センサーで人の動きを検知する「スマートカーペット」 高齢者の転倒や社交性など検出・分析

センサーで人の動きを検知する「スマートカーペット」 高齢者の転倒や社交性など検出・分析

介護業界でセンサー活用が進む

センサー、IoTとは

センサーとは、対象となる人間や物体などの状態や動きなどを検知し、コンピューターが扱う情報を収集するための装置のことを言います。人間が持つ五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)と同様にさまざまな種類の情報を扱うセンサーが開発され、あらゆる業界で活用されています。
近年ではセンサーで得た情報をインターネット経由でコンピューターに送信し、リアルタイムに処理を行う仕組みを持つ製品やサービスが増えており、この仕組みはIoT(Internet of Things:モノのインターネット)と呼ばれています。なお、IoTにおける情報の処理に役立つテクノロジーとしてAI(機械学習)技術が注目されています。

介護業界での事例

介護業界でもセンサーおよびIoTを活用したソリューションは増えています。例えばAIケアラボでもインタビューを行った株式会社abaのHelppadという製品は、排泄センサーによって高齢者の排泄タイミングを検知することで、介護職の仕事効率を向上させることができます。

▶︎【宇井吉美】排泄センサーHelppadの株式会社aba代表インタビュー(前編)たゆまぬ研究開発、現場との約束。
▶︎【宇井吉美】排泄センサーHelppadの株式会社aba代表インタビュー(後編)介護職の価値を明るみに出す。

メリット・導入支援制度

介護現場にセンサーやIoTを導入するメリットは、以下のようなものが挙げられます。

  • 介護職の業務負担が軽減する
  • 介護ケアの質を向上させることができる
  • 緊急時に迅速な対応を行える

また導入には補助金制度が活用できるケースもあります。上記メリットと併せて詳しく解説されている以下の記事を参考にしてみてください。

▶︎介護におけるIoTはどんなことができる?活用するメリットとは(介護ワーカーより)

研究紹介:転倒、歩行状態、社交性などを検知するスマートカーペット

センサーを内蔵した機器やIoTを実現するサービスは、最先端のテクノロジーを用いて新しく研究開発されているものも多く、実証実験の結果や実現可能性などについては論文の形で報告されているケースもあります。
以下では、センサーで人の動きを検知し情報を分析するための「スマートカーペット」を開発している研究者らの報告を紹介します。

参照する科学論文の情報
著者:Fadi Muheidat, Lo’Ai A. Tawalbeh
機関(国):カリフォルニア州立大学(アメリカ)、テキサスA&M大学(アメリカ)
タイトル:In-Home Floor Based Sensor System-Smart Carpet- to Facilitate Healthy Aging in Place (AIP)
URL:10.1109 / ACCESS.2020.3027535

なお、AIケアラボでは他にもセンサーやIoTなどに関する注目すべき研究事例などを記事で紹介しています。下記は一例です。是非チェックしてみてください。

▶︎視覚障害者でなくても欲しい「スマート杖」とは
▶︎歩行器・歩行車にAIが搭載されスマートロボット化するとどうなるのか
▶︎AIと離床センサーを組み合わせて離床行動を高度認識 秋田県立大など開発

スマートカーペットの概要

カリフォルニア大学などの研究者らは、高齢者における転倒の検出や歩行状態(歩行速度など)の測定、また社交性に関連する情報を記録することを目指し、高齢者の歩行状態をセンサーで検知するシステムを開発することにしました。

過去には、カメラなどによる映像で歩行をモニタリングする研究が行われてきましたが、「日常的に使用できる」かつ「高齢者の自然な歩行状態を測れる」発明が求められていました。ウェアラブルデバイス(身につけて使用するIoT端末)はそのニーズに応えることができますが、認知症のユーザーはウェアラブルデバイスを使用するのは難しいという課題が存在しています。

カーペット型の製品であれば高齢者の居住場所(施設、自宅)によらず使用することができ、プライバシーも侵害せず、高齢者自らが難しい操作をする必要はなく、さらに費用も安価であるため導入のハードルが下がります。そこで研究者らは、高齢者の情報を収集し分析するセンサー内蔵のカーペット(スマートカーペット)の研究に取り組みました。
以下は、スマートカーペットの概要や外観、使用された電気回路を示す図です。

