高齢者の話し相手として、ロボットに身体は必要か?科学的に検証

高齢者の話し相手として、ロボットに身体は必要か?科学的に検証

最終更新日 2022.11.22

この記事では、高齢者の話し相手としてのロボットに身体は必要なのかを検討した国内の研究を紹介します。

高齢化社会がもたらす「孤独」のリスク

日本をはじめとする世界中の様々な国で高齢化が問題になっています。高齢化社会において問題になることの一つは、高齢者の孤独です。孤独は生活満足度を下げるだけでなく死亡率を高めることが知られています。

あらゆる病気や問題と同様に、孤独に関しても早期の対処が肝要です。
早い段階で高齢者の孤独を緩和するために活用できる科学技術としては、ロボットが期待されています。研究機関や企業は精力的にロボットの開発を行い、介護施設は導入に乗り出しています。これまでAIケアラボではいくつかのロボット研究事例を報じてきました。

参考①▶︎2021年おすすめロボットペット5選 「高齢者の孤独感を解消する」科学的調査結果をもとに
参考②▶︎リモート介護の弊害はあるのか。高齢者の孤独を助けるロボットの倫理的問題とは
参考③▶︎ソーシャルロボットは高齢者のメンタルケアとして受け入れられるのか 107人の介護施設関係者が語る

孤独を癒すロボットの条件とは

一概にロボットと言っても、そのタイプは大きく分かれています。高齢者を癒す目的に使われるロボットは、ソーシャルロボット(コミュニケーションロボット)と呼ばれるタイプのロボットです。そしてソーシャルロボットは、その仕様によってさらに細かくタイプが分かれます。
例えば、コミュニケーションの方法。人型ロボットは言葉で、人型ではない(動物型などの)ロボットは言葉以外の方法で高齢者と意思疎通を計ります。
また画面上に表示されるテキストで言葉を表現する場合と、口頭(声)で言葉を表現する場合があります。

過去の研究によると、テキストでコミュニケーションを行うロボットの場合は、物理的な身体を持つロボットの方が画面上に表示されるだけのロボットよりもユーザーとの距離感が近くなったそうです。
近年では、人型のロボットはテキストではなく口頭でコミュニケーションを行う製品が多いです。また身体を持つロボットだけでなく、PCやスマートフォン、タブレットの普及により画面上で動いたり喋ったりするロボット(仮想のキャラクター)も多く開発されています。

高齢者の孤独を癒す目的において、ロボットには身体がある方がよいのか無い方がよいのかどちらでしょうか?日本の研究グループが実験により検討を行なったという報告がありました。

参照する科学論文の情報
著者:Toshiaki Nishio, Yuichiro Yoshikawa, Kazuki Sakai, Takamasa Iio, Mariko Chiba, Taichi Asami, Yoshinori Isoda and Hiroshi Ishiguro
機関(国):大阪大学、筑波大学、NTT(日本)
タイトル:The Effects of Physically Embodied Multiple Conversation Robots on the Elderly
URL:doi.org/10.3389/frobt.2021.633045

身体を持つロボット・持たないロボット、それぞれのメリット

読者の皆さんは、もし自らの孤独を癒すためにロボットを友達にするとしたら物理的に身体を持つものと画面上に仮想の身体を持つもの、どちらを選びますか?
おそらく、身体を持つロボットのメリットは想像しやすいはずです。抱きしめたり、触ったり、もたれたりと身体的な相互作用がイメージできるでしょう。一方、物理的な身体を持たないロボットのメリットは想像しにくいかもしれません。しかし、画面上の彼らは自由に身体を変化させることができ、高い表現力を持つことが特徴です。さらに物理的な身体から感じられがちな不自然さや不気味さなどがありません。

上記のように身体の有無によるメリットはそれぞれです。そこで研究者らは、下図のような身体を持つロボットと持たないロボットの両方を用意し、実際に高齢者と会話をさせてみました。

会話のシステムとしては、曖昧な相槌を打つだけのものではなく、質問や回答、相槌、コメントを行うことができる高度な仕組みを実装しました。

物理的な身体を持つロボット(画像左)は、大阪大学とヴイストン社が開発した「CommU」と呼ばれる製品で、一般に販売されています。このCommUを画面上に仮想のキャラクターとして表現したものを「身体を持たないロボット」として実験で使用しました(画像右)。

孤独な環境でロボットと過ごした高齢者を分析

実験には65歳から84歳までの40人の高齢者が参加しました。その内20人ずつが身体を持つロボット・身体を持たないロボットと時間を共に過ごしました(下図)。

あらかじめ用意された大まかなシナリオ(20の質問項目)をもとに、15分間の質疑応答がそれぞれ行われました。その間に高齢者から発せられた言葉の量(発話量)を基準にしてロボットへの興味(親しみやすさ、距離感の近さ)が分析されました。

その結果、物理的な身体を持つロボットに対しての発話量が平均的に高いことが明らかになりました。このことから、高齢者と社会的関係を築く能力は物理的な身体を持つロボットの方が優秀であることが示唆されました。

ただし今回、仮想の身体を持つロボットには本来期待されるはずの豊かな表現力が十分に備わっていなかったことや、会話の時間が15分間に限定されていたことなどは考慮する必要があると研究者は述べています。

まとめ

今回紹介したのは、高齢者の孤独を癒すためのロボットには身体は必要か否か?というテーマの研究でした。そもそも孤独を助けるという目的に対してロボットが有効であることは前提になっていましたが、そのあたりは他の記事でも取り扱っているので参照してみてください。

ちなみに身体を持たないロボットのメリットにはもう一つ、「導入コストが軽くなる」という経済的なポイントもあります。
身体を持たないロボットの事例が思い浮かばない方もいるかもしれませんが、国内でもエルブスという企業が山村の高齢者向けにチャットAIを開発するなど各社で取り組まれています。

高齢化社会において孤独を救うのは人間同士の課題でもありますが、ロボットに限らず科学技術によるソリューションは一つの選択肢かもしれません。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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