コンピュータゲームが認知症に非常に有効かもしれない件について。

コンピュータゲームが認知症に非常に有効かもしれない件について。

最終更新日 2022.11.14

正直言って、「ゲームは悪いこと」だと教育されている家庭は、少なくないと思います。

その理由には、ゲームのやりすぎで、他のことが手につかなくなったり、ゲームの世界と現実の世界を混同してしまったりすることへの危惧があります。

しかし裏を返せば、ゲームが人の脳を刺激して、集中状態を作り出すことは、疑いようのないことです。この魔力を、うまく利用したいとは思いませんか?

今日のテーマは「ゲームと認知症」です。


この記事の要点

  1. コンピュータゲームが認知症のリスクを減らせるかを検討した研究がある
  2. 高齢者に7日間ゲームをプレイしてもらうと、多くの被験者で認知機能テストの成績が向上した
  3. コンピュータゲームが認知機能の改善に有効な可能性がある

高齢化の進んでいる国だからこそ

体を動かさなければ次第に体力が落ちていくように、脳も刺激を与えられなければだんだん機能が衰えていきます。コンピュータゲームをすることで脳を刺激して、認知機能の低下を防ぐことはできないか?という研究があります。

研究を行ったのは、インドネシアのUdjajaらのグループです。インドネシアでも人口の高齢化は進んでおり、2016年の時点ですでに総人口2億6000万人のうち2100万人(約8%)を高齢者が占めていて、その後も急速に増加が続いているようです。

★この記事で参照している科学論文の情報

著者:Yogi Udjaja, Reinert Yosua Rumagit, Wikaria Gazali, Jonathan Deni
タイトル:Healthy Elder: Brain Stimulation Game for the Elderly to Reduce the Risk of Dementia
URL:doi.org/10.1016/j.procs.2020.12.013

それに伴い、認知症の患者も増えています。同国のアルツハイマー協会は、認知症のリスクを下げるための5条件を挙げています。

認知症のリスクを下げる5条件

①心臓の状態を健康に保つ

②体を動かす

③果物や野菜を摂る(バランスの良い食事)

④脳を刺激する(身体的・知的・精神的に)

⑤社会とのつながりを保つ

Udjajaらは、このうちの④に着目しました。高齢者にゲームをしてもらうことで脳を刺激し、知的能力を維持したり記憶力を回復したりすることにつながらないか、と考えたのです。

ところで、ゲームをすることが本当に脳に良いのだろうか?という疑問を持つ人もいるかも知れません。以前、日本では「ゲーム脳」という言葉が流行したことがあります。最近では「ゲーム依存」という言葉もよく耳にします。どちらもゲームに対する否定的なイメージをもたらします。

しかしこれとは逆に、ゲームをプレイすることは脳への刺激になり、認知能力の向上につながるかもしれない、という考え方もあるようです。

ゲーム画面を見ながらコントローラを操作するということは、右手と左手を同時に、しかも目から入ってくる情報と協調させながら動かすという、複雑な課題をこなすことになります。必然的に、脳の複数の領域を連動させつつ働かせることになります。Udjajaらは、ゲームをプレイすることで視覚能力や意思決定能力が高まったり、脳の左半球と右半球のバランスや連携が向上する可能性に着目しています。

7日間、毎日ゲームをしてもらった!

介護施設に入所している高齢者30名(56~77歳)が被験者となりました。7日間、毎日コンピュータゲームをプレイしてもらい(1日あたり1時間以内)、その期間の前後での認知機能の変化を調べました。ゲームは既成のものではなく、研究チームが独自に作成したゲームで、高齢者向けに次のような配慮がなされているとのことです。

・淡く落ち着いた色彩を用いる

・オブジェクトやテキストのサイズは大きめに、見やすくする

・素早い動きや入力は必要としない

・プレイ上の厳しいタイムリミットを設けない

・BGMや効果音は穏やかなものを用いる

効果の判定は、別の記事でも紹介した「MMSE」という認知機能検査が用いられました。

MMSEは、認知機能を30点満点で点数化する簡単な心理検査です。認知機能障害の程度を、以下のスコアで判別しています。

  • 27点以上で正常
  • 18~26点なら軽度
  • 10~17点なら中等度
  • 9点以下なら重度

その結果・・・・

そして、被験者30名の結果は下表の通りとなりました。

青枠で囲った「Pre-test」は、ゲームをする前の、被験者のスコアです。
赤枠で囲った「Post-test」が、ゲームをした後の、被験者のスコアです。

30名中、19名でMMSEのスコアが上昇しています。9名では変化なし、2名はスコアが低下しましたが、この2名は期間中あまりゲームをプレイしなかった被験者だそうです。

結果的には、ゲームをプレイしたことで認知機能がいくらか改善した人が多かった、と言えそうです。ただし、30名のほとんどは認知機能が正常か軽度低下レベルの人で、重い認知症患者は全く含まれていないこと、さらに年齢層が56~77歳で、日本でいう「高齢者」のイメージよりもやや若い世代であることには注意が必要です。

今後の可能性に、要注目!

この研究では、短期的な効果のみに着目していること、被験者数が少ないこと、統計学的な検討が十分にはなされていないなど、研究デザイン上の限界がいくつかあります。したがって、今回の結果だけで「コンピュータゲームが認知機能を向上させる」「認知症を予防する」と結論づけるのは早計かもしれません。

しかし少なくとも、ゲームに認知症リスクを下げる効果がある「可能性」を示唆した点は評価できそうです。この領域の今後の研究展開に注目したいところです。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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