スマートカーペット

センサーと接地層はプラスチックによって隔てられる構造になっており(図中(a))、センサーの上を人が歩くと(図中(b))信号が回路(図中(c))を通して情報としてコンピューターに送られます。
カーペット状に敷き詰められた複数のセンサーのアクティブな状態(センサー上に人がいて信号が送られている状態)と非アクティブな状態(センサー上に人はおらず信号は送られていない状態)を記録し分析することで、転倒、歩行状態、社交性に関する情報を検出します。

スマートカーペットの機能・性能

10人の被験者による協力で、転倒、歩行状態、社交性を検知・分析する実験が行われました。以下は実験結果です。

転倒検出

スマートカーペット上における転倒は、検出用に3つの異なるアルゴリズム(AI)が試されました。アクティブなセンサーの数が急激に減少したとアルゴリズムが判断する=転倒の検出となります。

転倒を検出する実験の結果、あるアルゴリズムの組み合わせ(※)で「感度:95%」「特異度:85%」という優れた性能を出すことができました。

※コンピューターアルゴリズムは単独でも使用できますが、組み合わせて使用することで結果が良くなる場合があります。

感度および特異度とは、検査などの統計結果に対する性能の指標です。今回の場合、感度は「転倒が起きた時に転倒が検出された確率」特異度は「転倒が起きていない時に転倒が検出されなかった確率」を意味します。

歩行状態

歩行状態の分析性能については、歩行速度と歩幅、移動距離と歩行時間が正しく計算できるかどうかで検証されました。計算結果の正しさは、GAITRiteシステムという精度が高いとされる歩行解析システムの結果と照らし合わされました。

被験者による75回の有効な歩行データをもとに各項目を計算すると、スマートカーペットによる計算結果とGAITRiteシステムによる解析結果には平均して約1.34%の誤差が出ました。なお、Kinectと呼ばれる別のセンサーを用いると誤差は約2.9%、Webカメラを用いると誤差は約0.18%でした。

この結果に対して研究者らは、スマートカーペットによる歩行状態の測定は優れている(厳密にはGAITRiteシステムによる解析結果と優れた一致を見せた)と結論付けました。ただし今後はさらに正確さを追求するために、より細かなセンサーで構成されたカーペットを作るのが課題だとしています。

社交性

社交性の分析については、複数人が一緒にいることを検出することが試されました。
前述したようにスマートカーペットのセンサーはアクティブか非アクティブのみの情報が伝えられるため、本来は異なる個人を識別できるようにはなっていません。しかし、例えば下図のように、アクティブになったセンサーの位置や歩行方向などの違いを見ると人数を判定することが可能です。

アクティブになったセンサーの位置を示す図
特定の時間帯において、アクティブになったセンサーの位置を示す図。P1〜P4は異なる人物。

実験では、カーペットの上を最大4人が同時に歩き、アルゴリズムの判定が正しいかどうか確認されました。結果、アルゴリズムは3人までの人数を確実に正しく数えることができました。2人で100%、3人で90%、4人で30%だったそうです。なお当然カーペットのサイズ(センサーの個数)に対して人数が多くなると精度が下がるようになっています(実験で使用されたカーペットのセンサー数は128個)。

研究者らは、自宅で暮らす高齢者の社交性を測る際は、スマートカーペットを用いて来客数をカウントするのが役に立つだろうと述べています。

まとめ

今回の記事では、介護業界で進むセンサー活用の基本と、研究事例として開発中のスマートカーペットを紹介しました。

ドイツの企業であるFuture Shapeは「SensFloor」という名のスマートカーペットを販売しており、アルツハイマー病患者のための介護施設で使用されているとのことです。カーペットの上にいる人が立っているか座っているかを識別し、また歩いている方向と速度を識別することができるようです。

一方、本記事で研究事例で紹介したスマートカーペットは、転倒や社交性(人数の判定)の検出精度も高い数字が出ているのが特徴の一つです。
このように、先進的な企業が出している製品をさらにアップデートするような技術を研究機関からの報告で知ることができるのは興味深いですね。

AIケアラボではケア業界がテクノロジーで明るくなる情報が多く更新されています。他の記事もぜひチェックしてみてください!

▶︎転倒の課題についての他の記事はこちら
▶︎社交性(社会性)の課題についての他の記事はこちら