ケア業界のパイオニアに道を訊くインタビュー企画、第15弾です。
今回は、介護離職を防ぐ「顧問介護士」を運営する一般社団法人 日本顧問介護士協会の西山さんにお話を伺いました。
記事の要点
- 介護離職を防ぐためには「顧問介護士」の導入が効果的
- 本格的な少子高齢化を迎えるこれからの時代は介護離職の対策が必須
- 顧問介護士協会として、「介護支援推進(優良)企業」の認定マーク付与を進めていきたい
一般社団法人 日本顧問介護士協会 西山氏のプロフィール
プロフィール

西山 猛司(にしやま たけし)氏
一般社団法人 日本顧問介護士協会 専務理事
1975年生まれ。静岡県静岡市清水区出身。
1994年静岡県立清水東高等学校卒業、1998年信州大学工学部社会開発工学科建築コース卒業。建設会社で建築現場で現場管理業務、食品飲料メーカー企業で量販店向けの営業業務を経て、その後、人とのご縁から介護事業を運営する企業に入社。20を超える介護保険サービス事業所を運営し、事業所立ち上げから行政実地指導立ち合い、地域住民説明会、職員面接から育成など運営に関わるすべてを現場責任者として行ってきた。数年前から現職となり、これまで培ってきた経験を活かし、介護ビジネスコンサルタント、人財育成研修、コミュニケーションスキルアップ研修や講演を行っている。
西山さんへのインタビュー
日本顧問介護士協会 西山さんへのインタビューをお楽しみください。
介護のことで困る人と困る量を圧倒的に少なくしたい。
——早速ですが、「日本顧問介護士協会」についてご紹介いただけますか?
まず私たちが考える課題のお話になりますが、本格的な少子高齢化を迎えるに当たって、貴重な従業員が介護離職してしまうと、企業様にとって業績悪化や存続の危機に陥る可能性があります。また、採用が難しい時代になってきているため、離職率を下げることが必須になると考えました。
そのため、「仕事と介護の両立」「身近な人の介護があっても安心して働き続けられる」という介護離職を防止する、企業向けの福利厚生サービスを提供しています。「介護で困る人と困る量を圧倒的に少なくすること」を目的に日本顧問介護士協会は活動しております。
また、「介護離職を防ぐこと」と「仕事と介護の両立」がSDGsの活動やダイバーシティ(多様性)にも繋がると考えており、介護があっても安心して働ける企業風土を作ることが、今の時代に即していると考え、これからの時代にますます必要になると予想されます。
提供しているサービスの内容としては、弊社で選定・育成した顧問介護士による従業員向けの介護セミナーや365日介護コンシェルジュをしております。具体的には、貴重な従業員に介護が必要になったときに、介護の申請の仕方、サービスの選び方、介護と仕事の両立のさせ方、遠方のご両親に何かあった時の対応など、介護に関するお困りごとをワンストップで解消するサービスとなっております。

——「日本顧問介護士協会」を立ち上げられたきっかけを教えていただけますか?
介護に関することで悩んでいる方を一人でも多く救いたいと考え、立ち上げました。
運営メンバーは15年ほど介護施設を運営していた経験があり、実際に介護サービスを提供する側でした。有料老人ホーム、グループホーム、デイサービス、訪問看護など様々な介護サービスを提供していたため、介護に困るお客様やその家族と多く接してきました。その中で、どの分野で困るのか、どのような準備をしておけば困らずに済むのかということについてある程度把握できました。
介護をすると介護者が抱え込みがちになり、大変さや苦しさを共感してもらえないことが多くあります。介護に困っている家族の方が鬱になることや元気をなくされてしまう事例をたくさん目の当たりにしてきました。そのため、どうにかして介護による鬱や元気をなくされることを防ぎたいと考えました。
しかし、どうにかして事前に介護に関する情報を届けたいという思いがありつつも、本業の介護サービスを提供しているため、他の事業をできない状況にありました。
そんなときに、2021年に介護離職が大量発生するという本を読み、これから介護で困る人が増えていくならどうにかして事前に介護に関する情報を届けなければならないと考え、本協会を立ち上げました。


