失禁関連皮膚炎を防ぐ 高齢者用スマートおむつ開発はここまで進んでいる!

失禁関連皮膚炎を防ぐ 高齢者用スマートおむつ開発はここまで進んでいる!

最終更新日 2022.11.22
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監修 | 医師 内藤拓人

医師、小児科専門医、公衆衛生学修士(Karolinska Institutet)。新生児、重症心身障碍児者領域等を中心に臨床に従事。研究領域は妊娠中の母体貧血による児の神経発達への影響。

この記事では高齢に伴う尿失禁と失禁関連皮膚炎を防ぐテクノロジーの研究事例と国内製品事例をご紹介します。

テレビなどで大人用おむつのCMを目にすることがあるかと思いますが、高齢者にとって尿失禁は身近なトラブルです。
一般的に、加齢に伴って尿道の位置の変化や筋肉群の機能低下が起こり、結果として尿失禁が引き起こされます。

尿失禁は、転倒や睡眠障害、尿路感染症などを引き起こします。また羞恥心や自信低下を促してしまう側面もあり、介護にあたっては身体的だけでなく精神的なケアも重要視されています。

尿失禁に対する最も手近なソリューションは、おむつを着用することです。しかし、おむつには幾つかのリスクがあります。そのうちの一つが失禁関連皮膚炎です(詳細は後述)
失禁関連皮膚炎を防ぐには、おむつが汚れたらすぐに取り替える必要があります。そのためには汚れをタイムリーに検知しなければいけません。
そんな汚れをタイムリーに検知する機能を備えたスマートおむつシステムが開発されているのはご存知でしょうか。今回は「失禁関連皮膚炎と高齢者用スマートおむつ」について掘り下げていきます。

この記事の要点

  1. 高齢に伴う失禁には、失禁関連皮膚炎というリスクがある
  2. 失禁を検知するスマートおむつシステムが研究されている
  3. 国内にも類似する製品事例がある

テクノロジーで失禁関連皮膚炎に対抗する

失禁関連皮膚炎とは

そもそも失禁関連皮膚炎とは何でしょうか?

失禁関連皮膚炎とは、尿などの排泄物が皮膚に接触することで引き起こされる皮膚炎です。
高齢者の皮膚は表皮が薄いため、バリア機能や物理的抵抗力が落ちています。すると水分によって浸軟(角層がふやけること)しやすく、結果として皮膚炎になってしまいます(下図)。痛みの強い、重症化した床ずれなどがイメージになります。

失禁関連皮膚炎が起こるイメージ
失禁関連皮膚炎が起こるイメージ

そのため、おむつが濡れたら早く取り替える必要があるのです。しかし頻繁におむつをチェックするのは労働集約的で、人手不足の環境では厳しい仕事です。また夜間にチェックが行われると高齢者の睡眠が妨げられてしまいます。
よって、おむつの汚れが検知できるテクノロジーに期待が寄せられています。

センサー技術によるソリューションの研究開発は今まさに行われている

身の回りを見渡して、通信機能やセンサーのある機器がいくつあるかを考えてみてください。思ったよりも多いことでしょう。近年、ワイヤレス通信や小型センサー機器の技術がますます発展してきました。
既存の技術には、おむつの汚れをリアルタイムに検出して通知する高性能なソリューションを実現する要素がそろっています。

今まさに、研究機関による実証実験やベンチャー企業などによる製品開発が行われています。
まずは、研究事例について以下で紹介します。

研究者たちの挑戦!スマートおむつシステム

参照する科学論文の情報
著者:Cho JH, Choi JY, Kim NH, Lim Y, Ohn JH, Kim ES, Ryu J, Kim J, Kim Y, Kim SW, Kim KI
タイトル:A Smart Diaper System Using Bluetooth and Smartphones to Automatically Detect Urination and Volume of Voiding: Prospective Observational Pilot Study in an Acute Care Hospital.
URL:doi.org/10.2196/29979

韓国にあるソウル国立大学ブンダン病院の研究者らは、そのソリューションを「スマートおむつシステム」と呼びます。排尿の検出、尿量の測定を機能として持ち、失禁関連皮膚炎の発生・悪化予防効果のあるスマートおむつシステムを開発することを目的に研究をスタートしました。

スマートおむつシステムの概要

スマートおむつシステムの基本的な構成は下図に示すものでした。

スマートおむつ概要

おむつパッドに取り付けられた導体とセンサーによって収集されたデータをBluetoothでスマートフォンに送信する設計です。事前に設定された閾値(ボーダー)を超えた尿量が検出されたら介護者に通知するアプリケーションも作成しました。

3日間の実験

スマートおむつシステムは、韓国にあるソウル国立大学ブンダン病院(研究者ら所属の病院)で実証実験が行われました。1,300床が備えられる大規模な病院です。そのうち実際に実験に参加したのは30人の高齢者でした。

実験に参加した30人の高齢者は、次の条件を満たすように集められました。
(1)50歳以上(2)24時間、失禁用のおむつを使用している
彼らの平均年齢は80.8歳、男性率は30%(9人)、23人が高血圧、17人が糖尿病、6人が認知症、2人がパーキンソン症候群、10人が脳卒中の病歴ありでした。

