AIと離床センサーを組み合わせて離床行動を高度認識  秋田県立大など開発

AIと離床センサーを組み合わせて離床行動を高度認識 秋田県立大など開発

最終更新日 2022.11.24

この記事では、センサーとAI(機械学習)の組み合わせでベッド離脱のタイミングを認識するシステムについて紹介します。システムを開発したのは秋田県立大学などの研究グループです。

離床センサーを取り巻く環境

介護施設内の転倒事故はほとんどベッド周辺で起こる

介護施設は24時間体制で高齢者の生活をサポートしていますが、夜間は介護職員の人手が不足してしまいがちです。さらに夜間は視界も悪く、人間の意識レベルも低くなるため、高齢者の事故が発生しやすいタイミングとなります。
過去に行われた研究によると、介護施設で起こる事故の半数以上は高齢者の転倒事故であり、さらに転倒事故のほとんどはベッド周辺を離れた時に起こっているそうです。合わせて、転倒事故のほとんどは介護サポートやモニタリングの無い状況で起こっていることも報告されました。
このことから、夜間にベッド周辺をモニタリングして転倒事故を防ぐことが重要です。

高齢者がベッドを離れる(離床)タイミングが検知できれば事故を防ぐ可能性が高くなります。そこで世の中では、「離床センサー」と呼ばれるセンサーが開発・販売されています。

国内の離床センサー事例

離床センサーは国内外で開発・販売されていますが、以下では国内の事例をいくつかピックアップしてご紹介します。

MinebeaMitsumi「ベッドセンサーシステムベーシック」

特徴

  • 利用者の目に付きにくい場所に取り付けられる
  • 体重測定ができる
  • 離床アラームを出せる
  • 無料お試しレンタルが可能

URL:https://pr.minebeamitsumi.com/bedsensorsystem/

ホトロン「置くだけポール君」

特徴:

  • 非接触型の赤外線センサー
  • 持ち手とベース部が抗菌仕様
  • トイレや出入り口などベッド以外にも設置可能
  • 操作が簡単

※ホトロン社は他にも幾つか別タイプの離床センサーを販売しています。

URL:https://www.hotron.co.jp/recommend/okudake_lp.html

パラマウントベッド「離床CATCH」

特徴:

  • ベッド内蔵の荷重センサーが離床行動を検知
  • 起き上がり、端座位、離床の3種類を検知し、見守りモードも備える
  • 既存のナースコール設備をつなぐことも可能
  • 中継ユニットはアナログ式、デジタル式から選べる

URL:https://www.paramount.co.jp/learn/inversion/leaving

離床センサーの課題とは?

離床センサーには様々なタイプがありますが、いずれも検出の精度や応答の速度に課題があります。
さらに本来、転倒事故を未然に防ぐためには、センサーで離床を検出するだけでは不十分です。センサーで得られる離床行動を分析して、パターンを認識することが求められています。離床パターンが分かれば、離床が起こることを事前に予測することができ、その先にある転倒を未然に防ぐことが可能になるかもしれません。

2020年には、ジョージ・アンド・ショーン株式会社が、介護事業所を運営するインフィック株式会社に離床タイミング予測AIシステムを技術提供したとの報道がありました。ジョージ・アンド・ショーン株式会社は、北陸先端科学技術大学院大学の岡田研究室が協力を行っている会社です。インフィック株式会社は、自社製品に離床予測機能を追加したとサービスページ内で告知しています。

上記の事例を除いては、離床センサーで得た情報をもとに離床予測を行うシステムを販売しているケースは国内で見当たりませんでした。
離床予測に向けては、研究者たちが精力的に離床行動パターン認識の課題に取り組んでいます。例えば東京女子医科大学大学院などの研究グループは過去の研究で、カメラを活用した離床行動パターン認識を試みました。ただし、実用的なレベルまで精度が上がらないこと、プライバシーの侵害に対する懸念などが課題として挙がりました。
現在のところ、「精度」「プライバシーの確保」「コストパフォーマンス」「使いやすさ」「保守のしやすさ」などが、離床行動パターン認識システムの条件となっており、このシステムの完成が離床センサーがさらに力を発揮するための課題になっています。

研究事例紹介:5つの離床行動を認識・パターン分析するAIシステム

高精度な離床予測システムの確立に向けて有力なのは、離床行動パターンをAI(機械学習)によって分析することだと考えられています。
国内の研究で、離床センサーによる検知データをもとに離床行動パターンを認識する取り組みが報告されていたので以下でご紹介します。
秋田県立大学などの研究グループによる、離床センサーから得られた情報をAIによって分析することで、5種類の離床行動パターンを高精度で認識する試みです。開発されたシステムは10人の被験者と共に実験を行うことで精度が確かめられました。

