この記事では、認知症予防のための脳トレ(認知トレーニング)アプリを使用している中高年に関する調査研究を紹介します。
目次
アルツハイマー病と認知トレーニングアプリ

アルツハイマー病を取り巻く環境
世界的な高齢者人口の増加に伴い、高齢者を中心とした認知症患者の割合も増加しています。例えば、米国では65歳以上人口の1割以上がアルツハイマー病を患っており、2050年までに患者数が2倍以上になるとも予想されています。
また、日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計されています。さらに、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています(参考:厚生労働省「メンタルヘルス」)。
なお、アルツハイマー病と他の認知症との違いはこちらの記事で解説されています。▶︎認知症は主に4種類|特徴的な症状と原因・治療法・その他の原因疾患を解説
あまり知られていませんが、アルツハイマー病は高齢者のみに現れるのではなく、65歳未満の中高年にも早期発症型アルツハイマー病として発症し、多くの場合は診断が遅れてしまいます。驚くべきことに、早期発症型アルツハイマー病はアルツハイマー病全体の5%程度を占めています。
認知トレーニングアプリの台頭
アルツハイマー病を予防するためには、認知機能を刺激するような活動を行うことが有効だと考えられています。そのため、手軽に中高年の認知機能を刺激するような施策を講じることができれば、将来的には認知症に関する社会経済的負担が大幅に軽減される可能性があります。
ご存知かもしれませんが、世の中では多くのヘルスケアアプリが開発されています。そんな中で、認知症予防をテーマにしたアプリは主に認知トレーニングに焦点を当てています。認知トレーニングとは、主に以下のような機能を強化する目的のものです。いわゆる「脳トレ」と言われることもあります。
- 記憶力
- 集中力
- 視空間認知能力
なお、日本で多くのユーザーに親しまれている脳トレアプリの例としては「みんなの脳トレ〜脳年齢がわかる脳トレ」「脳トレHAMARU 計算ゲームで脳トレ勉強アプリ」「PEAK(ピーク)- 脳トレ」などがあります。
認知トレーニングアプリを使う人々の特徴とは?

多くの認知トレーニングアプリが開発され、有用性が語られている一方で、アプリを使用しているユーザーの特徴を調査した研究は多くありません。どのような人々が、認知トレーニングアプリを使用しているのでしょうか。
それがわかれば、認知トレーニングアプリの使用を検討していたり周りに勧めたい人の参考になるかもしれません。
韓国の研究者らは、早期発症型アルツハイマー病の発症リスクがある年齢層である中高年を対象として、認知トレーニングアプリの経験と健康意識等との関連性を調べています。
参照する科学論文の情報
著者:Jaegyeong Lee, Jung Min Lim
機関(国):Seoul National University, Yonsei University College of Medicine(韓国)
タイトル:Factors Associated With the Experience of Cognitive Training Apps for the Prevention of Dementia: Cross-sectional Study Using an Extended Health Belief Model
URL:doi.org/10.2196/31664
調査の結果
調査は、40歳〜64歳の中高年320人を対象に行われました。調査項目は、年齢、性別、教育水準、配偶者の有無、慢性疾患、認知症の家族がいるかどうか、認知トレーニングアプリの使用経験、認知症の知識レベル、認知トレーニングアプリに感じられるメリット、障壁(ハードル)などでした。
以下は、統計に基づく調査結果です。
認知トレーニングアプリの使用経験
調査対象とした320人を母数(100%)として、アプリの使用経験に関しては次のような統計結果が出ました。
- 参加者の25.6%は認知トレーニングアプリの使用経験があった。
- 認知トレーニングアプリの使用経験がある参加者のうち62.2%が女性だった。
- 認知症の家族をもつ参加者は、そうでない参加者と比較して、認知トレーニングアプリの使用経験率が12.5%高かった。
認知症の知識レベルや、認知トレーニングアプリに感じているメリット等
認知トレーニングアプリの使用経験がある参加者を、使用経験がない参加者と比較した際に、以下のような傾向が出てきました。
- 認知症の知識レベルが高い傾向にあった。
- アプリのメリットを認識していた。
- アプリを使用することへの障壁(ハードル)が低かった。
研究者の見解
まず、320人の調査対象者のうち25.6%(82人)のみが「認知トレーニング アプリの使用経験がある」と回答したことに対して、研究者らは「少ない」と考えました。日本と同様に、韓国でもスマートフォンが広く普及しているためです。(そのため、まだこれから認知トレーニング アプリのメリットが認識されていくことを想定しています。)
また、アプリのユーザーが「アプリのメリットを認識していた」ことにも注目しています。つまり、「アプリを使用することで認知機能が向上する」と信じられることが、アプリを使用する行動につながる可能性があります。
現在のところ、すべての認知トレーニングアプリが科学的根拠に基づいて開発されているわけではないことにも留意すべきだとしています。
さらに、認知トレーニングアプリのユーザーは認知症の知識レベルが高いという結果にも注目しています。実は、調査対象者全体の認知症知識レベルの平均スコアは15点満点中9.05点であり、研究者らは「スコアが低い」と考えています。また、59.4% が認知症に関する知識を増やすことに意欲を持っていたとのことです。このことなどから、中高年が認知症について学ぶことができるスマートフォンアプリが役立つのではないかと考えています。
女性のほうが男性よりも認知トレーニング アプリを使用する傾向にある、という結果については、他の研究で示されたことのある「女性が男性よりも認知的健康を改善する活動を行う」という結果と一致していました。
また、認知症の家族を持つ参加者は認知トレーニング アプリを使用する傾向にあるという結果に関しては、認知症の家族を持つ参加者は認知症の発症リスクが高いと考えられているため、予防行動の1つとして使用されていることが予測されました。
研究者らは、これらの調査結果と考察が、今後、認知症予防のための認知トレーニング アプリの使用を増やすために役立つことを期待しています。
まとめ
この記事では、認知症予防のための脳トレ(認知トレーニング)アプリを使用している中高年に関する調査研究を紹介しました。
高齢者だけでなく、中高年が認知症の予防対策を行うことは非常に重要ですね!
楽しんで使えるアプリを探して、習慣化してみるのも良いですね。
ただし、紹介した研究者が述べているように、科学的根拠に関しては各アプリそれぞれですので、機会があればホームページ等をみて各アプリの効果についてのニュースをチェックしてみてもいいかもしれません。
