見守りカメラとは?AIと暗号化によりプライバシーを保護しながら転倒を防ぐ技術も開発中

見守りカメラとは?AIと暗号化によりプライバシーを保護しながら転倒を防ぐ技術も開発中

最終更新日 2022.11.22

イギリスの大学などの研究グループが、プライバシーを保護しながら認知症高齢者の行動を見守るカメラ技術をAIと暗号化を用いて研究しています。この記事では見守りカメラの基本を見ながら、研究の内容について論文をもとにお伝えします。

見守りカメラは見守りシステムの一種

カメラ

見守りシステムの種類

見守りカメラとは「見守りシステム」の一種で、カメラ型の見守りシステムとも言われます。介護における見守りサービスには様々な種類があり、機械を用いた見守りシステムのサービスが続々と登場しています。見守りシステムの種類を以下に挙げます。

  • カメラ型
  • センサー型
  • 緊急ボタン型
  • ロボット型

見守りシステムを検討する利用者は通常、これらの中からライフスタイルや用途に合わせて最適な種類を選びます。
なお、ロボット型(見守りロボット)に関しては以下の記事で解説されています。

見守りロボットの解説▶︎介護用見守りロボットとは? 導入メリット・利用者の声も紹介

見守りシステムの中でも、画像を用いて認知症高齢者などの徘徊や転倒などを早期発見する用途に対応するのがカメラ型(見守りカメラ)です。他の見守りシステムと比較すると「導入が手軽」などの特徴もあります。

見守りカメラの選び方

見守りカメラは多くのメーカーから販売されているため、購入する製品を選ぶ際には下記のポイントに注目します。

  • 動体認知機能の有無
  • レンズの視野角(90度以上の広角レンズの有無)
  • 夜間撮影モードの有無
  • 会話機能の有無
  • 温度センサーの有無
  • ズーム機能の有無

また近年では転倒検知機能を持つ見守りカメラも販売され始めています。

基本的には高機能であるほどコストが高くなりますが、メーカーによっては買い切りではなく月額のレンタルプランを用意しており、初期費用などの点から導入のハードルが低い場合もあります。製品を検討する際は利用場面に応じた必要機能の絞り込みや、利用可能プランの確認をしてみてください。

AIと暗号化によりプライバシーを保護しながら見守る新技術も開発中

カメラとプライバシー

見守りカメラは製品に多くの選択肢があり、開発も進んでいますが、現状では課題も存在します。
その一つがプライバシーの保護です。画像を使用した見守りは便利な反面、センサー型などの他の見守りシステムと比較してプライベートな情報が直接記録されるため利用者の精神的な負担も大きく、また外部流出する際のリスクが大きくなります。
また、既存の見守りカメラでは映像から検知できる動きのバリエーションがまだ少なく、転倒などの事故に気づく精度が十分ではないという課題もあります。

そんな中、イギリスなどの研究グループは介護用見守りカメラの将来的な機能として、プライバシーを保護しながら多岐にわたる動きを検知できる技術を開発しています。検知にはAI技術(機械学習)が活用され、さらにプライバシー保護にはレーダー画像の暗号化技術が採用されています。

参照する科学論文の情報
著者:Syed Aziz Shah , Jawad Ahmad , Senior Member, Fawad Masood , Syed Yaseen Shah, Haris Pervaiz, William Taylor, Muhammad Ali Imran , Senior Member and Qammer H. Abbasi
機関(国):Coventry University(イギリス)、Edinburgh Napier University(イギリス)、Institute of Space Technology(パキスタン)、Glasgow Caledonian University(イギリス)、Lancaster University(イギリス)、University of Glasgow(イギリス)
タイトル:Privacy-Preserving Wandering Behavior Sensing in Dementia Patients Using Modified Logistic and Dynamic Newton Leipnik Maps
URL:doi.org/10.1109/JSEN.2020.3022564

ちなみに、見守りシステムに関する研究事例は他の記事でも取り上げています。是非チェックしてみてください!

