「ロボット配備計画」の最新技術とは 未来の介護施設ではロボットは普及している?

「ロボット配備計画」の最新技術とは 未来の介護施設ではロボットは普及している?

最終更新日 2022.11.22

ロボットを目にする機会はどれくらいありますか?

派手なロボットの存在感は増している気がしますが、それらはメディアによって印象付けられている部分もあるかもしれません。

周りを見渡して、「あれもこれもロボット」という時代はくるのでしょうか?特に、その活躍が期待されている介護施設ではどうなっていくのでしょう?

今日のテーマは「介護施設とロボット」です。

この記事の要点

  1. 介護業界でもロボットなどの最新テクノロジーが注目されている
  2. ロボットを導入する際は「配備計画」も重要
  3. 完璧な計画はまだないが、「計画」もテクノロジーで行う研究がされている

★この記事で参照している科学論文の情報

著者:Tony T. Tran, Tiago Vaquero, Goldie Nejat, J. Christopher Beck
タイトル:Robots in Retirement Homes: Applying Off-the-Shelf Planning and Scheduling to a Team of Assistive Robots
URL:DOI

介護業界で特にロボットが注目されている理由は?

深刻化する人材不足と介護ロボットの関係

介護施設は、世の中にどれほどの数が存在すると思いますか?
1,000?2,000?
いえいえ、その総数はなんと国内だけで30万を超えています。
(厚生労働省「令和元年介護サービス施設・事業所調査の概況」「施設・事業所の状況」)

介護施設の数は、もちろん介護のニーズを表しています。しかし、少子高齢化というだけあって、肝心の職員の数が足りていません。

内閣府が発表した「令和3年版高齢社会白書」によると、高齢者(65歳以上)が総人口に対して占める割合は28.8%と国民の約3.5人に1人が65歳以上になります。高齢化が進むに伴い、要介護・要支援認定者数は、2021年7月末時点で687万人(第1号被保険者のみ)に達しています。(厚生労働省「介護保険事業状況報告の概要」)

一方で介護人材においては、厚生労働省から発表されているデータによると2025年度末には約243万人の需要が見込まれており、そのためには年間5.3万人程度の介護人材の確保が必要になるとされております。

介護人材の必要数についてのグラフ
画像引用:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について(別紙1)

こうした状況を受け、政府は介護人材の確保・介護現場の革新に向けた取り組みとして、介護職員の処遇改善・職場環境の改善のほか、介護現場における介護ロボットやICTなどのテクノロジーの活用により、介護サービスの質の向上及び業務効率化を推進する方針を掲げております。

介護ロボットによって介護業務の負担軽減を図ると同時に、介護記録の作成・保管などの事務作業をICTの活用で効率化することで、人手不足の原因となる体力的な問題や精神的な問題を解決していく取り組みが求められているのです。

日本における介護ロボットの例

厚生労働省が定めるロボットの定義とは、「情報を感知し(センサー系)」「判断し(知能・制御系)」「動作する(駆動系)」という3つの要素技術を有する、知能化した機械システムのことを指します。そのうち、ロボット技術が応用され利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器を【介護ロボット】と呼んでいます。

厚生労働省は、経済産業省とともに「ロボット技術の介護利用における重点分野」として6分野13項目定め、その開発・導入を支援しています。(厚生労働省「介護ロボットの開発・普及の促進」)

注力されている6分野について少し紹介していきましょう。

(1)移乗支援ロボット

移乗支援ロボットとは、介助者のパワーアシストを行う装着型の機器などです。介助者による抱え上げ動作のサポートなどが目的とされることがあります。装着型のものが印象的かと思いますが、非装着型の機器もあります。

(2)移動支援ロボット

移動支援ロボットとは、高齢者等の外出をサポートし、荷物等を安全に運搬できる歩行支援機器のことです。
屋内では、移動や立ち座りをサポートし、特にトイレへの往復やトイレ内での姿勢保持を支援するものもあります。
転倒予防や歩行等を補助する、装着型のものもあります。

(3)排泄支援ロボット

排泄支援ロボットには、排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置調節可能なトイレなどがあります。
他にも、排泄を予測しトイレ誘導する機器やトイレ内での下衣の着脱等の排泄の一連の動作を支援するロボット機器などがあります。

(4)見守り・コミュニケーション支援ロボット

センサーや外部通信機器を備えたロボット機器で、センサーによって高齢者の健康状態や行動(起床、離床、転倒、転落)などを検知し、遠隔地から確認することが出来ます。
また、見守りだけでなく高齢者等とのコミュニケーションをサポートする機能を備えたロボット機器もあります。

(5)入浴支援ロボット

入浴支援ロボットとは、高齢者等が浴槽に出入りする際の一連の動作を支援する介護ロボット機器のことで、高齢者一人で操作できるものもあります。

(6)介護業務支援

ロボット技術を用いて、見守り、移動支援、排泄支援をはじめとする介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、それを基に、高齢者等の必要な支援に活用することを可能とする機器のことを指します。

