高齢者への適切な介護サービスために知っておきたいADL(日常生活動作)とは?BADL・IADL評価スケールを紹介

高齢者への適切な介護サービスために知っておきたいADL(日常生活動作)とは?BADL・IADL評価スケールを紹介

最終更新日 2022.11.24

この記事の要点

  1. ADLとは人間が生活を送る上で最低限必要となる行為や社会活動のこと
  2. ADLにはBADLとIADLの二種類がある
  3. ADLを把握すれば要介護者に適切な介護サービスが提供できる

介護の現場では、高齢者のADLという言葉がよく使われています。

ADLとはどういう意味の言葉なのでしょうか。どうして介護の現場では高齢者のADLを知る必要があるのでしょうか。

それはADLを把握することで、高齢者がどのような介護を必要としているのかがわかり、適切な介護ができるようになるからです。

今回は 介護サービスの提供に必須とも言うべきADLについて解説します。

ADL(日常生活動作)とは

ADLはActivities of Daily Livingの 頭文字をとった略称です。日本語では日常生活動作と呼びます。

A: Activities(動作) DL:Daily Living(日常生活)

つまりADLとは、人間が生活を送る上で最低限必要な行為や社会活動のことです。

健康状態や認知機能の低下によりADLが自立して行えない状態になると、第三者の助けを借りる必要があります。

ADLは介護の必要性を測るために重要な指標となります。

ADL低下が要介護状態を引き起こす

ADLが低下する原因は、高齢者の健康状態と認知機能の低下だけでなく、家庭環境や社会環境、精神状態の影響も大きく関わってきます。

さまざまな要因によりADLが低下すると、自立した生活が続けられずに要介護状態に進行します。

一人暮らしの高齢者など孤独に陥りやすい環境ではADL低下になりやすいため、ADLを維持するための社会的な対策が望まれます。

ADLの種類

ADLには以下の二種類があります。

  • BADL(基本的日常生活動作)
  • IADL(手段的日常生活動作)

それぞれのADLについて説明します。

BADL(基本的日常生活動作)

BADL((Basic Activities of Daily Living)とは基本的な日常生活動作のことです。

人間が日常生活を送る上で必要となる、移動・排泄・食事・更衣・洗面・入浴などの動作を指します。

IADL(手段的日常生活動作)

BADLが日常生活を送る上での基本的な動作レベルを測る指標であるのに対して、IADL(Instrumental Activities of Daily Living)はさらに発展した自立生活レベルを測る指標です。日本語では手段的日常生活動作と呼ばれています。

具体的には掃除・洗濯・買い物・料理などの家事や、自らの健康状態の管理、財産管理、第三者とのコミュニケーションレベルなどが滞りなく行えているかどうかが判断基準です。

また対象者が趣味を楽しんでいるかなども、IADLを測る基準のひとつとなります。

ADLの評価方法

ADLの評価をするためにはいろいろな方法がありますが、評価方法により測るADLはBADL・IADLのどちらかが主となります。一部の評価方法ではBADL・IADLの同時評価が可能です。

対象者の状況によって適切な評価方法が異なりますので、いろいろなADL評価方法について 理解を深めておきましょう。

Barthel Index

Barthel Index(バーセルインデックス)とはアメリカで開発されたBADL評価スケールです。

高齢者だけでなく障害を持つ方や病気にかかった方のADLを把握することができ、理学療法士や作業療法士などのリハビリプラン作成などにも用いられています。

参考:公益財団法人長寿科学振興財団|Bathel Index

Barthel Indexでは10のチェック項目で対象者の日常生活動作を0~100点に数値化します。点数が高いほどADL値が高く、0に近い状態だと介護が必要だと判断されます。

Katz Index

Katz Index(カッツインデックス)は老化や慢性疾患の治療、投薬治療の効果比較などのためにアメリカで開発されたBADL評価スケールです。

Barthel Indexよりもチェック項目が少なく、判定結果も「自立」「介護」の二択になるため、簡易的な評価として用いられることが多いです。入浴、更衣、トイレの使用、移動、排尿・排便、食事の6つの領域のADLに関して自立・介助の関係より、AからGまでの7段階の自立指標という総合判定を行う評価方法です。

参考:MSDマニュアル|Katzの日常生活動作スケール(Katz Activities of Daily Living Scale)

