高齢者の虚弱(フレイル)をAIで予測 100万人のデータを活用する最新技術

高齢者の虚弱(フレイル)をAIで予測 100万人のデータを活用する最新技術

最終更新日 2022.11.22

「予測」をしない日はないかと思います。

朝起きて、職場や学校に着くまでにかかる時間。
家族や友人と会うとき、どんな会話になるのか。
はたまた、購入後の株価・・・。

現在と離れた時間であればあるほど、予測の難しさは増していくものです。

では、高齢に伴う体の変化に、「予測」は通用するのでしょうか?
今日のテーマは「虚弱(フレイル)の予測」です。

この記事の要点

忙しい人のために、10秒で読める要点を下に書いておきます。

  1. 虚弱(フレイル)は、さまざまなリスクをもつ。
  2. 100万人のデータから、虚弱(フレイル)で起こる出来事を、予測する研究がある。
  3. 死亡や緊急入院を高い正確さで予測できることがわかった。

虚弱(フレイル)という言葉は聞き慣れないものの、高齢に伴う「死亡」や「緊急入院」となると、イメージが湧いてくるかと思います。被介護者や、あなたのおじいちゃん、おばあちゃんが、急に危篤になるかもしれないと考えてください。

★この記事で参照している科学論文の情報

著者:Adane Tarekegn, Fulvio Ricceri, Giuseppe Costa, Elisa Ferracin, Mario Giacobini
タイトル:Predictive Modeling for Frailty Conditions in Elderly People: Machine Learning Approaches
URL:DOI

虚弱(フレイル)は、皆にとって、自分の話

あえて繰り返し言うまでもないことですが、現代の日本をはじめとした先進各国は高齢化社会です。
高齢化社会のひとつの特徴は、あなたも高齢者になる可能性が高いということです。

そして今回の記事ですでに何度も登場しているキーワードの「虚弱(フレイル)」とは、高齢者の状態の1つで、近年定義された重要な概念です。

虚弱(フレイル)とは

この言葉の意味を、厚生労働省の発表した資料から抜粋して説明しておきます。

「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す“frailty”の日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語である。フレイルは、「要介護状態に至る前段階として位置づけられるが、身体的脆弱性のみならず精神心理的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する。」と定義されている。また「フレイル」の前段階にあたる「プレフレイル」のような早期の段階からの介入・支援を実施することも重要である。

厚生労働省「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン第2版」より

高齢=虚弱(フレイル)ではなく、高齢の結果、虚弱(フレイル)になりえるという話ですね。

「身体的脆弱性のみならず精神心理的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすい」という部分には特に注目すべきかもしれません。

要するに、老化によって心身が衰えた状態のことです。その結果、移動における制限が増え、更にさまざまな深刻なリスクを持ちます。

介護業界では2020年、フレイル検診が導入された

厚生労働省は、虚弱(フレイル)の予防・重症化予防のために「フレイル検診」を2020年4月から導入しました。

「フレイル検診」は、新しく作られた「後期高齢者(75歳以上)の質問票」に基づいています。これには、これまでのエビデンスや保健事業の実際、回答高齢者の負担を考慮し、15項目の質問が記載されています。(厚生労働省「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン 第2版」より)

この検診の特徴は、同省の施策方針で注目されている「科学的介護」のもとになりえることです。「科学的介護」とは、エビデンスに基づいた自立支援・重度化防止のことです。同省はさらに、「現場・アカデミア等が一体となる必要がある」と説いています。(厚生労働省「科学的介護について」より)

このように、虚弱(フレイル)は現場レベルで対策が迫られている課題とされており、その先には、より科学的な介護が目指されているようです。

さて、虚弱(フレイル)だと想定される人々は、以下のような問題が起こる可能性が高いです。

  • 運動障害
  • 転倒による障害
  • 入院
  • 死亡

個人にとっては生活が危ぶまれ、社会にとっては医療コストの増加を引き起こします。

100万人のデータ

冒頭の話に戻りますが、虚弱(フレイル)を予測するというのはどれくらい現実的なことだと思いますか?

たとえば、目の前のおじいさんを観察して、「今にも入院してしまいそう」だと想像するのは勝手です。しかし、それがどれくらい合っているかと聞かれたら、ほとんどの人が首をかしげるのではないでしょうか。

さて、ここで、イタリア・トリノ大学のAdane Tarekegnらの研究を紹介したいと思います。

彼らは65歳以上の高齢者1,095,612人の健康に関わるデータを使用して、虚弱(フレイル)状態の予測を行うことを試みました。

使用したのは、機械学習の技術。
このサイトではお馴染みのキーワードですが、何度聞いても難しい感じがすると思います。こちらのページで概念をつかんでみてください。

要するに、人間の感覚では難しい予測を、機械の力に頼ってやってみましょうという研究でした。

死亡率は約8割、緊急入院は約7割の正確さで予測できると判明

イタリア・トリノ大学のAdane Tarekegnらの研究結果では、見出しの通り、死亡率予測と緊急入院の予測で7割を超える正確さが出ました。

そのほかの予測(骨折)などでも7割を超える正確さが確認され、多くの人数の健康データによる機械予測は、非常に有効なのではないかという結論にいたりました。

データの中身、機械の中身

しかし、健康データって一体、なんのことだろう?と訝しがる方もいるかもしれないので、簡単に説明しておきます。

彼らが使用した100万人の健康データには、次のような項目が含まれていました。

  • 年齢
  • 障害の有無
  • 貧血の有無
  • 循環器疾患の有無
  • 呼吸器疾患の有無
  • 尿路感染症の有無
  • 神経疾患の有無
  • うつ病の有無

これが全てではありませんが、このように、体の不調や老化に関わるさまざまなステータスです。

そして、これらのデータを一体どうやって料理したら、予測ができるようになるのか?といえば、機械学習という回答になります。しかし、この機械学習にも色々なやり方があるのです。Adane Tarekegnらは、色々なやり方を試した結果、予測したい虚弱(フレイル)の種類だけでなく、この機械学習のやり方によっても、予測性能が大きく変わることをつきとめたのです。

医学的にも、工学的にも、意味のある研究結果といえる発表でした。

「因果を考える」ということ

このような研究の話がすごいのは何となく伝わってきたかと思います。

しかし、現実に何の関係があるの?と感じるかもしれません。

「そもそも疾患を持っているなら、次の重篤な状態になったって不思議ではないじゃないか」という所でしょうか。

しかし、因果関係を解明する技術が存在する、ということが重要なのです。

つまり、今度は、疾患に焦点をあてて、その原因と、発症の確率を予測することをやっていければいいのではないでしょうか。

日々の仕事のなかで、「予測したい重要なこと」があれば、「それに関係ありそうな情報」を探してみて、その因果関係を探ることはできそうかどうか少し想像してみてください。

ちょっとでも可能性がありそうなら、ツイッターなどのSNSにデータサイエンティスト宛に質問してみると、面白い答えが返ってくるかもしれませんよ!

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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