高齢者向けスマホアプリ3選。高齢者の認知機能を助けるAI物体認識アプリが開発中

高齢者向けスマホアプリ3選。高齢者の認知機能を助けるAI物体認識アプリが開発中

最終更新日 2022.11.22

中国の大学研究グループは、スマートフォンで使用できるAIアプリで高齢者の認知機能を助ける研究に取り組んでいます。本記事では、高齢者向けのスマートフォンアプリの事例を見ながら、研究の内容をご紹介します。

高齢者向けスマホアプリ3選

近年では高齢者のスマホユーザーも増え、高齢者向けのアプリも登場してきています。以下では数ある高齢者アプリから3つの事例をおすすめとして紹介します。

楽天シニア

同アプリのHPより画像引用

特徴

  • 毎日の歩数を管理できる
  • 体重や血圧を登録してグラフで確認できる
  • 楽しく健康に暮らすためのコラムが読める
  • 家族や友達と健康に関する記録をシェアして繋がれる

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血圧ノート

特徴

  • 1日に複数回、血圧、脈拍の記録ができる
  • Appleヘルスケアと相互連携をして血圧データが自動で入力される(iPhoneのみ)
  • 毎日の体重、体脂肪率、体温、睡眠時間、目覚めの気分、症状が記録できる
  • 「高血圧治療ガイドライン2019」に基づく降圧目標値を設定できる
  • 最大で1年間の変化が見れるグラフで変化や経過を確認できる

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MNAプラス

同アプリのHPより画像引用

特徴

  • 現在の栄養状態に関する質問に答えると、4段階の評価結果が得られる
  • エネルギーアップに関する豊富な情報を見ることができる
  • 過去の栄養評価の振り返りができる
  • 家族の栄養状態をまとめて管理できる

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高齢者の認知機能を助けるAI物体認識アプリ

上記のように現在は高齢者向けの様々なスマートフォンアプリがリリースされています。またそれらは、ユーザーが自分で入力する手間があるなど、一定の認知能力を必要として自身の健康を管理するのが一般的のようです。

そんな中、中国の西北大学の研究グループは、高齢者がしばしば認知機能の低下に苦しむことを背景に、認知機能を助けるシステム「MobileAid」を開発しています。
MobileAidは、AIで目の前の物体を認識することで、高齢者の日常生活を支援するシステムです。このシステムはスマートフォンで動くAIアプリとして制作されました。アプリはアプリストアには公開されていませんが、その内容が論文に紹介されています。

参照する科学論文の情報
著者:XINYI LIU, BAOYING LIU, GUOQING LIU, FENG CHEN AND TIANZHANG XING
機関(国):西北大学(中国)
タイトル:MobileAid: A Fast and Effective Cognitive Aid System on Mobile Devices
URL:doi.org/10.1109/ACCESS.2020.2998280

なお、高齢者向けのAIシステムは以下の記事でも取り上げています。是非チェックしてみてください!

▶︎AIで褥瘡(じょくそう)を予防 就寝中の高齢者に対して姿勢をモニタリングする技術を開発
▶︎介護における栄養管理はAIで効率化できる
▶︎高齢者の薬飲み忘れ・飲み間違いを防ぐ 視覚障害者を助けるスマートグラスとAIの最前線

研究の概要

研究者らは、まず既存の認知支援システムの課題点を洗い出しました。そして、主に次の2つが大きな要求事項であることが分かりました。

  1. 高齢者は物体を見た瞬間にそれが何であるか「すぐに」答えを得たいため、システムはリアルタイムで物体を認識する必要がある。
  2. 高齢者の目の前にある物体が何であるか「正確な」答えが欲しいため、システムの物体認識精度が高い必要がある。

以上から、モバイルデバイス(=スマートフォン)上で動く、目の前の物体をすぐに正しく認識できるアプリを開発することにしました。アプリのイメージは以下のようなものでした。

ユーザーがウェアラブルデバイス(グラス型)で周囲の環境を見ると、ユーザーのスマートフォンに映像が送られ、スマートフォンにインストールされたシステム「MobileAid」が起動し、AIが物体を認識します。

この研究における大きな障壁は、「スマートフォンを使用する」というこだわりにありました。通常、映像から物体を正確に素早く認識するためには膨大な計算リソース(コンピューターの体力のようなもの)が必要です。計算リソースが限られているスマートフォンで高性能なAIを動かすためには、AIを課題に最適化させることが重要でした。そのため、研究者らは独自にAIの開発を行いました。

専門的な話ですが、彼らは独自に効率的なAIを開発するにあたって、「コンテキスト認識」と「オブジェクト認識」の2段階で物体認識を行うシステムの開発を行いました。AIが物体を認識する上で既存のデータベース(コンピューターの知識のようなもの)と照らし合わせる必要があり、その作業を効率化させるのが作業の狙いでした。

実験と結果

研究者らは独自に開発したAIに大量の画像データを学習させ、物体を正確に素早く認識できるのかを実験しました。

結果、77%の精度であらゆる物体認識を行うことができると判明しました。
この精度は、最高の物体認識精度を誇るAlexNet(精度85%)には及ばないものの、比較的高いパフォーマンスでした。なお、前述したような工夫(2段階の認識)を行うことで認識精度を15%〜30%向上させることができた(その結果が77%)とのことでした。ちなみに、AlexNetはスマートフォンと比較して非常に大きな計算リソースを要するコンピューターで使用するAIのため、MobileAidは前提とするデバイスが異なるにも関わらず素晴らしい性能を叩き出したと言えます。

ただし、MobileAidには認識させる物に個別の特徴が大きくある場合に認識精度が落ちてしまうという留意事項があります。例えば、店舗、食堂、キャンパスなど公共の場に対する認識精度は比較的高く、アパートやオフィスの精度は比較的低いようでした。

マウスの物体認識に成功している様子

研究者らは、今回開発したMobileAidは、スマートフォンでリアルタイムに動き、高精度な物体認識AIアプリであることから、従来の認知支援システムの欠点を補うものだとしています。

まとめ

本記事では、高齢者向けスマートフォンアプリの事例を見ながら、スマートフォンで動く認知支援AIアプリの研究をご紹介しました。

研究者らが結論付けている通り、スマートフォンアプリで動く映像解析システムとしての精度はかなりパフォーマンスが良く、使い勝手がよければ実用化が見込めるものであると言えます。
今後は、実際に高齢者がアプリを利用して生活に役立つ実感があるのか、また使いやすさなどについて調べる実証実験が期待されます。

コンピューターは人間の脳を模して作られた機械ですが、コンピューターが高齢者の認知機能を助ける様子はまるで子供が親の世話をできるほど成長した姿のようですね。
今後も性能の進化や用途の拡大に期待を膨らませていきましょう!

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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