Lawton

Lawton(ロートン)はIADLを評価するためにアメリカの心理学者であるLawton氏らが開発した評価スケールです。

BADLを測るBarthel Indexと組み合わせて利用されることもあります。

参考:一般社団法人日本老年医学会|手段的日常生活動作(IADL)尺度

Lawtonでは電話・買い物・食事の準備・家事・洗濯・交通手段・服薬管理・金銭管理の8項目を5段階評価でチェックし、点数が高いほど自立度が高いと判定されます。

FIM

FIMはFunctional Independence Measureの頭文字を取った略称です。日本語では機能的自立度評価法と呼ばれます。

FIMはアメリカ合同リハビリ医学会の議論をきっかけに開発されました。

参考:公益財団法人長寿科学振興財団|FIM評価表

FIMではBADLとIDALを同時に評価できるため、ケアプラン作成や介護施設入居前の調査などに広く用いられています。

FIMでチェックできる18項目は、運動・コミュニケーション・認知の3分野に分かれます。それぞれの分野を細かく数値化し、対象者にどの程度の介護が必要なのかを詳しく知ることができます。

老研式活動能力指標

老研式活動能力指標は日本で開発されたIADLの評価スケールです。

参考:一般社団法人日本老年医学会|老研式活動能力指標

日本における退職後の高齢者の生活能力を把握するために開発されたとも言われ、要介護者状態になった方ではなく自立した生活を営んでいる方を対象としたチェック項目が多くなっています。

老研式活動能力指標によるIADL判定では、回答者の年齢や性別により自立度を測る点数が異なっている点も特徴的です。

DASC-8

DASC-8(ダスク8)とは日本で開発されたDASC-21の短縮版です。

主に認知機能のスクリーニングを行う検査ですが、BADL・IADLも同時にチェックできます。

ただしDASC-8による認知機能やADLの評価は簡易的なスクリーニングなため、詳細な評価については他の評価スケールも用いて総合的に判断することが推奨されています。

参考:一般社団法人日本老年医学会|認知・生活機能質問票(DASC-8)

DASC-8の元となったDASC-21については以下の記事でも触れていますので、あわせて参考にしてください。

認知症を調べるスクリーニングテストと各種検査を解説 セルフテストも紹介

VR

まだ実用化にはいたっていないものの、VR(仮想現実)を使ってADLに関わる認知機能を評価しようという研究についても紹介します。

イタリア・アメリカの共同グループが行った研究では、没入型のVR装置を91歳の女性に装着させた状態で行ったADL評価と、現実に行ったADL評価の結果にどのくらいの差が出たのかを調査しました。

研究に関する詳しい内容は以下の記事をお読みください。

VRで高齢者の日常生活動作(ADL)に関わる認知機能を評価 イタリア・アメリカの研究グループが開発

研究グループは、VRを用いたADL評価には一定の有効性が認められたと結論付けています。

介護の効率化の一環として、介護に必要なADL評価についても効率化が求められますので、今後の実用化が期待されます。

ADLレベルを把握すれば介護の質が上がる

介護の現場で対象者のADLレベルを知っても、ただ単に「わかる」だけでは不十分です。

要介護者のADLレベルがわかれば、その方にどんな介護を、どのくらいの頻度で行えば良いかがわかります。

つまりADLを理解すれば、介護サービスの質を向上させることが可能になります。

ひとりひとりのADL評価結果を把握し、その人ごとに合わせた介護サービスを提供してADLの維持や向上に努めましょう。

アシストスーツでADL向上が期待できる

介護職員の腰痛防止対策として、近年多くの介護施設でアシストスーツの導入が進められています。

このアシストスーツが高齢者のADL向上に役立つかもしれないという研究があります。

オーストラリアの研究グループが、高齢者向けに開発されたアシストスーツの装着により 高齢者の運動機能が補助されてADLが向上したとの 研究結果を発表しました。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

アシストスーツは高齢者のADL低下予防にも役に立つ

費用の問題などまだまだ改善すべき点は多いですが、今後開発が進められて、高齢者がアシストスーツをもっと活用しやすくなれば、高齢者のADLが向上して日本の介護問題を解決する手立てになるかもしれません。

介護作業を支援するアシストスーツ「HAL」を展開するCYBERDYNE株式会社のインタビューもぜひご覧ください。

【サイバーダイン】介護アシストスーツHAL企業インタビュー(前編)~現場と共にソリューションを作る~

まとめ

今回は高齢者のADLを測るさまざまな評価スケールを紹介し、ADLの把握が介護サービスの提供にどのように関係してくるかを解説しました。

高齢者のADLを把握することは、相手の理解につながります。

相手の生活レベルを知り、その方が介護に何を求めているかを知って適切な介護サービスを提供しましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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