独居×見守りセンサー×AI▶︎独居(一人暮らし)高齢者の健康・安全は見守りセンサーとAIで守られていく

介護施設×見守りセンサー×仕事効率化App▶︎介護士の仕事効率を改善し、離職を防ぐ センサー型見守りツールをAppで管理する最新テクノロジー

在宅介護×見守りセンサー×AI×緊急連絡App▶︎在宅介護の見守りAIが高齢者の救急搬送を防ぐ スマートフォンを活用

レーダー画像をAIにより分類

研究者らの狙いは、認知症患者の徘徊行動を検知するだけでなく、ADL(日常生活動作)を検知することにより「転倒に紐づく行動」や「アルツハイマー病の発症」などを早期発見することにも役立つ技術を開発することでした。
そこで体の動きを捉えるために、3次元的に情報が取得できるレーダー画像(※)を用いています。

※レーダー画像・・・電波の反射で対象物を撮像した画像。対象物の距離や方向などの情報が記録される。

撮像された画像はインターネットを介してコンピューターに送られ、AIによって分類が行われます。

撮像画像をAIで分類している様子を示す概念図
撮像画像をAIで分類している様子を示す概念図

下図はAIによって徘徊のほか4種類のADL(日常生活動作)に分類されたレーダー画像の例です。

人々の行動によって変化するレーダー画像
人々の各行動を示すレーダー画像

撮像されたレーダー画像を、

  • 前後に歩行
  • 物を拾う
  • ジョギング
  • 椅子に座る
  • 居室(リビング)を徘徊

の5種類に分類するというタスクにおいて、95.30%の精度が得られたようです。

レーダー画像の暗号化

カメラで撮影される利用者の精神的な負担やプライバシー侵害のリスクを最大限減らすことは重要です。グローバルに見ても、見守りシステム経由で利用者のデータが流出した事例はいくつか存在します。プライバシー保護はこれから見守りシステム全体の必須条件となっていくと予想されます。

そこで研究者らは、撮像された画像を下図のような流れで暗号化するスキーム(枠組み)を開発しました。

暗号化の流れを示す概念図
暗号化の流れを示す概念図

画像にアクセスできる権限を限定し、さらにコンピュータの(カオス)アルゴリズムによって画像を書き換えるという枠組みです。

「暗号化」を聞き慣れない方は多いかと思いますが、図右の「暗号化画像」をみて分かるように、元の画像を全く推測できない状態に編集することが可能です。暗号化された画像を元の画像に戻し、さらに閲覧することができるのは権限を持ったごく一部の技術者のみであるのが特徴です。

ただし、今回の研究では悪意を持ったハッカーに対する防御は実験されていないため、実際のプライバシー保護性能は明らかにはされませんでした。見守りカメラ画像に対して複雑な暗号化を行うのは新しい取り組みであるため、今後の社会実装に向けての追加実験などが期待されます。

まとめ

この記事では、見守りカメラの基本を見ながら、新しい研究の内容について論文をもとにお伝えしました。新しい研究とは、プライバシーを保護しながら認知症高齢者の行動を見守るカメラを実現する技術に関するものでした。

研究者らは、この新しい徘徊行動・ADL(日常生活動作)検知システムに対して「低コストで」「高い分類性能を持ち」「プライバシー保護を実現する」ものだと総評しています。

在宅介護や独居高齢者が増え、高齢者介護施設における人手が求められる中、介護や高齢者の生活支援をDXすることは重要になってきています。そんな中で見守りシステムは今後ますます活躍が見込まれるツールの一つです。
今回紹介した研究は内容的に少し難しいものだったかもしれませんが、このような研究が進むことで、さらにストレスなく見守りシステムを使えるようになると期待されます。
世の中が良くなるように、研究の世界を引き続き応援していきましょう!

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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