニチュードに役立てられている

認知症高齢者の介護を円滑に行うためのケア技法「ユマニチュード」をご存じでしょうか。

フランスで生まれたユマニチュードが、いま介護業界で注目されています。

今回はユマニチュードの概要と具体的なケアの方法、ユマニチュードの実践によりどのような良い効果が生まれるかについてわかりやすく解説します。

ユマニチュードとは

ユマニチュード(Humanitude)はフランス語で「人間らしさを取り戻す」を意味した造語です。

1979年にフランスの体育学専門家であるイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏の2人が考案したケアメソッドの名称として名づけられました。

そのケアメソッド「ユマニチュード」は、認知機能が低下した高齢者にケアを穏やかに受け入れてもらうために考えられた、シンプルで分かりやすい技法です。

日本では2012年に東京医療センター内で研修会が開催され、はじめて日本の介護でユマニチュードのケアが実践されました。

その後2019年7月には一般社団法人 日本ユマニチュード学会が誕生し、日本国内におけるユマニチュードのケア哲学と技法の普及・浸透・研究に努めています。

参考:一般社団法人 日本ユマニチュード学会

介護にユマニチュードを取り入れるメリット

認知機能が低下した方の介護をしようとした際、相手からケアを激しく拒絶されるケースがあります。これは認知症の方が周囲の状況が理解できずに不安感を抱いているため、また、ケアに際して自らの尊厳がそこなわれたと感じたためなどが主な理由として挙げられます。

円滑に介護を実施するためには、ケア対象をひとりの人間として尊重し、平等な立場で相手の手助けができるよう心がけなくてはいけません。

介護にユマニチュード技法を採り入れることで、ケアされる側は不安感や怒りを感じずに介護者に身を任せることができ、穏やかに介護ができるようになります。

ユマニチュード技法の「4つの柱」

介護者がいくら心の中で相手のことを大事だと思っていても、それが伝わらなくては意味がありません。

そこでユマニチュードでは介護技術を見る・話す・触れる・立つの「4本の柱」に分け、相手への気持ちを伝えるための具体的なやり方を定義しています。

以下からはユマニチュード技法の4つの柱をそれぞれ説明していきます。

見る技術

ケアするときは相手に近づき、相手の正面を見るようにします。

上から見下ろすとケアする相手に威圧感を与えるため、必ず相手と視線の高さをあわせ、自分が相手と「平等であること」「親しい関係であること」「相手に対して正直であること」を、視線のメッセージとして相手に伝えます。

話す技術

ケアの最中は無言で行わず、対象者に話し続けることが大切です。

ユマニチュードでは自分が実行しているケアについて前向きな言葉で実況する技法を「オートフィードバック」と呼びます。常にケアについて相手にオートフィードバックすることで、ケアされる側にも安心感が生まれます。

また話しかけ方も、できるだけ低めの大きすぎない声を心がけ、相手に威圧感を与えないようにしましょう。

触れる技術

身体介助を行う際に相手の身体に触れるときは、相手に不安感を与えないために感覚が比較的鈍感な部位(肩・背中など)から触れ始め、広い面積で触れるようにしながらゆっくりと鋭敏な部位(顔・手など)に移行していきます。

掴む行為はケアする相手の自由を奪う行為にも捉えられるため、認知症行動心理症状のきっかけになる可能性があり厳禁です。

立つ技術

ケアの前後や途中段階で、相手に「立つ時間」を与えることもユマニチュードの技法のひとつです。

イヴ・ジネスト氏は、立つ能力を保つためには1日に合計20分間の立つ時間が必要だと考えています。

転倒しないようしっかりサポートしながら、自分の足で立ったまま洗面をしてもらったり、トイレや食堂などに無理ない範囲で歩いて移動してもらうことで、少しずつ立つ時間が確保できます。

ユマニチュードの「5つのステップ」

ユマニチュードの実際のケアでは、以下5つのステップによりケアが1つのストーリーになるように行うことが望ましいとされています。

ステップ1 出会いの準備

ケアする方の居室に入るときはあらかじめノックや声かけをし、許可を得てから入室します。

ステップ2 ケアの準備

ケアする方に正面から目線を合わせて対話し、自分が相手のケアをするために訪問した旨と、どのようなケアを行うかを説明します。

相手の合意が得られないときには直ちにケアに入らず、一定の時間を置いてから再度ケアについて説明し、必ず合意を得てからケアを開始します。

ステップ3 知覚の連結

上記で説明した「4つの柱」に基づきケアを実践します。ケアの最中には常にオートフィードバックを行い、ケア対象が自分にとって大切な存在である旨を相手に伝え続けるようにします。

ステップ4 感情の固定

ケアの終了時には、今回行ったケア内容が相手にとって有意義であったこと、自分が相手のケアができて嬉しかったことなどを前向きな言葉で表現し、ケアを「良い体験」だったと相手に認識してもらいます。

