介護におけるICTとは何か?効果とメリット・デメリット

介護におけるICTとは何か?効果とメリット・デメリット

最終更新日 2023.01.31

ITの普及に伴い、介護の現場にもICTを活用しようという動きが広まっています。

しかしICTとはそもそも何なのでしょうか。介護の現場にICTを導入すると、具体的には何ができて、どんなメリットもしくはデメリットが生じる可能性があるのでしょうか。

今回はICTとは何かの簡単な説明から、介護の現場にICTをどのように活用できるのか、ICTを導入したときに考えられるメリットとデメリットについて解説します。

介護におけるICTとは

ICT(Information and Communication Technology)とは、インターネット等の通信を使ってデジタル化された情報をやりとりするコミュニケーション手段、もしくはそのために提供される技術サービスのことです。日本語では「情報通信技術」とも呼ばれます。

似たような言葉にIT(Information Technology)という言葉がありますが、ITとは「情報技術」を意味します。ICTには、広義の意味でITの意味合いも含まれておりますが、技術だけを意味するのではなく、「情報通信技術をどのように活かしていくのか」も重要視されます。単純にITシステムや最新技術を導入するだけではなく、コミュニケーションへの活用方法に焦点を当てた意味がICTにはあります。

高齢者介護は人間を相手にしたアナログの仕事ではありますが、実際に介護を行う上では利用者や利用者家族、スタッフ間、介護施設全体とその関係各所との間でさまざまな情報伝達が必要になります。

介護におけるICTとは、介護業務において必要な情報をデジタル化し、業務を円滑にしようとするための手段です。
近年ではいろいろなICTサービスが生まれており、介護の現場はこれからより一層ICT化が進むと考えられています。

なぜ介護のICT化が必要なのか?

介護のICT化が必要な理由は、超高齢化社会を迎える日本で起きている人材不足という課題を解決する為になります。

内閣府が発表した「令和3年版高齢社会白書」によると、高齢者(65歳以上)が総人口に対して占める割合は28.8%と国民の約3.5人に1人が65歳以上になります。
一般的に、全人口に占める高齢者の割合が21%を超えると「超高齢社会」と呼びますが、現在の日本はすでに「超高齢社会」の段階に突入しており、今後ますます高齢化は加速していくと見られています。

一方で介護人材においては、2025年度末には約243万人の需要が見込まれており、そのためには年間5.3万人程度の介護人材の確保が必要になるとされております。

こうした状況を受け、介護現場における業務効率化や介護人員の確保・介護サービスの品質向上を目的として、厚生労働省など政府・行政も積極的にICT化を進めているのです。

役所等に提出する書類も、従来の紙媒体での情報のやり取りからデジタルデータ提出への移行をうながし、各介護事業所のICT化に助成金や介護報酬加算の制度を設けるなどして、できるだけ多くの介護事業所が速やかにICT化できるよう支援しています。(参考:厚生労働省|介護現場におけるICTの利用促進

深刻化する人材不足と介護業界のDX化促進についてはコチラの記事もご参考ください。
「ロボット配備計画」の最新技術とは 未来の介護施設ではロボットは普及している?

ICT化できる介護業務の例

ICTによりさまざまな介護業務の人的負担が軽減できると考えられます。
例えば以下のような業務にはICTが活用できます。

介護記録のデジタル報告

利用者の介護記録やケアプラン、アセスメントシートなどはこれまで手書きの紙に書かれてファイル保存され、利用者の介護状況の把握や介護保険請求などに利用されてきました。

しかし紙書類の作成には捺印・コピー・郵送等の手間がかかり、事務作業が煩雑になります。また後々に書類を見返したくても、目的の書類がなかなか見つからず苦労しがちです。

介護記録を記入するためにホームヘルパーが事業所に戻る必要があったり、書類仕事に時間を押されて利用者ケアの時間が充分に取れないなどの問題点も生じていました。

介護記録をICT化してデジタル報告に置き換えることで、書類作成に要する時間が削減でき、さらに必要なときにはいつでも簡単に見返すことができるのでスタッフ間の情報共有に大きく役立つと考えられます。

情報のリアルタイム共有

介護業務だけでなく、利用者の身体介助や生活援助を行っているリアルタイムな介護のシーンでもICT化が可能です。

介護スタッフがスマートフォンやタブレットなどを持ちながら介護業務にあたることで、利用者の健康状態などを他のスタッフにリアルタイムで共有でき、早急な対応が必要なときにも素早く対処ができます。

情報伝達のスピードロスをなくし、介護を行う上でのトラブルも未然に防げる可能性があります。

センサーによる見守り

介護現場で働く介護スタッフは、利用者の様子を確認しながら他の作業をおこなっていることがほとんどです。複数の担当利用者の離床や在室状況を常に管理するのは、介護スタッフにとって非常に負担の大きい業務の一つです。

利用者の居室に見守りセンサーを設置することで、介護スタッフが離れている場所で万が一の事態が発生しても、すぐ発見対処できるようにする策もICTの一環です。

施設玄関、エレベーター等が予期しないときに開閉した場合にアラートが鳴る仕組みにすれば、利用者の徘徊防止等にも役立ちます。
また見守りセンサーの設置による遠隔監視は、在宅介護をする家族にも活用できるICT化だと言えます。