参照する科学論文の情報
著者:Hirokazu Madokoro, Kazuhisa Nakasho, Nobuhiro Shimoi, Hanwool Woo and Kazuhito Sato
機関(国):秋田県立大学、山口大学(日本)
タイトル:Development of Invisible Sensors and a Machine-Learning-Based Recognition System Used for Early Prediction of Discontinuous Bed-Leaving Behavior Patterns
URL:doi.org/10.3390/s20051415

センサーで高齢者の動きを検知 AIで情報を分析

左:パッドセンサー 右:レールセンサー

離床センサーとして採用されたのは「パッドセンサー」と「レールセンサー」の2種類でした(上図)。
パッドセンサーは費用対効果が高く、利用者の視界に入らない(利用者が気にならない)という利点があります。パッドセンサーだけでは転倒に関連する動きを検知するのに十分ではないので、離床時に利用者が体を支えるために握るセーフティレールにもセンサーが取り付けられました。

上記のセンサーによって検知された「利用者の動きに関するデータ」が、AIによって分析されます。
世の中にはたくさんのAIアルゴリズム(AIの種類)が存在します。精度の高い分析システムを作るために、研究グループは5つのAIアルゴリズムを試しました。それらのAIアルゴリズムは、ベッド離床に関わる利用者の動きを5つに分類することを目的に調整され、認識精度を高めるための工夫が施されました。

10人の被験者に対して5つの行動認識を実験

離床行動パターン

AIによって分類された離床行動は次の5つです。これらの分類科目は、開発者によって予め決められました。

  • 睡眠:ベッドで寝ている通常の状態
  • 縦座位:起き上がり、ベッドの上に縦座している状態
  • 横座位:起き上がり、ベッドと体が同じ向きで座っている状態
  • 端座位:ベッドから離れようとして、ベッドの端位置に座っている状態。
  • 離床:ベッドを離れた状態。

端座位にいるとき、利用者はベッドを離れる直前であるため、迅速かつ正確に検出を行う必要があります。
また離床の際には、場合によっては利用者が意識を失ったり危機的な状態なことがあります。離床時に重篤なトラブルが起こっているのかどうかは、センサーデータだけでは判別がつきません。心電計などと合わせて状態をモニタリングすることも必要です。

10人の被験者に対して、これら5つの離床行動がAIによって認識されることを確かめる実験が行われました。
その結果、以下のことが明らかになりました。

  • パッドセンサー単独よりも、パッドセンサーとレールセンサーを組み合わせた方が認識精度が高まる
  • 端座位を検出する精度は十分であったが、端座位から離床に移る時に誤認識が起こりがちであった
  • 行動パターンには個人差が大きく存在し、認識精度にも個人差が現れた
  • 各行動パターンごとにAIの学習を分けると、認識精度がより高まる
  • 個人の身長や体重などを踏まえたAIの学習データを作ることで精度が改善される見込み

複数のセンサーを用いることや、複数のAIアルゴリズムを使用することで従来の研究よりも高い認識精度パフォーマンスを確認することができました。一方、学習データに関してはまだ工夫することで改善の余地があると推測されました。

今後の可能性

秋田県立大学などの研究グループは、パッドセンサーやレールセンサーなどで得られる荷重データとAIを用いて、離床行動パターンの認識に取り組みました。研究グループはこのテーマに対して繰り返し工夫を重ねることで、離床行動の早期予測を実現することを目指しています。論文では、プライバシーを確保しながら離床行動パターンを認識するためには、このように荷重データを分析することが最も望ましいとされています。
繰り返しの工夫により高精度な認識ができるようになってきた一方、引き続き認識精度にはまだ課題が残るため、長期的な取り組みと実証実験を行なって実用化を進める必要があるとのことです。

まとめ

今回は、センサーとAI技術(機械学習)を用いた離床行動パターンの認識に対する取り組みについてご紹介しました。離床センサーには既に様々な製品事例がある一方、離床行動の早期予測に対してはAIを活用した分析システムの開発が求められています。

ご紹介した秋田県立大学の取り組みは過去にテレビ東京「ミライダネ」に取り上げられるなど、注目を集めています。今後の成果も期待されています。

24時間体制での高齢者の安全確保は重要です。現在は介護職員の人的資源に頼っていますが、人間の活動時間帯などを考えると、まずは夜間における介護職員の負担は極力減らしたいのが実情です。技術水準を上げることによって、高齢者と介護職員両方のQOL(生活の質、人生の質)を上げていけるとよいですね。

また、センサーを用いた高齢者ケアの最新技術は他にも事例があります。興味があればチェックしてみてください。

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臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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