ステップ5 再会の約束

自分がケアする方の居室を去る前には「また来ますね」「大好きだよ」などの声かけを行い、次のケアを受け入れてもらうための準備をします。

ケアする相手が再会の約束を記憶できなかったとしても、ポジティブな感情は残り、次のケアをする際に受け入れられやすくなります。

ユマニチュードによる介護の効果

ユマニチュードによる介護を実践した場合、以下のような良い効果が生まれると考えられます。

認知症の改善

認知症の進行は脳の機能低下が原因なだけでなく、本人の性格や周囲の環境も影響しています。

ユマニチュードの実践により介護者との会話やコミュニケーションの回数が増えれば、内向的になっていた性格が外交的になり、認知症の進行を遅らせたり、ある程度改善される可能性があります。

介護者・要介護者の精神安定

ケアされる側にとって、自分の意に沿わない介護は大きなストレスです。

また逆にケアする側にとっても、介護するときに相手から拒絶されればストレスを感じてしまいます。

ユマニチュードで介護者と要介護者が良い関係を築ければ、お互いのストレスが減り、次の介護に向けても良い流れが作れるようになります。

介護職員の離職率低下

ユマニチュードの実践により介護施設で働く介護職員の離職率が低下すると考えられます。

実際に、2018年よりユマニチュードを介護の技法として取り入れているそんぽの家隅田公園では、職員の間にユマニチュードが定着するに従い施設全体の雰囲気がとても良くなり、スタッフの離職率が低下したとの報告が出ています。

参考:日本ユマニチュード学会|第 2 回日本ユマニチュード学会総会抄録集

常にユマニチュードを意識したケアを実践することで、職員同士の会話でもポジティブな声かけを行えるようになり、お互いに褒めあう文化ができたとのことです。 

介護職員の離職理由1位は「職場の人間関係」が原因として挙げられるため、ユマニチュードの実践はケア対象に対する良い効果だけでなく、介護職員の離職防止の効果も得られます。

介護職員の離職理由について詳しくは以下の記事にも記載しています。

最新調査から探る介護職員の離職理由 長く働いてもらうための解決策とは

ユマニチュードを実践した医療機関の事例

ユマニチュードは介護業界だけでなく、医療機関でも実践されています。

徳島県の社会医療法人 凌雲会は平成28年にグループ病院である稲次整形外科病院において看護師・介護士・リハビリスタッフ68名にユマニチュード研修を行い、その研修結果をレポートにまとめています。

参考:凌雲グループ|認知症患者に対するスタッフの意識を変えよう!~認知症ケア技法ユマニチュードを用いて~

ユマニチュード研修後には同病院で働くスタッフが認知症の患者に対して「言葉遣いが丁寧になった」「視線を合わせることを意識するようになった」「メッセージを伝える技術を実践した」など、対応方法に変化が生じたと報告されています。

認知機能が低下している高齢者は、自宅や介護施設だけにいるとは限りません。医療機関に勤務している介護職やその他のスタッフも、認知症およびユマニチュード技法を広く学んでいくべきだと考えられます。

ユマニチュードにAIを採り入れる研究が進行

認知症高齢者の介護に良い効果をもたらすと言われているユマニチュードですが、実際に介護にあたる方がユマニチュードを実践できているかどうかは、第三者からはなかなか判断できません。

京都大学の研究チームはデジタル技術のAI(人工知能)を使い、介護者が本当にユマニチュードを実践できているかどうかを評価する仕組みを考えました。

詳しい研究の内容と研究結果は以下の記事で詳しく紹介していますので、あわせてお読みください。

優しさを伝える介護スキルの習熟度を「AIで評価する」手法を京都大学研究者らが開発

上記の研究はユマニチュードの4つの柱のうち「見る技術」のみが評価対象でしたが、今後は他の技術においてもAIの力で検出・分析できるよう研究が進められています。

認知症の予防・診断・介護にもAIを活用

AIがユマニチュードの評価だけでなく、認知症の予防・診断、そして介護のさまざまなシーンにおいて活用できるよう、日々世界中の研究者が研究を進めています。

また、すでにAIが搭載されたIT製品が日本にも登場し、介護の現場で役立てられているようです。

現在進められている認知症とAIの研究や、AI搭載製品について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

日本と世界で研究が進む介護へのAI活用 認知症高齢者に役立つAI技術とは

まとめ

今回は認知症高齢者のケア技法「ユマニチュード」について解説しました。

介護にユマニチュードを採り入れると、ケアされる認知症高齢者だけでなく、ケアする介護者自身にも良い効果が生まれます。

今回の記事を参考にしながらユマニチュードにチャレンジし「優しい介護」の実現を目指しましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
フォローする