センサーで行う新しい排泄ケア 膀胱内の尿量をモニタリング

センサーで行う新しい排泄ケア 膀胱内の尿量をモニタリング

最終更新日 2022.11.22

排泄ケアにテクノロジー活用の流れ

排泄ケアテクノロジーのトピックイメージ

排泄ケアの基本

排泄のケア(排泄介助)とは、自分で排泄ができない方を介助することです。排泄をうまく行えないと、社会活動に参加する意欲が低下したり、陰部や臀部などから健康への悪影響が出たりしてしまいます。人間の自尊心と密接に関わる日常行為である排泄をサポートする排泄介助は、最も重要な介助の一つと言われています。

排泄介助の種類には、トイレに行くまでを介助する「トイレ介助」、寝室などでポータブルトイレを用いて行う排泄の介助をする「ポータブルトイレ介助」、オムツを交換する「オムツ介助」、ほかベッドに起き上がれない方の排尿や排便を介助するために尿器や便器(持ち運び式のもの)を使用する介助があります。

排泄介助の際には、相手を傷つけないこと、できることは自分でやってもらうこと、急かさないこと、そしてトイレが億劫だからといって水分補給を欠かさせないことが重要です。

上記の詳細や介助のコツなどは下記の記事にまとまっているので参考にしてみてください!

▶︎詳しく解説!排泄介助の基本とは?(介護ワーカー)

ベンチャー企業の排泄ケアテクノロジー

国内ではテクノロジーを活用して排泄ケアを支援する製品を開発・販売しているベンチャー企業が注目を集めています。

排泄検知

株式会社abaは、シート型の排泄センサー「Helppad」による排泄検知ソリューションを介護施設向け中心に提供しています。シートは衣類に取り付ける必要はなくベッドに敷くだけで、臭いから排尿および排便を検知することができます。また、蓄積されたデータを分析して排泄のタイミングを予測することも可能です。

株式会社abaの代表取締役社長、宇井吉美さんのインタビュー記事はこちら↓
▶︎【宇井吉美】排泄センサーHelppadの株式会社aba代表インタビュー(前編)たゆまぬ研究開発、現場との約束。
▶︎【宇井吉美】排泄センサーHelppadの株式会社aba代表インタビュー(後編)介護職の価値を明るみに出す。

排尿予測

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社は、ウェアラブル型の尿量センサー「Dfree」による排尿予測ソリューションを医療・介護施設、個人、在宅介護向けに提供しています。センサーを膀胱に当てるように身につけることで、超音波により膀胱の膨らみから尿量を計測することができます。スマートフォンなどのデバイスと連携することでリアルタイムに監視することが可能です。

なお、上記で紹介した株式会社abaおよびトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社はどちらもNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業に採択されています。

研究紹介:膀胱内の尿量をモニタリングする電極センサーデバイス

膀胱のある部位イメージ

上記で紹介した排尿予測ソリューション(「Dfree」)では、超音波により膀胱の膨らみから尿量を計測する技術が用いられています。この技術は従来より様々な研究者により開発や実験が行われており、一定以上の高い精度が確認されています。
尿量計測による排尿予測は今後も有用なソリューションとなる見込みのため、研究者らはさらに利便性を上げるべく研究を重ねています。例えば東京大学などの研究グループは、現状のデバイスよりもさらに小型のデバイスを開発することでユーザーの快適さを向上させることを考え、超音波とは異なる技術で尿量を計測する研究を行っています。下記論文による研究報告を紹介します。

参照する科学論文の情報
著者:Shuhei S Noyori, Gojiro Nakagami, Hiroshi Noguchi, Taketoshi Mori and Hiromi Sanada
機関(国):東京大学(日本)、大阪大学(日本)
タイトル:A Small 8-Electrode Electrical Impedance Measurement Device for Urine Volume Estimation in the Bladder
URL:10.1109/EMBC46164.2021.9631032

なお、排尿を事後に検知するウェアラブルデバイス(いわゆる「スマートおむつ」)についても研究機関による開発、またベンチャー企業等による開発・販売が行われています。下記の記事で紹介しているので是非チェックしてみてください!

