高齢者に起こりやすい薬の飲み忘れを防ぐには?すぐできる防止アイデア4選

高齢者に起こりやすい薬の飲み忘れを防ぐには?すぐできる防止アイデア4選

最終更新日 2022.11.24

この記事の要点

  1. 慢性疾患のある高齢者は毎日多くの薬を飲んでいる
  2. 薬の飲み忘れにより悪い影響がある(治療効果の減退・古い薬の誤飲・残薬問題)
  3. 薬の飲み忘れを防止できるアイデアがある
  4. テクノロジーで薬の飲み忘れが防止できる未来がある

持病の薬などの「うっかり飲み忘れ」は、高齢者だけでなく誰にでも起こり得る問題です。

ましてや認知機能の低下しはじめた高齢者だと、さらに薬を飲み忘れる確率は上がります。

薬の飲み忘れを防止するにはどのような対策を取れば良いでしょうか。

今回は高齢者の服薬管理の重要性を解説しながら、薬の飲み忘れを防止するためのアイデアを4つ紹介します。

服薬管理は高齢者の健康を守るために重要

厚生労働省の高齢者医薬品適正使用検討会がまとめたデータによると、2疾病以上の慢性疾患を有する高齢者は、平均約6剤の薬が処方されているとのことです。

また複数の医療機関にかかっている高齢者の場合、10種類以上の薬を処方されている患者も一定数存在しています。

処方される薬が多いほど服薬アドヒアランス(処方された薬剤のうち適切に服用された薬剤の割合)は低下するとのデータもあり、高齢者の健康を守るためには若年層に比べて服薬管理を厳重にしなければいけないことがわかります。

薬を飲み忘れるとどうなるか

実際、薬を飲み忘れるとどのような影響が生じるのでしょうか。

治療効果が得られない

薬は病気の治療や病気の進行を遅らせるために処方されているものです。

そのため、正しく薬を服用しないと思ったような治療効果が得られず、病気の悪化の原因になります。

患者の中には薬を飲み忘れても、医師に怒られるのが怖いため、飲み忘れを申告しない方もいるようです。

薬を処方した医師は、その薬が正しく服用されていることを前提にその後の治療方針をたてますので、飲み忘れを知らなければ誤った治療につながる恐れもあります。

古い薬を誤飲する可能性がある

薬には使用期限があります。病院などで処方される医療用医薬品は、製造後およそ3~5年が使用期限です。

この使用期限は薬局内で適切に管理されている状態での使用期限を指し、処方された患者の自宅等での環境下により短縮されます。

飲み忘れた薬を新しい薬と一緒に保存していると、使用期限後の薬を誤飲する可能性があります。使用期限後の薬は変質して毒性が増す危険性があり、誤飲を防止するために必ず廃棄する必要があります。

医療費の無駄につながる

ほとんどの処方薬には健康保険が適用されています。

処方された薬が飲み忘れられて残薬になると、残薬分の医療費の無駄になります。

厚生労働省が滋賀県や埼玉県など複数の自治体から収集した資料によれば、残薬削減による薬剤費削減効果は各県で100億円~6,500億円見込まれるとのことです。

参考:厚生労働省|医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究(中間報告)

日本の超高齢化に伴い健康保険の財政が心配されている現代において、医療費の無駄は何としてでも防止したい重要なポイントです。

認知機能が低下した方は薬を飲み忘れやすい

高齢になり認知機能が低下すると、自分で服薬管理を行うことが難しくなります。

さらに認知症を発症した方の場合、介護する側が薬の服用を促しても「もう飲んだ」や「薬を飲むのは嫌だ」など、飲み忘れ以外の問題も生じてきます。

認知機能が低下した方や認知症の方に正しく薬を飲んでもらうためには、その方自身に服薬管理をまかせるのではなく、第三者が適切に管理して服用を促す必要があります。

適切な服薬は認知症の発症予防にも役立つ

認知機能が低下しはじめた方に対して服薬管理を行っていれば、認知症の発症を予防する可能性があることを覚えておきましょう。

認知症の発症にはさまざまな原因があり、そのひとつに生活習慣病などの影響もあります。

生活習慣病にかかっている方が正しい服薬できちんと病気の治療をすれば、認知症になる確率がそれだけ低くなるのです。

認知症の発症を予防する効果が期待できる他の方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
認知症を予防する方法とは?効果が期待できる予防法と科学的なアプローチ