ロボット技術の介護利用における重点分野の参考図
画像引用:国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

特に、移乗支援・移動支援・排泄支援・見守り支援・入浴支援の5分野については、すでにロボット導入の実証実験も多く行われており、現場で導入が進んでいる製品などもあります。

なお、現在実用化されているロボットに関しては下記記事などもご参考下さい。

介護事業所で利用されているAI・ロボット9種 最新の導入割合と活用の方策
介護業務が楽になる見守りロボットとは 種類・導入効果・利用者の声


計画技術の最先端

「ロボットを導入と言ったって、簡単なことじゃないよ」と思ったそこのあなた、その感覚は正しいと思います。
では、具体的にどのような障壁があるのでしょうか。

コスト・・・信頼性・・・そのどちらも重要ですが、ロボットを普及させる配備計画のことをお忘れではありませんか?
配備計画というのは、ある施設において、『どのようなロボットを・幾つ・どこに配置すると効果的か』ということを考えることです。

北米の研究者たちの奮闘

トロント大学のTony T. Tranやマサチューセッツ工科大学のTiago Vaqueroら研究者たちは、介護施設にロボットを配備する計画に焦点を当てて、テクノロジーを活用した3つの方法を検証しました。
北米は日本に負けず劣らずの高齢化社会に直面しているので、このような研究が進むのは、さもありなん、と言った所でしょう。

配備計画を立てているイメージ図

配備計画を立てる時には、実際の現場における以下の項目に考慮しなければなりません。

  • 場所
  • ユーザー(利用者や従事者)
  • 充電ステーション
  • ロボット
  • 初期位置
  • 速度
  • バッテリーレベル
  • 電力消費量
  • 遠隔操作の種類

研究者たちはこれらの項目による影響を数値化し、その数値をどのように変えれば、『ロボットによって、現場のタスクがしっかりと遂行されるのか』をみることにしました。
そこで、研究者たちは計画を立てることが出来る3つの方法を比較し、どの計画が一番効果的な導入を進めることが出来るのかを検証しました。

その3つの方法とは、以下のようなものです。

  1. PDDLベースによる計画
  2. タイムラインとスケジューリングによる計画
  3. 制約ベースのスケジューリングによる計画

PDDLとは「Planning Domain Descrition Language」の略で、直訳すると「計画ドメイン定義言語」になります。
AI計画と呼ばれる「自動化やロボットの実現計画」の戦略を立てるためのツールとして認識してください。

タイムラインでは例えば「自室から移動して別の部屋にいるロボットと話して戻るのに30分間かかる」などの条件で、制約ベースは例えば、「1日何回充電ステーションに戻らないといけない」といった制約条件で計画を立てることを想定してください。

ひとつひとつの方法のメカニズムを細かく述べると、複雑かつ難解なので、ここでは結果だけ見てみましょう。

万能な計画はない(少なくとも今はまだ)

結論として、「制約ベースのスケジューリング」と呼ばれる手法による計画が優れている場合が多いと判断されました。

この方法は、最適化(計画にもっとも適した色々な数字を算出すること)を行う上で、他の方法よりも優れているとのことでした。
ただし、どのケースにおいても適用される訳ではなく、「大きなスケジュールには苦労する可能性がある」という結果も出ました。

つまり、より大きな施設であったり、連携している複数の施設であったりに、一度にロボットを導入する際には、慎重になる必要があるということです。
反面、「PDDLベース」では、小規模な場合であれば計画を作ることが出来るが、時々スケジュール調整が上手く計画されない場合があるようです。

一概に、「こちらの計画が全面的に正しい」という結果にならないところが味噌ですね。

計画の重要性

ここまで、色々な話が出てきたことで、「そもそも計画ってなに?」とごちゃごちゃとした気持ちになったかもしれません。わかりやすい例で考えてみましょう。

例えば、職場や学校の避難訓練を想像してみてください。大きな建物の全員が無事に避難完了するには、やみくもに避難するわけにはいきません。
必ず、何らかの方針に基づいて、計画的な動きを行う必要があるはずです。
そして最高の結果(この例で言えば全員の無傷)を達成するために、いくつか方針の種類を考えて、検証するのがよいはずです。

避難計画がシビアに考えられるべきなのと同様に、介護施設へのロボット配備では、コストや信頼性を不意にしないためにも、入念な計画が必要というわけです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今後、高齢者介護がますます重要になる中で、必要なロボット機器はどんどん備えられていくことと思います。
近い未来では、もっと身近に介護ロボットを目にすることが出来る時代が来ることでしょう。

今回ご紹介したような研究をときどき思い出して、未来を想像してみてくださいね!

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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