褥瘡(じょくそう)が起きる原因と予防 介護者の負担を減らすための策とは

褥瘡(じょくそう)が起きる原因と予防 介護者の負担を減らすための策とは

この記事の要点

  1. 褥瘡(床ずれ)とは皮膚組織が体重で圧迫され傷つく現象
  2. 褥瘡(じょくそう)は同じ姿勢が継続するために起きる
  3. 褥瘡(じょくそう)の予防策は体位変換・専用マットレスの使用・栄養管理・スキンケア
  4. 褥瘡(じょくそう)予防をする介護者の負担を減らすためにIT技術が活用できる

寝たきりの高齢者は、常に「褥瘡(じょくそう)」が起きる危険がつきまといます。

今回は褥瘡(じょくそう)とは何か、寝たきり状態の方に発生しやすい原因と、その予防について解説します。

褥瘡(じょくそう)とは

「褥瘡(じょくそう)」とは、寝たきりなどの理由により皮膚の一部が赤みをおびたり、ただれ、傷などが起きる現象です。一般的に「とこずれ(床ずれ)」とも呼ばれています。

健康な方の場合、寝ている間も無意識のうちに細かな身体の移動(体位変換)を常に行い、同じ箇所への圧迫が続かないようにしています。

しかし病気や加齢により自分で体位変換ができなくなると、自らの体重で皮膚細胞が長時間圧迫され続け、皮膚組織に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなるために褥瘡(じょくそう)が発生します。

褥瘡(じょくそう)ができやすい場所

褥瘡(じょくそう)ができやすい場所は、身体が寝具などと常に接している部分です。

具体的には後頭部やお尻、足のかかとなどの部分です。

また横向きで寝ていることが多い方は、耳や膝の横などにも褥瘡(じょくそう)ができる場合があります。

褥瘡(じょくそう)のステージ分類

褥瘡(じょくそう)は、傷の深さによりステージが分類されます。

ステージⅠ皮膚が赤みをおびた状態
ステージⅡ真皮が部分欠損し水疱などが現れた状態
ステージⅢ皮膚に穴(ポケット)ができ皮下脂肪が確認できる状態
ステージⅣ骨・腱・筋肉が露出した状態

褥瘡(じょくそう)がステージⅣよりもさらにひどくなると、その起きた部位は茶色または黒の乾燥した壊死組織でおおわれ「判定不能」の状態となります。

褥瘡(じょくそう)が発生する原因

褥瘡(じょくそう)ができる一番の原因は、寝たきりなどにより同じ姿勢が継続されることです。

高齢者の場合は、さらに以下のような要因も伴うため、褥瘡(じょくそう)ができやすくなると考えられます。

  • 加齢による皮膚の変化
  • 廃用性萎縮
  • 低栄養
  • 免疫力の低下
  • 皮膚疾患
  • 排せつ物による皮膚の汚れやふやけ

褥瘡(じょくそう)の予防方法

褥瘡(じょくそう)にならないためにはどうしたら良いのでしょうか。

ここからは、寝たきり状態の方が褥瘡(じょくそう)にならないために、介護者ができる予防方法を説明します。

1.定期的な体位変換

長い時間同じところが圧迫されないように、定期的に体位変換を行います。

上記画像では体位変換を1人で行う場合の方法が紹介されていますが、ベッドからの転落などのトラブルや摩擦を避けるため、できれば2人で行ってください。また体位変換の際にシーツや寝衣にしわができないように十分な注意が必要です。

体位変換の間隔は、原則として2時間に1回を目安にして行います。ただし、褥瘡(じょくそう)防止用のマットレスなどを使用している場合には4時間を超えない範囲で行っても良いとされています。

2.体圧分散マットレスの使用

体圧分散マットレスとは、身体の重さによってマットレスが適度に沈み込み、寝ている人の体の突出部にかかる圧力を少なくできる寝具です。

褥瘡(じょくそう)の予防には、この体圧分散マットレスの使用が強く推奨されています。

褥瘡(じょくそう)予防の効果が高いとされている体圧分散マットレスには以下のような種類があります。

ウレタンフォームマットレスポリウレタンに発泡剤を入れた素材のマットレス。粘弾性フォームマットレスもある
エアーマットレス中に空気が入ったマットレス
ウォーターマットレス中に水が入ったマットレス
ゲルマットレス弾性の特性を持つゲル状の素材が入ったマットレス
ゴムマットレスゴム弾性がある樹脂素材のマットレス

3.栄養状態の改善

低栄養になると皮膚や筋肉にも十分な栄養が行きわたらなくなり、褥瘡(じょくそう)の発生確率が上がります。そのため寝たきり状態の方にとって、適切な栄養補給は必須です。

食事による栄養補給が難しい人の場合、高エネルギー、高蛋白質のサプリメントによる補給が推奨されています。また、場合によっては鼻や胃にチューブを挿入したり、点滴による栄養補給を行う場合があります。

4.スキンケア

高齢者の皮膚は弱く、また乾燥しやすいため、スキンケアも褥瘡(じょくそう)予防には大切です。

常に皮膚を清潔に保ち、乾燥を防ぐために撥水性の高い軟膏や保湿クリームなどを塗り保湿しましょう。

おむつを使用している高齢者の場合には、尿や便の付着による皮膚への刺激もできるだけ避けなければいけません。排泄物から皮膚を守るためには、排尿や排便後のすみやかなおむつの交換と、おむつ交換時に肛門や外陰部の皮膚を保護するクリーム等の塗布が推奨されています。