高齢者らは、スマートおむつシステムを3日間使い続けました。また介護者はアプリで受け取る通知に応じて排尿をチェックし、おむつを交換し、尿量を記録していきました。さらに、研究者たちは1日1回、高齢者らの失禁関連皮膚炎の状況(色や場所、サイズなど)をチェックしていきました。

3日間の実験期間が終了すると、介護者はスマートおむつシステムに関するアンケートに回答しました。

スマートおむつシステムの有望性が明らかに

最終的に、30人の高齢者に対して3日間で合計390件の排尿記録が解析対象として収集されました。108件(27.7%)で人手とシステムと両方で排尿が検出されましたが、258件(62.2%)では人手のみでの検出、18件(4.6%)ではシステムのみでの検出と排尿の検出機能性能はやや難がありました。

しかし、尿量測定の精度に関しては、センサー由来の測定で測った尿量と人の手で測定された尿量を比較して計算されました。結果、双方に大きな差が無いことが確認され、センサー由来の尿量測定精度は高いことがわかりました。

皮膚の状態に関しては、高齢者の一部(30人中8人)が実験の開始時にすでに床ずれを患っていましたが、全員が炎症の悪化を免れることができました。また、改善が確認された高齢者も1人いました。残りの高齢者に関しても、新たに皮膚炎を起こすことはありませんでした。

介護者からの感想

実験後、介護者22名がユーザー体験をアンケートで回答しました。そのうち12人は雇用された介護士、9人は高齢者の子や孫、1人は兄弟でした。

「スマートおむつシステムが商品化されたら購入するか?」という質問に対して、約59%(13人)が「はい」と回答しました。
スマートおむつシステムの不便さに関する質問では、センサーとスマートフォンの接続が厄介であること、システム全体のいずれかに関する断続的な故障があったことなどが寄せられました。

今後の可能性

実験結果全体を通してスマートおむつシステムは尿量の測定に関しては、高信頼性が確認されました。また失禁関連皮膚炎や褥瘡の悪化を防ぐ可能性も示唆されました。

ただしアンケート結果から、ユーザーインタフェース(操作性)には課題があるという認識が得られました。

このソリューションは介護者の負担を減らし、被介護者の不快感を軽減することが期待できると結論づけられました。

国内の事例

さて、今回紹介したスマートおむつシステムに類似する機能を備えた製品は、国内でも開発され、販売に至っている事例があります。下記で紹介します。

株式会社aba「排泄ケアシステム ヘルプパッド」

Helppadイメージ

URL:www.aba-lab.com/

特徴

  • ベッドに敷くだけで排泄(尿、便)を検知
  • 独自のにおいセンサーを活用
  • おむつ交換のタイミングをアプリで通知
  • 機器を装着する必要なし
  • データを分析し、排泄パターンを予測
  • パラマウントベッド株式会社との共同開発

株式会社アイキューラボ「介護用おむつセンサー」

介護おむつセンサーイメージ

URL:www.iqlabo.com/adult-smart-diaper/

特徴

  • おむつに備え付けるセンサーで感知
  • おむつ交換のタイミングをアプリで通知
  • おむつを交換した時間や一日の排尿回数をクラウドに記録
  • 複数センサーを単一のスマートフォンで管理
  • センサーカバーはシリコン製で水洗い可能

株式会社オムツテック「紙おむつ用使い捨て超薄型デバイス」

株式会社オムツテック「紙おむつ用使い捨て超薄型デバイス」

URL:omutsu-tech.com/

特徴

  • 排泄物による濡れを高精度で検知し、交換タイミングを端末に通知
  • 超薄型、小型
  • 低コスト
  • 装着時の違和感なし
  • 使用後はおむつと共に処分ができる

いずれの事例も、販売開始は近年です。多くのメディアがこれら排泄検知システムの現場での普及を期待する報道を行っています。

まとめ

今回の記事では、高齢に伴う尿失禁と失禁関連皮膚炎について、および失禁関連皮膚炎を防ぐテクノロジーの最新研究事例と国内製品事例をご紹介しました。

高齢に伴って直面する課題には、身体的なものと精神的なものがあります。尿失禁においては身体的、精神的の両方でトラブルを引き起こすものです。適切なソリューションが市場に流通すれば現場は革新的に変わることでしょう。

また今回紹介したソリューションは、新しく技術的なブレークスルーが必要だったものではありません。既存の技術を組み合わせる発想を持ち、高齢者の直面する課題に向き合うことがポイントだったと思われます。
考え方一つで現場がどんどん進歩する時代です。情報と前向きさを武器にして問題に取り組んでいきましょう。

臼井 貴紀
● 監修者情報
臼井 貴紀 Usui Kiki
Hubbit株式会社 代表取締役社長。藤田医科大学客員教員。早稲田大学卒業後、ヤフー株式会社に新卒入社。営業、マーケティング、開発ディレクション、新規事業開発など幅広く担当。その後、ベンチャー企業に転職しAIを活用したMAツールの立ち上げを行った後、Hubbit株式会社を設立。高齢者施設に3ヶ月住み込んで開発したCarebee(ケアビー)は、日本経済新聞、NHKおはよう日本、ABEMA PRIME等に出演。
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