介護とロボットの未来を考える ロボットにできること・人にできること

介護とロボットの未来を考える ロボットにできること・人にできること

最終更新日 2022.11.22

この記事の要点

  1. 現在の介護の問題をクリアしなければ、明るい介護の未来は描けない
  2. 未来のロボットはますます介護に必要とされていく
  3. ロボットと人が介護にできることは違う
  4. 未来には人とロボットが共存する介護が必要

日本の高齢社会の現状を考えたときに、「未来の介護はどうなるのか」「質の高い介護の提供や人材不足の解消はどうすればいいのか」と想像したことのある介護職の方は多いと思います。

ロボットなどのIT技術が成長し、未来には「介護」と「ロボット」が深く関わっていくことが考えられますが、この先の介護はどのようになっているのでしょうか?

今回は介護とロボットの未来についてデータをもとに検証し、介護とロボットの共存の可能性について考えます。

介護の未来はこのままでは頭打ち

まず介護の未来についてですが、このまま何の対策も取らずにいれば介護の明るい未来は描けない可能性があります。

その理由は以下の3つが考えられます。

  1. 生産年齢人口の減少
  2. 高齢者割合の増加
  3. 外国人労働者の不足

それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。

生産年齢人口の減少

2020年の日本の生産年齢人口は、総務省の国勢調査によると7,406万人でした。

しかし日本の少子化は今後も進むことが予想され、2065年には生産年齢人口は4,529万人となり、2020年よりも2,877万人減少する見通しとなっています。

《生産年齢人口とは》労働の中核にいる人口層のこと。OECD(経済協力開発機構)の定義では15~64歳の年齢を指す

人口の減少、特に生産年齢人口の減少が進む日本では、介護にたずさわる人材不足も深刻化すると考えられます。

高齢者割合の増加

日本の生産年齢人口が減少すると同時に、未来には日本国内の高齢者の割合がさらに増加します。

国立社会保障・人口問題研究所が2017年に発表した「日本の将来推計人口」によれば、2065年には日本の人口の41.2%が65歳以上の高齢者となり、2.4人に一人が老年(65歳以上)人口になると推計されています。

さらに100歳以上の高齢者の数も50万人を超えると推計されており、介護を必要とする人の数はますます増え、さらなる介護人材不足が未来には待っています。

外国人労働者の不足

2022年現在も介護業界では、外国人労働者は貴重な戦力とされています。

多くの外国人労働者がさまざまな介護施設で働き、今では外国人スタッフなしでは施設が回せない、日本人と同じように外国人を頼りにしているという介護事業者も存在するでしょう。

しかし国際協力機構(JICA)が2022年2月に開催したシンポジウムで発表した内容によると、日本政府が現在の外国人労働者受け入れ方式を続けていると、2040年には外国人労働者の数が42万人不足するとのことです。

現在の受け入れ方式では外国人労働者の資格や滞在期間にさまざまな制限があるため、需要に見合った供給体制の検討が必要だと提言しています。

ロボットの未来はますます普及が見込まれる

介護ロボット

介護の未来を想像するときには課題が散見されますが、その反面、ロボットの未来は明るい材料が多く存在します。

特に介護分野では、未来にはロボットがますます普及すると考えられています。

今度はロボットが介護に浸透していくと思われる理由を確認しましょう。

政府の「ロボット新戦略」

経済産業省の「ロボット産業市場動向調査結果」によると、ロボット市場は2025年に5.3兆円、2035年には9.7兆円にまで成長すると予測されています。

産業ロボットの種類は、過去には製造分野での利用が主でしたが、未来には介護を含むサービス分野の伸びが特に大きいとの予測です。

これは政府が2015年に発表した「ロボット新戦略」の目標を元としています。ロボット新戦略では、介護分野においても介護職員の離職を防ぐためにロボットの活用が必須だとしています。

