ウェアラブルデバイスは高齢者の「歩行速度」を改善し、健康状態を向上させる

ウェアラブルデバイスは高齢者の「歩行速度」を改善し、健康状態を向上させる

最終更新日 2022.11.22

この記事では、ウェアラブルを日常につけることによる健康状態への影響についての研究をご紹介します。

高齢者の歩行速度は疾患や死亡率と関係する

歩行を侮るなかれ

高齢者の健康状問題を予測することは介護において非常に重要です。そのため健康状態を測定するための様々な指標が、日々研究されています。

中でも歩行速度は、簡易で効率的な健康指標として確立され、広く認知されています。
歩行速度を測定することによって予測できる問題は下記の通りです。

  • 死亡(率)
  • 認知障害
  • 機能障害

歩行から様々な健康問題が効率的に予測できる理由として、歩行は筋骨格系、神経系、その他の器官系などの複数の身体系と相互に関連する複雑な機能であることが挙げられます。

たった0.1m/sで死亡リスクは驚くほど低減

※m/s・・・メートル毎秒。1秒間に進むメートル数。

老人の歩行

過去に行われた研究から、歩行速度を向上させることは可能であること、向上させることで健康状態を改善できることが明らかになっています。

34,485人の高齢者を対象とした大規模なコホート研究では、歩行速度を0.1m/s増加させることで、10年以内の死亡リスクが12%減少することが報告されています。

また変形性膝関節症を有する1925人の高齢者を対象とした研究では、集中的な歩行トレーニングが歩行速度の低下を防止できることが明らかになりました。このように整形外科的疾患を有する高齢者でも、適切なトレーニングによって歩行速度を改善または維持できる可能性が示されています。

ウェアラブルデバイスは健康に好影響を与える

日常の歩行速度を簡単に測定する技術としては、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスに期待が集まっています。ウェアラブルデバイスはもともと、身体活動をモニタリングするため安全で信頼性が高く、かつ費用対効果の高いアプローチとして注目を集めています。さらにセルフモニタリングの強化を通じてユーザーの行動を修正し、身体活動を向上させることが可能とも言われています。

過去には、アンクレット型のウェアラブルデバイスで認知症を自動検出するなどの研究も存在しています。
参考▶アンクレット型のデバイスで認知症を自動検出

これまでの研究では、ライフスタイルを見直すためにウェアラブルデバイスを使用することのメリットは報告されていますが、実際に健康状態に好影響を与えるかどうかの効果には結論が出ていませんでした。
そんな中、高齢者を対象に12か月間ウェアラブルデバイスを利用してもらい、歩行速度の観点から健康状態の改善度合いを調査した研究があります。

参照する科学論文の情報
著者:Wei-Ju Lee, Li-Ning Peng, Ming-Hsien Lin, Ching-Hui Loh, Liang-Kung Chen
タイトル:Active wearable device utilization improved physical performance and IGF-1 among community-dwelling middle-aged and older adults: a 12-month prospective cohort study
URL:doi.org/10.18632/aging.203383

319人の身体活動量を追跡

台湾・国立陽明交通大学のWei-Ju Leeらは、ウェアラブルデバイスの利用パターンや関連する要因が健康状態に及ぼす影響について、長期間の追跡調査から研究を行いました。

被験者は50~85歳の地域在住の319名で、調査期間は12カ月間でした。全員にウェアラブルデバイス(Lifebeat, NeuroSky, Inc. CA, USA)が配布され、内蔵された歩数計による身体活動の記録と身体活動の推定が行われました。

ウェアラブルデバイス
配布されたウェアラブルデバイスイメージ(NeuroSky社のHPより画像引用)

12か月間の期間におけるウェアラブルデバイスの利用状況とデータ送信履歴に基づいて、被験者は①アクティブユーザー②通常③非アクティブのいずれかに分類されました。30日以上(平日と週末の両方で少なくとも1回)ウェアラブルデバイスを使用し,データ送信を完了した者を「アクティブユーザー」とし、3日以上ウェアラブルデバイスを使用したが,上記基準を満たしていない者を「通常ユーザー」としています。また、登録後の最初の数日間のみデバイスを使用し、その後データを入力しなかった参加者は、「非アクティブユーザー」と定義されました。

アクティブユーザーは健康に向かっていた

スマートウォッチと老人

結果、319名のうち128名(40.1%)が「アクティブユーザー」として分類されました。

「アクティブユーザー」は、「非アクティブユーザー」と比較して、栄養状態および認知機能が良好で、筋肉量や筋力に関連するIGF-1の血清レベルが高い状態でした。
また、ストレスホルモンの使用であるACTHレベル、肝障害の指標であるASTの血清レベルが低く、さらに糖尿病腎症の指標とされる尿中微量アルブミン/クレアチニン比も低く抑えられていました。

「アクティブユーザー」の12カ月間の歩行速度の変化は、「非アクティブユーザー」よりも0.16m/s高く、「アクティブユーザー」は「通常ユーザー」と比較して平均歩数が多いことがわかりました。

さらに12カ月間の歩行速度低下を防ぐために最も最適な1日の平均歩数は、7,008歩であることがわかりました。また1日の歩数が1,000歩増えると、歩行速度が0.03m/s増加しました。

テクノロジーはライフスタイルを変え、健康をつくる

今回の調査研究より、ウェアラブルデバイスを積極的に使用することで、結果として歩行速度が大幅に向上し、血液成分が改善することが示されました。
この結果から、ユーザーにライフスタイルを見直すきっかけを与えることが、実際に生存率の向上に役立つ可能性を意味しています。

まとめ

Dr. カワゴエ

ここまでお読みいただきありがとうございました。執筆を担当したDr. カワゴエです。
この記事ではウェアラブルデバイスを利用することで得られる健康上のメリットに関して、最新の研究をもとに紹介しました。

これまで、ウェアラブルデバイスの利用による実際の健康状態の改善を評価した研究は僅かしかありませんでした。貴重な調査結果が今後の意思決定の参考になればと思います。

今回紹介した研究から分かるように、ウェアラブルデバイスは単なる活動のモニタリングツールではなく、健康的なライフスタイルを遂行するための動機付けツールと考えることができます。
ただし単にウェアラブルデバイスを与えれば良いというものではなく、目標を設定するような介入型のプログラムを伴うことがより重要であるとも考えられます。

現在、安価で多機能なウェアラブルデバイスも多数販売されています。
是非、皆様の高齢者施設でも活用されてはいかがでしょうか。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
フォローする