NPO法人グレースケア機構 代表 柳本氏 | インタビュー第21弾

NPO法人グレースケア機構 代表 柳本氏 | インタビュー第21弾

介護保険制度にプラスしてケアがしたい

——柳本さんはどうしてグレースケアを起ち上げようと思われたのでしょうか。

柳本:介護保険というのは、どうしても「やれること」が限られてしまうと感じていました。

例えば介護保険を使ったサービスでは、同居のご家族のための料理や掃除をしてはいけない、庭の手入れやペットの世話など、家の外のことや、日常生活を超える範囲の援助を行ってはいけません。

生活のなかで厳密な切り分けは難しいので、どうしても利用者様には不満が残ります。

——本当はしてあげたいのにできないというのは、伺っているヘルパーさんも辛いですよね。

柳本:そうなんです。ヘルパーさんの方も手足を縛られたような状態で、断るのが仕事みたいになることもあります。

時間にも制限がありますから必要最低限のケアに追われてしまいますし。

いま介護の人材不足が叫ばれていますが「介護の仕事自体が面白くない」というのも理由の1つに挙げられるのではないかと思っています。

社会保障の財政が厳しい…との理由もわかりますが、私が介護の仕事を始めた90年代から比べても、どんどん窮屈になってきていると感じています。

報酬を抑制するために、限られた時間でさまざまなケアをしなければならなくなる、すると、ケアの質を高めづらくなり、結果として介護職は安い報酬のままでよいという悪循環が繰り返されています。この課題を自費と制度の組み合わせにより解決したいと思い、グレースケアを起ち上げました。

——利用者様のためだけでなく、介護に従事する働き手のためも考えてのことだったんですね。

柳本:新しい仕組みを取り入れてケアの担い手を増やし、人材不足を改善して、社会的なケアインフラの充実につなげたい、というのがNPOの目標でもあるんです。

要介護者の「普通に愉しい生活」を実現する自費サービス

——自費サービスについてもう少し詳しくお聞かせください。

柳本:「介護」というと、多くの人は食事・入浴・排泄といった身体的なサービスを連想しますよね。それもとても大事ですが、人の暮らしはそれだけでは成り立ちません。もっとのびのびと、普通に愉しめる生活が大切です。

——自費サービスによって、もっとのびのびとした生活が送れるようになるんですね。

柳本:グレースケアが特にこだわっているところは「地域に根ざした在宅介護サービス」なんですが、それは利用者様の「自宅で過ごしたい」という希望が非常に多いからでもあります。

介護施設の中には集団で画一的なサービスになってしまう施設もありますし、病院はどうしても医療的な管理が中心になります。

それぞれの人の暮らしにできるだけ合わせた個別ケアを自費サービスにより行えれば、利用者様も満足できますし、訪問ヘルパーも単に作業をこなすだけではなく、ヘルパー自身の個性や経験、スキルを活かしたケアができて、仕事のやりがいが持てるようになります。

人生を変えた言葉「柳本くんは不自由だね」

——柳本さん自身のことについてお聞かせください。柳本さんはいつから介護業界に関わりを持つようになったのですか?

柳本:私は大学で社会学を学んでいて、フィールドワークと称していろいろな社会課題の現場に行くことが多かったのが始まりです。

介護には興味なかったのですが、先輩から「タダでご飯が食べれる家があるぞ」と言われ、不純な動機で行きました(笑)

その家には、脳性まひによる重度の障害を持った1人暮らしの中年男性がいて、確かにご飯は食べれるのですが、ボランティアとして料理を作って、一緒にお酒を飲んだり鍋を食べたり、夜は泊まりで介助していたりしたんです。

そんなある日、その男性に説教されました。

——説教ですか?

柳本:「柳本くんは不自由だね」って。

私としては身体の不自由な方の所にお世話に行ってるつもりなのに、逆にこっちが不自由だって言われたんです。

——その男性は、どのような意味で柳本さんに不自由だと言ったのでしょうか?

柳本:当時の私は、何でもより効率を上げていくこと、能力を高めて人よりも優れることがいいことだと考えている面があったんです。

それは健常者の価値観に囚われている、そこが不自由だと叱られました。

言われたときは何のことかわかりませんでしたが、だんだんその教えにはまっていったんです。「自立とは依存先を増やすこと」「今日も順調に問題だらけ」など障害者の暮らしに関わると、人の多様性を心底、実感として学ぶことができますし、実は自分が自由に生きやすくなるという感覚がありました。

その後1995年に阪神淡路大震災があり、現地で被災地支援を行ったりしました。

大学卒業後は、介護・保育の人材会社に入り、ヘルパーさんの養成や派遣を担当して、介護保険前に有資格の担い手を増やしました。

その後、障害者の作業所や自立生活運動などで介助者として働いたり、米国で就労支援のNPOでインターンをしたり…

2001年からは、地元の老人保健施設と認知症グループホームで高齢者介護の現場を7年半経験した後、いまのグレースケア設立に至ります。 

——柳本さんが介護をいろいろな側面から見てきた経験が、今のグレースケアにつながっているんですね。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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