参考:首相官邸|ロボット新戦略

介護ロボットの種類の増加

介護ロボットの種類は昔に比べて大変多くなりました。

これまで「ロボット」というと、SF映画に登場する人型ロボットしか連想されませんでしたが、現在ではロボットに対する世の中の認識も変わり、ロボットを実際に日常生活へ活用しようとする動きが広まりつつあります。

2019年時点では介護ロボットを導入している介護事業所の割合はわずか2割程度でしたが、介護ロボットの存在が知られるにつれ、今後ますます普及していく傾向が感じられます。

介護ロボットの種類や介護事業所の導入割合については、以下の記事でも詳しく解説しています。
介護事業所で利用されているAI・ロボット9種 最新の導入割合と活用の方策

導入費用・運用費用のコストダウン

IT技術の進化やロボットの研究が進むにつれ、現在ではいろいろなロボットが開発されています。

一般家庭でも使えるロボットなども登場し、社会全体にロボットが普及すれば1台当たりのロボットの価格も低価格化が実現できます。

また介護事業所がロボットを導入する際には、補助金が支給される可能性があります。ロボット導入費用や導入後の運用費用がコストダウンできることで、未来の介護事業所はもっと導入しやすくなるでしょう。

ロボット導入補助金については、以下の記事で昨年2021年度の補助金事業状況をご紹介しています。

記事内ではICT補助金としてご紹介しましたが、多くの自治体ではICT(情報通信技術)とロボットいずれかの導入により補助金を支給するとしてます。
【介護】ICT導入に活用できる補助金を国と自治体に分けて紹介(2022年)

未来の介護をすべてロボットが担うのか?

介護者とロボットの共生

ロボットが介護のすべてを担えるかと言えば、そうとは言い切れません。

なぜなら人には人の、ロボットにはロボットの良さがあるからです。

ここからは、介護において人間が貢献できることと、ロボットが貢献できることをそれぞれ確認していきましょう。

なお、未来の介護施設ではどの程度ロボットが普及しているかについては、以下の記事でも取り上げています。本記事とあわせて参考にしてください。
「ロボット配備計画」の最新技術とは 未来の介護施設ではロボットは普及している?

ロボットができる介護業務

人間からロボットに代替えできる介護業務は、ロボットの種類によってさまざまです。

介護支援型ロボット

  • 見守りロボット
  • 入浴支援ロボット
  • 排泄支援ロボット、他

介護用見守りロボットとは? 導入メリット・利用者の声も紹介

自立支援型ロボット

  • 移乗介助ロボット、他

介護用アシストトスーツのメリット・デメリット・選び方 おすすめアシストスーツ6選

コミュニケーションロボット

  • 対話ロボット
  • ロボットペット

2021年おすすめロボットペット5選 「高齢者の孤独感を解消する」科学的調査結果をもとに

しかしあくまでもロボットが行う作業は、人間が行う介護業務の支援でしかありません。

最終的にロボットを扱うのは人間であり、ロボットによって業務の効率化や省人力化を目指すことが正しい活用方法です。

人にしかできない介護業務

ロボット技術やAIが発達しても、人間の細やかな気づかいや「優しい介護」を再現することはまだ難しいといえるでしょう。

また要介護者のちょっとしたしぐさや言動から変化を察して柔軟に対応することは、ロボットにはほとんどできません。

生身の人間同士の目に見えない絆も、質の高い介護の提供を提供するためには重要です。

フランスで生まれた介護技法「ユマニチュード」がその例です。「ユマニチュード」について詳しくは以下の記事に記載していますのであわせてご覧ください。 

フランス発ケア技法「ユマニチュード」の方法 4つの柱と5つのステップ 

まとめ

ロボットだけでは、介護は成立しません。

しかしまた、これからの介護の未来は人間の力だけでは限界があります。

ロボットに介護業務をすべて代替えさせるのではなく、ロボットにできることと人にしかできないことをうまくミックスして、介護の質を上げていく努力が必要です。

これからの介護は、ロボットと人との共存が未来の扉を開くと言っても過言ではありません。

介護の明るい未来のために、最新の技術をうまく介護に取り入れていきましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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