ダイハツ工業株式会社 コーポレート統括本部 岡本氏 | インタビュー第27弾

ダイハツ工業株式会社 コーポレート統括本部 岡本氏 | インタビュー第27弾

「ゴイッショ」の開発は3年がかり

——想像しただけでも気が遠くなりそうなシステムですが、よく実現できましたね。

岡本:「送迎が一緒にできたら良いな」までは思いつく方もおられるようですけれども、実際やろうとすると相当に大変です。

弊社も2019年から共同送迎の調査を開始して、2020年と2021年に実証実験をしてノウハウを蓄積し、ようやく2022年の4月にリリースをしました。

自治体主導の地域高齢者支援を提案

——御社が「ゴイッショ」のサービスを提案している先は、サービスを利用する各介護施設ではなく自治体のようですね。介護施設への直接のアプローチは行わないのでしょうか?

岡本:弊社では基本的に「ゴイッショ」を各自治体に対して提案しております。

それは「ゴイッショ」が介護人材不足という社会課題を解決するために考え出されたサービスなので、その社会課題と向き合う上では特定の民間の介護法人が主導するよりも地域の介護施設の賛同を得られるのではないかと考えたからです。

自治体や社会福祉協議会など公的な立場の方に、このサービスはこの地域にふさわしいモデルだから皆で一緒にやっていこう!と旗振りしていただくことがより良い地域づくりにつながるのではないかと考えています。

——送迎業務を協調領域にして行くためには、それを取りまとめる公的な取りまとめ役が必要ということですね。

岡本:ただ、地域で医療を支えている医療法人様などからも「ゴイッショ」を医療の分野で活用できるかなどという問い合わせを頂戴しておりますので、どのような立場の方からのお問い合わせにも弊社はお断りすることなく、ご要望に応じてサポートさせていただきますとお答えしています。

「ゴイッショ」の効果

——実際に「ゴイッショ」を導入した地域の皆様の声をお聞かせください。

岡本:まず介護施設様からは、送迎業務の委託により介護現場の労働生産性が向上したとの声をいただいております。

具体的には管理職が送迎業務から解放されたので、その分の時間をマネジメント業務に充てられるようになったということや、職員の方と向き合う時間が増えたなどです。

職員の方もご利用者の受入準備などがやりやすくなり、時間を有効に使えるようになったとの効果も出ています。

——ご利用者にとっては、これまで介護施設の担当の方が迎えに来てくれていたのが、他の人に変わって嫌だったという声はありませんか?

岡本:それがご利用者の皆さまは、施設送迎と何ら変わらないよというポジティブな感想の方が多くいらっしゃいました。

加えてご家族の方からも、共同送迎で介護職員の方の負担が少しでも軽減できるように「ゴイッショ」をどんどん世の中に広げて欲しい、などの応援の声もいただいています。

——介護職員の負担軽減は、ご利用者の施設での居心地の良さにつながりますからね。

岡本:運行を委託しているタクシー会社の方からも、共同送迎で社会貢献できて嬉しいというお声をいただいています。ご高齢者の移動についてはどの地域も課題が共通化しているので、課題解決の一端を担えることにやりがいを感じていらっしゃるようです。

——すべての人が満足する素晴らしいサービスですね。

岡本:ただ若干ネガティブな意見もいただきますので、反省点として改善の努力は常に行っていかなければならないとも感じています。

例えば送迎時にドライバーが持ち物点検を忘れてしまい、ご利用者が施設に必要なものを持っていけなかったというケースですね。この問題は「ゴイッショ」のアプリで持ち物リストを見ることを徹底いただくことで解消しました。

良い意見も悪い意見もすべて受け止めて「ゴイッショ」のサービスをさらにブラッシュアップしていけたらと思っております。

広がりつつある「ゴイッショ」のサービス

——「ゴイッショ」を導入するとなると、どのようなステップで進めることになるのでしょうか。

岡本:「ゴイッショ」を開始するまでには、3つのステップを踏んで弊社がサポートを行います。

1つ目のステップは「調査・検討サポート」です。対象地域にある介護施設を個別に訪問して、それぞれの送迎状況やお悩みなどを伺い、課題の見える化と共同送迎シミュレーションを実施します。

そこで効果が確認できたら、ステップ2の「運行準備サポート」に進みます。ロードマップの作成や運行フロー、マニュアルの構築、介護施設様や地域交通事業者様との調整や交渉など、やるべきことは多岐に渡ります。