また、おむつのサイズや素材を選ぶことも重要です。サイズの合わないおむつや、通気性や吸収性の悪いおむつだと、摩擦やずれが生じて褥瘡(じょくそう)が発生しやすくなります。

褥瘡(じょくそう)予防を行う介護者の負担をIT技術が軽減する

上記のような予防を行えば、褥瘡(じょくそう)は高確率で発生を防ぐことができます。

しかし頻繁な体位変換や皮膚の清拭など、褥瘡(じょくそう)予防は介護する方にとっては大変な作業になります。

介護者の作業負担を少しでも軽減するためにIT技術が役立てられないかと、さまざまな側面から研究が進められています。

ここからはIT技術の力で褥瘡(じょくそう)予防をするための研究について紹介します。

就寝姿勢をAIがモニタリングし解析

褥瘡(じょくそう)は「身体が長時間動かない状態」が原因で発生するため、身体がいつ動いたか、どのくらい同じ姿勢が継続されているかを介護者が把握できれば、体位変換の頻度は少なくてすみます。

台湾の国立中正大学研究グループは、就寝中の画像をセンサーでモニタリングし、AIが就寝姿勢を解析するシステムを開発しました。

まだ研究段階ではありますが、このシステムの応用により、高齢者が就寝中に長時間動かなかったときにのみ介護者に体位変換をうながすことが可能になると期待されています。

就寝姿勢の姿勢モニタリング研究については以下の記事で詳しく紹介しています。
AIで褥瘡(じょくそう)を予防 就寝中の高齢者に対して姿勢をモニタリングする技術を開発

スマートフォンアプリで栄養状態の管理

低栄養になりやすい寝たきり状態の高齢者は、褥瘡(じょくそう)を予防するためだけでなく全身の健康を守るために、きちんと栄養状態を管理する必要があります。

食品・飲料を取り扱うネスレの関連会社であるネスレヘルスケアカンパニーは、ヘルスケアDXを推進する株式会社メディエイドと共同開発した栄養アセスメントツール「MNAプラス」を提供しています。

65歳以上の高齢者に特化した内容で、身長・体重・食事状態といった一般的な項目だけでなく、寝たきりなどの身体機能や精神状態にもあわせた栄養管理が行えます。

MNAプラスは医療・介護用ツールと、個人でも使えるアプリがあります。個人向けアプリは以下の記事からダウンロードが可能です。
高齢者向けスマホアプリ3選。高齢者の認知機能を助けるAI物体認識アプリが開発中

スマートおむつ等による排せつ管理

寝たきり状態の人は、ほぼ100%介護用オムツを使用しています。そのため寝たきり状態の人は 失禁関連皮膚炎になりやすくなります。

失禁関連皮膚炎を防ぐためには尿や便を排せつしたらすぐにおむつを取り替える必要がありますが、介護者が寝たきり状態の人の排せつを常に見張っているわけにもいきません。

おむつに排せつ物検知機能をつけた「スマートおむつ」によって、寝たきり状態の人の排泄をタイムリーに検知しようという研究が進められており、すでに実用化されている製品も存在しています。

スマートおむつ等による排せつ管理については、以下の記事で詳しく解説しています。
失禁関連皮膚炎を防ぐ 高齢者用スマートおむつ開発はここまで進んでいる!

自動シャワー装置による皮膚の洗浄

皮膚を清潔に保つためには、おむつの交換だけでなく全身の洗浄も必要です。

介護施設向けのシャワー式介護入浴装置はすでに開発・販売されていますが、例え寝たきり状態の人であっても、シャワーや入浴には快適性や喜びを感じて欲しいものです。

スウェーデンの研究者が自動シャワー装置の快適性について実際のユーザーの声を調べた、興味深い研究があります。

実際には寝たきり状態の人が自分で自動シャワー装置に入ることはできませんが、以下の記事から、褥瘡(じょくそう)を予防するための全身洗浄をする際のヒントを見つけてください。
「自動シャワー装置」ユーザー体験の調査結果 〜高齢者・介護スタッフ両方の視点から〜

スマートパッドによる褥瘡(じょくそう)予測

どれだけ予防措置をとっても、完全に褥瘡(じょくそう)が避けられるとは限りません。

褥瘡(じょくそう)になりかけの皮膚を素早く見極め、もし皮膚の異常が認められたときにはすぐに適切な治療を行う必要があります。

イラクのアルナフライン大学が、高齢者の皮膚にスマートパッドを取り付け、皮膚の健康状態をモニタリングする研究を行いました。

褥瘡(じょくそう)ができている被験者とできていない被験者の比較を行った結果、スマートパッドが収集した血中酸素濃度や温度などのデータにおいて差異が確認できたとのことです。

この研究が進み、褥瘡(じょくそう)の予測や早期検知が早く可能になることが期待されます。

スマートパッドによる皮膚状態のモニタリング研究については以下の記事をご覧ください。
おしり褥瘡(じょくそう)防止テクノロジー 高齢者向けのスマートパッドとは

まとめ

今回は褥瘡(じょくそう)について解説しました。

寝たきりになった高齢者の褥瘡(じょくそう)を避けるためには、介護者の絶え間ない努力が必要になります。

IT技術の力で介護者の負担を減らす策を考えつつ、すべての高齢者が辛い褥瘡(じょくそう)にならなくてすむよう日々努力を続けていきましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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