見守りシステムについては、コニカミノルタQOLソリューションズの商品について代表の三浦氏に開発秘話などをインタビューした記事もあります。ご興味のある方は参考にしてください。
【HitomeQ】介護の現場をDXする コニカミノルタQOLソリューションズ代表・三浦雅範氏インタビュー(前編)

排せつ予測システム

介護事業所では利用者の排せつ介助も仕事の1つですが、排せつのタイミングは人によって異なるのでサポートが難しい業務でもあります。

またスタッフはある程度排せつのタイミングを予想してサポートしますが、対応が遅れることもあるでしょう。
排せつ予測ができるICTシステムを導入することで、排せつのタイミングを予測し、そのタイミングを通知で知ることができたり、排せつケアに関する申し送り事項の引き継ぎ業務を効率化したりできます。


実際の活用事例に関しては下記の記事もご参考ください。
ICTを活用した介護事業所に与えられるメリット【実際の8事例を元に解説】

介護現場にICTを導入するメリットとは

介護の現場ではいろいろなシーンでICTが活用できることがわかりました。

今度はICTの活用により、介護の現場にはどんなメリットが生まれるかを改めて確認しましょう。

スタッフの業務効率アップ

「賃金構造基本統計調査」統計によると、2019年時点で福祉施設介護職員として働いている方の平均年令は42.6歳です。(参考:政府統計ポータルサイトe-Stat|賃金構造基本統計調査

現代の平均的な40代前半はパソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスにも慣れ親しんでいる方が多く、手書きよりもキーボード入力・タップ入力の方が好まれる傾向にあります。

事務作業のICT化により業務効率が上がり、スタッフの負担が軽減されるだけでなく、空いた時間で利用者とのコミュニケーションを図る機会が増やせるということは大きなメリットになります。

離職率の低下

介護スタッフが働きやすい職場環境であれば、仕事がきついからと退職する方も少なくなり、スタッフの離職者率低下が期待できます。

ICT化によってスタッフ間のコミュニケーションが円滑になる利点も、人間関係の悪化によるスタッフの退職を防ぐ意味では効果的です。

ケア品質の向上

スタッフの入れ替えが少ない介護施設は、人員が安定しているためケア品質もおのずと向上します。

利用者にとっても常に同じ方が介護にあたってくれることで精神的な安定が図れるため、よりスムーズな身体介助等が行えるという好循環となります。

ケアマネージャーがケアプランを立てる際にも評判の良い介護事業所は紹介がしやすくなると考えられるため、ICT導入によって事業所の利益アップも期待できます。

介護現場にICTを導入するデメリットとは

介護の現場にICTを採り入れる際に生まれるのは、メリットばかりではありません。

ICT導入を検討する前には、メリットだけでなくデメリットについてもしっかり理解しておきましょう。

以下では介護の現場にICTを採り入れたたときに考えられるデメリットを説明します。

コストがかかる

導入するICTサービスごとに費用の種類は異なりますが、一般的には以下のような費用が発生する可能性があります。

  • ハードウェア費用:サーバー・パソコン・タブレット等の機器にかかる費用
  • ソフトウェア費用:パッケージソフト・ライセンス・クラウドサービス利用にかかる費用
  • 保守サポート費用:機器や回線、ネットワークおよびソフトの保守メンテナンス・サポートにかかる費用

ICTに使用する機器は定期的な入れ替えが必要なため、どのような形式のICTサービスであっても、ある程度継続的なコストを見込んでおかなければいけません。

コストを軽減する方法

国や自治体では介護人員の確保を主な目的とし、ICTを導入した介護事業所に対して補助金を給付して導入費用の補填ができる制度をもうけています。
詳しくは、下記記事も併せて確認してみましょう。
介護関連のICT補助金の概要を解説 給付対象になる介護業務とサービスとは

セキュリティリスク

ウイルスやスパイウェアなど、インターネットはさまざまなリスクにさらされています。

セキュリティ対策を怠った状態でICTを利用すると、ウイルスに感染して利用者の大事な個人情報などが漏洩する危険があります。

さらに訪問介護事業所がホームヘルパーの個人用スマートフォンでICTを使った情報共有をするときには、ホームヘルパーが所有するスマートフォンのセキュリティにも注意しなければいけません。

社員教育の必要性

公益財団法人 介護労働安定センターの「介護労働の現状について 令和2年度 介護労働実態調査の結果」によると、今の職場で受講した研修の中にもICT関連の研修について触れられていません。

IT機器が一般にも浸透した現代とはいえ、すべての方がITを完全に使いこなせているわけではありません。

スタッフ全員が使えるICTサービスでなければ、一部の方しか利用できない無用の長物になってしまいます。

パソコン等に不慣れなスタッフでもスムーズに使用できるようになるまで、徹底した社員教育を行う必要があります。

まとめ

今回はICT(情報通信技術)を介護業務に採り入れる方法やメリット・デメリットなどについて解説しました。

ICTの導入は介護職員の働きやすさと介護品質の向上、ひいては主役である要介護者の満足につながります。ICTのメリットとデメリットを理解しつつ、ICTをうまく活用していきましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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