介護職に必要なマネジメントスキルとは?職種とマネジメント方法を解説

介護職に必要なマネジメントスキルとは?職種とマネジメント方法を解説

最終更新日 2022.11.18

この記事の要点

  1. 介護業界で「マネジメント不足」が重要視されている
  2. 介護スタッフがそれぞれの能力を最大限に発揮するためにはマネジメントが不可欠
  3. 介護福祉士もマネジメントスキルを発揮することが期待されている

※この記事は「介護予防ケアマネジメント」に関する記事ではなく、一般的な組織マネジメントに関する記事です。 

これからの介護事業所には「マネジメント」の強化が不可欠だと言われています。

しかし介護にとってマネジメントはどのような役に立つのでしょうか。マネジメントを強化するために具体的には何をすれば良いのでしょうか。

今回は介護とマネジメントスキルについて詳しく解説します。

介護業界のマネジメント不足

いま介護業界の課題とされていることのひとつに「マネジメント不足」が挙げられます。

厚生労働省の「介護サービス施設・事業所調査」によると、2016年時点で介護職に従事する方の数は約183万人とでており、要介護認定者の増加に伴い年々増えていくことが予想されます。 

しかし労働者全体の数は増えていても、実際に各介護事業所で働く上では介護の経験が足りない新人スタッフと、介護福祉士などの資格を持つベテランスタッフが同じ業務にあたっていることが多く、それぞれの能力を十分に発揮できているとは言い切れない状況です。

介護スタッフのそれぞれの能力を見極め、適切な場所に配置するマネジメント力が、介護業界全体にも求められています。

介護業界で必要とされるマネジメントとは

それでは介護業界では、どのような形でマネジメントが必要になるのでしょうか。

介護事業所では複数のスタッフがチームを組んで介護業務にあたっていますが、それぞれの介護スタッフには「できること・できないこと」があります。

それぞれのスタッフが有している知識や技術、能力に応じて仕事の割り振りをしなければ、業務が非効率になり、望ましい介護サービスを提供できません。

介護事業所におけるマネジメントとは、各介護事業所で働くひとりひとりの介護スタッフが最大限の能力を発揮できるようにするための手立てなのです。

さらに介護事業所が適切なマネジメントを行えば、介護スタッフの従業員エンゲージメントの強化にもつながります。

「従業員エンゲージメント」については以下の記事で、最新の研究結果も含め詳しくご紹介していますので是非あわせてご覧ください。

いま「従業員エンゲージメント」に注目したい理由 経営テクノロジーの最先端を介護業界に

介護マネジメント職とは

介護業界では一般的に、以下の立場や職種にある方がマネジメントの役割を担っています。

サービス提供責任者

サービス提供責任者は訪問介護事業所の運営責任者です。ケアマネージャーが作成したケアプランに基づいた介護サービスが滞りなく提供できるよう、ホームヘルパーのマネジメントを行います。

医療機関やケアマネジャーとの連携も、サービス提供責任者のマネジメント能力が発揮される場です。

施設長

訪問介護事業所のトップをサービス提供責任者と呼ぶように、介護施設のトップは一般的に施設長、または施設管理者・責任者などと呼ばれています。

介護施設全体を管理し、施設利用者が介護サービスを滞りなく利用できるようにマネジメントする重要なポストです。

またサービス提供責任者と同じく、医療機関やケアマネジャーと連携を図る役割も担っています。

エリアマネージャー

複数の介護事業所を運営している介護福祉法人や企業では、複数拠点を一括してマネジメントするエリアマネージャーを設置しているケースもあります。

チームリーダー

介護される側にとって、もっとも身近な存在となるマネジメント職がチームリーダーです。

現場の状況をよく知った人材がマネジメント職に就くことで、実情に沿ったマネジメントがしやすくなります。

このチームリーダー職には介護福祉士があたることが期待されています。介護福祉士とチームリーダーの関係については後ほど詳しく説明します。

介護福祉士に求められるチームマネジメント

いま、介護業界では介護福祉士のマネジメント強化が求められています。

冒頭で説明した介護業界の課題をクリアするためには、一定のキャリアを積んだ介護福祉士がチームリーダーの役割を担い、利用者の多様なニーズに対応できるチームケアを推進していくべきだとの考えです。

上の役割を介護福祉士が担うためには、介護福祉士に以下の能力開発が必要であると考えられています。

介護実践者としての能力・観察力・判断力・業務遂行力・多職種連携力
介護技術の指導者としての能力・指導力
チームのマネジメントをする能力・マネジメント力・多職種連携力・改善力

また、2019年には介護福祉士養成課程の教育内容が改定され、下記の内容が追加されました。 

・チームマネジメント能力を養うための教育内容の拡充 
・対象者の生活を地域で支えるための実践力の向上 
・介護過程の実践力の向上 
・認知症ケアの実践力の向上 
・介護と医療の連携を踏まえた実践力の向上 

