「園芸療法」とは?VRと組み合わせた「園芸療法VR」も登場

「園芸療法」とは?VRと組み合わせた「園芸療法VR」も登場

最終更新日 2022.11.24

台湾の研究者グループが園芸療法とVR(バーチャルリアリティ)を組み合わせる研究を行なっており、興味深い知見が得られています。この記事では園芸療法の基本を詳しく見ながら、研究の内容について論文をもとにお伝えします。

園芸療法とは

花

園芸療法とは、農業や園芸が精神的・身体的な健康に良い影響を与えることに着目し、高齢者や障がい者など支援を必要とする人々のQOL(生活の質)向上などを目的として行う療法です。

国内では園芸療法についての知見を深める「日本園芸療法学会」も設立されており、同学会では園芸療法の質を向上させ保障するために園芸療法士の資格認定制度が設けられています。

園芸療法の効果

園芸療法の効果は主に3つの側面から見ることができます。

  • 身体的な効果:バランス良く身体を使う必要があるため、総合的なリハビリになる。
  • 精神的な効果:責任感を持って植物を育てる中で喜びが得られ、ストレスが軽減される。
  • 社会的な効果:周囲の人々とのコミュニケーションや、共感する体験などを通し、社会性が高まる。

園芸療法の実施手順

園芸療法の実施は、基本的に以下の手順で行われます。

  1. 処方・初期評価:
    通常、医師によって高齢者や障がい者本人(対象者)にとって園芸療法が適しているかどうかが判断されます。また実施の有無が判断されると同時に、プログラム内容の計画のために初期評価が行われます。
  2. 目的・目標設定:
    対象者が園芸療法を行う目的と目標を設定します。目的の例としては「QOL(生活の質)向上」のほか、「ADL(日常生活動作)の改善」「運動機能の維持」などがあります。目的に合わせて、「水をやりながら立位姿勢を〇〇分保つ」などの目標を立てます。
  3. 計画・実施:
    対象者の認知能力や身体能力、社会性などからプログラムを計画します。集団で行う場合と、指導者とマンツーマンで行う場合に分かれます。
  4. 観察・記録:
    園芸療法中における対象者の表情や気分、動作、態度、交流などについてスタッフが観察し、文章や数値、写真などで記録します。
  5. 評価:
    (3ヶ月に1回程度)園芸療法を振り返り、効果や達成度を評価します。必要に応じてプログラムの内容変更などを検討します。

園芸療法のプログラム内容は、対象者の状態によって異なります。産物を収穫したり、飾ったり、調理して食べたり、他の人に分けたり売ったりします。

園芸療法の課題

多くのメリットがある園芸療法ですが、実施や普及において現状では以下のような課題が存在します。

  • 高齢者や障がい者にとって、種類が多くある園芸道具を使いこなすことが難しい。
  • スタッフにとって植物や花の準備に手間がかかる。
  • 参加者が衝突、転倒、その他の事故によって怪我をするのを防ぐためにスタッフが注意する必要がある。

園芸療法とVRを組み合わせで高齢者の健康増進を

VRと花

上述のような従来の園芸療法における課題を解決するべく、台湾の研究グループにより園芸療法とVRの組み合わせが研究されています。

参照する科学論文の情報
著者:Tsung-Yi Lin, Chiu-Mieh Huang, Hsiao-Pei Hsu, Jung-Yu Liao, Vivian Ya-Wen Cheng, Shih-Wen Wang, Jong-Long Guo
機関(国):覚吾大学(台湾)、国立陽明大学(台湾)、 国家衛生研究院(台湾)、PureAroma Healing Academy(台湾)、国立台湾師範大学(台湾)
タイトル:Effects of a Combination of Three-Dimensional Virtual Reality and Hands-on Horticultural Therapy on Institutionalized Older Adults’ Physical and Mental Health: Quasi-Experimental Design
URL:doi.org/10.2196/19002

なお、この研究グループの一部は過去にアロマテラピーとVRを組み合わせた高齢者向けの健康法を研究しています。アロマテラピーVRに関してもAIケアラボの記事で取り上げているので併せてチェックしてみてください。

アロマと組み合わせ▶︎VRとアロマで高齢者の「心の健康」が改善する

また介護におけるVR活用は他にもさまざまなテーマで研究されています。下記も是非チェックしてみてください!

軽度認知症改善▶︎VRゲームで軽度認知障害(MCI)が改善!認知テストや脳波、身体テストで効果を確認
ADL評価▶︎VRで高齢者の日常生活動作(ADL)に関わる認知機能を評価 イタリア・アメリカの研究グループが開発
回想法と組み合わせ▶︎「過去の楽しい思い出」を回想させるVR 認知症の回復にも有効との研究結果

研究概要

台湾の研究者らは、介護施設で暮らす65歳以上の高齢者106人を対象に、VRを使用した園芸療法のプログラムを実施しました。
プログラムの内容は、以下の4項目を改善するように設計されました。

  • 健康状態
  • 人生の意義(があるという感覚)
  • 他人にとって自分が重要であるという感覚
  • 孤独感
  • 絶望感

またプログラムは1回あたり1時間で、週に2回、合計9週間にわたり行われました。下図は1週間ごとの参加者の様子です。VR体験と同時に実践的な演習も行われ、手作りの産物もつくられました。1回ごとに内容が異なり、VR上での体験だけでなく実際に使用する植物の種類も変化しました。

実験の表

実験結果

園芸療法VRプログラムの実験結果から、参加者の「健康状態」「人生の意義(があるという感覚)」「他人にとって自分が重要であるという感覚」「孤独感」「絶望感」は有意に改善されたことが確認できました。

また、園芸療法が参加者の精神的な健康をはじめ社会的・身体的な健康を増進させるという結果は従来のアナログな園芸療法の研究結果と一致していました。
さらに従来の研究結果では、「人生の意義(があるという感覚)」に関しては園芸療法の効果として明らかにならなかったのに対し、今回の園芸療法VRでは「人生の意義(があるという感覚)」も改善されていました。ただし、今回は実験期間中にスタッフが大きく介入したことが影響を及ぼした可能性もあります。

参加者からのフィードバックによると、VRを用いることで学習意欲が高まり、対人関係も改善されたとのことです。副次的な効果ですが、VRの操作技術を習得するために指導者との間に対人関係が生じ、努力を継続する喜びを得る機会となったようです。また、VRの操作技術を習得した高齢者が、別の高齢者に技術をシェアする際に自信を感じていた様子も見られたとのことです。

研究者らは、大規模な集団においても園芸療法VRの効果が維持できるのか、長期的に効果が期待できるのかについては更に研究が必要だとしています。

まとめ

この記事では、園芸療法の基本および園芸療法VRの研究をご紹介しました。

紹介した研究については、VRと園芸療法を組み合わせて介護施設で暮らす高齢者への影響を調べた最初の研究として価値があるものでした。また、参加者に与えた素晴らしい効果についても注目に値するものでした。

実験プログラムではVRだけでなく実践演習も同時に行われたため、アナログな園芸療法の課題を完全に解決するものが発明されたわけではありません。今後はVR(あるいはメタバース空間)の活用がどこまで可能性を伸ばしていくかという観点からも、さらに研究報告を追っていきたいと思います。

みなさんも是非、一緒に新しい技術活用の世界を一緒にウォッチしていきましょう!

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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