——顧問介護士の役割について教えていただけますか?
顧問介護士の役割は、身近な人の介護が始まっても継続して仕事ができるように徹底的にサポートし介護離職を防ぐことで、企業を未来へ運ぶ「仕事と介護の両立支援の専門家」です。
介護をきっかけに気付くお困りごとはたくさんあり、相続や信託のことについて考えるきっかけになることがあります。そんな方のために、弁護士の方や司法書士の方をお繋ぎして、ワンストップでお困りごとの解決を提供しています。
介護セミナーを定期的に開催したり、会員様限定のウェブサイトを運用したり、介護コンシェルジュという形でLINEや電話・メール等で相談を受けるなどしております。

——顧問介護士の方は全国にいらっしゃいますか?
現在は東京と静岡だけですが、ネット環境さえ整っているのであればご自宅でできる仕事になっております。そのため、例えば兼業が認められている方であれば、昼間はデイサービスや介護事業所などで働き、休日の3時間だけ顧問介護士として活動するなどの事例を増やしていくことができれば、今後は全国に顧問介護士を増やしていけるのではないかと考えております。
ただ、顧問介護士に求めるスキルも多くあり、顧問介護士になるためには事前に適性テストを行っております。ご利用者様のご相談に回答するとなると、知識や経験がないと対応は難しいです。また、LINEを使って文字でお伝えするため、更に求めるスキルがあります。それらを0から育成するとなると時間がかかってしまうため、事前に顧問介護士の適正テストを受験していただき、合格した方のみ研修を受講していただくこととしております。そのため、顧問介護士になる最初のハードルは少し高いかもしれません。
——顧問介護士のメインターゲットについて教えていただけますか?
どこの企業にとっても必要なサービスであると考えます。子育て環境の整備をされている企業は多くありますが、介護との両立の体制を整備している企業はほとんどありません。ですので、どの企業にとっても必要なサービスであると考えていますが、その中でも中小企業様をメインターゲットとしております。特に労働集約型事業をされている企業様には是非ご利用いただきたいと考えております。
例えば、運送業やタクシーのドライバーさんが急に介護離職してしまうと、その人が請け負っていた部分の売上が減ってしまいます。他にも建築現場の職人さん、システムエンジニア、警備員等の離職者の代わりとなる人を探すことが難しい仕事で従業員が介護離職してしまうと、仕事が受けられない、あるいは他の人にしわ寄せがいくことがあります。1人でも介護離職することで大きな影響が出てしまう企業では介護離職は防いだ方がよいのではないかとご提案しております。
また、介護に直面する年代は40代後半から50代の方が多いため、経験、知識、営業力、育成力などが豊富な年代に当たります。この年代の方の離職は大きな損失に繋がり、業績に直接影響が出る可能性もあります。この年代を留めておくためには介護離職の防止が必要であると考えます。
介護離職者を出さず、優秀な人材が安心して働き続けられてかつ優秀な人材が集まる両立環境を整え、企業がさらに発展していくために「顧問介護士を導入して来たるべき未来に備えましょう!」という提案を行っております。
他にも、健康経営や人的資本経営が叫ばれ始めている時代でもあるため、人材の定着率や採用向上率を高め、企業イメージをさらに高めたいという大手企業様にとっても、顧問介護士を導入することで、従業員に与える影響はもちろんですが、介護支援に関する取組を外部に発信することによる企業イメージ向上、ESGスコアの向上に繋がっていけばいいと考えております。
具体的な外部に発信する取り組みとして、「介護支援推進(優良)企業」認定マークを当協会で独自に作成し、仕事と介護の両立の環境整備に特化した基準を策定しました。この認定マークがあることによって、企業イメージ向上や採用効率の向上に繋がるのではないかという考えのもと、2022年9月からスタートしました。健康経営の基準ではワークライフバランスや育児等について記載がありますが、介護分野においてはまだ具体的な基準が定まっていないため、見える化をするためにいち早くこの取り組みを開始しました。