介護福祉士のマネジメントスキル養成に国も注力していることがわかります。 

マネジメントの仕事内容

介護事業所で必要となるマネジメントの仕事内容は以下のとおりです。

  • 勤務シフトの作成
  • スタッフの業務チェック、指導
  • 新人スタッフの教育、育成
  • 連絡事項の伝達
  • スタッフの相談応対
  • 利用者の相談応対
  • 利用者家族の相談応対
  • 介護ボランティアの受け入れ、育成
  • 研修の企画、開催
  • 行事の企画、開催
  • 介護サービス内容見直しの検討、提案
  • 業務内容見直しの検討、提案

ただし職域により、以下仕事のすべてを行うとは限りません。複数人のマネジメント職が分担して仕事を担っている介護事業所が多いでしょう。

マネジメントで求められるスキルとは

介護事業所等でマネジメントを行う場合には、本人の介護業務スキルではなく、以下のマネジメントスキルが求められます。

  • 目標の設定・管理スキル
  • コーチングスキル
  • コミュニケーションスキル
  • 評価スキル

それぞれのスキルについて詳しく見ていきましょう。

目標の設定・管理スキル

介護事業所等の目的は「適切な介護サービスの提供」ですが、目的を果たすためにはより具体的な目標をたてて、ひとつひとつクリアしなければいけません。

実現可能な目標設定と、達成までのスケジュール管理をして介護スタッフを導く必要があります。

コーチングスキル

コーチングスキルとは、相手の力を最大限に発揮するためにアドバイスしていくために必要なスキルです。

「コーチ」の言葉から指導能力を連想する方がいますが、コーチングではコーチが「指導」はしません。相手が答えに自ら気づけるようにサポートしていく作業がコーチングです。

コーチングスキルを十分に発揮して介護スタッフのコーチングを行えば、相手の介護スタッフは自分の能力に自信を持ち、より一層生き生きと働けるようになります。

コミュニケーションスキル

コミュニケーションスキルはマネジメント職でなくても、すべての方に必要なスキルと言えます。

しかしマネジメントを行う立場としては、さらに高いコミュニケーションスキルが必要となります。コミュニケーションが苦手な相手に対しても、心理的安全性を感じてもらい、発言しやすい職場環境を作ることが重要です。

そのためにもコミュニケーションスキルとともに、マネジメント職では相手の話を聞きだす力(ファシリテーションスキル)も求められます。

評価スキル

マネジメントをされた各介護スタッフが、指示に基づき最大限の能力を発揮したときには、それを適切に評価するスキルも必要です。

マネジメント職にある方は公平かつ客観的な視点で、チームや個人の成果をしっかりと評価しなければいけません。

仲の良さや好き嫌いなどの感情から評価基準を変えてしまうのはご法度です。

マネジメント職へのキャリアアップ方法

介護福祉士がマネジメント能力を強化し、マネジメント職にキャリアアップしていくためには、研修の受講が近道です。

公共・民間ともに、現在いろいろな介護福祉士向けのキャリアアップ研修が開催されています。研修でマネジメントを学べば、チームリーダーへの早い昇格も期待できます。

主な介護福祉士向けキャリアアップ研修

介護福祉士ファーストステップ研修(主催:公益社団法人 日本介護福祉士会)

URL:https://www.jaccw.or.jp/projects/firststep

認定介護福祉士養成研修(主催:一般社団法人 認定介護福祉士認証・認定機構)

URL:http://www.nintei-kaishi.or.jp/certification/curriculum.php

介護職員チームリーダー養成研修(主催:各自治体)

※各自治体のホームページよりご確認ください。 

キャリアアップの環境をどう整えるべきか

介護福祉士がマネジメントを学び、チームリーダーへキャリアアップしていくためには、介護事業所等の経営者が各介護福祉士のキャリアアップ環境を整えていかなければなりません。

上記で説明したキャリアアップ研修の受講を勧めるなどして、介護福祉士がチームリーダーにチャレンジしてみようと思えるような環境作りをしていきましょう。

従業員のキャリアアップを支援した介護事業所等は、人材開発支援助成金などの助成金が国から受け取れます。助成金については以下の記事を参考にしてください。

介護関連の助成金まとめ 介護事業所向け・在宅介護者家族向けにわかりやすく紹介

まとめ

マネジメントがうまくいっている介護事業所では、それぞれの介護スタッフが生き生きと働き、良い介護サービスが提供できている傾向にあります。

反対にマネジメントがうまくいっていない介護事業所では介護スタッフのモチベーションも低下し、介護サービスの質もが上がりにくいでしょう。また、介護スタッフのモチベーションの低下は離職にもつながり、決して望ましい事態ではありません。

介護の現場を良くするも悪くするもマネジメント次第だと認識し、的確なマネジメントができるよう体制を整えていきましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
フォローする