薬の飲み忘れを防止するアイデアを紹介

ここからは薬の飲み忘れを防止するためのアイデアを4つ紹介します。

なお、このアイデアは高齢者の薬の飲み忘れ防止だけでなく、若年層・中年層にも役立つアイデアです。持病があり定期的に薬を飲んでいる方もぜひ活用してみてください。

1.ポケット付カレンダー

1~31までの数字が書かれたポケットの付いた壁掛けカレンダーに毎日の薬を入れておけば、その日の薬を飲み忘れてもすぐにわかるため、飲み忘れる心配はありません。

通販サイトなどでは「おくすりカレンダー」などの名称で販売されており、最近では100円ショップでも市販されています。

カレンダーによっては月ごとの薬ではなく週ごとの薬を管理できるタイプもあります。週タイプのポケット付カレンダーは朝・昼・夜・就寝前と、1日に何回も薬を飲む方に向いています。

2.アラーム機能

タイミングさえ逃さなければ自分で服薬管理ができる方であれば、携帯やスマホのアラーム機能を使って「お薬の時間ですよ」をお知らせするだけで、薬を飲み忘れる心配が減らせます。

市販されているピルケースの中にはデジタル時計が付いた製品もあります。そのようなピルケースを使用すれば、アラームが鳴ったときに何のアラームなのかが区別できるためおすすめです。

3.服薬管理アプリ

アラームが鳴っても、アラームを切ってそのままにしてしまうタイプの方にはリマインダー機能のある服薬管理アプリがおすすめです。

飲み忘れ防止効果のある服薬管理アプリはAndroid・iPhoneともに多くのアプリが提供されていますが、例えば以下の「しつこいお薬アラーム」は薬を飲んだことを記録するまで不快感を生じさせないユーモアのあるキャラクターがしつこくリマインダー通知を送ってくれるため、毎日の服薬タイミングが楽しみのひとつになるかもしれません。

4.コミュニケーションロボット

機械的なアラーム音ではなく、話し言葉で「お薬の時間ですよ」と語りかけてもらえれば、認知症などの理由によりお薬を飲みたがらない方にも服薬を促しやすくなります。

シニア向けコミュニケーショントイの製造販売を行う有限会社デジレクトの「けんこうパートナー スマイルメディくん」はロボットではなくコミュニケーショントイに分類されますが、服薬時間のお知らせ機能だけでなく起床・就寝のうながしや日常的な語りかけもしてくれる機能がついています。

薬の飲み忘れ防止だけでなく、高齢者の心身ともに健康的な生活をサポートしてくれます。

参考:デジレクト|けんこうパートナー スマイルメディくん

ユーザーの行動に反応する機能のついたコミュニケーションロボットについては以下の記事をご覧ください。
2022年おすすめロボットペット5選 「高齢者の孤独感を解消する」科学的調査結果をもとに

薬の飲み忘れ・飲み間違い防止にAIを活用

視覚機能の衰えた高齢者にとっては、薬の飲み忘れだけでなく飲み間違いの危険性もあります。

飲み忘れを防止するだけでなく、飲み間違いも防止しなければいけません。

台湾で視覚障害のある高齢者の服薬管理にAIを活用しようとする研究が行われました。台湾の南台科技大学研究グループはスマートグラスにAIを搭載したシステム「MedGlassesシステム」を研究開発しています。

最新のテクノロジーを活用することで、薬の飲み忘れが防止できる時代になるかもしれません。

「MedGlassesシステム」の研究について詳しくは以下の記事をご覧ください。
高齢者の薬飲み忘れ・飲み間違いを防ぐ 視覚障害者を助けるスマートグラスとAIの最前線

まとめ

今回は高齢者の薬の飲み忘れ問題と、それを防止するための4つのアイデアについて解説しました。

薬を飲まずに健康に過ごせればよいのですが、薬を飲むことが決まったのならば、きちんと飲まなくては意味がありません。

施設や病院にいる高齢者であれば看護士や介護職員が服薬を促すことができますが、在宅高齢者の薬の飲み忘れについては対策が必要です。

いろいろなアイデアで「うっかり飲み忘れ」を防止し、早期の治療や健康維持に努めるようにしましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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