介護事業所で利用されているAI・ロボット9種 最新の導入割合と活用の方策

介護事業所で利用されているAI・ロボット9種 最新の導入割合と活用の方策

最終更新日 2023.10.23

介護にロボットを活用しようとする動きが、厚生労働省の旗振りのもと広まりつつあります。

またAI(artificial intelligence/人工知能)に関しても同様に、介護のシーンで役立てられないかと模索されています。

いま介護業界で活用できるAIやロボットにはどんなものがあるのでしょうか。またAIやロボットをすでに活用している介護事業所はどのくらいいるのでしょうか。

今回は介護業界におけるAIとロボットの活用について、最新の統計をもとに詳しく解説します。

色々な介護の場面で活躍するAI・ロボット

高齢者介護を行う際に、どのような形でAIやロボットが活用できるかをまず確認してみましょう。

一般財団法人日本経済研究所調査局が「介護現場におけるロボット・AI 活用に関する調査研究」の中で、介護支援専門員・居宅型介護サービス事業所・通所型介護サービス事業所・入居型介護サービス事業所が利用できるロボットとAIの種類をわかりやすくまとめています。

AIによるケアプラン作成

ケアマネージャーが作成したケアプランのデータをAIが学習し、データをもとに要介護者ごとのおすすめケアプランを自動的に作成します。またAIにより将来の容態を予測することも可能です。

お片付けロボット(AI搭載)

AIによる深層学習を用いたロボットが、乱雑に置かれた洋服や日用品・文具などのさまざまな物体をそれぞれ認識し、所定の場所に片付けます。また人間が口頭やジェスチャーで片付け指示を出してロボットに片付けさせることもできます。

移乗介助ロボット(装着型)

移乗介助などの際に介護者が装着し、腰部にかかる負荷を低減するためのロボットです。脳から筋肉へ送られる信号を利用するタイプや、空気圧式の人工筋肉を使用するタイプなどさまざまなロボットが製品化されています。

移乗介助ロボット(非装着型)

要介護者の移乗を介護者が行うのではなく、ロボットが要介護者に直接触れて移乗のサポートを行うロボットです。ロボットアームが要介護者を抱き上げるような形で移乗させるタイプや、ベッドの一部が車いすとして分離して離床を促進するタイプなどさまざまな形状の移乗介助ロボットが存在しています。

移動支援ロボット

電動アシストのロボットを搭載した歩行補助具や歩行車などは、移動支援ロボットに分類されます。移動時に危険が生じた際の自動停止機能、音声によるアシスト機能なども搭載されています。

排泄支援ロボット

要介護者の恥骨付近に装着し、膀胱の膨らみから排尿のタイミングを超音波で測るロボットです。適切なタイミングで要介護者のトイレ誘導が行えるため、要介護者の自立支援と介護者の労力軽減に役立ちます。

入浴支援ロボット

仰臥位(あおむけ)で寝ている要介護者を専用ストレッチャーで浴槽まで運び入れ、自動で洗身を行えるロボットです。また座位の状態でシャワー浴が行えるタイプの入浴支援ロボットは、浴室以外にも設置が可能です。

見守り・コミュニケーションロボット

要介護者の居室天井やベッドに取り付け、要介護者の離床などの動きをセンサーで検知し、離れた場所にいる介護者に通知もしくは遠隔監視ができる見守りロボットや、要介護者の動きと連動して要介護者に直接声かけや対話ができる見守り・コミュニケーションロボットがあります。

ベッドのマットレス下に取り付けるタイプの見守りロボットでは、要介護者の呼吸や心拍などを測定して睡眠状態を把握できる製品もあります。

見守りロボットについての実証実験の結果について以下の記事で紹介しています。
新しい介護ロボット「ZORA」2年にわたる実証実験の結果
ロボットが高齢者の話し相手になれる時代 おすすめの会話ロボットを紹介

送迎支援システム(AI搭載)

高精度カーナビと車両管理システムより収集したデータをAIが分析し、送迎リストから最適な送迎ルートを選定します。また送迎ドライバーの安全運転サポートや運行データによる月報作成なども可能です。

認知症の介護にもAIが活用され始めている

総務省主宰「身近なIoTプロジェクト」で採択された認知症対応型IoTサービス事業では、認知症の診断を受けた高齢者の情報をAIに蓄積し、認知症にみられる特有の行動・心理症状(BPSD)の適切な対応方法を事前予測し介護者に提案する試みが行われました。

事業の結果、AI解析による最適な支援方法の提供に基づき介護を受けた要介護者はBPSDの発症が74%予防され、それに伴い介護負担が25%削減されたとの成果が出ています。

AIの活用は身体的な介護だけでなく、認知症の進行防止にも役立つことが実証されたといえます。

参考:身近なIoTプロジェクト|採択事業の紹介「H29-6. 認知症対応型IoTサービス」

ロボット・AIを導入済の介護事業所は2割

残念ながら、2019年時点で介護ロボットやAIを活用している介護事業所は2割にも至りません。

公益財団法人介護労働安定センターが実施した「令和元年度介護労働実態調査」によれば、介護ロボットを「いずれも導入していない」と答えた訪問系介護事業所は80.8%、施設系(通所型)介護事業所は 80.1%といずれも 8 割を超えました。

介護の現場に活用できるAIやロボットは存在しているのに、介護事業所側が十分に利用できていない点が今後の課題として挙げられます。

未来の介護ロボット活用の可能性

2019年における介護事業所のロボット活用割合はわずか2割ほどでしたが、未来における活用の可能性はどのくらいあるでしょうか。

北米の研究者たちが介護施設にロボットを配備するための方法を検証した結果が、以下の記事でまとめられています。これからの介護事業所の未来を考えるために、ぜひ参考にしてください。
「ロボット配備計画」の最新技術とは 未来の介護施設ではロボットは普及している?

介護でAIとロボットを活用するための方策

上記の「令和元年度介護労働実態調査」では、介護ロボット等を導入していないと答えた介護事業所は「導入する予算がない」「清掃や消耗品管理などの維持管理が大変である」「技術的に使いこなせるか心配である」「投資に見合うだけの効果がない」などを理由に挙げました。

今後、介護事業所がAIやロボットを利用するためにはどのような方策をとっていけば良いのでしょうか。

補助金の活用

国や自治体では介護職員の負担軽減や業務効率化を目的として、介護ロボット等を導入した介護事業所に対して補助金を支給しています。

介護事業所が利用できる補助金制度について詳しくは以下の記事をご覧ください。
介護関連のICT補助金の概要を解説 給付対象になる介護業務とサービスとは

職員のIT教育

日本にITが普及してきたとはいえ、すべての人がITを使いこなせているとはまだ言えません。

介護事業所が導入したAIやロボットを使いこなせるようにするためには、職員の教育やITリテラシーの向上が必要です。

本サイトには介護に関連するさまざまな最新テクノロジーの情報が掲載されていますので、ぜひ本サイトの情報を職員教育にも役立ててください。

事業所の意識改革

なによりも必要なのは、これからの介護のために「新しいことをやっていこう」という介護事業所自身の意識改革です。

従来のやりかたに固執せず、新しい技術や手段を柔軟に取り入れていきましょう。

まとめ

今回は介護業界のAI・ロボットの活用について、最新の統計をもとに解説しました。

最新のテクノロジーで、介護事業所は今よりももっと仕事がやりやすくなる可能性があります。そしてその改善は、他ならぬ要介護者へのサービス向上につながります。

介護に携わる人がどうすれば介護しやすくなるか、どう高齢者の皆様により良い介護サービスを提供していけるか、常に考えながら改善策を模索しましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
フォローする