「自動シャワー装置」ユーザー体験の調査結果 〜高齢者・介護スタッフ両方の視点から〜

「自動シャワー装置」ユーザー体験の調査結果 〜高齢者・介護スタッフ両方の視点から〜

最終更新日 2022.11.22

この記事では、最新の福祉用具であるシャワー式介護入浴装置(ロボット)を体験した時に、高齢者や介護者がどのように感じるかを調査した結果の報告書について紹介します。

高齢者の日常生活を支える「支援技術」

高齢化は世界的に進んでおり、高齢者が日常生活を行うための方法は日夜研究されています。研究されているテーマの一つは支援技術(AT:Assistive Technology)です。

支援技術にデジタル技術を使用する流れが来ている

介護における支援技術は、高齢者の日常生活を支えるための技術です。支援技術の中には福祉用具を使用するものも多くあります。例えば、杖や車椅子などが該当します。
近年はデジタル技術が発展し、従来の杖や車椅子がスマート化するなど、福祉用具の技術水準は高くなっています。スマート化した福祉用具は、研究段階にあるものから、既に普及段階にあるものまで様々です。

研究段階にあるスマート化した福祉用具の例

  • 周囲の環境を検知する白杖(杖)

参考▶︎視覚障害者でなくても欲しい「スマート杖」とは

  • 手で操作しなくても動く車椅子

参考▶︎念じるだけで動かせる車椅子 介護におけるAI・BMI応用の最先端

普及段階にあるスマート化した福祉用具の例

  • 褥瘡(床ずれ)防止機能のあるベッド(パラマウントベッドなど)

参考▶︎おしり褥瘡(じょくそう)防止テクノロジー 高齢者向けのスマートパッドとは

スマート化した福祉用具のユーザー体験は未知数

デジタル技術が適用された福祉用具は豊富な機能が盛り込まれており、活用が期待されています。しかし一方で、新しい物であるが故にユーザー体験の負の部分についての知見は十分ではありません。
メーカー側だけでなく導入を検討するユーザー側も、メリットとデメリットを正確に認識することが求められています。

自動シャワー装置は介護の現場で快適なのか?

高齢者の日常生活の中でも、入浴に関するルーティーンには十分に支援技術が行き届いていません。ただし、実証実験や市販は進んでいます。
国内ではパラマウントベッド株式会社より「シャワー式介護入浴装置」が販売されています。また、エア・ウォーター株式会社によりストレッチャー式シャワー入浴装置が販売されています。

実際のところ、シャワー入浴装置を介護で使用することは現場にとって快適なのでしょうか?下記ではスウェーデンの研究者らによる調査報告をご紹介します。介護福祉施設に自動のシャワー式介護入浴装置が試験的に導入され、居住者(高齢者)とスタッフを対象にユーザー体験の調査が行われました。

参照する科学論文の情報
著者:Charlotte Bäccman, Linda Bergkvist and Per Kristensson
タイトル:Elderly and care personnel’s user experiences of a robotic shower
URL:doi.org/10.1108/JET-07-2019-0033

調査対象とされたのは、とある介護施設の利用者である高齢者7名(58〜82歳)と、同施設のスタッフ7名(22〜59歳)でした。

調査に使用されたのはRoboticsCare社による製品「Poseidon ShowerPod」です。下図のような外観をしています。

実験に使用された自動シャワー装置

複数のシャワーヘッド(水と石鹸用)、空間内に人を出し入れするアーム、腕置き、可動式の椅子で構成されており、緊急事態に備えて警報機能も付いています。このように自動で動くシャワー装置は、報告書では「ロボットシャワー」と呼ばれていました。

普通のシャワーは「自由がない」

まず自動シャワー装置を導入する前の段階で、高齢者と介護スタッフはそれぞれ「普通のシャワー」に対してのイメージを聞かれました。

その結果、高齢者からは「シャワーを浴びるタイミングや時間を自由に決められない」「やりたいように出来ないのでストレスがたまる」「スタッフを頼っているので不満が言いづらい」などの問題点が挙げられました。
一方、介護スタッフからは「高齢者が不快に感じていたらスタッフも満足できない」という意見が主に挙がりました。

また、自動シャワー装置に対しての期待もぞれぞれにヒアリングされました。

高齢者は自動シャワー装置を使用することで「誰かに依存しなくても良くなるならば、それは素晴らしいことだ」とした上で、「閉じ込められている感覚があるかどうか」に対しての懸念が表されました。
一方、介護スタッフからも高齢者のストレスが軽減されることに対する期待が表されました。特に、体の温度調節に関しては本人の意思でシャワーを行うことで問題が解決するのではないかという期待を持っていました。

「好きにシャワーを浴びられる」感覚が得られる

自動シャワー装置を4〜5ヶ月使用した後に、高齢者と介護スタッフに体験の感想をヒアリングしたところ、それぞれ下記のように回答がありました。

高齢者からは「誰かが助けてくれるかどうかに関係なく、好きな時にシャワーを浴びることができる」という利点が挙げられた一方、障害の重さによっては依然として支援が必要なケースがあることも明らかになりました。例えば自動シャワー装置までの移動、脱衣、体の乾燥、着衣などに関しては自分の力で行うことができない場合も多くあります。
全体的には高齢者は自動シャワー装置をポジティブに感じ、将来的な希望を感じました。
また、あらかじめ懸念として挙げられていた「閉塞感」については結果として問題が報告されませんでした。

また介護スタッフ側の話を分析した結果、彼らは自動シャワー装置が一部の高齢者に自由を与えることを認めつつも、まだ介助の仕事量が軽減するほどには助けにならないのではないかと考えているようです。ただし、「自動シャワー装置を使うのは楽しいし、使い方が分からない時などにお互い助け合う必要があるので絆も生まれる」などの意見が挙がりました。

新しいテクノロジーの導入時には立場ごとの視点を見るべき

今回紹介した研究の特徴の1つは、ある新テクノロジーを導入するとき、現場からの反応を2つの視点(高齢者側と介護スタッフ側)から調査することの重要性を示すことでした。
例えば自動シャワー装置を導入しても、脱衣や着衣などのプロセスで介護スタッフが高齢者を助ける必要は依然としてあります。この事実は、双方どちらの立場から見ても明らかです。しかし、高齢者にとっては「自立する権利」を思い出すきっかけになりました。そしてスタッフにとっては、「高齢者の自立を促すために介助の仕事を減らすことの大事さ」を思い出すきっかけになりました。

またその結果、現場の自動シャワー装置はまだ試作品の域を出てはいませんが、あともう少しで完璧な製品になるであろうことが示されました。定性的なデータのみに依存せず、ユーザーがメリットとデメリットについて学ぶ機会を得ることの重要性も示されました。

まとめ

この記事では、支援技術に関連する最新福祉用具の1つである「自動シャワー装置(シャワー式介護入浴装置)」について、ユーザー体験調査報告を紹介しました。
国内でも複数の製品事例があるものの、まだまだ新しいテクノロジーです。介護に関わる方々にとって、将来的な導入を検討するための参考になれば幸いです。

介護の現場に限らないことですが、新しいツールを導入する際には各々の立場で感じることが異なり、ユーザーに直接ヒアリングするまでは体験の全貌は明らかになりません。複数の視点から調査することの重要性は常に意識していきたいですね。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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