そして準備ができたら、いよいよステップ3「運行サポート」として、実際に共同送迎が始まるわけです。

——非常に複雑なサービスだから、導入にも長い時間がかかるんですね。

岡本:自治体様によっては1年ずつ丁寧にステップを踏むところもあれば、ステップ1と2を同時並行でやるなど違いはありますが、いずれにしても丁寧に期間をかけて導入を進めていきます。

弊社は2022年4月に「ゴイッショ」をリリースしましたので、今年2023年はステップ1の「調査・検討サポート」を行っている最中です。

実証実験を実施してきた香川県三豊市は、既に運行がスタートしています。 

——なるほど。多くの自治体では、現在スタートラインに立ったばかりなんですね。

岡本:導入をご検討いただいている自治体様の中には、年度予算の兼ね合いもあり、議会の採択待ちということで着手されていないところもあります。 

——長期スパンで導入をご検討いただくサービスなんですね。

岡本:予算的な問題以外にも、導入前にはきちんと解決しなければいけない課題があります。

具体的には、介護の送迎は施設で行うというスタイルが確立しているので、送迎を委託化する・共同送迎で運行をするというように、移動のやりかたを変えるのは簡単ではありません。

弊社は一足飛びに焦らず、地域住民の声を丁寧に伺いながらより良い送迎スタイルを作り上げていくことを目指していきたいので、会社としてもあまり急がずに取り組んでいこうという方針です。

上がる労働生産性・下がるコスト

——かなり複雑なシステムですが、料金はどのくらいになるのでしょうか?

岡本:「ゴイッショ」の導入費用は地域や規模、内容によって大きく差がありますので、ここで導入費用についてお答えするのは適切でないと思います。

ただ「ゴイッショ」を利用する介護施設様が運営団体に支払う送迎の委託費用については、今の送迎コストと大きくかけ離れない価格設定でご検討いただくよう自治体様や運営団体様にご提案しています。

——今の送迎コストはいくらでしょうか?

岡本:弊社が調査したところ、今の施設送迎で介護施設が支払っているコストはだいたい1回あたり600円から1,200円ぐらいです。

——ご利用者1名をご自宅から施設まで、施設からご自宅までお送りすると、往復で1,200円から2,400円ですね。結構かかりますね。

岡本:施設によってもだいぶバラつきはございます。

共同送迎への委託料金でいうと安ければ安い方が良いというふうに介護施設の皆さんはおっしゃるんですけれども、今の送迎コストと比べてどうですか?というところを丁寧にご説明することで検討の遡上にあがるケースが多いです。

「ゴイッショ」で地域全体の移動課題を解決する

——御社は今後「ゴイッショ」をどのようなサービスにしていきたいと考えておられますか?

岡本:今後は「ゴイッショ」を広めつつ、さらにその可能性を拡大していきたいと考えています。

介護送迎は朝と夕方がメインなので、日中には車があまり使われないんです。

そこで空いた時間帯を、介護送迎車両とドライバーの方が違うサービスにも活用できないかと考えています。

——例えばどんなサービスでしょうか。

岡本:例えば独居老人の方に対してお食事をお届けするサービスとか、もっと将来で言えば介護以外での活用です。

お子さんを習いごとに連れていくための送迎など、介護送迎車両とドライバーの方に活躍いただくことで、地域全体の移動課題に貢献できるんじゃないかと考えています。

——いろいろな可能性を秘めていますね。

岡本:共同送迎「ゴイッショ」を地域の移動のプラットフォームとして、この上にどんな移動を積み重ねていけるかを地域の皆様と相談していきたいです。

介護だけでなく、地域の移動すべての課題解決が目標です。まずは地元のバス会社やタクシー会社など、既存の交通事業者ともうまく共存しつつ「ゴイッショ」を基点として地域全体でご高齢者を支えよう、という流れにできたら良いなと思っています。

今回のインタビューを通して

今回はダイハツ工業株式会社の岡本 仁也さんにお話を伺いました。

車メーカーならではの着眼点で、介護のまったく新しいサービスを展開しようとしているダイハツ工業株式会社は、さすが古くから日本のモータリゼーションを支えてきた企業なだけあると感服しました。

岡本さん、貴重なお話をありがとうございました。

AIケアラボでは、これからもより多くのサービスや製品を紹介していきたいと考えています。

「うちのサービスの話も聞いて欲しい!」という企業様・団体様がいらっしゃいましたら、お気軽に以下のアドレスまでご連絡いただければ幸いです!

ai-carelab@tryt-group.co.jp

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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