▶︎失禁関連皮膚炎を防ぐ 高齢者用スマートおむつ開発はここまで進んでいる!

電極を用いた排尿センサーデバイスの概要

前述した通り、従来は膀胱内の尿量計測には超音波技術の応用が研究されてきました。今回、東京大学などの研究グループは「電極」の技術を採用しました。それにより着用時の利便性などの観点からさらに快適にするという狙いでした。

なお、電極とは電流を通すことで信号を取り出すことなどに利用できる、回路と共に使用する部品です。人間の体は電流が通るようになっていますが、膀胱内の尿量が変化することで電流の通る強さが変化します。その変化を感度の良い電極センサーで検知するという取り組みです。

まず研究者らはウェアラブルの尿路センサーを実用する上で重要となるスマートフォンアプリと連携する枠組みの概念図を作成しました(下図)。

センサーデバイスとスマートフォンアプリの連携を示した図
センサーデバイスとスマートフォンアプリの連携を示した図

ユーザーのおむつや下着に取り付けられたセンサーが膀胱内の尿量をモニタリングし、逐一スマートフォンにデータを送信します。スマートフォンアプリでは受信したデータをグラフで表し、膀胱内の尿量の変化を一目で把握できます。

研究者らは実際に、全体の重量がわずか60gのセンサーデバイスを製作しました(下図)。

センサーデバイス

デバイス内の回路には既存の製品が採用され、バッテリーと共にプラスチックケース内に収められました。電極・ケーブルが取り付けられることで機能します。

電極の数は多ければ多いほど計測の精度は高くなりますが、実用の場面を想定した際に、電極の数が多すぎる(=着用上の利便性が低下する)ことは避けたいと考えられました。そこで使い勝手のいいサイズであると想定される8個の電極で、精度のテストが行われました。

開発された排尿センサーの性能

排尿センサーの基本的な性能に関しては、電流を人工的に通す実験で十分な安定性が確認されました。
そのため、実際に被験者の協力によって実現可能性の試験が行われました。

被験者(27歳男性)は下腹部にセンサーデバイスとデバイスに接続された8個の電極を身につけ、12時間にわたり膀胱内の尿量がモニタリングされました。また、実際に被験者が排尿をしたタイミングが記録されました。

下腹部と電極位置

12時間の間に被験者は7回の排尿を行い、7回ともモニタリングデータ上で尿量の変化が確認されました(厳密には、尿量の指標となる尿伝導率の変化が確認された)。

結論として、開発された尿量センサーには十分な推定精度があるとされました。言い換えると、尿量の変化によって引き起こされる体の小さな変化(電流の通しやすさの変化)を見逃さないセンサーシステムが出来ました。
また、12時間にわたる試験を通して、この尿量センサーが日常で安全に使用できるものであることも示されました。

ただし排尿量が少ないと精度が低くなることも確認されたため、今後は精度に関するさらなる研究が必要だとされました。

また、上記実験の被験者はシステムの想定ユーザー層である高齢者ではなく、27歳の健康な男性でした。このシステムが高齢者にとって快適かつ安全なものかどうかに関しては明らかになっていないため、今後は高齢者を被験者とした検証も期待されます。

まとめ

今回の記事では、排泄ケアの基本とテクノロジーによる新しい排泄ケアについて紹介しました。

新しい排泄ケアでは、「検知」と「予測」を可能にするテクノロジーが重要となっており、それぞれに強みがあるようです。検知においては、臭いなど確実な情報が基になるため、排尿だけでなく排便も対象になります。一方、予測においては現在のところ排尿のみが主な対象となっていますが、比較的高い精度で事前にタイミングを知ることができます。
ただし、検知ソリューションにおいても排泄記録からパターンを分析することで予測が可能になりつつあり、今後テクノロジーの進歩に期待したいところです。

また、主に体調が不安定なユーザーが使用することを考えると、着用時の快適さも重要になります。そのため、本記事で紹介した研究事例のように、さらに利便性を追求するための技術が開発されることはポイントになります。

このように、既存の製品の科学的背景や、さらにアップデートされる見込みがあるかどうかを知る目的においても研究報告は参考になります。他の記事も是非チェックしてみてください!

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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